アウステン山の戦い


 

 ガダルカナル島アウステン山。
 島北部に位置する標高400m級の山であり、日米両軍を見下ろす位置にある。
 そもそもの日米両軍が展開する島北部の地名と位置は以下の通りだ。
 東から、ルンガ飛行場(ヘンダーソン基地)、ルンガ川、アウステン山(内陸部)、マタニカウ川、ホワイト川(勇川)、セギロウ川(ウマサニ川)、エスペランス岬と続く。
 日米軍はマタニカウ川を挟んで東西で対峙し、アウステン山のギフ高地は日本軍の突出部だった。
 日本軍はルンガ湾に突入する海軍艦艇、ルンガ飛行場を爆撃する航空機にこの地点から発光信号で指示しており、効果的な爆撃を可能にしている。
 米軍はこれらの攻撃で多大な犠牲を払っており、この地点の奪取はヘンダーソン基地に対する攻撃を緩和させる効果が期待された。






アウステン山の戦いscene

「―――戦況は?」
「なんとか維持、というところであります」

 1943年1月15日、アウステン山北方日本軍陣地。
 ここに同地を守備する旧川口支隊司令部があった。
 旧と言っても部隊を指揮するのは川口清健陸軍少将が執っている。
 先日に辻正信中佐と意見が対立したが、解任されずにそのままだった。
 だから「旧」とは言わず、今も川口支隊なのだが、それでも旧と言わざるを得ないのはその戦力からである。

「こちらの残存は?」
「一〇〇〇を切りました」

 前線の偵察に出ていた兵を休ませた後、川口は副官に聞いた。
 返ってきた言葉は非常に厳しい数字だ。
 4,000名近い戦力を上陸時に有していたことを考えると、損耗は75%となる。
 これは壊滅どころか全滅と表現してもいい。
 この地での防衛開始前は、最初の突撃を生き残った兵を再編成し、どうにか1,200名程度の戦力を整えていた。

(その戦力もわずか数日で吹き飛ばされそうだがな)

 17日より始まった米軍の砲爆撃によって川口支隊は大きな損害を受ける。
 米軍も物資不足に喘いでいたのだが、ここひと月で随分好転したようだ。
 とは言え、その1ヶ月も数日に一回はルンガ湾で輸送船が炎上・沈没しているし、ここに来るまでも損害を出し続けているだろう。
 それでも後方から送られる物量が膨大であるから、例え数%削られたとしても十分な補給となるのだ。

(だが、補給を受けたのはこちらも同じだ!)

 近くに飛来した砲弾に思わず首をすくめながらも思う。
 砲撃が止み、しばらくして前線から機関銃の射撃音が聞こえてきた。
 今の砲撃は、歩兵部隊突撃までの支援砲撃だったのだ。
 なお、機関銃を撃っているのは日本軍である。
 航空機に搭載される機銃に12.7mm機銃が一般化したため、余剰が生まれた7.7mm機銃が中古品として大量にガダルカナル島に届けられていた。
 元航空機関銃であるそれは、対歩兵には絶大な威力を発揮する。

(今度はこっちの番だ!)

 長い潜伏でいくつもの地点に十字砲火地点を築いた機関銃陣地は、公算砲撃では潰し切れなかった。
 結局、20日の攻撃も米軍に100名を超える死傷者を出させて撃退する。
 この3日間で米軍の損害は500名を数えたが、3万を超える米軍からしたら微々たる数だ。
 尤もこの攻撃に参加していた米軍は1個連隊規模だったので、その損害は大きかったのだが。

「機関銃の音は、減っていないな」
「砲撃を耐え抜いた、ということですね」

 ガダルカナル島の地質では頑強な陣地は作れない。だが、柔らかい土壌を掘り下げ、塹壕のようなものを作ることはできた。
 川口支隊は第二師団の総攻撃に部分的にしか参加しなかったため、11月から丸2ヶ月は戦闘から隔離されている。
 この間に築いた野戦陣地が役に立っていた。
 医薬品が多めに支給されることにより、マラリア患者の減少、軽度化に向かっている。
 それは体力維持に繋がり、陣地構築などが進んでいた。

(だが、砲兵だけはどうにかしなければ)

 築いた陣地は確実に破壊されている。
 耐えてはいるが、撃たれるままに任されるとどうしようもない。
 砲撃を止めさせなければならなかった。

「今夜です」

 川口の視線を受けた参謀が意図を察して告げる。

「ならば、今日も耐えねばな」


 川口支隊は15日も米軍の攻撃を跳ね返し、その前面に血の海を作り出した。




「―――時間だ」

 1943年1月16日未明、ガダルカナル島アウステン山北方。
 その一角でひとりの兵が懐中時計を見て呟いた。
 もうひとりいた兵が双眼鏡を片手に耳を澄ませる。
 彼らは同地に展開する海軍特別陸戦隊に属しているが、本来の所属は軍令部長直轄の特務室第四課だった。
 主に諜報活動の実戦部隊だが、公式には秘匿されている部隊だ。
 平時は敵国に潜入するなどを主任務とする工作員で、戦時には敵陣地潜入や将校暗殺、破壊工作を行う。
 ガダルカナル島に潜入しているのは、ヘンダーソン基地の破壊工作のためだった。
 実際、第二師団による第二次総攻撃時には基地に潜入し、弾薬庫や食糧庫の破壊、兵員殺傷などで暴れ回っている。
 だが、相応の戦果と引き換えに損害も大きく、上陸時には15名を数えた隊員も戦死や傷病で6名まで減っていた。

(俺たちはあんな使い方をされるために訓練してきたんじゃないんだがな)

 隊長を務める男は心の中で思う。
 兵隊と真正面から戦うのは兵隊の役目だ。
 自分たちは搦め手を使うのである。

(今回の"これ"は・・・・まあ、いいけどよ)

 一昨日に米軍が繰り出してきた野戦砲は、アウステン山に展開する日本軍の脅威になっていた。
 巧妙に隠ぺいされた砲兵陣地は、ラバウルから飛んできた航空機の目には映らない。
 結果、無為に爆弾をばらまくだけだった。
 それに業を煮やした司令部が、第四課に協力依頼を出したのである。
 その依頼内容は爆撃誘導。
 彼らの敵地潜入能力と特殊技能を駆使し、米軍の警戒をかいくぐって配置についた。
 後はラバウルから夜間爆撃部隊がやってくるのを待つだけだったのだ。

「来た・・・・」

 隊員が思わず言葉を漏らす。
 夜風の音の中、唸るような重低音が北西から響き出した。

「火星発動機の音・・・・。一式陸攻だな」

 今回の作戦は彼らが砲兵陣地の位置を示し、それに従って一式陸攻が爆弾を投下。
 砲兵陣地を破壊するのである。

「・・・・見えました」

 夜闇を睨みつけていたひとりが言うと、隊長は目配せして他の隊員に作戦開始を告げた。



 次の瞬間、ガダルカナル島に3点の光が灯った。
 それは上空から見ると鮮やかに見える。
 18機の一式陸攻はそれらの光を頂点とした三角形内部に250kg爆弾を投下した。そして、地上で爆炎が咲く中、バンクして反転する。
 バンクは誘導に対する礼だ。
 爆炎の中ではへし折れた砲身が宙を舞い、それを弾薬が誘爆して生じた新たな爆炎で吹き飛ばしていく。



 米軍は日本軍の砲兵部隊を考慮していなかった。
 さらにもっぱら航空基地を叩いていた空爆も考慮していない。
 それはアウステン山の日本軍排除は短時間で終わるものと言う見込みだったからに違いない。
 だが、予想に反して3日間粘られた。
 その代償は、砲兵部隊の壊滅と言う損害で払う。
 そして、それは、両軍を泥沼の地上戦へと誘うこととなった。



 アウステン山のギフ高地に立て籠もる日本軍(川口支隊)を包囲した米軍の規模は1月20日時点で1個師団(損害のため兵員は1万弱)まで膨れ上がっていた。
 それはなけなしの野戦砲部隊が潰された関係で、歩兵による制圧しか選択肢がなくなったからである。
 なお、米軍が大損害を受けるであろう歩兵攻撃を選択した理由も野戦砲部隊の壊滅にあった。
 航空攻撃による一網打尽は、このアウステン山に展開する日本軍の手引きがなければなしえない。
 今はまた日本軍の航空攻撃は沈静化しているが、日本軍はいつでもアウステン山から爆撃誘導ができるということが証明された。
 結果、米軍にとってのアウステン山の戦略価値が急上昇し、損害を受けても占領すべき点となったのである。
 大兵力による進撃で戦線を確実に進め、頑強に抵抗する日本軍陣地を少しずつ排除していた。
 それでも8日間続いた攻防戦による損害は、死傷者は2,500名と大きい。
 遭遇戦となるジャングル戦は弾薬の消耗と共に体力のそれも大きかった。

(奴らはやはりどこかおかしい・・・・ッ)

 米兵は攻撃を仕掛けてきた日本兵の苦労を知り、それでも猛攻をなした日本兵に恐怖する。

(世界最強の歩兵・・・・)

 日本軍をそう評する専門家もいた。
 開戦前は「何を馬鹿な」と笑っていたが、今は笑った者をブッ飛ばしたくなるほど痛感している。

(だが、あと少し・・・・ッ)

 最前線に配備された兵は近づく稜線と薄くなる敵の弾幕に戦闘の終わりを予見していた。
 抵抗は明らかに小さくなっている。
 自分が苦しい時は相手も苦しいのだと、彼らはそう言い聞かせて前を向いた。



―――そう、前だけを向いていた。



「―――天下の第二師団もこれだけか・・・・」

 1943年1月21日未明。
 日本陸軍第二師団を指揮する丸山中将は、付き従った兵たちの少なさを嘆いた。
 第二師団残存兵の内、ここに立つのは2,000名。
 それが第二師団全ての戦力ではないが、各地の守備を任せた結果、自由に動かせる兵はここまで減っている。
 総攻撃の失敗後、マラリア等の病気で失った者が意外と多かったのだ。

(南の島を舐めていたな)

 第二師団の戦歴は、大半が中国大陸である。
 ただ野営するだけで戦力が転がり落ちる環境など知らない。

(それでも我々を維持するために戦った海軍には感謝だな)

 暗闇の中、丸山は小さく笑った。
 今でも駆逐艦、潜水艦、航空機による補給は続いている。
 損害は小さくなく、少なくない戦死者が出ていた。

(それなのにここで呆気なく敗北するなどあってはならない)

 第二師団の矜持ではなく、日本陸軍全体の沽券に関わる。

「時間です」

 激戦を経ても壊れずに動く自身の懐中時計を確認して副官が言った。

「行くぞ。―――着剣」

 漆黒に塗り固めた銃剣を小銃に指し、"歩み慣れた道"を"異様に夜目が利く海兵"を先頭に歩き出す。
 現地時間午前2時。
 丑三つ時に、日本軍は米軍にとっての悪鬼にならんと動き出した。






「―――しかし、環境が悪いな」

 歩哨として立たされた米兵は同僚に声をかけて肩をすくめた。
 歩哨なのだが、視界が悪い。
 周辺を監視しているというより、武器を置いて休んでいる味方の護衛といったところだろうか。

「海岸よりもジメジメしているしな」

 それ故にフル装備でいる同僚もげんなりした声音で文句を言った。
 ガダルカナル島の駐留はしっかりとした拠点を持つ米兵にも辛い。
 今回の掃討作戦では、その拠点を出て野営することが多かった。
 体力の消耗は司令部が考えているよりも大きいのだ。

「今日の寝床は特にひどそうだぜ」
「ああ、歩哨を終えても休めそうにねえ」

 彼らは数時間前に進出してきたばかりで、野営準備もほとんどできていない。
 ほとんどの兵が木に背を預け、銃を抱えるように眠る羽目になるだろう。

「しかし、暑い」
「言うな。もっと暑くなる」

 日が落ちても鬱蒼と茂るジャングルのせいで、湿度が高い。
 さらに気温も下がらないため、体力も徐々に消耗していく。

「こんなところで寝泊まりして戦力を維持できる日本兵はヒトじゃないだろ」
「だからサルなんだろ、サル」

 そんな環境で数か月も粘る日本軍の精神を、彼は理解できなかった。
 暑さのせいか同僚の罵倒も投げやりだ。


―――そんな注意散漫な状況で、第三者の声がかかった。


「―――そうか? まあ、貴様らは慣れることもないさ」

 耳元で囁かれた下手な英語に驚き、視線を同僚に向ける。

「・・・・ッ」

 そこには血泡を噴いて崩れ落ちる同僚と黒い影。
 それを見て悲鳴を上げようとしたが、何故か喉からはヒューヒューという音しか出なかった。

「ここでお前は終わるんだよ」

 米兵は「信じられない」と言いたげな表情で己の胸を染め上げるどす黒い血を見た後、ゆっくりと倒れる。
 ふたりを屠った日本兵は銃剣を振って血を飛ばすと、次の得物を求めて進軍を再開した。
 歩哨を片付けた日本軍は疲弊して泥のように眠る米兵に同じように襲い掛かる。
 米軍の攻略部隊司令部がその静かな攻撃に気が付いたのは午前2時47分のことだった。
 一発の銃声も聞こえない襲撃であり、視界の悪さがさらに発見を遅らせたのである。
 司令部に報告された時には中隊長2名、小隊長3名を含む100名近い兵が戦死し、占拠した一部の区域が奪還されていた。

「撃て!」

 午前3時。
 その区域に展開した日本軍迫撃砲部隊による一斉射撃の砲声が轟く。
 一瞬の沈黙の後、米軍陣地に落下したそれは、断末魔の悲鳴をかき消す大爆発を起こした。
 数日前まで同地を支配していた日本軍は、米軍が野営する場所などお見通しだ。
 深夜の闇も関係なく、迫撃砲は精密に米軍を叩く。
 それはこのジャングルで曲がりなりにも数か月生き抜いてきただけはある、環境に慣れた強兵がなせる技。

「撤退! 撤退!」

 砲撃とその後に受けた銃剣突撃に耐え切れず、米軍に西翼は崩れた。
 この混乱は伝播し、米軍包囲部隊は瓦解。
 深夜の崩壊は多数の迷子を出し、それはそのままジャングルに呑み込まれて行方不明者となった。



「―――何と言う・・・・」

 翌朝になり、被害状況を確認した米軍指揮官はその言葉以降絶句せざるを得なかった。
 死者行方不明者2,000超。
 それは昨夜だけの損害である。
 行方不明者はまだ発見の可能性はあるが、それでも望み薄としか言えない。
 昨夜に米軍が展開していた地域に日本軍が再び展開しているのだ。
 それに見つからずに帰ってこられるほど、日本軍は甘くないだろう。

(この作戦は失敗だ)

 アウステン山攻防戦における米軍の死傷者は6,000名超。
 前線部隊の交代などの結果、投入された戦力は約2万。
 30%近い損耗率の上、投入部隊の多くは装備を喪失していた。
 再び攻めるには補給を受けなければならない。だが、その補給も満足に受けられるかどうかは分からない。
 昨夜も近海で輸送船が潜水艦に撃沈されたのだ。

「だが、諦めるわけにはいかないな」

 指揮官は闘志を新たにしてアウステン山を睨みつけた。
 あそこを攻略しなければ精密な空爆や艦砲射撃を受ける。
 それを阻止しなければ自分たちの明日はない。
 米軍は危機感の下、十分な補給を待たずに大軍で力攻めすることに決した。


 そして、1月25日約2万の兵員を持ってアウステン山を総攻撃した。
 その結果、27日にはギフ高地を攻略、同地の日本軍を排除する。だが、作戦成功の報を受けても指揮官たちの表情は晴れなかった。
 死傷者1,000名。
 この損害と引き換えに得られたのは、戦略目標の達成だけだ。
 日本軍にはほとんど損害を与えられなかった。

(まさかあの日本軍が撤退していたとは・・・・ッ)

 あれだけ頑強に抵抗していた日本兵の姿はなく、あったのはブービートラップと数名程度の狙撃兵だ。
 しかし、その効果は絶大で、罠と狙撃は数的損害よりも恐怖を与えた。
 極度の緊張と劣悪な環境で精神疾患を発症した者が多く、死傷者中の戦死者割合は低い。
 だが、戦力にならないという点は大きかった。
 一連の戦闘で7,000名を損耗した米軍は、ガダルカナル島に残る日本軍の駆逐に二の足を踏むこととなる。
 これは日本軍にとって貴重な時間となった。






「―――有力な艦艇がトラック島に入港しました」

 1943年1月20日、ハワイ諸島オワフ島でこの言葉が発せられた。
 これはトラック諸島を監視していた潜水艦からの情報である。
 アメリカ海軍は少なくない犠牲を払いながらもトラック島周辺に潜水艦監視網を構築しているのだ。

「最近の通信量増加はこのためで、同時期から通信が増加したソロモン方面に向かうと思われます」

 それは日本軍の通信を傍受し、その動向を推察する部隊で発せられたものだ。

「ふむ。それで君は日本軍の狙いがガダルカナル島にあると言うのだね?」

 報告を聞いていたアメリカ太平洋艦隊司令長官であるチェスター・ニミッツ海軍大将は窓の外の真珠湾を眺めながら背中越しに言った。

「はっ。その通りです」

 報告するのは情報主任参謀であるエドウィン・レイトン中佐だ。

「HYPO(戦闘情報班)は日本軍の暗号の中からガダルカナル島を示す符丁を傍受しています」

 日本海軍は大戦勃発以降頻繁に暗号を改訂しているが、戦闘情報班は少ない人員でその解読を行っていた。
 要員と予算を引き抜いて発足したアメリカ海軍全体の情報部門が対日戦で諜報成果が得られていないのと対照的である。

「これまでと同じならば数隻の空母と戦艦を伴う機動部隊だと思われます」
「第三次ソロモン海戦の傷が癒えたのか・・・・」

 アメリカ海軍が大打撃を被った第三次ソロモン海戦。
 この海戦で日本海軍も少なからぬ損害を受けている。
 レイトン以下の情報では、戦艦「比叡」、「霧島」、空母「蒼龍」、軽巡「由良」、その他駆逐艦数隻を喪失したらしい。
 アメリカ海軍の損害からすれば軽微だが、生き残った艦も大小それぞれの被害を受けているはずだった。
 別働隊として動いていた艦隊ならばともかく、主力の空母艦隊と水上打撃艦隊はまだ動けないと予想されている。

「いえ、呼び出し符号は"第二艦隊"です。第三次ソロモン海戦ではヘンダーソン基地を砲撃した部隊です」
「高速戦艦と軽空母の艦隊か。それでは敵主力部隊は再建途上ということだな」

 ニミッツは納得したように頷いた。
 確かにこの艦隊にはほとんど損害を与えられていない。
 航空攻撃は戦闘機と対空砲火によって撃退されていた。

「おまけにガダルカナル島を襲撃した経験があります」

 経験したことがあるのとないのとでは大きく違う。

「その時は強力な海軍艦隊の支援の下、ガダルカナル島へ陸上戦力を送り込んできました」
「今回も増援を送り込む魂胆か・・・・」

 ニミッツは海図を睨みつけた後、執務机に置いていたもうひとつの書類を取り上げた。

「A fox is not caught twice in the same snare」
「は? いまなんと?」

 ニミッツの呟きが聞こえなかったのか、レイトンが首を傾げる。
 レイトンの疑問には答えず、ニミッツは手にしていた書類を彼に渡した。

「一度目が成功したからと言って、二度目が成功するとは限らないのだよ」

 書類を確認するレイトンに背を向け、再び真珠湾を見遣ったニミッツは頭の中で思った。

(我々は狐よりも頭がいいぞ)

 ニミッツが呟いた英語は「狐は二度と同じ罠にはかからない」という意味だ。
 そんな狐より頭のいい人間が、日本海軍の都合のいい考えを二度も許すわけがない。

「そこに書かれた者たちが存分に力を発揮するには情報が必要だ」

 気配から書類を読み終えたと判断したニミッツは振り返って言った。

「君はこれからも日本軍の動向を探ってくれ」
「・・・・Yes Sir」

 レイトンはニミッツに書類を返す。
 その表紙には「【極秘】新型空母実戦配備について」と記されていた。









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