第四章「選挙、そして挙兵」/1
城。 「土が成る」と書くこの字は、古来より巨大な軍事拠点ないし政治的中枢を示す言葉として使われていた。 特に戦国時代において、城は経済の中心になる。 城の周りには町ができ、街道を引いて交通の便を良くする。 こうなると築城場所が従来の山ではなく、平地にある小高い丘や平地そのものに築くように変化した。 当然、戦争の様相が変化し、対鉄砲築城術が生まれたことによる変化とも言えるが、それは側面であり、戦国大名や江戸幕府の大名が地方政治の中枢になったことで成し遂げられたことだった。 ただ、戦国の気風を強く残す初期の大名たちはいざ戦いになった時のことを忘れてはいなかった。 特に西国の豊臣系大名を抑える役目を負っていた池田輝政と幕府に睨まれ続けていた伊達政宗は戦争を念頭に置いた城作りが求められた。 彼らが築いた姫路城、仙台城には平山城という立地条件の共通点があった。 平山城は平野に聳える独立峰や台地の先端など、一応、周囲よりも高い場所を基本に建造された城である。 二ノ丸やその他の部分を平地に作ることで日々の行政をしやすくし、戦時においては山部の本丸を中心に戦う、まさに軍事と政治が融合した築城形態だった。 分かりやすく言えば軍事に特化した山城と民事に特化した平城が繋がった城である。 これらは大成した対鉄砲に秀で、さらには未知数であった大砲にもある程度の抵抗性を持っていた。 尤も、大砲に弱い平城部分が大半であるため、本丸以外の区画は脆かったのだが。 ならば、鉄砲と大砲といった火器全般に対して高い防御力を発揮する城とはどのようなものなのだろうか。 きっと、そのような城は戦車を装備するような現代装備の軍隊とも戦えるに違いない。 「―――さて、一哉」 煌燎城。 そう名前がつけられた城の天守閣で、老婆が熾条一哉の名を呼んだ。 上座に座する老婆は実年齢よりも確実に若く見える容姿に威厳を讃えながら座っている。 「女城主」という言葉があるが、岩村城主・おつやの方、立花山城主・立花誾千代などとは違い、実力を伴わせる姿だった。 「思惑通り、第三者が出てきましたが、どうしますか?」 昨年から崩壊が続く音川町の封印。 この封印の原因を知った熾条一哉と彼女はとある謀をして、新旧戦争に隠れる第三勢力の炙り出しにかかっていた。そして、先日、神馬開放に当たってついに敵の一角を発見したのだ。 「当然、罠を張る」 一哉は背中に張り付いて離れない緋の重さを感じながら答える。 「ほう?」 反応したのは部屋のど真ん中に座る一哉と違い、壁に背を預けていた男だ。 「ついに武力を行使するか」 彼はこの城に集う兵力の総司令官であり、軍事行動をするならば必ずその許可が必要だった。 「敵もこちらに勘づかれた、ということは理解しているはず。ということは、参戦しようとするはずだ。そして、昨日の様子からして、できうる限り派手にしたいと考えているだろう」 派手好きとおもしろさを追求する思考は統世学園に共通する。 それから判断すれば、どうせやるならとことん、である。 「そういうエネルギーに溢れる奴らをそのまま放置すれば、意外なところで攻勢を喰らい、大打撃を受けかねない」 「なるほど。確かに報告にあった【力】は絶大なようです。あの歴史に名を残した神馬を軽く変質させる邪気は脅威ですね」 「同時に奴らは今まで隠れてきた智恵がある。力と知恵がある奴が準備した攻勢を受け止めるなど、愚の骨頂だ」 一哉は自分たちが使える戦力を考える。 確かに自分たちが持つ戦力は強大だった。 誇張でも何でもなく、軍隊とも戦える。 それでも、その戦力全てが自由に扱えるわけではない。 「敵の攻勢を受けなければならないならば、その時節は敵ではなく、こちらが選ぶべきだ」 奇襲ではなく、強襲だというならばまだ耐えることができる。 「だが、智恵があるのだろう? 罠だと気付かれればそれで終わりだ」 男は戦術家として当然の物言いをした。しかし、その言葉に一哉はニヤリと笑ってみせる。 「罠だと気付かせなければいい」 中東正規軍を震撼させた戦略家・“東洋の慧眼”は絶対の自信を持って作戦内容を説明した。 唯宮心優side 「―――時は来ました」 5時間目のホームルーム。 やる気のない担任の代わりに教壇に立った唯宮心優は言った。 わざと言葉を切り、クラス全体を見回す。 「この学園の行く末を左右する、戦いの時が」 心優は「必勝」と書かれたはちまきを額にし、幼馴染みである穂村直政を隣に立たせている。 その様はまるで戦場に出陣する女武将だ。 「皆さん、応援して頂けますね!?」 『『『わいわいがやがや』』』 「わざわざ口で騒がしい演出しなくてもいいじゃないですか!?」 無視されるよりひどい。 何故、このクラスは自分に対してだけ、絶妙な連携を見せるのだろうか。 「う、ぅぅ・・・・」 いじいじと指先で教壇にのの字を書く心優。 「それで心優、俺はどうしてここに立たされてるんだ?」 『『『唯一の味方が裏切った!?』』』 まさかの発言に無視の振りを決め込んでいたクラスメートがツッコミを入れた。しかし、この発言にはショックを受けなかったのか、心優は話し出す。 「生徒会選挙です」 「・・・・ああ」 生徒会選挙。 学園には普通の行事だろうが、統世学園においてそれは普通ではない。 天下取りに向けた、戦国時代が幕開けるのだ。 現生徒会長は謀略を用い、対抗勢力を駆逐。前書記としての人脈をフルに使った容赦のなさはその時の生徒会長に学んだのだという。 先代生徒会長は今の統世学園を作った伝説の生徒会長・結城晴輝の妹で、黄金時代を築いた結城晴美だ。 今は卒業し、京都市内の大学に通っていると言うことだが、彼女の血脈はまだ残っている。 学園一の愉快犯にて、不正委員の宿敵――結城晴也。 彼が参戦すると分かった今、今次の選挙は荒れに荒れるはずだ。 「わたし、生徒会書記に立候補したんですよ」 「・・・・へー・・・・」 視線を逸らした直政の胸ポケットから刹が這い出し、その肩に止まる。 一緒に話を聞こうというのか、おとなしく肩に座る刹は愛らしくあった。 「ですが、わたしはこの戦いを生き抜くほどの武勇はありません」 「だな。正直、化け物だらけだから、ここ」 ここの生徒ならば下手な妖魔くらい、討滅できるのではなかろうか。 「ですから、政くんにはわたしのナイトになって欲しいのです、きゃ♪」 「いやん」とばかりに両手で頬を挟み、首を振ってみせる。 「断―――ぐばはぁっ!?」 即答で断ろうとした直政は横殴りに吹っ飛んだ。 衝撃の正体は廊下側の窓から飛んできた矢だ。 それを側頭部に受けた直政は大きく吹っ飛んで、様子見をしていた担任に突っ込んだ。 「ヘーイ、一年生! 生徒会長候補、結城晴也をよろしく~!」 ズダダッと教室内に走り込んだ先輩が駆け抜け際にそう言い放ち、そのまま校庭側の窓から飛び降りる。 「ええい! 待ちなさい晴也!」 続いて飛び込んできたのは、大鎖鎌を装備した女子生徒だ。 「ヒッ、“死神”・・・・ッ」 「ああん?」 「ご、ごめんなさい!」 “死神”・山神綾香の睨みを喰らった男子生徒はすぐに謝った。 それだけ、彼女の眼力はすごい。 「チッ、晴也は逃げたのね。―――生徒会会計立候補者の山神綾香よ。晴也の好きに財政を動かされないように、鍵となるために立候補したわ」 晴也が当選することを疑いもしない立候補理由を掲げた綾香はそのまま晴也を追って飛び降りた。 『『『これが・・・・生徒会選挙・・・・』』』 初めて目の辺りにする生徒会選挙の異様にクラスメートたちは高揚する気分を抑えきれない。 「ま、政くん!」 どさくさに紛れて倒された直政に心優は駆け寄った。 同じく肩から吹っ飛んでいた刹が傍に駆け寄る。 「み、心優・・・・」 暴徒鎮圧領の強化ゴムの鏃を取りつけた矢を頭に叩き込まれたのだ。 如何に頑丈な直政でも脳が直接揺さぶられたら呂律も回らなくて当然である。 「ああ、さすが政くんです♪」 倒れた直政の傍に膝をついた心優はその手を握り、嬉しそうに言った。 「まさか盾になってくれるなんて♪ 分かりました。わたし、絶対に当選して見せます!」 「・・・・いや、ちっとは心配してくれない?」 徐々に麻痺が抜けてきた直政は全身の力を抜いて突っ伏す。 『『『お前の犠牲は無駄にしない!』』』 分かりやすい犠牲を前にクラスメートたちは戦いを決意し、直政を英雄視した。 「―――さて、具体的にどう動きましょうか」 昼休み、作戦会議とばかりに心優は側近たちを集めていた。 武装しているクラスメートが周囲を固めているが、頭脳面での活躍が期待できるメンバーはいない。 他の一年生は中等部出身者を中心に据えているが、心優は高等部から統世学園に入学した。だから、この選挙に対する理解がいまひとつなのだ。 「というか、心優、大丈夫なのか?」 「? 何がです?」 「学級委員に、部活、それに生徒会まで掛け持ちすると・・・・大変じゃないのか?」 直政も部活とバイトを掛け持ちしている。 それはなかなか辛い。 自主練がメインである長物部だからこそ、まだなんとかやっていた。 「それに・・・・お前は家の仕事を手伝ってるんだろ?」 心優は実家――唯宮財閥の事業を手伝っている。 パーティーに出るなどといった窓口になるだけでなく、それを主催したり、実際に企画運営を行ったりと、大人顔負けの仕事をこなしていた。 「ふふ、これくらいこなさず、何が唯宮財閥の令嬢ですか」 直政の心配を吹き飛ばすような笑顔で心優は答える。 「部活は趣味、委員会活動も生徒会活動の前段階でしかないんです」 「それにわたしの本業はお休み状態ですし」と付け足した心優は少しだけ遠い目をする。 「は?」 「いいえ、何でもありません」 首を振って余計なことを言ったために広がりかけた話を終わらせ、心優は続けた。 「わたしから言わせれば、全く別のベクトルのことを全力で取り組んでいる政くんの方がすごいですよ」 「い、いやぁ・・・・」 素直に努力を認められ、直政は照れる。 「あ、あの・・・・それで、どうするの?」 「ええ、武勇がないわたしたちは―――」 話を本題へと戻したのは水瀬凪葉だ。 彼女は統世学園からすれば、珍しい、常識的な少女である。 「なるほど。自分の最大の武器を以てアピールし、その他は持久戦、というわけか」 発言したのは今まで腕を組んで目を瞑っていた神代カンナだ。 彼女は直政と同じく裏の顔を持つが、以前入院した際に心優に世話になっている。 退院した彼女を心優はつけ回し、ついにはともに食事を採るまでに発展していた。 因みに、未だ凪葉はカンナと話すことが苦手でいる。 「そういうことです。やっぱりわたしは軽音部ですから」 「さっき、『趣味』と言ってなかったか?」 ジロリと視線を向けられれば、武芸者であってもひるみを見せるほど、カンナは威厳に満ちていた。 だからこそ、彼女の一挙動で不可思議な静寂が生まれることもある。しかし、その威圧感も、狸の化かし合いが日常茶飯事の世界で育った心優には通じないようだ。 「自分の好きなことが最大限生かせるというならば、使わない手はありません」 夢見がちなことを言う傾向があるが、心優は現実なものの考え方をする。 というか、発言の奇抜性は主に直政関連なのだ。だが、いつも直政のことを口にしていれば、そういう人に見られてもおかしくない。 「本日、第二視聴覚室にて軽音部のライブがあります。だから、それで派手に宣伝してしまえば・・・・むふふ」 「心優ちゃん、すっごく悪役っぽいよ・・・・?」 「おっと、わたしとしたことが、隠せていないとはまだまだですね」 「悪役のところは否定しないのか?」 カンナのため息混じりの声と共に昼休みを終えるチャイムが鳴った。 因みに5時間目と6時間目の休み時間にこんなことがあった。 「―――生徒会書記に立候補した唯宮心優!」 数名の武装した生徒と共に入ってきた男子生徒は臨戦態勢に移行したクラスメートを無視し、心優に視線を移した。 襲撃をかけるほどなのだから、心優がどの席に座っているかも把握済みだったのだろう。 因みに5時間目の担当だった教師はそそくさと荷物をまとめ、襲撃者がいない方の扉から去っていった。 生徒会選挙においては、教職員はノータッチで進められるからだ。 「貴様に決闘を申し込―――っ!?」 「―――ほう、その言葉に滲む嘲りは唯宮が武闘派ではないことの余裕か?」 応じたのは心優ではなく、カンナだ。そして、いつも以上に威圧感たっぷりで襲撃者を見遣る。 それだけで襲撃者たちはすくみ上がった。 立ち上がったカンナの手に武器はない。 弓道部なので、一応は武闘派に分類されるが、その弓もなく、接近戦も得手でないのだとすれば、カンナはただの女の子だ。しかし、全くそうは思わせない貫禄がある。 「い、いや・・・・俺は、別に・・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 カンナは組んでいた腕を組み替えた。 「し、失礼しました!」 口答えした胆力は評価できるが、腕を組み替えることでベクトルが変化した威圧感に耐えられずに逃走する姿は負け犬以外の何者でもない。 そして、放課後になった瞬間――― 「―――唯宮心優!」 「知りません!」 武闘派ではない心優は格好のカモと判断したのか、複数の候補者が扉を豪快に開けた。しかし、心優は取り合おうとせず、直政の手を取って窓際まで退避する。 「待て、心優、何をする!?」 クラスメートが脚を引っかけたりして時間を稼ぐ中、心優は直政の背後にあった窓を開けた。 「手はここで・・・・」 さらに直政の右手を自分の腰に巻きつけ、自分も直政の体に手を回す。 「せえぃッ」 「ちょっと待てぇっ!?」 無理矢理窓から身投げされた直政は見上げた先に地面がある中で絶叫した。 ここは3階である。 確かに2階に比べれば態勢を立て直す時間があるが、そもそも飛び降りるという選択肢が浮かばないはずだ。 「政くん、期待しています!」 「無茶言うなっ」 そうは言うものの、心優もついてきているのでどうにかしなければならない。 直政は右腕だけでなく、左腕も心優の体に回した。 「やん♪」 という嬉しそうな声は無視し、くるりと空中で体の向きを変える。 この技術は度重なる階段落ちから得られた技術で、修得しても嬉しくない。 階段落ちとは、大階段の上の広場を練習場とする長物部で、鹿頭朝霞と手合わせした時の末路だ。 朝霞は巧みに逃げ道を封じ、長物の長所――間合いの維持を積極的に利用して直政を後方へと押しやるのだ。 捌くのに必死になっている直政は知らず知らずのうちに階段近くまで押し込まれ、そして、踏み外すのだ。 「ここっ」 地面との間合いを目算し、一気に脚を地面へ、頭を空へと腰を軸にして回転させる。さらに心優の脚が地面につかないように引き上げ、腕の力だけで衝撃を殺そうとした。 「ぐぅっ」 自分ひとりならともかく、ふたり分の体重はかなりキツい。しかし、それでも耐え切った直政は賞賛に値するだろう。 「ありがとうございます。さすが政くんです♪」 心優は信じ切った笑顔を見せ、さらに名残惜しげに直政に回した手を放す。 それを見た直政は痺れる脚を無視しようとして、失敗して片膝をついた。 「あら、いい位置に顔が。もう、お礼を催促するなんて政くんったら~」 両頬を手に当てて体をくねらせる。そして、おもむろにその両手を直政の両肩に置く。 「時間がないので、これで我慢してください」 そう言って、直政の左頬に軽く唇を押しつけ、心優は軽音部の部室へと走り去った。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 後には硬直した直政だけが残されるが、意外にも周囲は冷やかしたりしない。 「何故だ・・・・」 普通の世界ならば、ざわざわして何か言われるはずだ。 それなのに、目撃者たちはチラリと横目で見ただけで意に介すことなく素通りしていく。 「―――その質問、答えようか?」 「ぅおう!?」 背後から聞こえた声にびくりと体を震わせた。 「あ、亜璃斗か・・・・」 道理で気付かないわけだ。 直政は地術師として、平時でも軽微な警戒態勢にある。しかし、相手が地術師など、大地に対して何らかの能力を持つ者ならばその程度の索敵力を誤魔化してしまえる。 亜璃斗も直政と同じく警戒態勢なので、気がつけなかったのだろう。 「人気絶頂軽音部新グループボーカルには心に決めた人がいる、と新聞部の取材に答えてる」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 「新聞部も下世話な週刊誌とは違うので名前は聞いていないが、本人が暴露したために新聞に―――」 「載せるなよ!?」 同時に差し出されていた新聞には直政の目元に黒い線が走った写真が載せられていた。 「? でも、事実は伝えないと。知人から見た客観的事実も」 「執筆者お前かぁっ!」 バシッと新聞を地面に叩きつけ、直政は立ち上がる。 「大丈夫。これで兄さんに余計な悪い虫はつかない。今ついてるのは私が駆除するから」 「そんな心配はしてない!」 しかし、妹(義理)にそこまで言われるとは兄貴冥利に尽きるというか・・・・ 「御門家にはもっとも相応しい人がいるはずです」 「・・・・・・・・・・・・そっちか」 義妹はやはり、御門宗家の陣代のようだ。 (いや待て。陣代とは軍事的なものであって間違っても宰相ではないはず・・・・) 「それより兄さん、これから心優のに行くの?」 「んー、あー・・・・」 掌の中に何かがあるのに気付いた。 それを広げてみせれば、プレミアム入場券とある。 因みに「プレミアム(premium)」はカタカナで用いる場合の用法を和訳すると「割り増し」とかいう意味なのは知っているだろうか。 つまり、このプレミアム入場券とは「特別入場券」ではなく、「割り増し入場券」となり、高いという意味だ。 「でも、高いと言うことはそれだけ見返りがあって『特別』ということでしょ」 「・・・・亜璃斗、心の声を読んで上で的確なツッコミはよしてくれ」 「兄さん、駄々漏れ」 ジト目で見たが、亜璃斗は全く表情を変えない。 「嘘!? 呟いてたのか、俺」 「うん、心で」 「声に出てねえじゃねえかっ」 「誰も出てるなんて言ってない」 亜璃斗は直政から視線を外し、校舎に向かって歩き出した。 「ん? 待て、ということはやっぱり亜璃斗は俺の心を読んだと言うことに・・・・?」 「兄さんの思考回路は単純明快」 「うぅ・・・・」 3階から着地した衝撃よりも一番身近な人間から言われた精神的ショックの方が大きい。 やはり、直政は丈夫な肉体を持っていても心は十五才の少年だった。 「でも、それが兄さんだから」 にこっと普段余り笑わない亜璃斗が見せた笑顔にそんな精神も回復しかかる。 「って、待て、それって単純バカ=俺ってこと!?」 ショックで再び膝をつく中、直政は回りくどい毒で直政の精神をえぐるその様こそ亜璃斗らしいと思った。 |