設問3
「あのりんごを採れ」



設問3
『あのりんごを採れ』



「あのって・・・・」
「あの?」

 郁と紗姫が上を見上げ、首を傾げる。

「よし、行け! 盛武!」
「無理」

 ビシッとりんごを指さした藤丸の命令をにべもなく拒否した。

「あの・・・・盛武殿、一応、ご命令・・・・」
「じゃあ、お前はできるのか?」
「無理に決まってます。あんなところまで上れる人は人間ではありません」
「・・・・おい」

 りんごまでの高さは約二〇丈(約61メートル)。
 りんごも相当の大きさなようだが、如何せん、遠すぎる。

「ここは弓矢の出番では?」

 和弓の射程距離は一町半ほど(約150〜160メートル)であるが、今回は重力も影響するため、その飛距離は短くなるだろう。そして、単純に到達させるのではなく、射落とさなければならない。
 飛距離、命中力、威力が兼ね揃った一撃でなければ難しいのだ。

「というか、現状弓矢がないがな」

 藤丸たちが持つ武器は紗姫以外の者の打刀と藤丸、盛武の太刀、郁の大斧槍くらいである。
 白兵戦能力には優れてはいるが、遠距離戦を行うものはひとつもない。

「こう改めてみてみると・・・・なんと心許ない戦力か」

「武器ひとつ持ってないお前が言うなよ」

 藤丸のツッコミはもっともだった。

「ってことになると・・・・霊術しかないですね」

 紗姫がりんごを見上げながら言う。

「よしっ、郁、お前の怪力で木ごとぶっ倒せ!」
「はいはい無理無理」
「・・・・なんておざなりな対応」

 本気でショックを受けた藤丸はガックリと肩を落とした。

「霊術かぁ」

 顎に指を当て、幸希がりんごを見上げる。

「どうした?」

 ずーんと沈んでいる藤丸を放置し、盛武は幸希に尋ねた。

「いえ、少し試したいことが・・・・」

 幸希は脇差を鞘ごと手に取って振りかぶる。そして、狙いを付けて投擲した。
 もちろん、弓の反発力を使わないただの投擲ではりんごまで届かない。しかし、幸希は腕力の他に推進力を用意していた。

「はぁっ」

 幸希の霊力が解き放たれると共に上昇気流が生じ、脇差の柄頭を押し上げる。

「「「あ・・・・」」」

 指向性を持たされた推進力は正しく脇差を飛翔させ、りんごの枝に命中させた。そして、その威力は大きいりんごを支えていた枝をへし折る。

「今思ったんですが、『採れ』ということは収穫しろ、ということですよね? ということはこのまま地面に激突させるのはマズイのでは?」

 紗姫が一瞬の上昇から下降に入ったりんごを見て言った。
 あの高さからあの大きさのりんごが落ちれば、間違いなく破砕する。

「分かってます。だから、こうして・・・・」

 引力にて自由落下を始めたりんごは途中で引力に逆らい、重力加速度に反して減速を始めた。

「ほっとっはっ」

 霊力の放出量を調整し、りんごの落下スピードをコントロールする。

「・・・・お前、すごいんだな」

 見事、手にりんごを持ってきた幸希に対し、藤丸は惚けたままで言った。

「あ〜、一応、僕は霊能士、という位置づけなんで、これくらいは」

 主君に褒められ、幸希は照れ笑いする。

「よし、いざとなったら守ってもらおう」
「・・・・その前に自分で実力を付けようと思わないので?」

 冷たい紗姫からの言葉に藤丸は背中を向けて高笑いした。


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