「それぞれの夫婦物語」/四



「―――虎将、再編完了致しました」

 鵬雲四年八月三〇日、虎熊軍団椋梨氏討伐軍本陣。
 虎嶼太宰権師晴胤。
 出雲に大敗してから西国戦線を立て直した名将だ。
 ここ数年、ずっと石見で戦い続けていたが、出雲が撤退した隙に岩国を潰しに来ていた。
 彼が率いる軍勢は那珂郡に突入し、岩国の最前線を攻略する。しかし、一連の戦いでいくつかの円居が崩壊していた。
 このため、岩国のお膝元に乱入する前に再編していたのだ。

「椋梨宏元、本当の戦上手、か・・・・」

 周防の熊将が手を焼いた青年武将。
 今回も抑えに向かわせた三〇〇〇が壊滅した。
 負傷兵の回復と再編。
 その結果、侵攻軍は六〇〇〇まで減っている。

「岩国城急襲部隊を撃破したという龍鷹軍団はどうだ?」
「未だ海に海軍が展開しているようです」

 索敵に向かわせた小舟の内、半数近くが帰っていない。
 だが、元々数十隻をいろいろな方向から投入していた。
 半数でも情報は多く集まっている。

「上陸した兵力は多く見積もっても数百」
「椋梨勢と合わせても、二〇〇〇といったところか」

 晴胤は顎をさすり、龍鷹軍団の意図を考える。

「西海道の本隊は動いていない」

 大人しくはしていないようだが、少なくとも軍事行動には出ていない。

「目的は・・・・・・・・・・・・なんだ・・・・?」

 本陣の近くが騒がしい。
 足軽たちがけんかでも始めたのだろうか。

「いや、違う・・・・」

(これは早馬が兵たちを蹴散らしそうになっている喧噪だ!)

 床几から立ち上がり、幔幕を払い除けた。
 そこには予想通り、早馬の姿がある。

「申し上げます!」

 馬から飛び降りるように片膝を突いた使者は、一息に用件を告げた。

「岩国北方軍、椋梨勢の奇襲を受けて壊滅!」
「「「―――っ!?」」」

 分進合撃を狙った一隊だったが、岩国に至るまで山道や川沿いを進み、隊列は延びきってしまう。
 どうやらそこを突かれたらしい。

「くそっ!」

 幕僚の誰かが思わず毒づいた。
 どこで再編できるか分からないが、虎熊軍団はわずか二〇〇〇を相手に敵兵力を超える戦力を無効化されたのだ。

「敵はやる気だ。一刻の猶予もない」

 椋梨勢は精鋭だ。
 モタモタしていれば何をしでかすか分からない。
 また、龍鷹軍団の存在も気になる。

「出撃だ!」

 晴胤は大声で下知を下した。
 その命に慌てて兵たちが立ち上がる。そして、隊列を整え始めた。
 晴胤と共に石見を転戦した主戦力が椋梨氏に鉄槌を下すために動き出す。
 虎熊軍団は一糸乱れぬ行軍で、岩国へとなだれ込んだ。






鷹郷忠流side

「―――さてさて、久しぶりだな」

 虎熊軍団が再稼働した時、龍鷹侯国では評定に忠流が顔を出していた。
 集うのは鳴海陸軍卿直武、御武民部卿昌盛、武藤式部卿晴教などの幹部に、その下で働く役人たちだ。
 今回の集まりはここ数ヶ月で実施した検地の結果を発表するためである。

「もう、よろしいので?」

 忠流不在で代理として見事な政治手腕を発揮していた従流が質問した。
 彼の傍には側近である後藤公康、相川舜秀などがいる。
 従流軍を形成する部将だが、吏僚としても才を発揮していた。

「ああ、随分よくなった」

 忠流の側近はほとんど出払っている。
 護衛としての瀧井郁がいるくらいだ。

「よっこいせっと。―――始めてくれ」

 目立たないように末席に紗姫と昶が座るのを確認した従流は、大きく息をついてから晴教に向き直った。

「民部卿、報告を」
「了解じゃ」

 昌盛は手に持った書類を掲げる。

「薩摩・大隅全郡、肥後約二郡、日向四郡を領し、その石高は七八万石」

 これは農業生産高だけだ。

「水産、畜産、貿易、鉱山収入などを加味すると一〇三万一〇〇〇石」
「ほお、一〇〇万石を超えたか」
「はい。やはり鉱山収入が大きいです。後は貿易ですね」

 書類の写しを見ながら従流が発言した。
 龍鷹侯国は薩摩国薩摩郡から大隅国姶良郡にまたがる山ヶ野鉱山を中心に多数の金属鉱山を保有している。
 また、南方貿易と上方貿易を推奨し、富を得ていた。

「兵力は三万六〇〇〇といったところだな」

 直武が顎をさすりながら言う。

「じゃが、今年の収穫までは動けんし、派手な遠征をすればすぐに兵糧は底をつく」

 七八万石の動員力は二万七〇〇〇だ。
 この動員力は農業生産高に則っているため、収穫完了次第で動いても一年は戦える。だが、残りの九〇〇〇は財力だ。
 これらの兵糧は備蓄か金で賄わなければならない。

「南方貿易を強化する必要があるな」

 南方貿易は富も運んでくるが、食料も手に入る。
 加勢川の戦いまで軍を進められたのも、この貿易が大きい。

「しかし、彼の地の農業生産力はそう高くない」

 買占めを行えばいらぬ反感を買うことになる、と昌盛が言った。

「となると・・・・やはり待ち、か?」

 虎熊軍団が強大である以上、龍鷹軍団は得意戦術である待ち戦で敵を砕きたい。
 それもあって、川内城の修理を進めている。

「国力に差があるからの」

 晴教が言うとおりだ。 
 虎熊宗国は約一五〇万石、銀杏国は約四〇万石だ。
 合わせて一九〇万石。
 それは龍鷹-燬峰-聖炎連合の五割増の国力だ。
 しかも、これは表石である。
 上方貿易、大陸貿易で益を成す両国の実石は二五〇万石近いと予想している。
 虎熊宗国が二〇〇万石、銀杏国が五〇万石だ。
 それは単純計算で九万七五〇〇人の兵を動員できる。
 対する連合軍は合わせて一六〇万石。
 五万六〇〇〇だ。
 もちろん、虎熊軍団はその兵全てを南下させるわけではない。
 岩国を無効化し、出雲を押し返したとしても、一万五〇〇〇は防長には必要だろう。

「となれば、約八万。銀杏国も総兵力を出さないだろうから」

 留守兵や小荷駄を引けば七万程度まで減るだろう。
 一万四〇〇〇差はまだ大きいが、大軍を相手にできる熊本城がどっしりと構えているのが大きい。

「ま、引っ掻き回してやるさ」

 忠流は笑みを浮かべて頷いた。
 その表情には絶対的な自信がうかがえる。


「―――和平は、無理なのですか?」


 その自信を打ち砕くような従流の発言に、大広間は静まり返った。

「・・・・できると思うか?」
「しようという努力をしましたか?」

 兄弟が睨み合う。

「確かに僕は燬峰王国を救うために虎熊軍団を撃破しました。幸盛殿だって今刃を交えています」

 だが、主力軍がぶつかり合う、本当の戦争状態にはなっていない。

「今ならば燬峰王国との仲を仲介し、両国の国境線を策定しなおすことも可能です」
「聖炎国は?」
「正式に養子縁組を解消し、肥後北部を割譲すればいい」
「燬峰王国はともかく、聖炎国は納得しないぞ」

 彼の国の理念は肥後統一なのだ。
 家督相続問題が片付いても、北部が占領されたままでは意味がない。

「思い付きなのでいい考えは出ません。ですが、和平の道を探るのもいいのではありませんか?」
「和平には仲介が必要だぞ?」

 聖炎国と虎熊宗国とが戦いを望むのならば、これ以上の虎熊宗国の南下を望まない龍鷹侯国は聖炎国側に立って参戦する。
 これに銀杏国が虎熊宗国側で呼応する。

「・・・・ん?」
「その通り、今の対決の図式に燬峰王国は入っていません」

 燬峰王国は対聖炎国戦線で龍鷹侯国と同盟を組んだ。しかし、この同盟は聖炎国が龍鷹侯国と同盟を結んだ時点で意義を失っている。
 また、龍鷹侯国が燬峰王国の頼みを聞いて出兵した肥前戦線では燬峰王国が目的とした武雄領占領は目的を果たしている。
 武雄からの援軍要請を受けた虎熊軍団は出兵したが、それは大敗して失敗した。だがしかし、燬峰王国と虎熊宗国が全面衝突する戦略的理由は、今のところ存在しない。
 沖田畷の戦いでは、確かに熊将・島寺胤茂を失ったが、他国へ干渉した結果に生じたものだ。
 言わば、ついでに手を出したら火傷しただけ。
 今や万余の軍勢を要するようになった燬峰王国を相手に、一武将の敵討ちをするほどの余裕はないだろう。

(これからの戦いは龍鷹-聖炎対虎熊-銀杏、となるわけか・・・・)

 だから、燬峰王国はこれかたの西海道の戦いに関わらない、中立の立場になる。

「燬峰王国に仲介を頼み、しかるべき会議を持って交渉する、というのはどうでしょう?」
「・・・・おもしろい。おもしろいぞ、橘次」

 忠流の言葉に従流がほっと息をついた。
 僧籍にいた人間として、というより性格の問題だろう。
 従流は争いが好きではない。
 回避できるのならば回避するのだ。

(その分、覚悟を決めれば恐ろしいが)

 沖田畷の戦い。
 忠流では切り抜けられなかっただろう。
 いや、そもそも迎え撃つことすらしなかったに違いない。

「・・・・ふむ」

 周りを見回せば、従流の意見に希望を抱いているものも多い。
 特にやはり従流の下働きをしている者たちだ。
 相川舜秀、後藤公康、吉井忠之、真砂刻家だ。
 共に沖田畷の戦いで虎熊軍団と戦った者たち。
 霜草茂兵衛の報告で言う「従流閥」の面々である。

「ならば橘次は肥前に行け」
「交渉ですね。分かりま―――」
「いいや」


「―――追放だ」


 従流の表情が凍り付いた。

「向こうからしたら救国の英雄だろ?」

 「だったら受け入れてもらえるはず」と続け、鹿屋治部卿利直と後藤宮内卿秋美を見遣る。
 利直は顎をさすり、困惑しながらも頷いた。
 「受け入れてもらえる可能性は十分にあり」ということだろう。
 秋美は困った表情を浮かべている。

(まあ、母親だからな)

 秋美は従流の実の母だった。

「ちょ、追放って!?」

 ようやく再起動したのか、従流は立ち上がって抗議する。

「一体どういうことですか、兄上!?」

 従流に賛同していた者たちも動揺している。
 因みに鳴海直武などは額に手を当てて首を振っていた。

「簡単だ。国難の時に違う考えを持つ者は危険だ」
「僕が危険って・・・・・・・・・・・・」

 忠流の発言にショックを受けたように従流がよろめく。そして、顔面蒼白で忠流の顔を見遣った。

「お前は少し独断専行の気があるからな。対陣していて講和を持ちかけられれば応じそうだ」

 独断専行とは人吉城奪還のことだ。
 また、沖田畷の戦いもそれに含まれるだろう。
 彼が忠流の意に従ったのは、佐敷川の戦いと加勢川の戦いのみだ。
 双方とも忠流が睨みを利かせていた戦場である。

「今後の主戦場は肥後と日向だ。自然、俺の本隊とお前の方面軍に分かれただろう」

 ここ一番、と言う時に忠流の睨みがなかったら、従流がどんな行動に出るかわからない。
 それは忠流の、龍鷹軍団全体の戦略を揺るがしかねない。

「燬峰王国へ行き、己の存在と言うものを見つめ直せ」
「兄、上・・・・」
「中立に徹するもよし、燬峰王国と歩むもよし。勝手に仲介をしてくるもよし、自由にしろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 蒼い顔の従流の顔を覗き込み、忠流は宣言した。

「龍鷹侯国は虎熊宗国と雌雄を決する」

 そして、話は終わりだとばかりに立ち上がる。

「ああ、そうだな。燬峰王国へは迷惑料として一万石分、兵は三〇〇、後好きな部将を連れて行け」

 そう言い残し、忠流は大広間を退出した。

「そ、それでは解散!」

 呆然としていた小姓――加納忠猛が叫ぶ。そして、主の太刀を持って忠流を追いかける。
 それを見送り、龍鷹侯国首脳陣は次々と腰を上げた。
 部屋から出る時、チラリと従流を見遣るが、声をかける者はいない。
 この場には首脳陣の他に幾人かの旗本衆頭目もいた。
 彼らも首脳陣に釣られるように出ていく。
 残ったのは、従流とその側近とされる者たちだけだった。





鷹郷従流side

「―――従流様・・・・」

 側近たちが視線を交し合った結果、声をかけてきたのは後藤公康だった。

「私はお供いたします」

 彼は叔母である秋美の後ろ姿を一睨みし、膝を進めて進言する。

「私もです」

 吉井忠之も同調する。

「ま、当然、俺も行きますぜ」

 真砂刻家も軽い口調で言った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 さすがに相川舜秀は即答しない。だが、心配そうな視線を従流に注いでいた。
 誰も、「従流追放」を冗談と受け取っていないのだ。

(追放、ですか・・・・)

 客観的に自分たちを見れば、納得できることだ。
 忠流は内乱を経験し、一門衆の意見が割れることの重大さを知っている。そして、意見の不一致はここ一番での勝負に影響する。
 敵勢力の調略など、至極当然行われることだ。
 虎熊宗国が自国との戦争に二の足を踏んでいる従流の存在に気が付けば、接触を図ってくることは容易に想像できる。
 従流が虎熊宗国に裏切れば、鷹郷家の血筋が残ると言われればついて行ってしまうかもしれない。
 何せ従流は忠流のやり方では、一時の栄華を得られる代わりに将来的に衰退すると思っているのだから。

(今の僕は、分かりやすい龍鷹侯国の"隙"なんです・・・・)

 その隙の排除。
 他家ならば殺害してもおかしくない。

「相川と後藤、吉井は残ってください」
「「・・・・何故!?」」
「やはり、そう言われますか」

 相川は分かっていたのだろう。

「ええ」

 ため息交じりの言葉に笑みで頷いた。

「どういうことですか、相川殿?」

 公康が納得いかないという文字を顔に書いたような表情で問う。

「私や公康殿、忠之殿はそれぞれ当主だ」

 相川家は薩摩衆の名門。
 内乱では貞流方についたが、今もまだ大名だ。
 後藤家は宮内卿秋美の実家であり、彼女の後ろ盾でもある。
 吉井家は岩剣城の戦いで奮戦した武門の家。
 今後の龍鷹侯国に必要な家だ。

「そして、我々以外に元服した継承者がいない」

 相川は三歳になる息子と五歳になる甥がいる。だが、彼らを当主にしても相川家は戦えない。
 この時期に戦える武家が一つ減るということを、龍鷹侯国の存続を願う従流が願うはずがないのだ。

「その理由なら、俺はついていけるわけだな」
「困ったことにですが」

 従流が苦笑を送った相手は真砂刻家。
 旧名、武藤刻教。
 内乱初期に忠流に殉じた武藤家教の嫡男だ。
 家教の討死後、家督は彼の弟の統教が継いでいる。
 刻家は内乱終了後に武藤家を辞し、真砂の姓を名乗ったのだ。

「連れていく三〇〇の旗本の人選等、お任せします」
「了解。俺の隊を含んでいいっすか?」
「ええ。十分な戦力です」

 数人だが、火縄銃の名手は実数の数倍以上の戦力になる。


「―――その戦力、もらうわ」


 スパンッと閉じていた障子を開けたのは、三頭の錫杖を持った少女だった。

「結羽さん」
「ええ、さっき廊下であなたのお兄さんに『弟を頼む』と言われた燬峰王国王女よ!」

(何か、おかしくなくないですか?)

 無駄に気分が高揚している。
 この少女は極度の緊張状態になると言動が勇敢になる傾向がある。
 沖田畷の戦いでもそうだった。

「結羽さん、落ち着いて」
「ええ、堕ち着いているわよ」

 「それは嫌だなぁ」と苦笑しながら、従流は真っ赤な顔をした結羽向けて立ち上がる。
 側近たちはそっと襖をあけて隣の部屋へと移動した。

「鷹郷家を追放された可哀想なあなたを燬羅家が貰ってあげる!」
「ん?」

 何やら流れがおかしい。
 いや、大筋は合っているのだが、なんかおかしい。

「だ、だだだだ、だから!」

 近くまで近づいた従流の襟首を掴む結羽。
 その縋るような視線を真正面から受けた。

(あ、マズいです)

 従流は結羽のこの視線に弱いのだ。

「わ、私の婿に貰ってあげます! いいですね!?」
「え、あ、はい」

 その瞳の力に負け、よく考えずに了承した。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「え、あれ? 今何を言いました? 婿?」

 すーっと力の抜けて倒れかけた結羽の体を抱き留め、先ほどの言葉を反芻する。

「あれ? あれー!?」

 状況理解が追い付かない。
 とりあえず、分かることは、
 結羽が緊張に耐えかねて気を失ったこと。
 追放された従流を燬羅家に迎え入れるために求婚されたこと。
 それを了承するような返事をしたこと。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ? 大事を決めた割に焦りがありませんよ?」

 それは従流が結羽を憎からず思っていた、ということだろう。
 泣かせないために、大博打を打ってしまえるほどに。

「刻家」
「・・・・は、はい!」

 けじめとして、隣の部屋で盗み聞きしていた彼の事を呼び捨てにする。

「肥前行きの準備、進めてください」
「分かりました」
「それと・・・・・・・・・・・・・・・・婿入道具が軍勢とか、どう思います?」

 抱き寄せた結羽の頭を撫でながら、従流は苦笑した。






 一週間後、鷹郷近衛少尉従流と副将・真砂刻家以下三〇〇を乗せた船団が阿久根港を出発した。
 反乱防止のために展開していた藤川刑部大輔晴崇率いる一〇〇〇が見送る中、迎えに来た燬峰水軍の船団に迎え入れられる。
 そして、藤川勢の鉄砲隊が前に出た。

「撃てぇっ!」

 藤川直々の下知で、彼らは船団に鉛玉をぶち込んだ。
 それに燬峰王国も応射する。
 両軍は儀式、というにはやや異常な――つまり、本気の――銃撃戦を展開した。そして、阿久根港沖合にいた龍鷹海軍第二艦隊も動き出す。
 安宅船の艦首に据えられた大砲が火を噴いたのだ。
 周辺に屹立した水柱を嫌がるように、燬峰水軍は北上を開始。
 第二艦隊もそれを追撃し、瞬く間に一隻を撃沈する。
 その様を阿久根港にいた多くの者が目撃した。

「これでいい」

 城を抜け出し、こっそり様子を見に来ていた忠流が呟く。

「これで、龍鷹侯国と燬峰王国は手切れだ」
「いいの?」

 紗姫が隣に立った。

「ああ、燬峰王国の立地条件は虎熊宗国と戦争するのに邪魔だ」

 「もっとも・・・・」と忠流は船団――従流に背を向ける。

「一部隊引き受けてくれるなら、何も言わないがな」

 同盟軍が攻められれば守らなければならない。
 だが、第三国が敵国に攻められようとも、助ける義理はない。
 むしろ、こちらの戦線に展開する戦力が減って喜ばしい限りだ。

「従流を内に孕むわけ、燬峰王国は思い知るがいい」

 歩き出す忠流の周囲に忍び装束の者たちが降り立つ。

「あいつもあいつで、鷹郷家の男だぞ」
「引っ掻き回すのが得意なのね」
「そーゆーこった」

 紗姫の評価に莞爾と笑った忠流に、脱走した主を捕まえに来た忍びたちはげんなりした。










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