輸送作戦
ガ島撤退。 その方針決定が大本営決定になったのは、11月19日。 参謀級会議で合意していた陸海軍だが、大本営本会でも大揉めした。 しかし、第二師団でガダルカナル島を奪還できない場合、同島の放棄も視野に入れていたのである。 陸海軍も第二師団を万全な状態で投入しても奪還できないとは考えていなかった。 ソロモン方面への増援に第三八師団が増派される予定だったが、同部隊を投入しても奪還できる見込みはない。 第二師団の敗北は師団程度の戦力で米軍を駆逐するのは不可能なことを意味する。 現状の能力において、日本軍は師団以上の戦力をガダルカナル島に派遣することが不可能なため、ガダルカナル島の奪還は不可能と判断されたのだ。 第三八師団は予定通りソロモン諸島の防衛戦力とされ、第二師団の補充要員としてラバウルに到着していた1,000名をガダルカナル島へと急派する。 撤退は決まっても第二師団は戦力を維持していなければ、撤退作戦まで持たないと判断したのだ。 人員輸送型に改修した九七大艇、二式大艇を連日飛ばし、撃沈された艦艇や輸送船の乗員、重傷病者の後方輸送も実施。 その折に第二師団の現状、米軍の展開状況などの情報を得た。 それらから輸送を担当する第八艦隊が輸送船団突入日を決定。 護衛として第二水雷戦隊が派遣される。 1942年11月30日。 日本軍の大規模輸送作戦が決行された。 高松嘉斗side 「―――ルンガ沖夜戦、ですか・・・・」 1942年12月3日、東京都高松邸。 ここで高松嘉斗は報告書を読んでいた。 膝には長男が寝ころび、背中にはぺったりと長女が張りついている。 特に何かをしているわけではないが、お互いの体温を交換してのんびりしている様は平和だった。 読んでいる書類は物騒なのだが。 「勝利、と言ってよいのですよね?」 「良い、と思います」 持ってきたのは軍令部第三部員だ。 前職は連合艦隊司令部であり、山本と嘉斗を繋ぐ連絡員のひとりである。 階級は大尉であり、使い走りをする役職ではないが、取り扱う情報が情報なだけに自然と必要な階級も上がってしまったのだ。 「こちらは最新鋭の駆逐艦1隻喪失、米軍は巡洋艦4隻の撃沈破、か・・・・」 11月30日夜にガダルカナル島ルンガ岬沖で勃発した日米両海軍の衝突は日本海軍の勝利だった。 日本海軍は駆逐艦「長波」を喪失するも、米軍は重巡「ノーザンプトン」を喪失。 他に米軍は重巡2隻が大破するなど大損害を被っている。 「しかし、第三次ソロモン海戦から1ヶ月で重巡部隊を繰り出してきましたか」 「どうやら米軍も輸送船団を率いていたらしく、その護衛だったようです」 両者の輸送については、日本軍は成功、米軍は半分成功の結果だった。 日本軍は無事に人員と武器弾薬、食糧、医薬品を輸送し、その他人員の引き上げも成功している。 一方、米軍は陸揚げこそ成功したが、ラバウル等から飛来した日本軍の爆撃機によって物資が焼き払われた。 米軍も第二師団によって大きな被害を出しているはずで、その戦力回復を妨げられたのは良いことである。 「撤退作戦までに米軍に戦力を回復してもらっては困りますね・・・・」 第三次ソロモン海戦で壊滅したのは、戦艦と空母戦力である。 米軍には未だ巡洋艦を中心とした艦隊が残っていた。 今回はそれを前面に押し出してきて、日本海軍の水雷戦隊に撃退されたということだ。 (米軍が受けたショックは相当なものでしょうね) 主力艦隊は撃破され、巡洋艦隊も通じない。 それでもガダルカナル島にいる味方はどうしても助けなければならない。 「迎撃を受けましたが、連合艦隊は今後も輸送船を投入した作戦を続けます」 「当然ですね」 一木・川口支隊、第二師団の残存兵は15,000名を超える。 その部隊維持――特に食糧――には輸送船の積載量が必要だ。 駆逐艦や潜水艦、航空機の積載量など高が知れているのだ。 「ですが、それと合わせて大艇による輸送も継続実施するとのことです」 夜間に限定して、医薬品を中心とする航空機輸送を実施する。 帰路には重傷病者を載せる予定だった。 12機態勢で1機当たり5名でも連れ帰れば、1日当たり60名。 1ヶ月で1,800名も連れ帰ることができる。 継続する戦闘、続出する戦病患者を救うために必要だった。 「いざ救出作戦をするにも人数が減っていればそれだけ楽ですからね」 後の話になるが、海軍はガ島戦の苦戦から輸送艦(揚陸艦)を開発する。 第一号輸送艦と呼ばれるそれは、1,500tと小ぶりな輸送艦だった。だが、今回はこの第一号輸送艦はまだない。 撤退作戦は考案中だが、高速輸送船もしくは駆逐艦と大発の組み合わせかで対応することとなる。 この場合、数段階に分けて作業しなければならなかった。 (海軍の回復状況が鍵を握りますね) 稼働状態にある戦艦は「奥羽」、「総武」、「金剛」、「榛名」の4隻だ。 空母は「翔鶴」以外は運用可能だが、航空隊がまだ揃っていない。 戦力として期待できるのは三航戦「瑞鳳」、「龍鳳」の2隻(航空機60機)だけだ。 三航戦は戦闘機専用部隊として配備されているため、第三艦隊は事実上動けない。 代わりに五航戦「隼鷹」、「飛鷹」(航空機120機)は投入可能だった。 (あまり臨時編成部隊を投入しても連携不足で思わぬ損害を被りかねない・・・・) ミッドウェーの惨劇がその代表だ。 「第二航空機動艦隊を作るべきですかね」 「は? ・・・・・・・・あ、いえ、申し訳ありません」 呟いた言葉は大尉には聞こえず、彼は聞き返すように声を放った。だが、すぐに非礼だと分かったのか、頭を下げる。 「いえ、別にいいですけど」 (この考えを明日、山本長官にしてみよう) 嘉斗は思わず笑みを浮かべた。そして、その笑みを見た大尉の頬が引き攣る。 「そ、それでは、私は帰らせていただきます」 「はい、ご苦労様でした」 報告を終えた大尉はまるで何かから逃げ出すように急ぎ足で返って行った。 「―――用は済んだ? 済まして。いや済ませ」 「何故に物騒な三段活用で入ってきたんですか?」 大尉と入れ違いで入ってきた嫁――亀に質問しつつため息をつく。 「簡単。ぜひ聞き入れてほしいお願いがあるから」 「お願いがあると言葉選びが物騒になるんですか?」 「うん、脅迫だから」 「さらっともっと物騒なこと言いましたよ!?」 親の会話に一切反応を示さない子どもたちの将来がやや不安だ。 そんな現実逃避をする中、亀が隣に座った。 「あれ? 隣? こういう場合は正面に座るものではありませんか?」 首を傾げる嘉斗の左肩にもたれかかる亀。 温かく柔らかな感触と共に漂うほんのりと甘い香り。 「いや、ここやないと」 「何故?」 「言葉だけのお願いでダメなら色仕掛け」 「色、仕掛け?」 本気で首を傾げた嘉斗に亀は隠し持っていた包丁を突きつけた。 「なに?」 「うわー、僕のお嫁さんかわいいなー」 棒読みだったのに包丁を引っ込めた嫁は単純だと思う。しかし、嘉斗はそんな感想をポーカーフェイスの押し込め、亀に聞いた。 「で? 何をお願いしたいんです?」 嘉斗が押し込めたものをほのかに感じ取っているのか、亀は包丁の刃先をチラ見せしながら言う。 「―――ソロモンに連れて行かれる輸送船、ちょーだい」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 亀がにこっと浮かべた笑顔が、小悪魔ではなく、悪魔に見えた嘉斗はそれから1分ほど沈黙した。 「―――それでは、秘密会議を始めましょう」 1942年12月4日、軍令部第三部室。 「今回の議題はガダルカナル島への輸送作戦についてです」 出席者は嘉斗の他に、矢野英雄少将(軍令部第三部長)、黒島亀人大佐(連合艦隊主席参謀)、富岡定俊大佐(軍令部第一部第一課長)が並ぶ。そして、なんと、末席には高松亀がいた。 「ガダルカナル攻防戦は両軍の輸送力が今後の戦況を左右します」 第二師団による第二次総攻撃の結果、展開する両軍は著しく戦力を減退させている。 第三部が入手した米軍の損害状況は、想定していたよりも多かった。 米軍は地上戦力と航空部隊要員、撃沈された海軍艦艇兵などを合わせて約25,000名いたという。 これが艦砲射撃や空爆、総攻撃の結果、6,000名超の死傷者を出していた。 これは驚くべきことである。 さらに第三次ソロモン開戦前は90機近い航空機がいたが、その大半が損壊していた。そして、滑走路も穴だらけで、補修するはずの重機も破損している。 その結果、米軍も輸送は海路に頼らざるを得ない状況と言えた。 米軍が航空戦力を使えないため、日本軍は11月30日には輸送船を用いた補給作戦を実施している。 この状況は第三次ソロモン海戦以後もガダルカナル島を制圧し続けたラバウルを初めとするソロモン諸島基地航空隊の功績だった。 「しかし、残念ながら、現場の制海権はやや米軍有利です」 駆逐艦以上の艦艇は両軍とも展開していない。しかし、米軍は魚雷艇を配備しているらしく、護衛なしで輸送船を向かわせるには危険すぎた。 「だから貴様は第二航空機動艦隊の編成を具申してきたんだろう?」 発言したのは黒島だ。 「山本長官も乗り気で、すでにパラオで編成が始まっている」 四航戦「雷鷹」、五航戦「隼鷹」、「飛鷹」を中心とする艦隊である。 航空機は約180機と一航戦並みの戦力しかないが、それでもガダルカナル島近海の制海権を確保するには十分だ。 「はい、第二航空機動艦隊の投入で制海権・制空権はこちらに有利となるでしょう」 「確保」と言わなかったのは、航空部隊の投入で安全になるのは昼間だけだからだ。 夜間は変わらず魚雷艇の活動が活発になるはずである。 「それよりも効果があるのは敵の輸送を邪魔できるということです」 第三次ソロモン海戦ではほぼ戦闘機で構成されていたが、今回は五航戦のみ攻撃隊を搭載した。 敵の正規空母部隊との戦闘は荷が重いが、敵輸送部隊や基地への攻撃は可能である。 第二航空機動艦隊の投入はむしろそちらに重点を置くべきだった。 「ふむ、それは確かにそうだな」 嘉斗の意見に同意したのは富岡だ。 海軍の作戦立案部門のトップはすぐさま頭の中で方針を整える。 「・・・・だが、こちらの輸送に寄与しないのであればどうすればよいか・・・・」 今の日本軍が直面する輸送作戦の困難さは、魚雷艇と潜水艦だ。 どちらも第二機動艦隊の投入で除去できない以上、別の戦力を投入しなければならない。 「水偵はどうか?」 矢野が発言した。 彼はつい先日第三部長に就任したばかりだ。しかし、二度の駐英武官の経験があり、一度目の駐在はロンドン海軍軍縮会議のためだ。 欧米の諜報戦を直に経験していた。 工作員潜入などにも時折使用された水上偵察機の隠密性、夜間行動能力も熟知している。 水偵が近海に進出すれば夜間でも魚雷艇や潜水艦を攻撃できる。 「なるほど。それはいい」 富岡はすぐに同意した。 水偵による航路警戒は海上護衛でも効果を上げており、特に夜間では頼もしい限りだ。 「特設水上機母艦を進出させ、正規基地が完成するまで任務を代行させよう」 海軍の頭脳とも言える役職にある将校たちがさっさと方針を決めてしまう。 もちろん上官に意見具申をするので、全てが全て実現するものではない。しかし、作戦に関して責任を持つ立場にある彼らが進言すれば無碍にされることはないだろう。 「―――うむうむ、即断即決、素晴らひい」 「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」 満足そうな女性の声に、3人は沈黙した。そして、説明を求めるような視線を嘉斗に向ける。 「いやー・・・・あははは・・・・」 視線を受けてとりあえずごまかし笑いをしてみたが、視線が冷たくなっただけでごまかせなかった。 「・・・・えーっと、ここに亀がいる理由ですけど―――」 「亀って言うな」 「ごふっ!?」 亀が投げた小銭入れが嘉斗の鳩尾に命中。 嘉斗は咳き込んで崩れ落ち、そのまま沈黙する。 「我がここにいるのはソロモン海域の輸送作戦に物を申すため」 「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」 3人は床に倒れた嘉斗に向けていた視線を亀に向けた。 「ここには帝国海軍の頭脳が揃うと聞いてまかり越した」 亀はその視線を受けても、何も動揺することなく見返す。 「高松、俺たちの首を物理的に飛ばす気か?」 矢野はやや蒼褪めた表情で言った。 如何に高松宮殿下の夫人であろうと、軍事に口出すなど、統帥権審判甚だしい。 3人とも立場的に亀の政財界影響度は理解していた。そして、亀が動くということは政財界も何らかの影響を受けていることも何となく把握している。 だがしかし、実務を担当する佐官級に直訴とは、さすがにやり過ぎと言わざるを得ない。 「は、はは・・・・。もしかしたら物理的に飛ぶかもしれませんよ」 嘉斗は鳩尾を押さえながら起き上がった。 「洒落にならんぞ、それも」 矢野も亀の血筋は知っている。 「「・・・・・・・・・・・・」」 他のふたりも顔をしかめ、苦悩していた。 政財界と宮家からの圧力。 それに海軍軍人としての重責。 その両方に彼らは押し潰されそうになっている。 「大丈夫ですって。別に殺されはしませんよ・・・・・・・・たぶん」 「たぶんって!?」と叫ぶ矢野を無視し、亀は椅子から立ち上がった。 「海軍は輸送船の特徴を理解せず、作戦に投入し、いたずらに作戦達成を難しくしている」 「・・・・ほう?」 そんな重圧の中、海軍批判とも言える言葉に目を光らせたのは黒島だ。 現場指揮は採らないが、連合艦隊の作戦を担当するのは彼なのだ。 「港湾設備のない島嶼への輸送には、船ごと乗り上げる方法と沿岸で小型船舶に移し替える方法の2つが代表的」 黒島の圧力にも屈さず、亀は言葉を続けた。 「でも、それは愚策であることは分かっているでしょう?」 「当然だ。だが、敵の勢力圏では仕方がない」 前者の方法は船底を傷つける可能性が高く、あまり一般的ではない。 ガダルカナル島の輸送では主に後者が採られていたが、これは時間がかかって被害を増やす要因となっていた。 「だったら、桟橋を作ればいい」 桟橋があれば輸送船は横付けでき、船のクレーンを用いて素早く陸揚げできる。 「ふぅー・・・・。高松宮妃」 黒島は肩をすくめ、ため息交じりに言った。 「その桟橋も破壊されますよ」 ヘンダーソン飛行場は使用不可能になっているが、今のままだといつかは回復する。そして、何よりガダルカナル島の日本軍への空爆は止んでいなかった。 米軍はさらに南東に基地を設け、そこから飛来する陸軍重爆による空爆が続いている。 機数や投下弾数は少ないが、それでも桟橋と言う目立つ攻撃目標があれば即破壊されるだろう。 「常設ではなく、仮設にする」 亀は片目をつぶりながら人差し指を振った。 軍人を馬鹿にするような仕草だが、黒島は亀の言葉の内容に興味をそそられる。 「・・・・仮設?」 「流れ橋を応用する」 流れ橋とは橋脚と橋桁が分離できる構造で、増水時に橋桁は流れに逆らわずに流出。 後に再建するもしくは流出する橋桁にロープを付けて後に改修・という構造だ。 「・・・・つまり、桟橋の橋脚を建設。輸送船が陸揚げ作業する時のみ橋桁を整備する、と?」 「そう。橋桁は浮かせたまま茂みに隠しておけばいい」 橋脚も着色にて目立たないようにしておけば良い。 問題は現地で建設できるかと言うことだが、今のところ制空権と制海権を確保している。 日本軍の勢力圏にある入り江ならば建設できるだろう。 「また、桟橋へ接舷できる船、多くの上陸舟艇を積める船、臨時起重機の増設可能な船を整理し、適切な船団編成をすること」 「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」 亀の言葉に海軍3名が沈黙した。 「そこまで考えてないやろ?」 「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」 亀の言葉に海軍3名は目を逸らした。 「どうせ陸揚げが捗らない理由は現場の力不足とか考えてたんやろ?」 「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」 亀の言葉に海軍3名は俯いた。 「全く、適切な艦を適切な場所に送り込むのが仕事の参謀どもが、船が軍艦から輸送船に代わった途端に手を抜きひおって」 亀が怒るのも無理はない。 海軍の杜撰な輸送作戦で内地輸送から取り上げられた船は多い。 本来ならば必要なかった船もあり、民間が被った損害は甚大だった。 「海上護衛艦隊のそれも杜撰。民間には玄人がいる。それらを採用すべき」 「ふんすっ」と鼻息荒く言い放って椅子に座った亀に、海軍3人は縮こまるしかない。 こればかりは前線の参謀を責められない。 前線がどうにかするのではなく、後方の作戦部隊、ひいては総司令部が負うべき責任だった。 こんな戦略レベルの判断は、かつ実務的な判断は、彼ら参謀の仕事なのである。 亀が司令官級ではなく、佐官に対して直訴した理由はこれだろう。 「いたずらに輸送船団を送り込んでいたらと思うとゾッとする」 後に黒島が語ったというが、その答えは忠実で得られていた。 ガダルカナル島の戦いにおける第三八師団輸送で、日本軍は輸送船11隻中7隻、7万トン超という優良輸送船喪失するのだ。 この物語で第三八師団輸送は中止されたが、輸送船投入は考えられており、同様の事態が発生する下地はあった。 亀はそれに警告を発しただけでなく、徴用輸送船の選別を誘発。 結果として、幾分かの輸送船が民間に返還され、民間活動維持に寄与。 それだけでなく、12月に何度か実施された輸送作戦の成否をも左右したのである。 決して歴史に語られることのない地味な変革だが、この秘密会議が後の輸送作戦に与えた影響は絶大であった。 1942年12月31日。 御前会議にてガダルカナル島撤退が正式に採択された。 12月中は第二航空機動艦隊の下、陸揚げ能力の高い輸送船を投入。 無事に第二師団補充兵2,000名を揚陸し、武器弾薬・食糧・医薬品も届ける。 投入できる輸送船が減少したため、護衛の駆逐艦にも一部ドラム缶を括り付けて輸送した。 重傷病人も復路で載せ、合計4,000名を脱出させたが、現地の劣悪な環境は病気を誘発し、多くの戦病死者を出している。 結局、12月31日時点のガダルカナル島戦力は第二師団を主力とした12,000名程度まで激減していた。 ガダルカナル島に投入された戦力は3万1,000名近くになる。 この内、戦闘によって約4,000名が戦死し、さらに戦傷病死が5,000名、戦傷病で10,000名――内4,000名は撤収済――で戦力を喪失している。 大陸の陸戦では信じられない損耗率であり、ガダルカナル島の兵たちは限界に達していた。 米軍側も情勢に変化が生じていた。 第二次総攻撃までは日本軍の攻撃に苦しんだが、その後は目立った日本軍の反撃もない。 しかし、補給面ではそれ以前よりも多大な犠牲を払っていた。 それは近海に展開した日本海軍潜水艦だけでなく、第二航空機動艦隊の攻撃によるものだ。 だが、それも12月27日に勃発した第四次ソロモン海戦とも言うべき戦闘――両軍とも戦闘名なし――で排除に成功していた。 この戦いでは船団護衛に投入した護衛空母4隻中2隻を喪失、1隻が大破するも、空母「雷鷹」を撃破する。 この被害を受け、第二航空機動艦隊はガダルカナル島近海から離れたのだ。 結果的に米軍は12月だけで輸送船21隻(総トン数約15万トン)、護衛空母2隻、魚雷艇24艇を喪失。 兵員は海軍および陸軍を合わせて12,000名が海の藻屑を消えた。 潜水艦の戦果もあるが、制空権のない状況での輸送が如何に困難かを如実に表している。 だが、これだけの損害を被りつつも、米軍は約30,000名の将兵――同時に展開戦力の入れ替え――、食糧・武器弾薬・重機の補充を果たした。 1942年12月31日現在、ガダルカナル島には日本軍12,000名、米軍30,000名が展開する。 彼我の戦力は兵員の数以上に兵器、士気の差が大きく、攻める日本軍と守る米軍から、攻める米軍と守る日本軍に移行しつつあった。 |