設問5
「「タスケテー!!!」」
設問5 『力を合わせ、魔竜を倒し、囚われの身を助けろ』 「「タスケテー!!!」」 設問の看板を見るなり、助けを求める声が聞こえてきた。しかし、一哉と藤丸はそれどころではない。 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」 同じような出入り口から出てきた者たちを認めたからだ。そして、ほぼ一瞬でお互いの状況を理解した。 「ねえ、一哉」 「分かってる」 年長者ふたりが前に出て、幼い3人を守りながら武器を構えている。 姿格好からどうやら現代の人間ではないようだ。 「まあ、俺たちの敵はあちらだぜ」 くいくいと晴也が指さした方向には魔竜とやらが鎮座している。 トカゲのような頭に太い首回り、ワニの鉤爪に蝙蝠の翼、どっしりとした腰つきに大地を踏み締める脚、さらに丸太のように太い尻尾。 伝承が一人歩きした、『ドラゴン』と呼ばれる竜がそこにいた。 「そっちの五人」 藤丸はドラゴンを見遣った後、一哉たちに呼びかける。 「奴を退治する【力】は持っているか?」 藤丸の前では郁が大斧槍を構え、盛武も太刀を構えていた。そして、彼らを後方支援するために幸希が霊力を練り上げている。 鱗の前では刃は無意味そうだが、だからといって諦めるわけにはいかない。だが、苦戦するかどうかはもう一方の戦力が使えるかどうかで大きく変わるはずだ。 「ふん、あたしたちは退魔師よ」 「そうそ。ああいうのを倒すために存在するのさ」 大鎖鎌を取り出した綾香は好戦的に笑い、一歩下がった晴也は大和弓を構えて不敵に笑う。 「おい、そんなことを言うと―――」 「じゃ、任せた。徒に戦力を消耗するべきではない」 「・・・・ほらな」 一哉が何か言う前に藤丸は決断を下すと、さっさと動き始めた。 「いちや〜、あの人たち、どこ行くの?」 「ああ、奴らはあいつらを助けに行くらしい」 「なるほど。到達目標はひとつじゃねえからな」 設問では『魔竜を倒す』と『囚われの身を助ける』のふたつある。 藤丸は一瞬で一哉たちの力量を見抜き、さらには言質を得てから危険な前者を任せた。そして、自分たちは後者の目標へと切り替えたのだ。 (子どもの割に・・・・思い切りがいいな) そして、その子どもの意見に従っている年長者たちの動きも見事だ。 「さあて、奴らに意識が行かないよう、ど派手にやるぞ」 「アイアイ、サーっ!!!」 一哉の一声に緋は笑顔で戦闘開始の炎弾を叩き込んだ。 それは見事ドラゴンに命中し、その巨体にたたらを踏ませる。しかし、撃破には至らず、ドラゴンは苛立たしげな唸りを上げ、大きく翼を広げた。 「来るぞ、綾香!」 「お〜けぃっ!」 ガバリと開かれた口から放射された黒色の何かと綾香の雷撃が激突する。 撒き散らされる衝撃波は晴也が逃がし、作り出された道を綾香が走った。 「はぁっ」 雷術によって打ち出された鎖分銅がドラゴンの鼻面を打ち、晴也の放った箭が追い打ちをかける。 さらに晴也が巻き上げた地面の砂に含まれた磁鉄鉱が渦巻く中、綾香の雷が落ちた。 「・・・・すごい」 流れるような連携に、閃光に照らされた瀞は呆けて呟く。 「これが"風神雷神"、か・・・・」 一哉は己も参戦するべく、<颯武>を引き抜いた。 「おいおい・・・・」 「霊術、じゃないですね」 一行はドラゴンがいた広場から階段で上がった場所にいた。 緋の一撃から続く戦闘を見た盛武と幸希の口から驚きの声が漏れる。そして、始まった戦いも自分たちが知る戦とは大きくかけ離れていた。 霊術とは一種の武術だ。そして、武術では軍隊に勝つことはできない。 対人、対鉄砲、対騎馬などと呼ばれる大規模な霊術は存在するが、個人で対軍と呼ばれる霊術はないのだ。 伝承に伝わる神装ならばそれに匹敵するであろうが、伝承の時代における軍勢とは桁違いである戦国の軍勢に対しても対軍であるかは不明である。 「チッ」 藤丸はかかしのように囚われているふたりの姿を見て舌打ちした。 どうやら敵は魔竜だけではないようだ。 「厄介ですね」 ふたりを串刺しするために待機していた白銀の騎士が槍を下ろした。 「どわっ!?」 悲鳴と共に磔にされていたふたりが滑るようにして移動する。そして、騎士の背後に同じ格好をした騎士たちが立ち上がった。 「白銀の甲冑・・・・。聞いたことがあります。これは南蛮の軍勢です!」 幸希の声と共に騎士たちが槍を構える。 「おいおい、こっちは軍勢いないんだぞ・・・・」 先程、霊術は対軍ではないと言ったばかりだ。 それなのにこの状況、絶望的すぎる。 「ねえねえ」 くいくいと袖を引かれた藤丸は紗姫の方を見遣った。 「あれ」 「ん?」 さらに紗姫が指さす方を見遣る。 「・・・・はい?」 そこには日本の甲冑に身を包んだ鎧武者たちが並んでいた。 その数、ざっと一〇〇名。 ほぼ騎士たちと同等だ。 「率いろってことでしょう」 紗姫の言うとおりらしく、武者たちは片膝を付いて下知を問う。 「・・・・盛武」 「はい?」 「全ての指揮を任す。存分に采配を振るえ」 藤丸に戦は無理だ。そして、盛武は龍鷹軍団を代表する鳴海勢の侍大将だ。 一〇〇人程度の指揮など、お手の物だろう。 「来る!」 盛武が部隊の確認を行っている途中、騎士たちは一斉に槍を投擲した。 「させません!」 部隊編成の時間を稼ぐため、幸希が前に出て両手を突き出す。 その仕草と共に膨れあがった霊力が投擲槍を弾き飛ばした。 「部隊編成完了! 悪いが、加納。お前には五人だけ若付きの武者を指揮してもらう」 「了解」 腰から大剣を引き抜いた騎士たちは右足を引き、右肘を引きつけるようにしてまるで示現流のような構えを取る。 「槍もねえ、ガチの白兵戦だが、やるしかないっ」 藤丸の前面に部隊を展開させた盛武が太刀を構えた。 「幸希、後方支援は頼む!」 「任されました!」 双方の戦意が高まり、両軍は磁石が引き合うように突撃を開始する。 「いや〜、軍勢がぶつかり合う様を見られるとは・・・・」 「・・・・あんた、こんな状況でも余裕ね・・・・」 助けられるはずのひとりが目を輝かせる中、霊術が煌めき、それに負けぬほど両軍の刀剣が殺意の輝きを放った。 爆音と喊声が辺りに響き渡り、蒼炎と龍鷹のキャラたちは磔にされたふたりを助けるために己の能力を振るっていた。 「おい、くろ」 「あん?」 「んで、これどういう状況?」 ふたりは気が付けば磔にされており、眼下には槍を構えた騎士が、さらに前方には恐ろしい竜が鎮座していたのだ。 「今、俺たちはキリスト状態と言うことか・・・・」 「かかしはそのまま磔を意味し、槍に貫かれる寸前、ということからの連想?」 「そう! 我々は今まさに殉教せんとす救世主!」 「はっは」 「ぅおぅ!? 何か軽く流された!?」 絶叫するくろを放置し、忠顕は言葉を続けた。 「おおかた、奴らの試練とか何とかに巻き込まれたな」 「あ〜、あの空間を押し潰した奴か・・・・」 「しかも、俺のキャラにいろいろカスタマイズしてくれたようだ」 「そんなゲームじゃあるまいに・・・・」 「ま、とりあえず、助けてもらうのを待つ―――ッア!?」 「ぅわ!? 忠顕が炎上したぁ!?」 「―――チィッ、強いな」 "気"を箭に変え、急所と思しき場所に放ちながら晴也は歯噛みした。 ドラゴンの鱗は晴也の箭や綾香の雷撃、一哉と緋の炎弾をも弾き返してしまう。 「下手すると・・・・死ぬな・・・・ッ」 押し寄せた突風を焼き尽くした一哉は<颯武>を振るってお返しとばかりに熱波を叩きつけた。そして、一気に懐に潜り込み、ドラゴンブレスを吐こうとしていたドラゴンの顔をぶん殴る。 そうしてそれたブレスが地面を焼き、異臭が立ちこめた。 「い、一哉、どうするの?」 こういう敵には瀞が一番強いのだが、どういうわけか、瀞の攻撃は全く効かなかったのだ。 「ドラゴンってのがヒントになりそうだな」 瀞の攻撃が反則、ということはそれ以外ならば正解と言うことだ。そして、一哉たちの術は決定打にならない、ということである。 つまり、ヒントは『ドラゴン』の伝承となる。 ドラゴンスレイヤーと呼ばれる対ドラゴンの武器(もしくは英雄)は圧倒的に聖剣と呼ばれるものが多い。 ベオウルフの名剣・ネイリング。 ジークフリートの魔剣・バルムンク。 素戔嗚尊の天羽々斬剣。 インドラのヴァジュラ。 「・・・・って待て。瀞の武器は金剛杵だろ?」 「・・・・でも効かないもん」 瀞も自分の武器の特徴を知っていたのだろう。そして、試したのに効かなかったことが不満なようだ。 「よーするに! この敵に対して瀞は役立たず、ということ、でッ」 再びドラゴンブレスと綾香の雷撃が激突し、衝撃波を生み出す。 「う、うぅ・・・・役立たずじゃないよ・・・・」 衝撃波に圧されながら、力なく答える瀞。しかし、綾香は衝撃波を切り裂くようにして突撃したため、瀞の言葉は届いていない。 「まるで、渡辺さんの攻撃だけがシャットアウトされているみたいだな」 「瀞の攻撃だけ、攻撃点が違うのかも・・・・・・・・・・・・」 考え込んだ一哉向けて飛んできた岩石を晴也が射落とした。 「チッ、どうやら向こうも苦戦してるようだぜっ」 続けて射続け、大小様々な岩石を逸らす。だが、視線はその向こうにある、騎士たちに包囲されつつある五人を見ていた。 「向こうが得た軍勢はとんだ役立たずだったようだ」 「いや、あれは反則だろ」 一哉も数百の騎士に囲まれる五人を見遣る。 「ん?」 そして、こちらを向いている少年の視線に気が付いた。 「・・・・なるほどね」 一哉は頷いて見せ、緋を手元に呼び戻す。 「何?」 「合図したら俺と共に思い切りぶっ飛ばせ」 「了解だよっ」 緋は深く聞かず、大きく頷いて見せた。 「おい、瀞―――」 「くそ! これ反則!」 盛武は采配を振るいながら毒づいた。 基本的に兵士はほとんど同じ強さで戦われたのが戦国時代の戦いである。 最も戦国日本兵の体力的な強さは昭和陸軍の強さと並んで伝えられており、世界的に見て強兵だったとされる。 そのために、兵を生かすも殺すも采配次第だった。 だが、その采配が生きているのに勝てない理由としては兵力差が挙げられる。 「こんな・・・・ボコボコと生えてこられたら・・・・たまったもんじゃないわっ」 郁の大斧槍が旋回し、押し寄せた騎士たち数人が吹き飛び、後続の十数人を巻き込んで崩れ立った。 そこにすかさず盛武が指揮する武者たちが突入し、瞬く間に十数人を討ち取る。 それでも、兵力差は動かない。 始めこそ同数で開始された戦いだが、藤丸たちがふたりに近づけば近づくほど、敵が溢れてきたのだ。 今では数百対数十という戦であり、援軍が現れない限り、力尽きるのは必至である。 「私たち、役立たずですね」 方円の陣を敷いた中央で、紗姫が藤丸に話しかけた。 盛武と郁が奮戦し、幸希がその援護をするために戦いは膠着を見せている。しかし、その戦況に藤丸と紗姫は何の寄与もしていない。 「役立たず、ねぇ・・・・」 藤丸は目の前の戦いを尻目に、ドラゴンと戦う者たちを見遣った。 『軍隊』に圧倒されそうな自分たちと『ドラゴン』に圧倒されそうな彼ら。 「『力を合わせて』ねぇ・・・・」 「え?」 「盛武!」 「―――あの竜へ通じる道をこじ開けろ!」 「―――あの軍団を浄化してこい!」 一哉と緋による炎弾がドラゴンを吹き飛ばし、藤丸が紗姫の手を掴んで包囲網の向こうへと走り出した。 それに瀞が足下に間欠泉を生じさせて飛び上がり、盛武を中心とする武者たちが騎士たちへと突撃する。 双方とも指示したものを信じているからこその行動だった。 「危ない!」 戦場に飛び込んできた無防備な少年少女を晴也が緩やかに着地させ、標的を変えたドラゴンのかぎ爪を綾香が大鎖鎌で受け止める。 その背中を空気の壁が衝撃を逃がして支えた。 「りゃっ」 跳ね上がった鎖分銅がドラゴンののど元を一撃し、押す力が緩んだところを綾香が押し返す。 「ほ、本当に人間ですか?」 「失礼ね!」 素の疑問をぶつけられ、綾香は傷ついたようだが、それでも大出力の電撃を見舞ってドラゴンを後退させた。 「そ、それで、どうするんですか?」 「『役立たず』っていうのは俺たちの戦場ではって意味じゃないかってな」 これまで無理難題を押しつけてきたが、本気で自分たちを潰すつもりならこんな世界を用意しない。 ならば、このジリ貧の状態を回避する術があるはず。 そして、それは設問の文章に隠されていた。 「『力を合わせて』、ですか?」 「そういうこと! そして、俺たちの役立たずは俺たち、あっちの役立たずもこっちに送り込まれた!」 「ああ、あの冗談みたいに飛んでいった人・・・・」 盛武が迎え入れるように軍勢を指揮し、それを援護するように上空から炎が投下されている。 爆発は騎士たちを焼き尽くすが、次から次へと生えてくる彼らを掃討するには至らない。 「くっ」 轟く爆音に思わず太刀を取り落とした。 雷撃やら炎弾やらがドラゴンに着弾し、閃光が藤丸たちを映し出す。 それだけの攻撃を喰らいつつも、ドラゴンはそこに立っていた。 「もう! 武器を落としちゃダメです・・・・よ?」 藤丸に右手を掴まれたままの紗姫は太刀を拾い上げる。しかし、そこで異変が生じたのだ。 「こ、これは・・・・」 拾われた太刀は鷹郷実流の形見である。だが、それは金色の輝きを放っていた。 「それだ!」 鋭い声と共に藤丸は太刀をひったくり、紗姫の手を引いて走り出す。 「そこの風使い! 俺たちを奴の頭上へと跳ね上げろ!」 「・・・・っ、了解!」 「「―――っ!?」」 瞬く間に足が地面から離れ、中空へと放り出された。そして、それに応じる形でドラゴンの顔が上がる。さらにはその口が大きく開かれ、奥から漆黒の奔流が――― 「「―――っ!?」」 「と、とととっ」 何とか着地して見せた瀞は下を見て思わず首をすくめた。 彼我の高低差は約8メートル。 着地に失敗して落ちれば、ただでは済まない。 「っていうか、今もただじゃすまないよ!?」 騎士たちは新たな敵とばかりに地中から湧き出てきた。 その威圧感を前にしてすくみ上がった瀞の横を炎弾が通過し、生まれたばかりの騎士たちを火葬にする。 「援護するよっ」 緋の心強い言葉と共に離れた炎弾は苦戦していた武者たちも援護し、無事、瀞は残り三人に収容された。 「で!?」 「ひっ・・・・で、『で?』?」 戦いの雰囲気そのままに問われ、思わず聞き返す瀞。 郁と呼ばれる少女は綾香に似た闘志を持っているが、綾香よりも数段荒っぽい。 というか、鋼鉄に覆われた上半身と下半身が千切れ飛ぶようにして宙を舞う光景を演出する彼女はどれだけの膂力を持っているのだろうか。 血が撒き散らされないのでリアル感がないが、もし血があれば割と歴戦の瀞でも卒倒していたかもしれないほど凄惨な光景だ。 「あの馬鹿、何も説明しないで飛び降りちゃったから」 「いちやから伝言! しーちゃんは思い切り自分の【力】をぶっ放せって」 空中戦力として次々と騎士たちを炙っていく緋。 時々、流れ弾が救出目標に命中しているようだが、彼らは叫びつつもピンピンしている。 「でも・・・・私の【力】は・・・・」 「大丈夫! 『こっち』なら大丈夫!」 緋が放った炎弾は数騎を巻き込んで進み、そして、その奥にいたまだ処刑用の槍を持っていた騎士に命中した。 爆音による衝撃波で騎士や武者たちが跳ね飛ばされる中、その槍騎士は無傷で立っている。 槍で炎を弾き返したのだろうか。 先程の体勢から槍を振り抜いた体勢へと移行しており、その槍表面から煙が上がっていた。 「あれは・・・・っ」 「奴だ! 大将首だ!」 瀞が息を呑み、盛武が叫んで太刀を構え直す。 敵大将はすぐに騎士たちに囲まれて見えなくなった。しかし、瀞にははっきり分かる。 あのどす黒い邪気の塊を感じられぬほど、水術師は鈍くない。 そのためには目の前に立つ、普通の騎士が邪魔だ。 彼らに水術を叩き込んでも、浄化の力は発揮されず、ただの物理攻撃にしかならない。 「私を―――」 だから、瀞は協力を仰ぐ。 「私をあそこまで運んで!」 「まっかせなさい!」 瀞の声に応じた郁が大斧槍を振り上げ、布陣を終える前の騎士たちへと突撃した。 一度は崩れた陣形を整えることは容易ではなく、その裂け目に突入された騎士たちの堅陣は紙細工のように破れ去る。だが、それもひとりでは意味がない。 「突撃ィッ」 故に盛武は増援となる武者と共に突撃を開始した。 ここに彼の守るべき対象は存在しない。 言い換えれば、本陣は軍の指揮を執る自分であり、彼さえ無事ならばこの戦線を保つことができる。 ならば、残存する全ての戦力をこの突破戦線に集中しても問題ない。 もちろん、突撃に集中するため、脇を固める部隊を残すことを忘れない。だがしかし、それを差し引いても盛武は戦力の七割を集中させた。 緋による空襲で数十名の騎士が戦死しており、彼我の戦力は膠着状態に陥ってから最も縮まっている。 「「「・・・・ッ」」」 郁、盛武、幸希の渾身の霊術が居並んだ騎士たちの隊列を乱し、太刀を片手に雄叫びを上げて突入した武者たちがふらつく騎士たちと激突した。 「す、すごい・・・・。まるで戦国時代・・・・」 本来、戦国時代の戦は白兵戦主体ではなく、遠距離戦闘主体と考えられているが、世間一般でのイメージは刀槍を振り回して戦うそれだ。 目の前で繰り広げられる戦いはそのイメージそのものだった。 「止まらないで! 行きますよ!」 呆然とそのまま佇んでいた瀞の手を幸希が引き、走り出す。 瀞は掴まれた左手ではなく、右手に己の武器を顕現させた。 それは破邪の聖剣、浄化を体現する渡辺宗家の神宝・<霊輝>。 「しーちゃん、頑張れ!」 上空からの声援は一哉からの声援と同義だ。 (私・・・・役立たずじゃないよ!) 「「ぅおおおらぁっ!!!」」 先頭を行くふたりの霊力が十数人の騎士を吹き飛ばし、遂に邪気を纏う騎士への道を切り開いた。 「「行け!」」 「はい!」 こじ開けられた穴を塞ごうとする騎士たちの前に武者たちが立ち塞がり、瀞は"気"を使って爆発的に加速してその道を駆け抜ける。 「せぇぃっ」 あれだけの邪気だ。 部分など関係なく、その手に持つ槍に触れただけでも本体を浄化し尽くす自信がある。 「―――っ!?」 しかし、突然、目の前の地面から剣が突き立ち――― 「「「―――っ!?」」」 藤丸たちの目の前に迫った漆黒の奔流は左右から飛んできた火炎に焼き尽くされた。 奔流という運動エネルギーごと食い尽くした炎はそれまでの猛威が嘘のように消え失せる。 さらに所変わって突き出した剣の猛威も横合いから叩きつけられた霊力の奔流に押し流されていた。 「あいつ・・・・っ」 一哉と瀞方面に派遣していた緋の同時攻撃。 瞬時に集った<火>が奔流に激突するなり、その編成を再構成することで成し遂げた存在を焼き尽くす炎。 「あの子・・・・」 さり気なく、瀞と騎士を双方見渡せる位置に移動していた幸希の霊術。 郁や盛武と比べると直接的な脅威は感じられなかったが、瀞たちに通じる術式を危なげなく起動した幸希も恐るべき才能だ。 ―――どちらにしろ、もう邪魔はない。 金色の聖刀と白色の聖剣がそれぞれの敵を完膚無きまでに消し去った。 |