設問2
「5つの的があ―――」
設問2 『5つの的がある。これを撃ち抜け。ただし、精霊術は使えない』 「―――流鏑馬?」 瀞は断崖絶壁を見下ろしながら一哉に問うた。 断崖絶壁の向こうには宙に浮いた状態で、断崖に対して垂直に配列している。そして、ご丁寧に厩があり、気性の荒そうな馬がこちらを睨みつけていた。 「これは・・・・ウマから振り落とされたら真っ逆さまだな〜」 「というか、馬も空中を走れなくて落ちる、という可能性もあるんじゃ・・・・」 「・・・・確かに。あそこまでお膳立て、罠だという可能性は否定しきれない」 どうにか馬を抑えつけ、崖へと走り出して一緒に落ちる光景はシュールすぎる。 「意地悪な設問だね・・・・」 「まあ、晴也向けだな、これは」 撃ち抜け、ということは飛び道具を持っている晴也しかこれをこなせない。 晴也ならば落ちても前の設問のように飛んで帰ればいい。 「って、風術使えないから落ちたらそのまんまなんじゃ・・・・」 「大丈夫なの?」 質問を受け、晴也は的を見ていた視線を綾香に移した。 「ま・・・・ちょいと角度がキツイが・・・・なんとかなる」 「角度?」 晴也は右側の壁ギリギリまで移動する。 そこからならば、なるほど。確かに1番目と2番目の的は角度が付き、射抜くことは可能なようだ。しかし、問題はその次である。 徐々に角度は浅くなっていた。 この角度はたとえ命中しても鏃の先端がうまく力を的に与えられず、その表面を滑ってしまう可能性がある。また、最後の5番目なんぞ、ほとんど角度はなかった。 「さって、じゃあ、俺の弓術が風術による空間把握力と"気"による威力上昇ではないことを示してやろう」 不敵に笑ってみせた晴也は矢を番えた瞬間、その感情を表情からそぎ落とす。 「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」 あっという間に変わった空気に他の者は黙り込むしかなかった。もっとも、弓道をしている時の晴也を知っている綾香は小さくため息をついていたが。 「すぅ・・・・はぁ・・・・」 大きく深呼吸した晴也はそっと指を開いた。 ―――パカンッ 間抜けな音を立て、中央を撃ち抜かれた一番目の的板が支え棒から崩れ落ちる。 「やった」 小さい瀞の歓声に耳を貸すことなく、晴也はひとつの機械のように矢を番え、体の向きを変えた、と思ったら放っていた。 「・・・・え」 弓道には射法八節と呼ばれるものがあり、そこには矢を射終わった時に「残心(身)」と呼ばれるものがある。 しかし、晴也の射法はそれらを全く無視していた。 「これが晴也のスタイルよ」 立て続けになる的が割れる音に呆然とした瀞の肩を綾香が叩く。 立ち位置を調整することで全ての射角を計算し、威力の伝達が最も効率的に行われる場所に射ていた。 狙ったところに矢が中たるなど当然のこととし、最も効率よく的を撃破できる方法を選んでいたと言うことだ。 「残心なんて俺には必要ない。というか、俺は弓道じゃなくて弓術をやってるから」 弓道は弓を通して心身を鍛練するものだが、弓術は敵を撃破するものである。 あっさりと難題をクリアして見せた晴也はつまらなそうにため息をついた。 「もうちょっと的の素材にこだわっても。ただの木を砕いても楽しくねー」 「はいはい」 綾香は軽く流し、現れた扉へと歩き出す。 「あいつの高校・・・・いや、日本弓道界での評判が気になるな」 「・・・・うん」 慌てて綾香の背中を追いかける晴也の背中を見ながら、一哉と瀞は見せつけられた事実に打ちのめされていた。 |
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