設問3
「監視要員に発見―――」



設問3
『監視要員に発見されず、対岸へと辿り着き、そこに記されたキーワードをそこの紙に記せ』



「どうでもいいが、木の板に『そこ』とか書かれても困ると思わないか?」
「ほんっと、どうでもいいわね。気持ちは分からんでもないけど」

 一哉の素朴な疑問を両断する綾香は監視要員をそっと覗き込む。

「どうでもいいけど、あれ、全部撃破しちゃいけないの?」
「綾香ぁ、それちょっとルール違反なんじゃ・・・・」
「今までも割とルール違反だったんじゃないかと思うけど?」
「え、えーっと・・・・」

 もっともだと思い、瀞は苦笑いを浮かべた。

「撃破してもクリアしたことにはならないぞ、綾香」

 壁に背を預け、頭の後ろで手を組んでいた晴也が言う。

「条件は『見つからずに』だ。それともお前、敵と遭遇して、敵がこちらを認識する前に全て撃破できるとでも?」
「う・・・・」

 相手に何の行動も起こさせずに滅することは可能だろう。しかし、如何に精霊術最速を誇る雷術でも感覚神経の伝達速度を超えることは不可能だ。

「風術は使えるみたいだから、監視要員が近づいてきたら分かるんだが・・・・」
「奴らの探知方法が視覚的なものではなく、熱源探知とかならば誤魔化しがきかないわけだから、『見つからずに』という条件に当てはまるか分からない、ということだな」

 晴也と同じように壁に背を預けていた一哉は反動を付けて壁から離れる。

「そこで―――」
「―――緋の出番なワケだよっ」

 両手を腰に当て、胸を張った緋を見下ろし、晴也と綾香は「・・・・・反則」と呟いた。
 緋は一哉の守護獣である。
 守護獣はいくつかの特徴がある。

『守護獣の攻撃はどんな攻撃でも術者を傷つけることは敵わない』

 言い換えれば主人が乱戦状態でも攻撃可能と言うこと。

『守護獣は術者以外に知覚を許さないことが可能』

 言い換えれば隠密行動が可能で、敵陣の様子を逐一確認できる。
 ただ、姿を隠して攻撃することは不可能なので、闇討ちには向かないが。

『守護獣は空気を介すことなく、術者と会話できる』

 言い換えればテレパシーや念話と呼ばれる類が可能。どれだけの距離まで可能かは実証されていないが、情報秘匿性に関しては現代の通信機器を上回っている。
 今回使うのは2番目と3番目の特徴だ。

「いってきま〜すっ」

 無邪気にそう言うと、緋は一哉にしか見えないモードに切り替わった。そして、うようよいる監視要員――ロボット?――の間を擦り抜けるようにして対岸へと渡っていく。

【いちや〜、着いたよ!】
(おー、ご苦労。それで、文字は?)

 一哉は記せと言われた物の前に移動した。そして、ペンを握って緋の言葉を待つ。

【うん、読めない!】
「アホかっ!?」
「「おお、一哉(熾条)のひとりツッコミ?」」
「いや、たぶん、緋が文字を読めなかったんじゃないかな・・・・」
「「・・・・その可能性は考えてなかった」」

 いつも思うが、ふたりの反応が似すぎている。

「緋、とりあえず、漢字か? カタカナか? ひらがなか? アルファベットか? アラビア文字か? 甲骨文字か? ・・・・インダスか?」
「候補多すぎだよ!? しかも、インダス文字は未だ解読不能文字!」

 瀞のツッコミが炸裂する中、一哉は地面に<颯武>の柄で文字を書いていく。

「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」

 記された文字を見て、4人は沈黙した。

『鷹郷忠流』

「「「「いやいやいや」」」」

―――確かに読めないっつーか、誰だよ、お前。


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