日米交渉
中国問題で悪化した日米。 この関係を好転させようと、日米間が行った様々な交渉を、日米交渉と呼ぶ。 その交渉は、1941年4月より本格的に始まった。 野村吉三郎駐米大使とコーデル・ハル国務長官が代表である。 日本は、中国からの完全撤退を条件に満州国の承認と通商関係の正常化を提案していた。 当初は朝鮮に自治政府が発足したこと、日本に対する中国の態度が軟化したことが重なって、話し合いは順調であった。 アメリカでも戦端を開くとしても今ではない、という意見があったからだ。 しかし、タイ・インドシナ紛争の介入から、日本の影響力は広く東南アジアに広がる。 これを危険視したルーズベルト大統領は7月に経済制裁を実施。 8月には日本を侵略国とし、石油禁輸措置を行った。 だが、日本もただやられたままではなかった。 6月に独ソ戦が勃発したが、日本は日ソ不可侵条約からドイツの参戦依頼を拒否。 これを世界に示し、枢軸国ではないことを宣言した。 これに態度を軟化させたオランダは皇室外交を下に、日本への石油輸出を決める。 アメリカは怒ったが、これを制止することはなかった。 関係修復が見込めない中、日本軍は大陸シフトから太平洋シフトへと変換する。そして、これに対抗し、アメリカはアジア艦隊を増強した。 軍同士の行動が活発化する中、両国の交渉は幾度となく行われた。 日本政府は当初、交渉期限を10月上旬にしていたが、近衛内閣の後を継いだ東条内閣が11月に引き延ばす。 以降はほぼ忠実通りに推移した。 11月3日、参謀総長と軍令部総長による対米英戦争の作戦計画が天皇に上奏される。 11月15日、時期不明にしながらも、南方作戦発令。 11月23日、第一航空機動艦隊、択捉島単冠湾出港。 11月27日、米国は日本側の提案を拒否し、ハル・ノートを手交。 12月1日、御前会議で開戦決定。 12月8日、対米英宣戦布告。 この話で語るのは、11月以降の日米交渉についてである。 日米交渉scene 「―――何としてでも回避だ、回避」 大日本帝国首相官邸で、時の首相は呟いた。そして、自らのメモ帳に本日の会議内容を書き記していく。 几帳面というかもはや精密機械のようなメモを残すのは、第40代内閣総理大臣兼陸軍大臣である東条英機陸軍大将である。 南京攻防戦を指揮し、人民解放軍を壊滅させた人物であり、その時の政治力から軍政畑にやってきた。 元々、統制派の首魁であり、国家総力戦の準備を進めてきた人物でもある。 近衛の後に東久邇宮稔彦を首相にする話もあったが、木戸幸一内大臣の独断で首相に就任した。 首相任命の際に天皇から対米戦争回避に力を注げと言われ、それを成すために尽力する。 陸軍の中国からの撤退は難しいが、できる限り譲歩する。 それは「中国国内の治安維持とともに長期的・段階的に撤退する」という趣旨にも表れていた。 さらに再び高まりを見せている日独伊三国同盟締結へも否定的な態度を示す。 これらのことから開戦準備を行い、かつ、独伊と技術的に繋がる海軍を疎んじていた。 (このままでは、海軍の動きから戦争が始まってしまう) 怪しい動きをしていた高松宮嘉斗殿下の手の者を横浜で逃がしてしまったのは痛い。 おそらく、あれは対アメリカのスパイたちが乗っていたのだろう。 「東郷外相、アメリカの反応はどうだね?」 「芳しくありませんね」 東郷の執務室には東条茂徳外務大臣もいた。 東郷茂徳。 鹿児島県出身。 朝鮮人陶工の子孫で、元々は「朴」の姓を名乗っていた。 よく間違われるが、同郷の東郷平八郎とは何の血縁関係もない。 「アメリカは我が国と戦争したがっています」 「その観測を下に、独自で動くのが海軍か・・・・」 陸軍も呼応して戦闘準備を開始しているが、海軍よりは動きが鈍いといえよう。 ただ、新型小銃や戦車の量産を行い、準戦時体制は維持していた。 「海軍はもしもの時に備えているだけです」 「それがアメリカを刺激しているとしてもか?」 東条とてアメリカの思惑は分かっている。 本気で中国を救いたいから、という理由で数十万の犠牲者が出る戦いをするわけがない。 アメリカは日本を排除し、中国を支配下に置くことで広大な市場を手に入れようとしているのだ。 列強が清の時代に目指していたが、第一次世界大戦で欧州はその余裕がなくなった。 漁夫の利を得たような形で日本が主導しているが、それに横槍を入れたいのだ。 「アメリカの戦技顧問団が中国から撤退し、フィリピンに入った」 その責任を蒋介石から日本に押し付けられ、日本は中国本土から撤退する機会を失っている。 しかし、そんな状況を作り出したアメリカは、中国から手を引けという。 もちろん、この中国とは満州国も含んでいる。 今更、満州国を失うことはできなかった。 「今のアメリカに正論を言っても握りつぶされるだけです」 「ならば、どうすればいいのだ?」 今の日本はアメリカの物資を輸入することで成り立っている。 第一次世界大戦後から徐々に分散させ始めたが、それでも一番の付き合いがある国なのだ。 アメリカとの交易が絶たれた今、日本は緩やかに衰退している。 「ひとつはアメリカに頼らない経済を構築することです」 日本はアメリカを仮想敵にし、アメリカ依存から徐々に変わってきた。 その代替を求めたのが中国であり、結果的にアメリカとの関係が悪化したのは皮肉である。 「満州、朝鮮はすでに自立。石油は蘭印から。・・・・後は鉄クズですか?」 「中国での戦争で生じた鉄くずなどを輸入しているが・・・・」 十分とは言えない。 すでに鉄鋼産業に大増産を命じ、大企業以外も生産量を伸ばしている。 しかし、アメリカからの輸入を置き換えるほどではない。 「・・・・・・・・東郷、貴様は始まった戦争を終わらせるにはどうすればいいと思う?」 「・・・・首相、それは・・・・」 「開戦の決意をした、ということか?」という言外の問いに首を振る。 「その終わらせる条件が、回避する条件だとは思えないか?」 「・・・・それはアメリカが納得するのですから・・・・・・・・」 東郷は目を閉じ、少し考えた。そして、執務室に貼られた世界地図の前に移動する。 「アメリカが中国権益だけでなく、真の意味で覇権国家になるためには次の条件が必要です」 太平洋地域における日本軍の打倒。 ヨーロッパ戦線を米軍主導で解決。 他の列強の国力が低下する中、アメリカの一人勝ちの状態を作り出す。 「このためにもっとも簡単なのは・・・・」 独伊と日本を同列に扱い、日本と開戦することで独伊にも宣戦布告。 太平洋では海軍が、ヨーロッパでは陸軍が戦う。 軍需工場をフル稼働し、欧州に売りつけることで外貨を稼ぐ。 「日本も独伊も基盤となる資源がありません」 このため、長期戦になれば苦しいのは日独伊。 アメリカは資源を確保しつつ安全な本土で生産する。 「・・・・地勢的、国力的にアメリカが圧倒的に有利、か・・・・」 「アメリカが恐れるのはアメリカ大陸に敵ができることです」 この当時、アメリカの次に力を持つ国は、カナダだ。 だがしかし、カナダはイギリスと同義と言ってもいいので、除外。 ファシスト国家であるブラジル、親枢軸国絶対中立派のアルゼンチン、石油資源の国有化などでアメリカと揉めたメキシコ。 これらが敵に回った場合、アメリカは本土が脅かされる。 「メキシコを味方にできれば、パナマ運河を脅かすことも可能です」 アメリカ西海岸と東海岸を結ぶ主要航路――パナマ運河が使用できなくなれば、アメリカの輸送路は南米を迂回しなければならなくなる。 「日本とメキシコが交渉を開始した、という事実だけで、アメリカは要求レベルを下げてくるかもしれません」 「メキシコか・・・・」 米墨戦争などで、アメリカに苦杯を舐めたメキシコだ。 国民の感情は反米だろう。 「よし、そちらも始めろ」 「分かりました」 メキシコとの外交交渉。 これはうまくいったのだが、残念ながらアメリカを躊躇させる策にはなりえなかった。 11月27日、ついにコーデル・ハル国務長官より、通称ハル・ノートが手渡されたのである。 「なんということだ・・・・」 11月28日、野村吉三郎対米大使は頭を抱えた。 「アメリカはいったいどういうつもりなのだ・・・・」 横で来栖三郎大使も同じ仕草をする。 「『アメリカ合衆国と日本国の間の協定で提案された基礎の概要』、か・・・・」 これがハル・ノートの正式名称である。 前段。 極秘文章。試案にして法的拘束力なし。 1941年11月26日。 日米協定として提案する基本方針の概略。 第一項。 共同宣言方針案。 1.一切の国家の領土保全及び主権の不可侵原則。 2.他国の国内問題に対する不関与の原則。 3.通商上の機会および待遇の平等を含む平等原則。 4.紛争防止及び平和的解決並びに平和的方法及び手続きによる国際情勢改善のため、国際協力及び調停尊重の原則。 第二項。 1.英・中・日・蘭・ソ・泰・米間の多辺的不可侵条約の提案。 2.仏印の領土主権尊重、仏印との貿易及び通商における平等待遇の確保。 3.日本の中国及び仏印からの全面撤兵。 4.日米が米の支援する中国国民党政府以外のいかなる政府を認めない。 5.英国または諸国の中国大陸における海外租界と関連権益を含む1901年北京議定書に 関する治外法権の放棄について諸国の合意を得るための両国の努力。 6.最恵国待遇を基礎とする通商条約再締結のための交渉の開始。 7.米国による日本の資産凍結を解除、日本による米資産の凍結の解除。 8.円ドル為替レート安定に関する協定締結と通貨基金の設立。 9.第三国との太平洋地域における平和維持に反する協定の廃棄。 10.本協定内容の両国による推進。 つまり、仏印、中国南部、満州国からの撤退を改めて求めたのだ。 共産党から中国を守るために出兵したのだが、日本による中国侵略だと決めつけられた。 それは中華民国政府からの正式な要請ではなかったからだ。 汪兆銘は蒋介石政権で重きをなしているが、それでも独断であったことに変わりはない。 南京攻防戦で勝利し、重慶を空爆しているが、それも蒋介石から依頼があったわけではない。 すべては汪兆銘の独断と日本軍の判断である。 これは国際的に言えば不法侵入と内政干渉なのだ。 「―――自分は目もくらむばかりの失望に撃たれた・・・・」 日本外務省、外務大臣執務室。 ここには主である東郷茂徳外務大臣の他、佐藤尚武外務省顧問、吉田茂外交官がいた。 吉田茂は知米派として呼ばれ、自分でもジョゼフ・グル―米大使と会うなど、積極的に開戦回避に動いていた。 「長年に渉る日本の犠牲を無視し極東における大国たる地位を捨てよと言うのである、然しこれは日本の自殺に等しい」 先の発言をした東郷は目頭を押さえて下を向く。 「外相、これは最後通牒ではありません。根気強く、ひとつひとつ撤回させていきましょう」 佐藤は項垂れる東郷を励ました。 「一見、不可能に思える交渉をまとめてこそ、外交官として名を残す機会です」 「そうだ。さらに前段には『試案で拘束力なし』とある」 吉田も佐藤に同調する。 「軍の開戦派はこれを最後通牒だと考えていますが、外交的に決してそうではありません」 「だが、軍はやる気だぞ?」 すでに南方作戦は発令されている。 真珠湾攻撃部隊も出港しており、いつでも戦える状況だった。 「軍を止められるのは君しかいない」 吉田は葉巻を手で弄びながら続けた。 「君はこのことが聞き入れられなかったら、外務大臣を辞めるべきだ」 「なっ!?」 「君が辞職すれば閣議が停頓するばかりか、無分別な軍部も多少反省するだろう。それで死んだって男子の本懐ではないか」 吉田の言葉に、東郷の顔が真っ青になった。 「軍は拳を振り上げているだけで、まだ振り下ろしていない」 吉田の言葉を受け、佐藤は後を続ける。 「振り上げた拳を止められるのは、東郷茂徳外務大臣、あなただけです」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 東郷はふたりの言葉に、蒼い顔で震え続けた。 「―――さて・・・・対日会議を始めよう」 ルーズベルト大統領が出席者を見下ろしながら言った。 出席者はフランクリン・ルーズベルト大統領、コーデル・ハル国務長官、ヘンリー・L・スティムソン陸軍長官、ウィリアム・フランクリン・ノックス海軍長官だ。 「昨日言ったが・・・・」 大統領は着席しながら言う。 「日本人は元来警告せずに奇襲をやることで悪名高いから、我々はおそらく12月1日ごろに攻撃される可能性がある」 開戦劈頭の奇襲は日本軍の十八番であり、日本軍が手本にしたプロイセン軍の十八番である。 「我々はいかにこれに対処すべきかが今の問題である」 「? 前の問題は何か?」 ノックスが発言した。 「我々があまり大きな危険に晒されることなしに、いかにして日本側に最初の攻撃の火蓋を切らせるような状況に彼らを追いこむか、ということだ」 「・・・・先制攻撃をさせる口実、ですか」 ノックスは唸りを上げる。 当然だ。 矢面になるのは海軍であり、そして、その準備もできないのだ。 「おいおい、あまり大きな危険に晒されることのない、と言ったぞ?」 そのために中国に派遣していた兵をフィリピンに戻した。 中国で包囲殲滅されることなく、フィリピン防衛軍の強化ができる、一石二鳥の案だ。 「これは難しい命題だったのだ」 大統領が遠い目をする。そして、大統領の言葉を引き継ぐように、国務長官がふたりに言った。 「自分は日本との暫定協定を取りやめた。私はこのことから手を洗った」 ハル・ノートの手交で彼の仕事は終わったという。 それはつまり――― 「今や問題はスティムソン陸軍長官及びノックス海軍長官、即ち陸海軍の掌中にある」 「そうだ」 大きく頷いた大統領が宣言する。 「日本は打ち切ったが、しかし、日本はハルの準備した立派な声明によって打ち切ったのだ」 立派な声明とは、ハル・ノートのこと。 それはすなわち、日本が戦争へと舵を切ったのはアメリカの思惑だ、という宣言だった。 「貴職らには卑怯な奇襲に耐え、完膚なきまでに日本軍を粉砕してほしい」 アメリカ合衆国首脳陣が戦争を決意していた数日後、日本もそれを決意した。 「―――事ここに至りましては・・・・・・・・」 1941年12月1日、東条英機は苦虫を噛み潰したような顔で、天皇に奏上していた。 「日米協議が妥結に至ることなく、戦争以外に策はありません」 「・・・・それほどにまでアメリカは頑なか?」 天皇は目元を押さえながら言う。 「ははっ。中国への派兵を支援ではなく侵略と決めつけ、即時撤退以外に道はないと宣言したと同じです」 「・・・・即時撤退はできないのか?」 天皇は大陸出兵に反対していた。 本当は南京攻防戦だけだったのに、今では重慶攻略や華中・華北で拡大する共産党との激戦に巻き込まれている。 「今撤退すれば共産党に国民党は勝てません。中国が赤化すればこの国は遠からず、赤化してしまうでしょう」 「国体護持、か・・・・」 天皇は天を仰いだ。 天皇制とは、もはや日本そのものだ。 国体が変わってしまえば、それは日本ではない。 「陛下、もはや日本を守るためには、米英と戦争するしかありません!」 悩む天皇に東条は声を荒上げた。 それに鈴木侍従長が睨みを放つ。 だが、元海軍大将の視線に、戦く陸軍大将ではない。 「・・・・両大臣、参謀総長、軍令部総長」 「はっ。第一作戦の準備はほぼ完了!」 「部隊はすでに出撃、後は攻撃命令を出すだけです」 両作戦部の長が答えた。 「予備役の召集も始めていますし、総力戦の準備も整いつつあります」 「海上護衛艦隊を充実させ、対潜水艦戦の準備も完璧です」 日本軍は第一次世界大戦でドイツ潜水艦部隊に苦杯を舐めている。 駆逐艦は水雷戦隊用、つまりは艦隊決戦用に整備されていた。だが、海防鑑を拡張し、対潜水艦戦の訓練を積んだ海上護衛艦隊がいる。 「第一作戦は?」 侍従長が質問した。 「海軍がアメリカアジア艦隊、イギリス東洋艦隊を撃破」 軍令部総長・永野修身海軍大将が言った。 「陸軍がマレー半島とフィリピンを攻略」 参謀総長・杉山元陸軍大将が言う。 「補助作戦として、真珠湾の奇襲攻撃を第一航空艦隊が行います」 開戦劈頭の奇襲作戦を、東条が告げた。 御前会議の決定を受け、大本営から真珠湾攻撃命令である「ニイタカヤマノボレ一二〇八」とマレー作戦命令である「ヒノデハヤマガタ」が発信される。 これを以て、大日本帝国は米英と戦争する決意を固めたのであった。 「―――大本営発令、『ニイタカヤマノボレ一二〇八』受領しました」 電信員からの報告に第一航空艦隊の司令部は沈黙した。 「あ、あの・・・・」 異様な雰囲気に不安感を覚えた彼がおずおずと先任参謀――大石保の顔を見遣る。 「ええ、ありがとうございます」 苦虫を噛み潰した顔で固まっていた大石に代わり、嘉斗が発令文を受け取った。 「『ニイタカヤマノボレ一二〇八』・・・・」 そこに書かれていた文字を見て、嘉斗は嘆息する。 (ついに来ましたか・・・・) その文章が意味するのは真珠湾攻撃発令であり、対米英戦の始まりだ。 (やれることはやったと思います) 陸海の協調、基礎工業力の向上、作戦面での改革などなど。 嘉斗が関わり、影響を与えた政策は多岐に渡る。 もちろん、堀悌吉や武隼時賢などの同志も動いているため、裾野は随分広がるだろう。 嘉斗がしたことは皇族が持つ権力と人脈を必要な時・場所に投入しただけだ。 (皇族として、血筋が持てる可能性を全て投入した・・・・) 「南雲長官、草鹿参謀長」 嘉斗が声をかけると、ふたりは衝撃から立ち直ったようだ。 「御上は決められたようです」 「・・・・の、ようだな」 南雲は額の汗を拭う。 すでに攻撃目標を告げていたものの、いざ作戦決行となると緊張する。 「南雲長官」 忙しなく深呼吸する南雲に、嘉斗は優しく語りかけた。 「歴史に名を刻みに行きましょう」 成功しても、失敗しても、第一航空艦隊を率いた「南雲忠一」という名は永遠に残るはずだ。 「その歴史が大勝利であるよう、頑張りましょう」 軍人が語り継がれる歴史を作る、ということは語り継ぐ国を守る、ということだ。 その言葉の重みを理解した艦橋要員は息を呑んだ。 「・・・・すでに賽の目は投げられた」 南雲が小さく呟く。 「各員、全力を尽くせ。・・・・そして、無事に日本へ帰るぞ」 司令長官の静かな決意。 それは発光信号を以て、第一航空艦隊全将兵に通達された。 |