第三章「狂気の宴」/ 4


 

 SMO
 正式名――Subdue Monster Organization
 防衛省所属の国営退魔機関。
 異能力者を多く抱え、民間の手に渡っていた退魔活動をかつて陰陽寮が行っていたように国の手で行おうと結成させられた組織。
 勢力範囲は国家権力を盾に全国―― 一部例外あり――に広がって名実共に国内最大組織となっている。

 一方、日本古来から退魔を生業としてきた者たちもいる。
 欧米では早くから教会がそれを担ってきたが、日本は宗教系だけでなく、多くの流派が存在していた。
 このため、日本の退魔界はSMOという”新組織”とその他の”旧組織”と勢力が二分されている。
 その旧組織の中でも戦闘能力という点で並び立つ者たちが精霊術師一族だった。

 西海道に盤石を築く炎術最強・熾条宗家。
 琵琶湖の水運を担う水術最強・渡辺宗家。
 京に鎮護・君臨する風術最強・結城宗家。
 「義」を最優先する雷術最強・山神宗家。
 富士山麓に跋扈した地術最強・御門宗家。
 白神山地に潜伏した森術最強・凛藤宗家。


 何より新旧の仲は最悪だった。
 早い話が商売敵なのだ。






熾条一哉 side

「―――ふむ、なるほど」

 一哉は組んだ足に握り合った手を置き、ややふんぞり返った姿勢で頷いた。

「って、お前は現状報告を聞いた戦闘指揮官かっ」
「ガッ」

 後頭部を風で殴られた一哉は前のめりに突っ伏す。
 それを見届けた後、晴也が首を捻った。

「・・・・前にもこんなツッコミをした覚えがあるような・・・・」
「そんなことはどうでもいいのよ。とにかく、熾条はあたしたちが風術師と雷術師だって気付いてなかったわけ?」
「ああ、まったく」

 即答する。

「あ〜あ、せっかく鵺から助けてやったのに。俺たち命の恩人だぞ?」

 一哉がこの退魔界を知るきっかけになった鵺との遭遇だ。

「ああ、あれお前らだったのか」
「ぅわっ。お前ホントに調べたのか? 京都で結城って言ったら関係者ならピンとくるぞ?」
「悪かったな。渡辺調べた後、サボってた。風術師が結城、雷術師が山神なんて今知ったさ」

 組んだ足を組み替えながら自分の情報収集の甘さを認識した。
 渡辺宗家からの生還後、期末テストやら無人島出陣やらで忙しく、時間がなかったのは分かっているが、昔の自分ならそれらを適当にしているだろう。
 現在はかなり「日常」に縛られる生活をしていた。

「まあ、両立はたいへんだからな、表裏の」
「そうね。あたしたちは生まれた時からだけど・・・・」
「この世界を知ったのは鵺の時なんでしょ? なら、戦闘力はともかく時事問題とか生活習慣には弱いわ」

 何故、呑気に彼らはお茶を飲みながらお互いの確認をしているのだろうか。
 それはSMOの先鋒――梶原隊の壊滅とその生き残りからの報告は藤原を震撼させた事実が原因になっていた。
 生存者絶望的。
 地下街は破壊の限りが尽くされ、瓦礫の下に幾人の人間が死体として埋まっている。
 駆け回る大型犬タイプの妖魔に、フランス人形たちのピンポイント攻撃では無理な突入は自殺行為だという結論に達したのだ。
 因みにSMOとは別に建てられたテントの中にいるのは、情報流出を嫌った結城宗家の判断である。

「さて、先に進もうぜ。――― 一哉、これはどういうことなんだ?」

 単刀直入な晴也の問い。
 一哉は一瞬だけ四肢に力を入れ、徐々にそれを抜きながら答える。

「昔の敵が喧嘩しかけてきた。以上」

 口調は素っ気ないものになってしまったが、仕方がないだろう。

「短っ。・・・・もっと具体的に」

 口調よりも内容に晴也は文句を言ってきた。

「俺が知っていることは少ないぞ?」
「何の情報がないよりマシだぜ」

 一哉は晴也の顔を一瞥した後、ため息をついて続ける。

「フランス人形は色によって3種類に分けられている」

 白:日傘装備。広げれば盾として、突けば槍として使える。
 黒:銃器専門。
 赤:大鎌を基本装備とした近接接近タイプ。

「犬は?」
「知らん。初めて見る」

 一哉が口を閉ざした後、晴也が腕組みして唸った。

「戦い方に幅がある過ぎるし、それが集団かぁ」
「もう戦争じゃない」

 綾香が肩をすくめて言った言葉を一哉は肯定する。

「指揮官の下に統率された動きは軍そのものだな」

 協力はしたと判断した一哉は緋に持たせていた打刀――<颯武>を持って立ち上がった。

「あと、奴は謀略好きだ。暗闇で新旧の小競り合いを期待してるかもな」

 対策本部が二分されたことを皮肉り、緋の方を見遣る。

「行くぞ、緋」
「は〜い」

 ニコッと笑うと緋はパイプ椅子から飛び降り、一哉の前へと駆け出した。

「待ちなさい」

 一哉が入り口の布地に手をかけた時、晴海が声をかける。

「共闘をしたくないってのは理解できたわ。・・・・だから、これだけ聞かせて」
「・・・・何だ?」
「あなたは・・・・敵のボスを倒せる?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 一哉は振り返り、真面目な顔をした晴海を見た。
 鋭い視線が交差し、周囲の空気が不用意に動けば切り刻まれそうに変貌する。
 もう、テントの中にいる者には外の音は聞こえず、ただ2人に注目するだけだった。

「―――もちろんだ」

 短く答え、夏真っ盛りの日差しが降り注ぐ外へと出る。

「さ、私たちも行くわよ。先頭は重火器が束になっても敵わない火力で突破するから。その穴を確保し、ワンフロアずつ制圧。はい、GO!」

 その背中に晴海の下知が聞こえた。




 そんなことがあったのは数十分前だろうか。
 敵は地下1階部まで浸透しており、完全に地下街を占拠していたようだった。だが、一哉は襲い掛かってくる妖魔を撃破し、地下2階部に侵攻している。
 本来ならば若者に満ち溢れていること場所は今では死体と妖魔、人形の三者が支配する地獄と化していた。
 ここが再び元の喧噪を取り戻すのは何時の日になるだろうか。

「―――いちや、冷静だねっ」

 飛びかかってきた最後の1ぴきを火達磨にした緋が言う。
 地下での戦闘は、炎術の制御がいまいちの一哉ではなく、緋が主戦力となっていた。

「熱くなっても勝てる相手じゃないしな。確かに向こうも恨んでいるだろうが・・・・こっちも恨んでる」

 ねっとりとまとわりつくような寒気が辺りに漂い出す。しかし、それは自制したのか、すぐに引っ込んだ。

「とりあえず、早期決着を目指す。SMOとやらが情報管制を敷いているが、そう保たないだろう。今日いっぱいが限度だ」
「でも、隠せるかな・・・・」

 緋は辺りを見回す。
 そこには瓦礫の山と死体の山に溢れていた。
 焼け焦げた肌が力なく横たわり、無念の形相を浮かべた死体が倒れ伏している。
 これほどの惨状を、例え国内最大の退魔組織とはいえ、闇のまま葬ることができるのだろうか。

「まあ、無理だろうな。どこか歪になるだろ」

 一哉は辺りの惨状に動揺することなく、敵襲――殺気の有無を警戒している。
 無惨な死体には何の感情も抱いていなかった。
 そんな後ろ姿を緋は危ういものを見るような目で見つめる。

「いちや・・・・・・・っ!?」

 緋は背後に炎を展開させた。

「はぁっ」

 飛来した瓦礫を焼き尽くし、振り向きざまに炎弾を放つ。
 瓦礫が溶け出し、爆風が死体を吹き飛ばすという悲惨な状態を自ら作りながら緋は砂塵が晴れるのを待った。
 今ので倒せたとは思えない。
 当然、その後ろからは襲撃者が―――

「え? 人形?」
【・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・】

 じっと返り血に衣装を濡らしながらこちらを見上げる白いフランス人形。

「ようやく現れたか・・・・」

 一哉の全身から、先程のねっとりとしたものが溢れ出した。

【お久しぶりです。我がマスターが約せしこと果たしに参りました】

 やけに流暢な日本語。しかし、それは彼女らにとって皮肉でしかない。

【まずは平和ボケしているあなたの目を覚ますための惨状。気に入っていただけましたか? まあ、あの時より死体の数は確実に多いでしょうが、ね】
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 ギリッと歯を食いしばり、硬く手を握り締めた。

【おや? あの沈着冷静な"東洋の慧眼"はどうしました? 目の前で部下が数十人倒れようが顔色ひとつ変えなかったというあなたが。全く、情けない顔をしてしま―――】

「のこのこと現れて、無事ですむと思ってるのか?」
【当然です。マスターはあなたと戦うために入国しました。極東の神秘、今度こそ見せてもらいます。―――では】

 ペコリと一礼して白かったはずの傘の血を散らし、血まみれの白いフリルのドレスを翻す。

「逃がすかっ」

 一哉の炎が人形に放たれる。
 その大きさと熱量を受ければ、布で構成される人形は跡形も残らないだろう。

「え!?」

 だが、緋が驚くように、人形は日傘を広げて難なく防御した。
 着弾の衝撃を後ろに飛ぶことで殺した人形は、着地するなり傘を畳んでまとわりつく炎を蹴散らす。

【この程度ですか? 宴も主賓がこれでは興醒めですね】

 侮蔑の色を含んだ視線を一哉向けて放ち、今度こそ闇へと消えた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「い、いちや・・・・?」

 俯き、何も言わない一哉を心配して緋が寄ってくる。

「―――くくく」
「―――っ!?」

 俯いた状態で一哉は『笑い声』を響かせた。
 同時に溢れ出した"気"が重圧を以て緋を縛り上げる。
 さらには辺りの壁に亀裂を走らせた。
 登場から数分。
 相手からの攻撃は言葉のみ。
 それだけで人形は辛うじて踏み止まっていた「熾条一哉」という人間の内面を塗り替えることに成功する。
 塗り替えると言うよりばらまかれた感情の黒いペンキは、昏く深く彼の心に沈んでいった。

「いち、や・・・・」

 呆然とした緋の声。
 緋は一哉の心を見て蒼褪めている。

「やってやろうじゃないか。もう一本、腕を失ってみるかァ、"男爵"ッ!」

 咆哮が空気を震わせ、昂ぶる"気"に応じた炎が辺りに侵攻した。

「あうあうあ〜」

 パチパチパチと音をたてて焼滅していく店の備品たち。
 暴走した主の炎から逃れるために距離を取った緋は、絶望の眼差しで見るしか許されなかった。






"風神雷神"side

「―――はぁ・・・・はぁ・・・・ひどいわね」
「ああ。・・・・こんな大事、久しぶりだぞ」

 走る靴の音が電力の落ちた地下街に響いた。
 足元には燃え滓のような妖魔の遺骸や煽りを喰らった遺体が散乱している。
 一哉たちがここを通った証拠である。

「熾条、見えないわね」
「マジで突貫したのか、あいつ・・・・。とんでもねえな」

 呆れが混じったような声で2人は注意してながら呟く。
 一哉が突入してから十数後、"風神雷神"こと晴也と綾香も突入していた。
 晴海は出撃しようとした矢先に増援を連れた藤原が戻ったため、調整などに追われている。
 どうやらSMOと結城は一応共同戦線を張るようで、冷たい雰囲気のまま軍議に入っていた。
 大部分の結城の術者も晴海に従っている。
 他に潜入した数人はすぐに撤退可能の1階部で妖魔掃討の任に就いているはずだ。
 彼らは武闘派と呼ばれるのでそう簡単に負けることはないだろう。

「・・・・綾香、ここいらで迎撃だ」

 脇道がたくさんある大きな道で足を止め、晴也は戦闘態勢になった。

「来る?」
「おう。うじゃうじゃとな」

 晴也は掌をかざして<風>を集める。しかし、いつもよりはるかに総量が少なかった。

「無理しないでよ、風術師は地下が鬼門なんだから」

 そう。
 風術とは地下ではその力が激減する。
 それは地下に<風>の絶対数が少ないからだ。

「だけど、何もしないわけにはいかねえ。俺たちの庭で事件を起こされてんだからな」

 <風>は大気を、空気を司る。
 地下は気圧が低い。それは空気が少ないということ。ならばそれを力の根源とする風術が弱体化するのも道理。

「まあ、おもしろくないわよね」

 闇の中、綾香の雷が煌めく。

「ここが一番でかい道だ。掃討するぜ」
「はいはい。それで、その後は? さすがにずっとここにいるわけには行かないでしょう? 先頭はずっと先にいるのよ」
「もうSMOも動いてるだろうし、ある程度ここで戦えば俺たちも前に進もう」
「わっかりましたァッ」

 綾香の返事とともに放たれた雷撃は角を曲がってきた妖魔を2人にその全貌を確認させる前に打ち砕いた。

 結城晴也と山神綾香。
 ある程度、裏の知識がある者がこの2人を戦場で見れば、間違いなく遁走するであろう。
 ただでさえ、天変地異と畏れられる直系術者。
 その2人が組むことによって名付けられたユニット名は"風神雷神"
 "風神"は空気を支配して敵を探し、"雷神"は速やかに敵を抹消する。
 幾多の戦いを越えて不敗。
 それは完璧な役割分担にも起因していた。

「―――はいやッ」

 晴也が放つ無数の風刃は壁に亀裂を走らせ、妖魔を"傷つける"。
 敵が怯んだ隙に綾香の雷撃が壁を粉砕して妖魔を"殺傷した"。

「相っ変わらず、弱いわね」
「生まれつきだ」

 ムスッとして晴也は返す。
 晴也の攻撃力は生まれつき低い。
 兄で現結城宗主は何気ない風刃で鉄パイプを紙細工のように両断するが、晴也は全力でもできるかどうかは分からない。
 その代わり、探査力では歴代直系の中でもトップクラスなのだ。
 対する綾香は攻撃一辺倒。
 補助系の術式など肌が受け付けず、結界を覚えるだけで一苦労だったという。
 当然のように探査力がない。
 つまり、2人は弱点を補強し合い、お互いの長所を極限まで生かすという究極のコンビなのだ。

「次、右の角からッ」
「了解ッ、と」

 綾香から放たれた雷撃が犬型妖魔に直撃、スパーク音と断末魔が響く。
 電気の消えたフロアに瞬いた電光が消えた時、犬型妖魔は物言わぬ骸と化していた。

「もう、どうなってるのよっ。全く減る気配ないじゃない!」

 2人によって狩られた妖魔は20を超える。
 それでも全くこの暗闇を覆う妖気が晴れることはなかった。

「俺が知るか。・・・・でも、ここは後続と合流するか? 踏み止まるのは自殺行為だぞ」

 相性のよくないところでの術は確実に晴也を蝕んでいる。
 だからか、額に汗を浮かべ、眉をひそめ、撤退を口にしていた。

「・・・・どの辺りまで来てる?」

 常に前向きで好戦的な綾香も状況の不利を悟っているのか、撤退も考慮に入れていたようだ。

「分からねえ。もしかしたら、後ろは封鎖されてるかもな」
「・・・・やっぱり、このまま下行って早期解決ってのは?」
「そうなるとやたらめったら【力】使えませんよ、綾香さん。自重できますか?」

 からかうように晴也は言う。
 情報管制を完璧にしたいならば暗闇で目立つ雷術の多用は厳禁だ。
 まるでそんなことが無理だと分かっているような口調だった。

「当然しないわよ。全力で叩き潰す。自重しても事が収まらないなら一緒よ」
「・・・・あの、馬鹿力出されるとフォローできなくなるんだけど・・・・」

 綾香の攻撃は無差別によるものも多い。
 ここは地下街。
 万が一、ガス管を壊してしまえば【力】の弱った晴也では逃げ道を作れない。

「馬鹿力って何よ? 人を怪物みたいに」
「いつもいつも妖魔以外の物をぶっ潰してるだろうがッ」
「何よ、結界張ってあるから大丈夫でしょ?」
「短期戦の場合だ、馬鹿ッ! いいからその馬鹿力を少しは制御―――あ、や・・・・その、それだけで気の弱い人を殺せそうな視線は妖魔に向けましょう、妖魔に」

 晴也は慌てて後退って顔を逸らし、怒れる綾香から距離を取った。

「大丈夫。そんなこと言う晴也は気が強いから」

 綾香は離れた分の距離を足で詰め、手を晴也の手に伸ばして距離をゼロに。

「だから、きっとタフよね?」
「はは、何のことかな?」

 にっこりと笑う綾香に引きつった笑みを返す晴也。
 一瞬、見えない懇願と殺意の奔流が立ち上り―――

「馬鹿力って女の子に言うセリフじゃないわッ」

「うぎゃあああああああああああッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!」

 電光がバリバリと空気を焼いて一時だけ、闇を駆逐した。


「―――全く、呑気なものです」
「ああ、これが彼の有名な"風神雷神"? へ、弱そうなガキどもじゃん」


「「―――っ!?」」

 かけられた声に、2人は驚いて飛び退さる。

「ちょっと、どうして気付かなかったのよ!?」
「知るか。他ではともかくこの地下で精密さを求めるなっ」
「アンタから精密さを取ったら何が残るのよっ」
「・・・・・・・・う〜ん?」
「悩むなっ」

 綾香が晴也を叩いた。
 ペシッという音がマヌケに響く。

「テメェら、オレたちを無視すんじゃねえぞっ」
「非常に不愉快です」

 怒気が突然現れた2人の青年を包み込んだ。

「ああ、安心しろ」
「ええ、そうね」

 消耗戦に飽きていた2人はどう見ても敵の大将格の2人に壮絶な笑みを向ける。


「「―――っ!?」」
「「すぐに楽にしてやろう(上げる)」」


 轟音を伴う豪風と電光が通路を支配した。






藤原秀胤 side

 午後13時17分。
 すっかり人気がなくなった地下鉄音川駅に通じる道路を通り、漆黒のトラックが十数台、先導するようなBMWが数台がロータリーに入ってきた
 同時にローターの爆音を轟かせ、十数機のヘリコプターが空を駆っている。
 トラックのために開けられた道を進行した車両から停止するなりすぐに武装した隊員たちが飛び降りてきた。
 さらにヘリからも次々と隊員が降りてくる。
 到着してからわずかの間で三桁を超える隊員が隊長の前に完全武装で整列していた。
 その訓練度と異様さにSMO医療班も治療されていた一般人も息を呑む。

「―――よく来ていただけました」

 藤原が隊長に話し掛けた。

「藤原ぁ、俺たちを大挙として呼び出すったぁ、どんな大事なんだ? あ?」

 部隊長はガラの悪い口調で旧友に話し掛けた。

「例年稀に見る惨事ですよ」
「・・・・みてえだな」

 さっと視線を走らせる。

「報告は受けてたんでしょう?」
「馬鹿野郎っ。現場は見ねえと分かんねえもんなんだよ」
「―――隊長っ、点呼終了。全員います」
「オウッ、分かった。おい、藤原、本陣へ案内せいや」

 部隊長は部隊に待機を命じると顎で藤原を促した。

「―――へえ、増援は一般隊員部隊? 能力ではなく銃器で制圧するつもりなのですか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あん? 何だ、嬢ちゃん。ここは嬢ちゃんが―――」
「待ってください。彼女はあの結城の直系です」
「・・・・・・・・・・・・っ、マジかよ」

 部隊長は大柄の体を微妙に引き攣らせる。
 晴海に一般隊員と呼ばれた彼らは、精霊術のような特別な能力を持っていない。
 ただただ訓練で培われた肉体と精神、重火器を持って戦うだけだ。
 表の軍隊と同じ存在であり、能力を持つ者たちの恐ろしさはよく知っていた。
 そんな裏の人間の代表格なのだから彼らにしてみれば精霊術師は脅威の対象だ。

「全ての入り口から同時侵攻ですか?」
「ええ」

 黙り込んだ部隊長を無視し、晴海は藤原に声をかけた。

「ならば私たちも参りましょうか」

 晴海の背後には先程よりも術者が増えている。
 これは本邸にいる結城宗主が派遣した援軍なのだろう。

「皆さん、そろそろ晴也を助けに行きましょうか」
「って、晴海様? もしかして晴也様を苦しめていたんですか?」
「もっちろん。最近、あの子増長してるのよね。だから、姉の偉大さを教え込むのよ。ピンチで助ければ完璧よ♪」
『『『『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』』』』』

 結城の術者だけでなく、話を聞いていた全ての者が絶句した。

「さあ、今行くから待ってなさいよ、晴也。ふふふ♪」
『『『『『『『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』』』』』』』』

 沈黙の中、緩やかな風が晴海を包む。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・えーっと」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 何とも言えない空気に藤原と部隊長が顔を見合わせた。

「・・・・とりあえず、作戦室を兼ねたテントへ」
「あ、ああ。分かった」

 鼻歌を歌いながら戦場へと一族を導いていく晴海を視界に入れないようにする。

「今だけは同情するぜ、あいつの弟に」
「案外苦労人なのかもしれませんね」

 晴也に同情しつつ、彼らは彼らの作戦を執行するため、テントの中に入っていった。










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