南太平洋海戦 -2


 

 1942年10月26日、第三次ソロモン海戦の第三幕・南太平洋海戦が勃発した。
 その序章を飾るサンタイサベル島沖海空戦はさらに前半と後半に分かれる。
 前半は米軍120機と日本軍96機の空戦がメインだった。
 日本軍の圧倒的な戦闘機数の前に、米軍は攻撃隊の半数近くを喪い、残りの大半も爆弾を投棄して撤退する。
 十数機のみ艦隊に突入し、対空砲火で被撃墜機を出しつつも投弾した。
 だが、第二艦隊の巧みな操舵で回避した結果、「奥羽」に至近弾一のみで空振りに終わっている。
 艦隊防衛に多数の戦闘機を投入した結果と言えた。

 そして、今から後半が始まる。
 前半とは違い、それは戦闘機が少数の場合、という戦闘になりそうだった。






サンタイサベル海空戦scene

「―――どの程度の戦闘機が上がっている?」

 1942年10月26日午前8時、サンタイサベル島北方海域。
 ここを航行する第二艦隊の旗艦「愛宕」の艦橋で、近藤信竹中将が質問した。

「『鳴鷹』から発艦した22機だけですね。先の迎撃機の残りは全て『雷鷹』に収容されたようです」

 近藤の質問に白石が答える。

「『雷鷹』でも発艦準備に入っていると思われます」
「間に合うかな」

 電探によるとすでに敵攻撃隊は周辺海域に到達していた。
 ただ低空に垂れ込めた雲が艦隊をうまく隠しているのか、まだ発見されていない。

「中空は晴れているようなので、防空隊と敵編隊がいつ接触してもおかしくありません」
「うむ。また雲の切れ目から敵爆撃機が急降下してくるかもしれん。対空警戒を怠るな、と命じておけ」

 ミッドウェー海戦ではそれで「赤城」と「加賀」がやられた。
 雲の下に逃げ込むことは敵の攻撃を阻止できるが、こちらも敵を発見できない。

(電探の精度が上昇すると、それでも敵編隊がどこにいるのかが分かるのか・・・・?)

 近藤は内心首を傾げながら電探に張り付く技師を見遣った。

「『雷鷹』より発光信号。『防空隊を出す』とのこと」
「承知した。針路知らせろと返答せよ」

 「雷鷹」だけ風上に走らせても意味がない。
 第二艦隊全体で風上に動き、発艦中の「雷鷹」を守るのだ。
 幸い風上の方角にも雲があり、敵に位置が露見することはなかった。
 「雷鷹」の甲板から次々と零戦が飛び出していく。

「あ! 防空隊、敵編隊と交戦を開始しました」

 上昇する零戦を頼もしげに見ていた近藤と白石はその言葉に肩を震わせた。
 電信員が上空の無線電話を拾ったようだ。

「敵機120ないし130。編成は艦戦、艦爆、艦攻」

 戦闘機隊の隊長が報告でもしているのか、艦隊に有益な情報が得られた。

「『雷鷹』は発艦を中止した模様」
「対空戦闘!」

 発艦態勢から対空戦闘陣形へ整える日本軍を待っていたかのように、雲を突き破って敵編隊が姿を現す。
 周囲に零戦が飛び交っているが、ワイルドキャットの壁をなかなか突破できないでいるようだ。
 ただ落ちていく戦闘機はワイルドキャットの方が多そうである。
 時間が許すのであれば、零戦が敵攻撃隊に取り付くこともできるだろう。
 だが、攻撃隊は間もなく艦隊直上に到達する。
 そうなれば艦隊側からの対空砲火による誤射を避けるため、零戦は近づけない。

「『山風』対空射撃開始!」

 最縁部に位置する駆逐艦「山風」が低空に舞い降りた攻撃機に向けて高角砲を発砲した。
 それを皮切りに第二艦隊に所属する艦が思い思いの砲撃を開始。
 それを見て零戦たちは空域を離脱、攻撃を終えて撤退する敵機を撃墜するために待機する。

(対空戦闘は不慣れだな・・・・)

 第三艦隊は随分訓練を積んだようだが、第二艦隊のそれはお粗末と言えた。
 これでは撃墜できる機体もそう多くないだろう。

「艦長、頼むぞ」
「お任せを」

 「愛宕」艦長・伊集院松治大佐が胸を張って答えた。

「敵艦爆隊3機、『雷鷹』へ向かう!」
「阻止しろ!」

 第二艦隊の輪形陣は、中心に大型艦4隻がひし形を描いている。
 先頭に「雷鷹」、後方に「鳴鷹」、左に「奥羽」、右に「総武」を配置していた。
 因みに「愛宕」は「雷鷹」の前方に位置し、「雷鷹」を守る位置取りである。

「三式弾、落ちんな・・・・」

 「愛宕」が射撃するのは新型対空弾――通称、三式弾――だ。
 派手に爆発し、敵を包み込んでいるように思えるが、威力不足なのかなかなか落ちない。
 それでも攻撃を躊躇させる効果があったのか、ドーントレスは翼を翻した。そして、偶然爆炎が1機を包み込み、きりもみ状態で墜落させる。

「右舷前方より攻撃機2機。―――ってあ!?」

 雲の切れ目から降ってきた零戦がその攻撃機へ銃撃を加えた。
 低空にあって逃げることのできなかったその2機は、相次いで火達磨になって海面に激突する。
 そういう光景が至る所に見られた。
 日本海軍の対空射撃は攻撃隊を撃墜するほどではないが、攻撃を躊躇する効果はある。
 対空装備を強化してこの程度なのだから情けない限りだが、躊躇した攻撃隊が対空射撃圏内から離れると、途端に零戦が押し寄せてくるのだ。
 それを阻もうとするワイルドキャットだが、雲量の多さから完全に阻止できていない。

「あ! 『鳴鷹』へ急降下!」

 だが、雲量の多さは敵も利することがあった。
 対空監視の隙をついたドーントレス3機が「鳴鷹」へ急降下する。
 航続距離を延すため、その腹に抱えたのは500ポンド爆弾だ。
 それでも日本軍の250kgに匹敵するそれがほとんど邪魔されることなく投下された。

「『鳴鷹』被弾!」

 轟音と共に飛行甲板で火炎が弾け、どす黒い煙を上げる「鳴鷹」。
 基準排水量20,000トンの巨体が衝撃に震える。

「何発だ!?」
「2発! 艦中央と後部!」

 白石の問いに返された言葉に、近藤は言葉を失った。
 「鳴鷹」は正規空母ではない。だが、航空機輸送艦として就役していたために商船改造空母でもない。
 ほぼ同級とされる隼鷹型航空母艦よりも艦体構造は強かった。
 それでも爆弾2発は痛い。

「『鳴鷹』、速度落ちます」

 消火のためだろう。

「艦速度注意!」

 「鳴鷹」が遅れることで艦の間隔が開けば、そこを通って敵が侵入する。
 それを避けるためには艦隊全体が速度を調整するか、「鳴鷹」と護衛艦艇を切り離すかのどちらかだ。
 普通は後者だが、四航戦は臨時編成で第二艦隊に参加した部隊である。
 護衛艦艇も決めておらず、艦隊行動訓練は未熟だった。
 結果として、近藤は第二艦隊全体で四航戦を守ることを決める。

「『鳴鷹』より信号! 『被弾二、航行に支障なしなれど離発艦不能』!」

(航行に支障なしか、幸いだな)

 近藤が胸を撫で下ろしたのもつかの間、今度は左側で轟音が鳴った。

「『奥羽』被弾!」
「・・・・ッ」

 見れば艦尾近くから黒煙が上がっている。

「戦闘行動に支障なし、とのこと!」

(だろうな)

 空母と違い、戦艦の装甲は爆弾1発程度ではびくともしない。

「右舷より攻撃機4機!」

 見張員の叫び声と共に高角砲が射撃を開始した。だが、それらでは撃墜できず、敵機は「雷鷹」へ機首を向けている。
 また、本来その場所にいなければならない駆逐艦は「鳴鷹」を気にするあまりやや遅れていた。

「いかん!」

 理想的な雷撃進入路だ。
 しかも、機数も多い。

「全速後進!」

 伊集院が命じ、「愛宕」がつんのめるように減速した。
 思わず司令席に掴まった近藤は屹立する伊集院を見遣る。

「間に割って入ります! 最悪は・・・・」

 急な後進の説明を伊集院が近藤にした。
 最後までその説明をすることはなかったが、その意思は十分に伝わる。

「その覚悟やよし!」

 近藤向けて笑って見せた伊集院に返し、司令席にドカッと座った。
 艦の操舵を伊集院に任せたのだ。

「対空機銃、撃ち方始め!」

 九六式25mm連装機銃、"一式40mm高射機関砲"が射撃を開始した。
 特に後者は新型であり、イギリスのボフォース40mm機関砲のコピーである。
 威力だけでなく、有効射程距離も九六式よりも上だった。

「1機撃墜!」

 「愛宕」が減速する中、狙いがつけやすくなったためにさっそく命中弾が出たようだ。しかし、後進が始まるとすぐに狙いが逸れ始めた。

「見張、『雷鷹』との距離は十分か?」
「・・・・大丈夫です、『雷鷹』は本艦の左舷を通過予定」

 「雷鷹」も「愛宕」の意思を感じ取り、「愛宕」に隠れるように舵を切っている。
 敵編隊もそれに気付いたのか、「愛宕」を飛び越えようとわずかに高度を上げた。

「1機撃墜!」

 すると途端に機銃弾が集中し、1機を鉄くずに変えて海に叩き落とす。

「敵機、魚雷投下。・・・・狙いは本艦!」

 「愛宕」の介入で「雷鷹」への攻撃を諦めた攻撃機が魚雷を投下した。

「全速前進! おもぉぉかぁじ!」

 伊集院が魚雷に対して正対するように操舵する。

「「「・・・・ッ」」」

 艦首を振り始めた時、横面を引っ叩かれたような衝撃が「愛宕」を襲った。




 「愛宕」への雷撃が第二艦隊に向けられた航空攻撃の、最後の一撃だった。
 距離1,200mで放たれた魚雷2本の内1本は艦後方へ抜けたが、残る1本は艦右舷後部に命中。
 破孔から浸水したが、応急措置が間に合って沈没は免れた。しかし、速度が15kt/hしか出せなくなり、近藤は将旗を重巡「麻耶」に移し替える。
 結局、2度の航空攻撃の結果、第二艦隊は以下の損害を被った。


 大破:空母「鳴鷹」(被弾2)、重巡「愛宕」(被雷1)。
 小破:戦艦「奥羽」(被弾1)、駆逐艦「霞」(至近弾3)
 戦闘機:21機喪失(「鳴鷹」格納庫での全損機含む)。


 これは述べ243機の航空攻撃を受けた割には損害が小さく、第二艦隊は依然として有力な艦隊だった。
 撃墜された機体の搭乗員も半数は救助されている。
 防空戦であったことと早くから重巡の水偵が周囲を捜索していたことが影響していた。
 開戦以来、ベテラン搭乗員比率の低下は課題である。
 今回のサンタイサベル島沖海空戦では、新米搭乗員が実戦経験を積むことができた。
 航空戦に限ると日本軍の圧倒的勝利。
 これが後の戦局にどのような影響を与えるかは未知数だ。だが、この南太平洋海戦の勝敗を左右した要因のひとつに数えられるだろう。
 何にせよ、サンタイサベル島沖海空戦はこれにて終了、後の戦域は南東海域へと移った。






「―――何と言う・・・・」

 1942年10月26日午前10時23分、サンクリストバル島北方海域。
 ここに第16任務部隊が航行していた。
 先程、日本海軍第二艦隊へ航空攻撃を仕掛けた部隊を収容したところである。
 その戦果報告を受け、司令官であるトーマス・キンケイド少将は天を仰いだ。

「この数は本当か?」
「・・・・残念ながら」

 質問された飛行長が沈痛な面持ちで頷く。

「・・・・・・・・いや、すまない。君には過酷な問いだった」

 キンケイドはそう労い、飛行長に下がるように言った。

「はぁ・・・・」

 手元に残った報告メモに目を落とし、思わずため息をつく。

(いったいどうしたというのだ・・・・)

 第16任務部隊は発見された戦艦2、巡洋艦6、駆逐艦多数に航空機122機を向かわせた。
 その内訳はワイルドキャット42機、ドーントレス45機、アヴェンジャー35機だ。
 それらは二段構えの敵戦闘機隊に襲われる。
 ハルゼー中将の読み通り、近海に空母がいたのだ。
 結果として、ワイルドキャット17機、ドーントレス21機、アヴェンジャー20機の計58機が未帰還。
 空母に帰り着いた残りの64機の内、全損判定が下ったのはワイルドキャット4機、ドーントレス5機、アヴェンジャー4機の計13機。
 未帰還機と合わせると71機を喪失した。
 損耗率は58%に達する。
 また、搭乗員の損耗は未帰還、機上戦傷者を含み、137名にも達した(死傷率58%)。

(これだけの損害を出しつつも戦果ゼロとは・・・・)

 「戦艦1隻に爆弾命中」と報告を受けているが、戦果情報としては怪しい。
 大方至近弾といったところだろう。

「司令、現在の戦力が判明しました」

 航空参謀が紙を片手にやってきた。

「後方のリトル群から確か20機の供給を受けたのだな?」
「はい。それを加えた数は―――」

 ワイルドキャット62機(80+10-22-6)、ドーントレス43機(70+6-26-7)、アヴェンジャー27機(50+4-24-3)。

 ( )の数値は初期数、補充数、全損数、修理中数の順である。

「計132機か・・・・」

 当初200機だったことを考えると戦力は34%ダウンしたと言えよう。
 たった1回の攻撃で、しかも20機の補充を受けながらも、である。
 また、ドーントレスの内、数機は偵察機として周辺海域を捜索中だった。

(補充がなかったとするとゾッとするな・・・・)

 キンケイドは綱渡りの運用に冷や汗をかく。
 後方を航行するリトル空母(護衛空母)から攻撃隊発艦時に補充要請をして20機が着艦していた。

「17TFが我々の後に攻撃したのだな?」
「その通りです。現在、無線を解読中ですが、敵艦隊への攻撃は実施できた模様です」

 参謀長は苦々しく言う。
 第16任務部隊が敵艦隊を攻撃できたのは、第17任務部隊との戦闘で上空に展開する戦闘機が少なかったからだろう。

「1、2隻にダメージを与えてくればな・・・・」

 日本海軍の主力空母部隊は4~6隻の空母を集中運用していた。
 少なく見積もっても残存空母からすれば300機はいる。

(まだ敵に見つかっていないが、見つかればどうしようもないぞ)

 キンケイドが思っていた時に無線員が悲鳴のような声を上げた。

「南方で無電が発せられました! 友軍のものではありません!」
「何!?」

 友軍ではない=日本軍だ。

「17TFが発見されたか、上空警戒は何をしていたのだ・・・・」

 アメリカ艦隊は周囲をレーダーで監視している。
 それを潜り抜けてきたというのか。

「敵偵察機、第二報を送った模様!」
「陣容を把握されたか・・・・」

 偵察機の報告は、第一に「敵発見」だ。
 それは敵を発見したことと発見位置、針路、速度を重視し、戦艦や空母の有無が含まれる。
 時には針路や速度は省略され、味方に敵の存在位置を知らせるのが第一報だった。
 これ続く第二報は第一報に漏れた場合は針路や速度を含むが、特徴として敵の規模報告がなされることが多い。
 第17任務部隊を発見した場合、「空母2隻、戦艦なし、巡洋艦4隻、駆逐艦6隻」となるだろう。
 これに艦級が分かる場合、付け足す。
 なお、第17任務部隊の編制は以下の通りだ。


 空母「サラトガ」、「ワスプ」
 重巡「ノーザンプトン」、「ルイビル」
 軽巡「サンディエゴ」、「ジュノー」
 駆逐艦「モーリス」、「アンダーソン」、「ヒューズ」、「オースチン」、「ラッセル」、「バートン」


 軽巡2隻は防空軽巡(アトランタ級)であり、駆逐艦の数も多かった。
 例え戦闘機が攻撃を阻止できずとも濃密な弾幕で対艦攻撃を撃退することは可能である。

(17TFを救うには攻撃しかない。そのためには敵情報が必要だ)

 キンケイドはそう思い、第二撃のために攻撃隊編成を急がせた。


―――その思いが通じたか分からないが、キンケイドが熱望していた敵情報が入った。


「偵察機4番機より入電中」

 電信員が騒然となった艦橋の中で冷静に報告した。

「・・・・・・・・・・・・敵空母部隊発見! 位置は―――」
「「「WHAT's!?」」」

 思わず司令部要員が叫ぶ。
 報告された地点は米軍が展開する海域よりも東――ウラワ島北東だった。
 感覚からすれば後ろだ。
 熱望していた敵情報だが、もたらされたその情報は聞きたくない事実だった。

(ま、回り込んできた、だと・・・・ッ)

 いや、違う。
 別の空母部隊だ。
 最初から日本海軍の空母部隊は2群いたのだ。

(マズイ・・・・)

 前方にいる空母部隊と後方にいる空母部隊に挟まれる。
 航空戦に挟撃と言う概念が適用されるのかは分からないが、心理的に戦況不利を感じさせるには十分だ。

「第二報入電中」

 動揺する艦橋の中で電信員は心を殺すことで冷静に務めていた。
 そんな彼が知らせた情報がさらに司令部を混乱に陥れる。

「敵空母は大型2、中型2、小型2。他、戦艦、巡洋艦、駆逐艦多数含む大艦隊。空母の甲板には攻撃隊らしき航空機が並んでいる」

(こっちが主力部隊じゃないか!?)

 空母6隻。
 しかも、大型を含むというのならば余裕で300機を超えるだろう。

「2時間以内で来るぞ・・・・ッ」

 彼我の距離は約450km。
 日本海軍の攻撃隊は米軍よりも足が長いと考えられており、450kmは余裕で攻撃圏内だ。

「司令、こちらも攻撃隊を出しましょう! 17TFも出せばほぼ同時攻撃になります」

 北西方面艦隊(第二艦隊)を攻撃した第17任務部隊の航空隊はまだ攻撃隊として編成できないだろうが、攻撃に参加しなかった機体は投入できるはずだ。
 そうすれば再び100機を超える攻撃隊を新たな敵に投入できる。

「無電で17TFに共闘要請をしましょう」
「それしかないか・・・・」

 キンケイドは参謀長の言葉に頷いた。
 一瞬、ハルゼー中将へ伺いを立てようとしたが、返答があった場合に第64任務部隊の位置も露呈する。
 第17任務部隊に無電を送ると、第16任務部隊の位置も露呈するリスクがあった。
 それでも同時攻撃する方がメリットは大きい。

「上空にて電波発信。・・・・敵です!」
「レーダー監視員は何をしていた!? さっさと叩き落とせ」

 参謀長が天を仰いだが、キンケイドは光明が見えた気がした。

(もしかすれば日本軍の攻撃は分散するかもしれない)

 第16任務部隊が発見されていなければ、敵主力部隊の攻撃は第17任務部隊に集中しただろう。だが、攻撃しなければならない部隊がふたつある場合、どちらも攻撃して戦闘力を奪いたいと考えるのに違いなかった。
 また、第16任務部隊が敵に発見されたことで、第17任務部隊と無線による意思疎通が可能になる。
 これで足並み揃えて敵艦隊を攻撃する戦法に目途が立ったと言えよう。

(不幸中の幸いとはこのことか・・・・?)



 キンケイドが期待した通り、第17任務部隊から共同攻撃に賛成と言う返事が届いたのは、それから10分後のことだった。
 これで米軍は北東方面艦隊(第三艦隊)に対し、200機近い攻撃隊を繰り出すことが可能となる。
 米軍空母部隊(第16任務部隊と第17任務部隊)と日本軍空母部隊(第三艦隊)の決戦は、後に"南太平洋海戦"と呼ばれることとなる。
 先のサンタイサベル島沖海空戦を前哨戦とする、本戦が始まった。









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