第三章「狂気の宴」/ 3


 

 地下鉄音川駅。
 町の中心に私立統制学園が聳え、山に囲まれた音川町の玄関口である。
 駅と合わせて多数のテナントが入り、一大商店街を形成していた。
 その構造は地下4階がホームで3階の一部に改札。
 地下1、2階がショッピングモールで3階は駐車場、駐輪場だ。
 特に駐車場のスペースを確保するために広くなった3階のバランスを取るため、当初の計画よりも拡大した1、2階には多くのテナントが入っていた。そして、繁華街のようになっていて毎日人の出入りが激しい。
 さらに夏や冬は完全な空調のために外では辟易されるウインドショッピングも可能なために若干、女性客が多いのが特徴だ。



「―――マスター、ただいま」
「タメ口か!? ・・・・まあ、よく戻った」

 ヘレネの主は無人のホームに来ていた。

「人払いの結界ですか?」

 1時間ほど前、ここ――地下鉄音川駅を発した時は人混みだったはずだ。

「うむ、殺すのもめんどうだからな。それに宴に招待して先に始めるというのは、ないだろう」
「そうですか。しかし、本拠はここでよろしいので?」
「警備システムか? 安心しろ、萩原兄弟はすでに警備室を占領している」
「いえ、そういうことではなく―――」

『―――まもなく、2番線に電車が参ります。危険ですので、白線の内側にお下がり下さい』

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 そう、人払いでホームの人間を追い払っても遠くから高速で、しかも決まったレールの上を走る地下鉄には関係ない。そして、その鉄の箱にはたくさんの人間が乗っているのだ。

「マスター」
「ヘレネ、戦闘準備だ。《クルキュプア》始動っ」

 マスター――男爵は己の魔力を殺戮人形に注ぎ込んだ。

『『『『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』』』』』

 ザッと男爵を中心に影が立ち上がる。
 赤や白、黒と言った衣装に身を包んだフランス人形たちだ。
 大鎌や日傘、銃器で武装する彼女たちは無機質な瞳で己を起動させた男爵を見ていた。
 数は百近くあり、全てのホームに立っている。しかし、これはまだまだ保有する自動人形の一部隊だ。

「賢明な判断かと。どうせ、宴を始めてもここが健在ならば次々と電車は滑り込みます」
「後方に急を知らさせ、地下鉄の動きを止めるか」
「ええ。同時に上も。確かに宴は用意いたしましたが・・・・未だ会場は整っておりません。邪魔な虫は先に潰しておくと致しましょう」

 ヘレネの声に反応し、黒自動フランス人形部隊が2番ホームに銃口を向ける。そして、白自動フランス人形部隊が男爵とヘレネの前に並んで日傘を広げ、防御の態勢に入った。

Rosso(赤自動フランス人形部隊)は電車撃破と共に上階の掃討だ。―――萩原兄弟っ」
『あー? 何か用か?』
「爆音を聞き次第、非常ベルを鳴らせ」
『もう始めるので?』
「何だ、さっきは早く帰りたいと言っておったろうに」
『いえ、今は携帯用の本を読んでいたので・・・・』

 ホームに電車が来る合図が響く。

「撃ち方用意」

 ヘレネの指示に黒自動フランス人形部隊――Neroが一斉にセーフティーを解除する音が響いた。
 ホームが地獄への入り口と知らず、緩やかなカーブを曲がって4輌編成の薄緑色の車体が滑り込んでくる。

「では、マスター。"東洋の慧眼"には悪いですが、先に宴を始めさせていただきましょうか」
「うむ」

 今まさに停車しようとする車内には、展開する自動フランス人形に驚く乗客の姿が見えた。

「暗闇を震わす断末魔と―――」
「体から噴き出る血潮に―――」

 男爵とヘレネは場違いなティーカップを掲げる。

「「―――乾杯」」

 ふざけた合図に従い、Neroが一斉に引き金を引いた。






熾条一哉 side

「―――何だこれ・・・・」
「警察や救急車がいっぱいだね」

 地下鉄音川駅の北口に辿り着いた一哉と緋はその周辺のロータリーを見て呟いた。
 視界に入る無数とも思える紅い回転灯が点灯し、それ以上の人間が忙しげに働いている。
 一目で何かあったという状況に野次馬が集まっていた。

「おい、聞いたか? また爆破テロだってよ」「えー、マジかよっ」「マジだよ、マジ。さっき、チラッと警官の話聞いたんだよ」「うわー、まだまだ救急車来るよぉ」「おい、上に飛んでるの・・・・テレビ局じゃねえ?」「ホントだ。映るかな?」「ってか、テロかよ、こえー」

 一哉も黄色いテープの中に視線を走らせる。
 緊急車両の向こうには機動隊のトラックもあった。

「大事みたいだね、いちや」
「・・・・・・・・・・・・・・・・ああ、手紙の通りだ」
「・・・・・・・・・・・・手紙は、何て?」

 こちらの顔色を窺う、彼女には珍しい顔をしている。
 緋は手紙の内容について、深いことは今まで聞かなかった。

「・・・・中東での敵がここまで追いかけてきて宣戦布告してきた」

 内容はそんな感じだ。
 文面は―――


『―――拝啓、"東洋の慧眼"様。
 本日、地下鉄音川駅にお越し下さい。宴を用意しております。
 私――ヘレネはあなた様にお会いするのは此度が初となりますが、我が主はあなたと一度干戈を交えさせて頂いております。
 今度こそは・・・・・・・・

 面倒になりました。とにかく我が主――男爵は雪辱を晴らすとのこと。
 ですから

―――とっとと来いや

                                               敬具』


「・・・・滅茶苦茶だね」
「お前に言われるとあのメイドも落ち込むだろうよ。・・・・とにかく、中に入るぞ。お前は喋るな」
「了解ッス」

 ピッと敬礼した緋を連れ、一哉はゆっくりと死角からロータリー内に侵入する。
 幸い、警官たちよりも一般人の方が中には多くいた。
 彼らに紛れ、そっと警察隊の本部だと想われるテントの裏に潜む。

『―――何だと!? 機動隊と連絡が取れない!?』
『・・・・はい。横山隊長以下17名は地下2階に進行してすぐに音信不通に・・・・』

(機動隊が壊滅か。まあ、仕方ないだろうな)

 男爵には完全武装の兵士数十名が一瞬で消滅させられるだけの戦力があるのだ。

「何か、スパイになった気分だね、いちや」
「しっ」
「あぅ・・・・」

 楽しそうに耳打ちしてきた緋を黙らし、さらに耳を澄ませる。

『被害者の数は?』
『少なく見積もっても数百人は・・・・。ここは休み中は人が集まる場所でしたので・・・・』
『くそっ、いったい何が起こってるんじゃッ』

 ダン、と机を叩く音がした。

『―――け、警視ぃっ』
『何だ、どうした!?』
『交通規制をしていた交通課からの連絡で・・・・や、"奴ら"が動いたそうです』
『な、何だと!?』

(奴ら・・・・?)

 テントの中が慌ただしくなり、人の気配がなくなる。
 どうやら全員が外に出たようだ。

「緋、"奴ら"に心当たりはあるか?」
「んー、直接見た方がいいかもっ」
「・・・・分かった」

 一哉はそろそろと移動を開始し、ロータリーの方に顔を出した。
 その時、野次馬に切れ目が走り、自動車が通れるほどの隙間が空く。
 妙な雰囲気に騒然としていたテープの内外が静まり返った。

「あれは・・・・」

 やがて角を曲がり、1台の乗用車を先頭に数台のトラックが姿を見せる。
 先頭を走る車はBMWで後続車も全て黒一色だった。

「―――な、何だよ、あの車・・・・」

 呆然とした野次馬からの声。
 確かに車からは何らかの圧力が感じられ、群衆は完全に呑まれている。

「ね、ねえねえ、空もっ」

 ひとりが空を指差せば、十数人がその先を追って顔を上げた。
 上空で撮影を続けていた放送局のヘリが何かを避けるように移動を始める。
 それを追うように数機の黒い大型ヘリが旋回を始めた。

「何なんだ・・・・?」

 先に到着していたらしい車の仲間が黄色いテープを取り外す。しかし、その手にはまた黄色いテープを持っていた。

「いちや、覚えておいて。あれがあかねたちの同業者。あかねたちが水なら奴らは油のように、絶対に受け入れることのできない者たちだよ」

 緋は笑みを浮かべず、冷めた視線を彼らに送っている。

「・・・・どういうことだ?」
「すぐに分かるよ。それより、あいつらは抜け目ないから隠れないと・・・・バレるよ」

 さっと身を翻した。

「あ、ああ・・・・」

 いつもと違う緋に少々戸惑いながら一哉はもっともな進言に従うことにする。
 そうして、2人は再びテントの裏へと隠れるのだった。






国営退魔組織 scene

「―――A班は突入準備を。B班は救急隊員の援護、C班は本営設立を。急いでくださいっ」

 BMWから降り立った黒のスーツ姿の青年は次々と指示を出し、辺りを見回した。
 トラックの後部から次々と黒服の人間が出る。そして、彼らは命令を遂行するために動き出した。

「ああ、"結界"を張ってください。これはもう、我々の管轄に移りました。―――見せ物ではありません」
「はっ」

 先ほど、車が通った道を封鎖するように黄色いテープを貼っていく黒服たち。
 ロータリー内をものの数分で占拠した彼らは百人近くの大部隊だった。

「まったく、少しは大人しくすると言うことを知らないのですか? 神居駅からまだ4日しか経っていませんよ」
「支部長、周囲突入準備整いました」

 この声に青年はサブマシンガンなどで武装したA班を見遣る。
 人払いの効果が効いたのか、少しずつだが、野次馬が引きつつあった。

「ご苦労様です。彼らには待機するように伝えてください」
「はい」

 青年はすぐに無線機を持つと上空を見上げながら言った。

「D班、地上へ機材を投下してください」
『了解っ』

 ヘリのパイロットが即応し、ヘリは高度を下げながら横のドアを開ける。

『投下します』
「お願いします」

 ポイッとワイヤーに繋がれたダンボールが上空数メートルから放り出された。
 それは地上寸前で不自然な停止を見せ、緩やかに着陸する。

「すぐに取り付けてください。事態は一刻を争います」
『『『はっ』』』』

 黒のスーツを着た男たちがダンボールに飛びついた。そして、中の物はすぐに運ばれていく。

「さて・・・・警視、交通規制の方はよろしくお願いします」

 側で顔をしかめている壮年の男性に声をかけた。

「むぅ・・・・。しかし、機動隊くらい―――」
「必要ありません。如何に武器が精強でも『一般人』には無理な任務ですから」
「・・・・くっ」

 悔しそうに呻く警視。
 本来ならばこの規模の事件は自分が指揮を執るもの。だが、今は目の前に二十代前半の男に取られている。

「では、任務は一般人の避難。これは先に入った機動隊員17名、制服警官7名もです。あなたがた13名は先鋒として事件の調査もお願いします」
「分かりました。―――後、支部長」
「はい?」
「学生隊員も?」
「ええ、もちろんです。幸い、この町は学生隊員が多いですから」
「では、第二陣に?」
「はい」

 支部長はこくりと頷いた。

「了解です。―――おい、聞いたか? 子どもを危ない目に合わせられない。しっかり安全地域を築くぞっ」
『オウッ』

 黒いスーツ――しかし、恐ろしいほど高性能――の集団は野戦病院のようになっている地下街への入り口周辺を駆ける。
 そんな実戦班をけが人や彼らを看護する医療班、所在なさげに待機する警官隊が見送った。




「―――藤原、と言ったか?」
「ええ」

 黒服の指揮官の青年は仮設テントに移動していた。
 内部はすでにケーブルなどの回線で電子機器が運ばれ、完全に司令部と化している。

「今、どういう状況なんだ?」

 警視は落ち着いてきたのか、やや冷静に訊く。
 餅は餅屋。
 『表』が起こしたる事件は警察が。
 『裏』が起こしたる事件は極秘機関が。
 そう、警部になった時に聞かされていた。

「そうですね。11時38分着の地下鉄に乗っていた誰かが、ホームで電車を攻撃。同時に地下3階部分で虐殺を開始しました。下手人は目撃証言の通り、フランス人形か大型犬のようなモノで間違いないでしょう」
「人形が勝手に動くとでも? はっ、お伽噺だね」

 警視は失笑してパイプいすに深く腰掛けた。
 彼は大きな勘違いをしていた。
 彼にとって『裏』とは国際テロや諜報員の暗躍だ。
 突入した者たちは国が抱える同種の者なのだろう、と考えていたのだ。
 それは間違いではない。
 それも彼らが出張るが、仕事のメインはそれではなかった。

「お伽噺は本物ですよ。多少大げさにしただけの、ね」
「は?」

 警視はマジマジと青年の顔を眺める。
 エリート待遇でここまで上がってきたが、経験も豊富だ。
 とても青年が嘘をついているようには思えなかった。

「警視、あなたは世界の半球しか見ていないのです。陰陽で言うと『陽』だけしか」

(何を言っている? まさか狂っているのでは・・・・?)

 警視の視線は彼の正気を疑っているような光を放つ。

「我々の存在は秘匿されています。しかし、警視ほどの地位にいるならば知らなければならないでしょうね。―――暗幕をお願いします」
「はっ」

 テントが瞬く間に暗幕に包まれ、ぼぅ、と彼らが覗くモニターが闇に浮かんだ。

「―――うっ」

 呻く。
 緑がかった映像は暗闇を映し出している証拠。そして、そこに映るのは死体の山だった。
―――数十分前まで部下だった者たちの。

「何が・・・・」
「―――梶原さん、死因は?」

『犬型ですね。近くに剛毛が落ちていますし、食い散らかしたようだ。知能はあまり高くない"能力"を使わずとも銃だけも事足りるでしょう』

「全長は推定できますか?」

『・・・・2メートル、と言ったところです』

「分かりました。目撃証言と一致します。研究班の過去の記録から発見された資料に・・・・目立った能力はありません。見た目通り、牙と爪に気をつけて、一定の距離を空けて戦ってください」

『了解』

「映像、止めてください」
「はい」

 画面が消える。しかし、消える瞬間に闇の向こうに幾数の眼光を見たのは気のせいだろうか。

「ご理解いただけましたか? お伽噺――伝奇物語は本物ですよ」
「じゃ、じゃあ君たちは・・・・」
「政府の人間ですが・・・・あなたの考える者ではありません。異形を狩る者です。まあ、我々の組織は歴史が浅い。故に主力のほとんどが"異能者"ですけどね」

 青年は笑う。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 警視は暗幕の中で目の前の青年と黙々と作業する者たちを見比べ、自分が『無知』だったことを思い知った。

『ちょ、お前ら何者だ!?』
「・・・・どうかしましたか?」

 テントの外側からの声に青年は怪訝な顔をしながら振り返る。そして、さっと顔色を変えた。

「―――お久しぶりですね、藤原さん」

 わずかに冷ややかさが混じったきれいな声。
 それが完全に現場の指揮権を握った青年――藤原秀胤(シュウイン)に浴びせられた。
 声の主は確か現役高校3年生の顔見知りの少女だ。

「やあ、結城晴海・・・・さん、でしたね。1年ぶりですか」
「そうですね」

 口調は穏やかだが、両者の空気は冷え切っていた。
 いつの間にか外では彼女の部下と藤原の部下が睨み合っている。

「お早いですね。あなたはともかく彼らは京都にいたでしょうに」
「情報収集は我が家の十八番。それに私たちの移動手段に法定速度はありませんから」
「なるほど。―――それで、どのような用件で?」
「あら、"鉄甲の藤原"ともあろう方が分からないとでも?」

 演技くさく驚く晴海。
 それは明らかな挑発だ。

「その名は武勇にて頂いているものでね」

 そんなやや児戯なものはさらりと流すに限る。

「・・・・・・・・・・・・はぁ、本当に喰えない方だこと」

 晴海は藤原に背を向けて歩き出す。
 その方向には地下への入り口があった。

「この件は我々のものです。【結城】はお帰り下さい」

 ざっとこれまで作業していた医療班が銃を手に立ち上がる。
 患者たちは呆然と彼らを眺めていた。

「この地は我々の管轄。知らぬとは言わせませんよ」

 晴海は感情のない声で呟く。
 その瞬間、この場の空気が荒吹いた。

『――――――――――――ッッッッッッ!?!?!?!?!?』

 銃を構える者たちに緊張が走り、引き金にかかる指に力が入る。

「―――止めた方がいいわ。無事じゃすまないし」
「そうだそうだ。この御方に逆らうと、残らず消し炭に―――イテッ、何しやがるっ」
「アンタは虎の威を借る狐かっ」
「まあまあ、綾香ちゃん、ただの冗談じゃない」

 シリアスな雰囲気を吹き飛ばした2人組は晴海に促されて前に出てきた。

「よー、藤原さん、久しぶりっす」
「・・・・こんにちは」
「ふ、"風神雷神"・・・・」

『――――――――――――ッッッッッッッッッ!?!?!?!?!?!?!?!?』

 藤原の声が若干震え、隊員たちの間に驚愕と畏怖の波が駆け抜ける。
 結城の術者――風術師の集団の中にいて気が付かなかった。
 今ここに風術最強結城宗家が抱える戦力の第二位と第三位が立っているのだ。

「・・・・藤原さん、私たちの要求も呑んでくれてもいいのでは?」
「・・・・何です?」

 藤原にも分かっている。
 もし、ここで戦闘が始まれば一般人もそうだが、自分たちも無事では済まない。
 "風神雷神"もそうだが、当代直系次子である晴海が敵に回るのは避けたかった。
 大した武勇伝があるわけではないが、SMOも多くの隊員を失った1年前の戦い――鴫島事変からその力量は推察できる。
 前結城宗主は戦いの終盤に起こった本陣襲撃で渡辺宗主とともに倒れている。
 その後、父親の戦死を知った現結城宗主が単身で敵に突入したため、結城宗家は指揮系統がメチャクチャだったはずだ。しかし、戦いが終わった時には彼らは落ち着いて現宗主を迎え入れたという。
 つまりは彼女が乱れ、怯む術者をまとめ上げて敵の攻撃を防ぎ、結果として宗家の質はともかく動員数を守ったのだ。
 それだけの力量を持つ少女を相手にするのは今の状況では無理だった。

「【結城】からの要求は・・・・」

 突拍子もないことをやらかし、無駄なことに一生懸命な統世学園生徒をまとめる少女は"完璧な妥協案"を提示した。

「【結城】は戦力だけ提供します。事後処理などはそちらがしてください」

 もとい、妥協案ではなく、命令。
 『結城宗家が事件を解決するから、後処理は任せた』

「――っ!? そのような要求―――」
「急ぎますわ。あなた方の先鋒が全滅する前に」
「―――っ!?」

 藤原に視えない"もの"を晴海は視えている。

「支部長、梶原隊がっ」
「どうしました!?」

 テントの中から青い顔をした部下が出てきた。
 嫌な予感が全身を駆け巡る。

「か、壊滅しました・・・・」
「―――っ!?」

 槌で殴られたように藤原の体が揺れた。

「甘く見ましたね。・・・・これは単なる霊的テロではないわ。―――ねえ、熾条くん?」

 豪風が吹き荒れ、テントの幕"だけ"を吹き飛ばす。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 そこには緋を背負った状態で屈む、熾条一哉の姿があった。










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