1.2. 価格2

火器本体価格弾丸火薬大砲
その他武器
弓矢長柄槍甲冑

※※※※
太字を読めば要約可能
考察根拠は本文を参照
文末に引用・参考文献名も記載


1.3.1. 火器
本体価格
 鉄砲が十分に普及した時代の鉄砲価格は米9石と言われる(湯次, 1996)。これを先の換算法に当てはめると鉄砲1挺54万円。この当時の主力鉄砲は6匁筒なので、この価格は6匁筒とする。また、30匁筒は40石=240万とされる。

弾丸
 鉄砲の弾丸には鉛玉の他、鉄玉、鉛青銅玉が使用されていた。それぞれタイプの6匁弾の価格を下表に考察した。また、

表-5 鉄砲玉の価格
  鉛玉 鉄玉 鉛青銅玉
成分比(%) 鉛100 鉄100 銅73.8、鉛17.5、鉄8.7※1
重量(g) 鉛22.5 鉛22.5 銅16.61、鉛3.94、鉄1.96
価格 13.32円 19.0円 43.85円※2
※1 銅と鉛の他は鉄、ニッケル、亜鉛などが検出されているが、成分的に一番多くを占めるであろう鉄にまとめた。
※2 この価格は原材料費で、加工費・人件費は含まれない。鉛青銅玉の製造には高い技術と高度な設備が必要なため、その調達費はさらに高額であろう。

火薬
 当時の火薬は黒色火薬で、その構成成分は硝石(硝酸カリウム)、木炭、硫黄である。成分比は『上杉家文書』に記された2方法の平均を取り、硝石80.55 %、木炭12.05 %、硫黄7.4 %とする(実際には一定ではなく、用途別から様々な調合割合が存在)。硝石は基本的に輸入、木炭は自給自足、硫黄もほぼ国内生産で賄っていたと考えられる。硝石とやや遍在する硫黄の価格を推察した。
 硝石は大友宗麟が硝石200斤(=120 kg)を銀1貫目(=3.75 kg=150万円)で購入しようとしたという記録がある(マカオの司教ドン・ペルシオール・カルネイロ宛書簡)。つまり、硝石1 kg当たり1万2500円となる。
 硫黄は火山火口付近の自然硫黄や硫化鉱からの生産で調達された。この調達法は昭和30年代に石油から生成する方法が誕生するまで同じであり、その当時の価格から類推できると思われる。昭和39年の硫黄平均価格は2万3,000円/tで(清, 1968)。当時と現代の物価差は約2倍、つまり平均4万6,000円/t=46円/kgとなる
 10匁弾1発当たり約6~10 gの火薬を必要とする(日本前装銃射撃連盟)。この使用量を単純に6匁弾へ重量換算すると3.6~6 gとなり、中間値は4.8 gである。この1発当たりの火薬価格は48.395円≒48円となる(表-6)。

表-6 1発当たりの火薬価格
  硝石 木炭 硫黄
成分比(%) 80.55 12.05 7.4
比重 2.1 1.0(木材による)  2.07
6匁弾用火薬4.8 g中の重量 3.87 g 0.59 g 0.36 g
価格 48.375円 ほぼ0円 0.02円

大砲
 100匁を超える弾丸を発射する攻城用火器を石火矢もしくは大砲と呼ぶ。『国友文書一』によると慶長年間の製造費用は100匁筒が284~349石(=1,704万~2,094万円)である。その後、ノウハウ蓄積から値下がりしたのか、『国友文書二』によると1937年時点では100匁筒が約105石(約630万)、300匁筒が240石(1,440万円)、500匁筒が340石(2,040万円)となっていた。



1.3.2. その他武器

 当時の刀には「注文打」と「数打」があり、前者は特注品、後者は量産品である。一大刀剣生産地である備前長船製について価格研究がされている。また、古代・中世都市生活史(物価)データーベースにも刀の価格が記載されている。表-7にそれぞれの価格をまとめる。
 応仁の乱以降、明らかに刀の値段が下落している。応仁の乱後の3~7(5は短刀のため除く)の平均価格は12万6,720円(2.11石)。これらは太刀と考えられ、注文刀と考えられる。数打はさらに安価と考えられ、単純に価値が10分の1とした場合、数打刀1振り当たり1万2,700円(0.2石)となる。

表-7 刀の価格
番号 年代 単位 価格 円換算
1 1432年 1把 10,000文 117万8,800円
2 寛正年間(1460~1466) 1打 5貫 58万9,400円
3 1490年 1打 1,000文 11万7,800円
4 1506年 1打 1貫500文 17万6,820円
5※1 1515年 1打 500文 5万8,950円
6※2 1515年 1打 800文 9万8,950円
7 1539年 1把 1,000文 11万7,880円
※1 短刀、※2太刀

 因みに現代刀の価格は約50万円(「日本刀 刀剣販売」の平均価格)である。戦国時代とは同じ注文刀でも4倍の開きがある。これは戦国時代と現代とで刀工および刀の希少価値のためだと思われる。この4倍の数値は次の「弓矢」で利用する。

弓矢
 戦国時代の弓は主に竹からなっていた。現代の竹弓は高額かつ価格に差がある。これは弓工の違い、成り、材質などが原因である。戦国時代には刀と同じく武士が使う特注品、足軽が使う量産品があったと考えられる。
 「竹弓の価格や特徴」から値段の高い弓と低い弓とをそれぞれ特注品と量産品とに仮定する。この場合、特注品は15万円、量産品は4万円となる。これに先の刀の戦国時代価格換算4倍を当てはめると、弓の特注品は3万7,500円(0.63石)、量産品は1万円(0.17石)となる。
 矢も材料費、鏃の研磨費、矢羽などの製作費がかかる。現代において竹製の矢は1本当たり約2万4000円(2017年度弓具価格表、小山弓具)、戦国時代価格換算で約6000円となる。これは弓道用の質の良い矢だが、当時は面制圧武器として使用していたため、矢の性能は弓道で使用するほどの質は求められていない。刀と同じく量産品として10分の1の価値とすると、矢1本当たり600円(0.01石)となる。鉄砲玉より高価となるが、回収して再利用できることもあった。
 戦時には1弓兵当たり2背(1背=12本+鏑矢)を用意する。つまり、1弓兵の基本装備価格は弓1万円、矢1万5,600円の計2万5,600円(0.43石)となる。

長柄槍
 長柄槍は足軽が使用する主要武器である。その全長は時代や使用地域ごとに異なる。それぞれ、槍頭は16~30 cm、全重量は3.0~5.5 kg、全長は3.64~6.4 m、柄直径は2.4~3.3 cm(棒術の棒直径)。柄の材質は杉や松、ひのきといった針葉樹林が使用されていた。これらの木材はあまり頑丈ではないため、基本的に長柄槍は使い捨てである。
 森林資源が豊富な戦国時代において、制作費の大半が柄頭や石突の金属およびその加工費と考えられる。杉製(比重3.8)の長柄槍最大形状(槍頭30 cm、全重量5.5 kg、全長6.4 m、柄直径3.3 cm)の場合、金属価格(鉄)は約2,980円。これに加工費を500円として上乗せすると、約3,500円となる。同様の計算を最小形状で行うと、約2,500円となる。これらの単純平均から、長柄槍1本当たり3,000円と推察する。

甲冑
 明珍家に残された注文書によると大名用が100両、侍大将用が50両と記されている(時代不明)。仮に江戸時代初期とし、金1両=永楽通宝1貫=11万7,880円を利用する。また、中級武士用を大名用の10分の1、下級武士を侍大将用の10分の1、御貸具足を下級武士の10分の1として計算した。これらの結果を表-8に示す。

表-8 甲冑の価格
大名 上級武士(侍大将) 中級武士 下級武士 足軽(御貸具足)
当時 100両 50両 - 
円換算 1,178万8,000 589万4,000 117万8,800 58万9,400 5万8,940 
石高換算 196.47石 98.23石 19.65石 9.82石 0.98石 






引用文献
湯次行孝(1996):国友鉄砲の歴史, 別冊淡海文庫
.

参考ホームページ:
「古代・中世都市生活史(物価)データベース」, 国立歴史民俗博物館.
「日本刀 刀剣販売」(e-swordhttp://www.e-sword.jp/iai.htm).
「竹弓の価値や特徴」(http://kyuudou-zyoutatsu.com/category2/entry13.html).
「2017年度弓具価格表」株式会社 小山弓具.

価格1へ  経済力1へ