新型空母


 

「―――出港!」

 1943年1月26日、南太平洋ニューカレドニア本島ヌーメア。
 アメリカ海軍南太平洋方面部隊の主力艦隊が錨を下すここに、出港を告げるラッパの音が響き渡った。
 それを合図に暖機運転をしていた駆逐艦が滑るように動き出し、湾外で対潜哨戒をしていた哨戒艇に旗信号を送る。
 駆逐艦に続いて巡洋艦が動き出し、彼らは湾外で輸送船団と合流した。

(苦戦するガダルカナル島へ元気な兵を輸送し、ついで近海にいるであろう有力な日本海軍を撃破せよ、か・・・・)

 第18任務部隊を指揮するロバート・C・ギッフェン海軍少将は、その複雑な指令に内心でため息をついた。
 指揮するのは旗艦・重巡「ウィチタ」、「シカゴ」、軽巡「クリーブランド」、「コロンビア」、「モントピリア」といった巡洋艦。
 他に駆逐艦8隻(『コンウェイ』、『シュバリア』、『エドワーズ』、『フレーザー』、『ラ・ヴァレット』、『ミード』、『テイラー』、『ウォーラー』)が追従する。
 これに元々輸送船団の護衛を受け持っていた護衛空母「シェナンゴ」、「スワニー」、駆逐艦2隻(『ド・ヘイブン』、『ニコラス』)が加わって合計17隻。
 これらがガダルカナル島の交代要員を乗せた船団を護衛する。

(12月の戦闘以来、近海に空母は現れていないが・・・・)

 その代わり潜水艦は頻繁に姿を見せていた。しかし、撃沈されても1隻程度で、壊滅的被害を出す空母部隊の襲撃とは程度が違う。

(今回は空母戦闘を考慮しなければならないか・・・・)

 その予想が彼の心を重くしている。
 ギッフェンは長く大西洋戦線で活動していた。
 このため、空母戦は初である。
 さらに麾下の護衛空母2隻では日本海軍に太刀打ちできないことは分かっていた。
 日本海軍の足の長い攻撃機だけでなく、勇猛果敢な艦載機部隊はアメリカ海軍にとって、困難な相手なのだ。

(頼むぞ、新型)

 そう思いながらギッフェンはヌーメアに停泊していた大型艦船の姿を思い浮かべる。
 新型正規空母「エセックス」、戦時巡洋艦改造空母「インディペンデンス」。
 彼女たちが持つ120~130機の艦載機は、ギッフェンにとって希望の星だった。


 エセックス旧航空母艦。
 基準排水量27,100t。
 全長265.2m、水線幅28.4m(飛行甲板262.7m×32.9m)。
 最大速度33kt/h。
 搭載機約90機(最大120機)。
 アメリカ海軍の空母理想像を具現化した優秀艦であり、1943年以降続々と戦列に加わる量産空母でもあった。


 インディペンデンス級航空母艦。
 基準排水量11,000t。
 全長190.0m、水線幅21.8m(飛行甲板169.2m×22.3m)。
 最大速度31.6kt/h。
 搭載機約30機(最大45機)。
 将来、空母が足りなくなるであろうと予想したルーズベルト大統領の発案で建造された。
 元はクリーブランド級軽巡の艦体を流用しており、エセックス級に比べて急造感は否めない。
 だが、護衛空母と違い、高速で実戦艦隊に同行できる点は評価できた。
 ここ半年の損害から一番艦「インディペンデンス」は工期短縮・切り上げで就役している。


(しかし、本当に使い物になるのか・・・・?)

 「エセックス」と「インディペンデンス」の就役はほんの1か月前である。
 新型ということもあり、本来ならば完熟訓練の他に不具合チェックを実施しなければならない。
 また、乗せている航空隊も新米パイロットが多い。
 太平洋戦線に赴任して日が浅いギッフェンだが、伝え聞く日本海軍の精強さを前に、勇み足だったのではないかと思ってしまう。

(いやいや、上が使えると判断したのだ。それに実際に戦闘に巻き込まれる可能性は低い)

 敵艦隊の予想航空戦力は中小空母2~3隻。
 搭載機数は100~150機と見られていた。
 彼らの任務は艦隊・船団護衛であり、積極的な対艦攻撃には消極的であろう。
 さらに新型空母群は輸送船団よりもさらに後方を航行する予定だった。
 このため、同様の任務に就くのならば新型空母が危険にさらされる可能性は低い。

(安全な実戦経験を積ませようというのか・・・・)

 上層部の意図が分からない以上、敵艦隊を発見した場合の対応が分からない。
 この辺り、太平洋を主戦場に戦ってきた指揮官たちならば迷わなかっただろうが、ギッフェンは迷った。
 結局、その迷いが戦局に大きく影響することになる。
 それはまだ先のことだった。






動く情勢scene

「―――全機着艦完了」

 1943年1月27日、トラック諸島南方沖。
 ここを大日本帝国海軍第二艦隊が南下していた。
 正規の所属艦艇と臨時編成の艦艇が一同に会した光景は壮観の一言である。
 特に第六航空戦隊の巨体が目立っていた。

「さてさて、またお鉢が回ってきたわけだが」

 第二艦隊司令長官・近藤信竹海軍中将が嘆息する。

「今度は空母戦もしろと・・・・」

 第二艦隊は先の第三次ソロモン海戦の後、麾下にあった第四航空戦隊を分離した。
 その代わりに今回の作戦では第五航空戦隊、第六航空戦隊を麾下に入れる。
 第五航空戦隊は準正規空母である「隼鷹」、「飛鷹」で、航空機120機。
 一方、新設の第六航空戦隊は正規空母で構成されていた。
 航空母艦「勢鳳」、「向鳳」。
 「鳳」の文字を持つが小型空母ではない。
 また、頭文字には元となった軍艦の名残があった。
 戦艦「伊勢」、「日向」が大改修の末に再び海に送り込まれた姿。
 それがこの空母だ。

 基準排水量35,000t。
 全長252.6m、全幅33.8m。
 飛行甲板257.5m×30.0m。
 速度28kt/h
 航空機約93機。

 同じ戦艦改良空母である「加賀」、「赤城」ほどの大きさはないが、戦力は同等かやや上。
 速度を除いて翔鶴型に準じる堂々たる空母である。
 これらが加わった第二艦隊は空母艦載機だけで306機。
 航空艦隊と言っていい陣容だった。

(航空戦はあの時と同じく空母指揮官に任せるしかないな)

 第四航空戦隊ではないため、角田覚治少将はいない。
 第五航空戦隊と第七航空戦隊の統一指揮を執るのは、七航戦司令官である桑原虎雄中将だ。
 第三艦隊司令官である小沢治三郎中将と同期であり、パイロットとしても有名な航空屋だ。
 第二次欧州大戦勃発時はドイツにおり、ドイツ海軍によるバトル・オブ・ブリテンに関わった。
 その報告と小沢以下の献策を採用して編成されたのが第一航空艦隊である。

(しばらく海から離れているのが不安だが、奴ならばどうにかするだろう)

 桑原は帰国してすぐに青島方面特別根拠地隊司令官に着任した。そして、旅順で空母改造を受けていた「勢鳳」の建造・防諜を指揮する。
 「勢鳳」就役に伴う七航戦発足後、その司令官に就任。
 戦隊指揮官に中将が就任した理由は「七航戦がやや特殊な編成だから」と言えた。
 七航戦は空母「勢鳳」、「向鳳」の他、駆逐艦「照月」、「涼月」を伴っており、異種艦艇の混合部隊だ。
 準艦隊としての扱いで、指揮官は中将相当とされたのである。

「白石」
「はっ」

 近藤は参謀長である白石萬隆少将を呼んだ。

「トラック出港前に第三部から得た情報をもう一度教えてくれ」

 第三部とは軍令部第三部、つまりは情報機関のことだ。
 大事な戦いの前に彼らから最新情報を得ることが、海軍の慣例になりつつあった。

「はっ、それでは・・・・」

 白石が胸ポケットからメモを取り出し、それに目を落とす。

「まず―――」

 1. 当該海域において行動する敵戦艦なし
 2. 有力な艦隊に護衛された輸送船団がガダルカナル島に向かっている可能性大
 3. 新たな呼び出し符号を確認、新部隊配備の可能性あり
 4. 新部隊は空母部隊の可能性あり

「といった具合で、総合すると米軍はガダルカナル島への増援派遣中。その護衛部隊には戦艦はいない。それとは別の艦隊として空母部隊が展開している可能性がある、ということですな」
「全く第三部はどうやったらそんな情報が得られるというのだ」

 近藤は首を振って肩をすくめる。

「ですが、米軍も同様のことができると高松中佐が言っておりました」

 白石が過去に嘉斗と会った時のことを思い出しながら言った。

「米軍も我々がトラック島に入港しようとしていることに感づいていましたからな」

 第二艦隊がトラック諸島に到着したことを米軍が知っていると判断したのは第三部である。
 近海から発せられた電信から判断しており、それを逆手に取ることを発案していた。

「まさか遠回りをさせられるとは・・・・」

 第二艦隊はトラック島へ向かう最短の環礁出口ではない場所から時間差をもって出撃。
 洋上会同する方法で第二艦隊出港を欺瞞する。
 さらに通信でもトラック諸島から第二艦隊の符丁で本土と通信していた。
 米軍が通信傍受で情報収集している場合、引っかかる可能性が高い。
 そのおかげか潜水艦の警戒網を突破し、第二艦隊は順調に南下していた。

「今回の作戦目標は多いから注意しろよ」
「心得ています」

 第二艦隊の任務は、ガダルカナル島周辺の制海権・制空権の確保である。
 そのために必要なことは次の通りだった。
 ガダルカナル島の航空戦力の無効化。
 ガダルカナル島周辺に展開する水上部隊の撃破。
 陸上基地と周辺展開海上戦力を相手にするのはミッドウェーの戦いにおける敗戦要因のひとつだった。
 ガダルカナル戦線でもその要因は変わらなかったが、ブーゲンビル島のブイン飛行場など、前進飛行場から飛来する戦闘機の存在がその要因に対する対策になっている。
 第三次ソロモン海戦時と比べ、ガダルカナル島航空部隊も機動部隊も弱体化している米軍だ。
 第二艦隊だけでも両目標の撃破は可能と考えられていた。

(だからと言って、油断するわけにはいかんが)

 いざとなれば、空母部隊を残置し、水上打撃部隊のみでガダルカナル島もしくは敵艦隊に殴り込みをかけなければならないだろう。
 その折に35.6cm砲とはいえ、奥羽型戦艦は大いに活躍するはずだ。

「―――第六艦隊より入電中」
「「ん?」」

 ふたりの耳に電信員の言葉が入る。

「発、第六艦隊司令部。宛、ソロモン海域全司令部」

 第六艦隊とは潜水艦を統括する艦隊だ。
 十中八九、敵艦隊を発見したのだろう。

「敵輸送船団を発見。有力な艦隊が護衛中。針路からガダルカナル島への補給部隊と判断」

 第三部の情報は正しかったと証明された。

「長官。まずはこれを叩きましょう」
「だな。ガダルカナル島の戦力図を大きく変えるわけにはいかない」

 アウステン山の戦いで米軍は大打撃を受けたという。
 この戦力を回復させては、今度は日本軍が危なくなる。
 最悪、撤退作戦を実施する前にガダルカナル島の日本軍が壊滅する可能性があった。

「航海長、敵船団がこちらの攻撃範囲に入るのはいつだ?」
「距離・速度ともにこのまま推移しますと、29日の日中に攻撃隊半径に入ります」
「どの辺りでだ?」

 近藤と白石は海図を見下ろし、第二艦隊と先ほど発見された敵船団を表す駒を見遣る。

「ガダルカナル島に近いな・・・・」

 一撃で葬らなければ上陸を許してしまうだろう。

「ルンガ湾に入られた場合、ラバウルの陸攻に攻撃を依頼しましょう」
「それがいいか・・・・」

 洋上航行中よりも揚陸中の無防備な時に襲わせた方が陸攻隊は戦果を挙げやすいだろう。

「いざとなれば水上戦闘に持ち込むぞ」

 旗艦である「奥羽」は30kt/hを発揮する高速艦だ。
 空母部隊を分離して突進すれば輸送船団を抱えている敵艦隊は逃げられない。
 重巡レベルが出ているとは思われるが、戦艦を持ち出せばほぼ確実に勝てるだろう。

(こちらも損害が出るからあまり水上戦はしたくないがな)

 第一艦隊および第三艦隊が第三次ソロモン海戦で受けた傷は大きく、まだ動けそうにない。
 それなのに第二艦隊まで損害を受けると外征部隊がいなくなるのだ。

(だから今回の戦いは基本的に航空戦だけだ)

 近藤はそう決意し、来るべき決戦に向けて体調を万全にすべく、指揮を白石に任せて休むことにした。




「―――どうです、亀。これが―――アイタッ!?」

 日米艦隊がガダルカナル島へ向かっている時、嘉斗は塩釜の造船所を訪れていた。
 これに亀と子供ふたりも同行している。
 なお、嘉斗の悲鳴は亀に脛を蹴られたことによる。
 袴にブーツというハイカラな姿の亀から繰り出されたつま先蹴りは非常に痛かった。

「ホント飽きひんなぁ、あんたら」

 護衛として同行している高山富奈が大鎌を肩に担いで呆れている。

「そのやり取り何年続けてるん?」
「彼女が生まれた時辺りからですかね?」
「つまり我が人生全て」
「・・・・・・・・・・・・ホント飽きひんね」

 割と本気のため息をついた富奈は視線を造船ドックに向けた。

「で、これが見せたかったもの、と?」
「はい」

 彼らの視線の先には先日進水式を終えた軍艦がいる。
 クレーンがひっきりなしに動き、艦上では溶接が行われているのか、火花が散っていた。

「翔鶴型空母の改良版です」

 日本海軍が配備した大型空母は戦艦改装空母である「赤城」(ミッドウェー海戦で戦没)、「加賀」(左同)、「勢鳳」、「向鳳」、純空母設計である「翔鶴」、「瑞鶴」だ。
 最初から空母設計された大型空母である翔鶴型空母は、空母黎明期からのノウハウを組み込んだ完成形と言われたが、妥協した面もあった。
 その妥協を取っ払い、技術革新を合わせて組み込んだのが改翔鶴型である。

「翔鶴型よりもやや大きいことと―――」

 全長260.0m、水線幅26.5m(面積比で対翔鶴型1.03倍)。
 基準排水量27,000t(同1.05倍)。

「飛行甲板の形が違うことですね」

 飛行甲板は「勢鳳」・「向鳳」と同じ257.5m×30.0m。
 これは翔鶴型の1.1倍と広い。
 艦体に対する飛行甲板の大きさがより大きいということだ。
 最大速度は33.5kt/hと翔鶴型の34.2kt/hよりも遅いが、搭載機数は93機と3機だけ増加している。
 レベル的に米海軍最新鋭空母であるエセックス級と同等と言えた。

(尤も彼らはエセックス級を10隻以上建造でき、こちらはやっと2隻という建造能力差がありますが・・・・)

 日本海軍は加藤友三郎首相の政策で大型艦船を建造できるドックを倍増させた。しかし、それでも米国のそれには届かない。

(だから、敵空母が増殖しないうちに叩く必要があるのですよね)

 嘉斗の耳には敵の新型空母が出撃している情報が入っていた。
 それはすぐさま連合艦隊に伝えられ、麾下の艦隊に伝達されている。

(いやいや、軍縮会議の仕込みがこんなところで効いてくるとは驚きです)

 戦艦「伊勢」、「日向」の廃艦と軍縮会議の失効。
 その折の細工が1943年初めの海戦に活きてきた。

「外交官だったらもっと喜ぶんですかね」

 嘉斗の独り言に「?」と亀が見上げてくるが、その頭を撫でることで誤魔化す。

(でも僕は軍人です。兵に死ねと命じなければならない、士官です)

 嘉斗にできることは、的確な情報を与えて死者を少なくすることしかできない。

(頼みますよ、近藤中将)

「・・・・ふんッ」
「イタッ!?」

 思考の海に沈んでいた嘉斗は、顔を真っ赤にした亀の蹴りによって強制的に現実に引き戻された。

「ま、また脛を・・・・ッ。名前を呼んでいないのにどうして・・・・」
「視線」
「「じー」」

 愛娘たちを視線で示す亀の頬がほんのり赤く染まっている。

「なんだ、照れただけ―――や、止めましょう」

 手に持っていた唐傘を腰に当て、まるで居合抜きのような姿勢を取る亀。
 振り抜いても斬れはしないが、魔力的な何かが飛んでくれば如何に嘉斗でも無事に済まない。

(夫婦間のじゃれ合いで殺されると、末代まで笑いものです)

 尤もそれを目撃する次代はトラウマになるだろうが。

「そんで? 前にこっちが取り戻した貴重な輸送船を使ってなにするん?」
「え? 何のことでしょう」

 それに気付かれないために日本津々浦々へ巡視旅行に出かけたというのに。

「ひろ様は勘違いひてる」
「勘違い?」

 亀の鋭い視線に首を傾げて返す。

「別に私ひとりで政財界を見ているわけやない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「協力者はいっぱいいる」

 亀は腰だめのまま傘を揺らし、嘉斗を脅した。

「あんまり"有栖川"を舐めん方がいい」
「・・・・・・・・肝に銘じることにします」

 両手を挙げた嘉斗は話をするために艦体に背を向ける。

「じゃあ、宿舎に戻って話を―――」
「待ち」
「え?」

 裾を引っ張られた嘉斗が振り返ると、亀はとある店を指差した。

「塩釜に来てまぐろを食べるのは常識」
「観光を満喫している・・・・ッ」
「初めての家族旅行やから」

 亀は子供ふたりの手を引いて歩き出す。

「それに前にここへ来た時はゆっくりできなかった」
「前・・・・」

 それは造船所ができた折、関東大震災が発生した時だ。

(確かにゆっくりできませんでしたね)

 国力向上・戦争準備・戦争指導に明け暮れ、「家に帰ること」が家族サービスだと思っていた。だが、これほど喜ばれるならば皇族の仕事として国内を移動する時に連れて行ってもいいかもしれない。

「―――高松宮」
「何か?」

 護衛を務める高山の声に振り向いた先に、海軍の軍服を着た青年が立っていた。
 彼は嘉斗が気付いたと見るや略式敬礼をしてから近づいてくる。

「第三部員です」
「何かありましたか?」

 嘉斗の質問に彼は嘉斗の耳元に口を寄せて言った。

「協力者がグラマン航空機エンジニアリング社の戦闘機開発要員の暗殺に成功しました」
「・・・・ほう」

 協力者とは嘉斗の子飼いとも言える外国人孤児であり、魔術を学んだ工作員だ。
 R.E.S.T.と呼ばれる彼らだが、特に指示をせず、己の判断で行動する。
 この暗殺を決断した者はグラマン社が進める戦闘機開発を危険と判断したのだろう。

(グラマン社の新型戦闘機は確かF6Fでしたね)

 現在の米海軍主力戦闘機は同社製のF4F ワイルドキャット。
 その後継として開発が進められているのがF6F ヘルキャットだ。
 この時期、すでに量産型であるF6F-5の初飛行を終えているが、諸問題は解決されていない。
 開発関係者の死はその量産にまで影響するかもしれない。

(殊勲ものですね)

 もちろん、組織に属していないので褒章を与えることはできない。
 だが、その功績は戦場で軍艦を沈める戦果にすら匹敵するだろう。

(航空優勢維持はもう少しできますか・・・・)

 空母は容れ物だ。
 どれだけ新型を集めようと載せる航空機が貧弱では意味がない。

「零戦の後継開発も苦戦していますし、てこ入れが必要かもしれません」

 ボソッと呟いた言葉に亀が振り返って言った。

「ああ、それなら堀が動いてる」
「え? あれ? 堀さんって日本飛行機を辞めて大日本兵器の方に専念していませんでしたっけ?」

 日本飛行機は九三式中間練習機が主力製品の航空機メーカーだ。
 一方、大日本兵器は浦賀船渠を傘下に持つ造船メーカーである。
 前者ならばともかく後者がメインの堀が三菱の戦闘機開発に口を出せるのだろうか。

「まあ、いろいろあるんよ」

 皆まで語らず、今度こそ嘉斗を置いて店へと入っていく亀。

「・・・・・・・・・・・・まあ、知らせてくれてありがとうございました」

 嘉斗に礼を言われ、敬礼して回れ右した連絡員を見送り、嘉斗と高山も店に入ろうとする。

「もうちょっと暗躍する必要がありますかね」
「護衛する立場からすればほどほどにお願いします」

 「どうせ無駄でしょうが」と続けた高山が高松夫妻の行動力を物語っていた。









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