講義拾弐
「経済~商業(港町)~」



「―――では、話題を変えまして、『町』です」
「町?」

 御武幸盛の言葉に"霧島の巫女"・紗姫が首を傾げた。

「その反応は前回と一緒ではないか」
「アテッ」

 紗姫の後頭部に手刀を叩き込んだ皇女・昶は苦笑する幸盛に言う。

「商業から町というと、貿易か」
「それも含みます。所謂、経済都市です」

 いつも以上にスムーズに話が進むことが嬉しく、幸盛は小さく笑みを浮かべた。

「んで、その町の種類は?」
「ええ、やはり貿易と言えば港。筆頭に来るのは港町ですね」

 龍鷹侯国王・鷹郷忠流の言葉に幸盛は笑みを引っ込めて答えた。

「港町・・・・。博多か」
「堺もあるの」

 博多も堺も列島を代表する貿易都市だ。

「ええ、他に西海道には長崎、平戸といった都市も南蛮交易で栄えていますね」
「まー、確かにな。だが、坊津だって負けてないぞ」
「我が国の玄関口ですからね」

 商業を重視する忠流らしい負けず嫌いに再び苦笑した幸盛は指を三本立てた。

「港町を考えるに当たって、その主な交易路から三点に分かれます」
「ほう」
「うむ」
「なるほど」
「・・・・・・・・・・・・何故に、一本ずつを掴みますか?」
「「「え? へし折ろうかな、と」」」
「怖いッ!?」

 掴まれていない方の手で三人の腕を叩き、三本の指を救出する。そして、大事そうに抱えながら幸盛は言った。

「基本的には南蛮貿易、大陸貿易、国内貿易の三つです。ただし、我が国だけは琉球や南方諸国との交易も加味します」
「・・・・意地でも続けるのじゃな」
「し、痺れる・・・・」

 打撃でジンジンする腕を押さえながら涙目になる紗姫。

「南蛮や大陸、国内貿易の主要拠点はやはり質・量共に圧倒的。琉球等の対外貿易はその半分と仮定。国内中継貿易は南蛮・大陸の三割と仮定しましょう」
「暴論だな」
「仕方ありません。定量的でーたがありませんから」

 「・・・・でーた?」と自分で言いながら首を傾げる幸盛。
 そんな幸盛をかわいそうな人を見る目で眺める三人。

「・・・・視線が気になりますが、この計算で主要港町の収益を計算しましょう」
「主要港町?」
「"三津七湊"と言う言葉があります。そして、これに含まれていない長崎、平戸を加えましょう」

 にっこりと笑い、幸盛は問題を出した。

「では、三津七湊に含まれる港はどこでしょうか?」
「数値計算じゃない!?」
「知識問題かよ!?」



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問一:三津七湊とはどこの港のことか
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「そんなの分かるわけ―――」
「待て。奴は手がかりを述べていたぞ」

 昶が腕を横に伸ばし、発言しようとした忠流を遮った。

「・・・・そうだな。まずは長崎と平戸は含まれないか」
「それにおそらくは博多、堺は含まれるのかな?」
「畿内のための有数の港はやはり伊勢の安濃津だろう」

 忠流、紗姫、昶の順で発言し、候補を上げていく。

「身内贔屓かもしれないが、坊津は上がるんじゃないか? 南の玄関口だ」
「まあ、だからこそ鷹郷を薩摩に配したのじゃろうからな」
「他に有名なのは・・・・・・・・・・・・」

 紗姫が顎に人差し指を当て、そのまま天井を見上げて固まる。

「・・・・どうした?」
「・・・・わたし、そもそも西海道南部から出たことありませんでした~」
「それは俺も一緒だな~」

 紗姫がだらけ、同じ身の上であった忠流も崩れた。

「ふむ、ならば我が浮かぶのは津島か・・・・。いや、でも貿易港では・・・・ううむ」

 昶は山城国、伊勢国にも滞在したことがある。
 津島は尾張国だが、盛況ぶりは知っている。しかし、ここは東海道における交通の要衝であり、かつ津島神社の門前町として栄えている面もある。
 もちろん、津島湊も海に面した立派な港町ではあるが。

「・・・・分からん。もう答えを言ってくれ。俺たちじゃそもそも地理に弱すぎる」
「分かりました」



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問一:三津七湊とはどこの港のことか
解一:三津:博多津・安濃津・堺津
   七湊:三国湊、本吉湊、輪島湊、岩瀬湊、今町湊、土崎湊、十三湊
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「え、坊津は入っていないのか?」
「これは列島初の海商法規集である『廻船式目』に記載されていたものです。ただ坊津については中華帝国が三津に入ると言っています。この場合に堺は除かれていますが」
「うーん、それはそれでどうかと思うが・・・・」

 敵国に認められているのは名誉なことだが、敵国故に国内事情に疎いと言える。
 同胞の中では坊津はこれに入らないのだろう。

「・・・・というか、この港、ほとんど北陸道ではないか?」
「本当ですね。山陽・山陰や東海道沿いがありませんね」
「それぞれの地域を結ぶ主要方法が海運であるために港町として栄えているということではないですかね?」

 荷揚げ・船積みの双方が多いということだ。

「瀬戸内も発達はしているが、目的は博多に上がった品物を堺に運ぶための船の中継点という性格が強いのかもな」

 船は来るが、その船が積んでいる品物での商いが行われなければ、港があれどもお金が大きく動くことはない。

「では、これらの港町の経済規模がどの程度だと思います?」



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問二:三津七湊の経済規模は?
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「―――堺、博多は別格ですよね」
「東国との玄関口である安濃津も盛況だったぞ?」
「・・・・ぼ、坊津だって、南方諸国との交易で賑わっているぞ。それに大陸や国内貿易の中心だ」

 紗姫と昶、忠流が口にしたのは三津に数えられる"四津"だ。
 これを別格に持ってくるのは間違いないだろう。
 その他の港は国内中継港であるからだ。

「持つだけ一国に相当するとも言われるから・・・・十万石とかかなぁ」
「「いやいや、たかが町が国と同等とか―――」」
「当たりです」
「「え゙」」

 幸盛の言葉に頬を引きつらせる少女二人を尻目に忠流は天に拳を突き上げる。

「まあ、当たりは堺や博多で、坊津はそこまでではありませんが」

 突き上げた拳はすぐに下ろされた。

「参考にするのは大陸交易――"遣明船1隻当たりの純利益"です」

 またまた目が虚ろになる幸盛は驚きの数値を口にする。

「一隻当たり約一万八〇〇〇~二万五〇〇〇貫もの利益になったそうですよ」
「「「はっ!?」」」

 平均で二万一五〇〇貫。
 これは石高計算で四万二二四〇石だ。

「まあ、使節団も兼ねていますからそう量は増やせませんが」
「まあな・・・・」
「ということで、これを基本に、南蛮貿易や国内貿易でも同様と考えます」

 南方貿易は半分、国内中継貿易は三分の一と見た場合―――

「堺は国内貿易、大陸貿易、南蛮貿易の主要拠点と言うことで十二万六七二〇石に相当します」



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問二:三津七湊の経済規模は?
解二:大陸貿易が約二万一五〇〇貫(四万二二四〇石)の利益を持ち、
   国内貿易・南蛮貿易も同等と仮定
   この場合、堺が六万四五〇〇貫(十二万六七二〇石)でトップ
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「都が警戒するわけじゃの」

 京都にほど近い場所に大勢力がいる状況だ。
 朝廷は警戒を緩めることはできないだろう。

「長崎、平戸は?」
「南蛮貿易の主要拠点ですからこれも四万石を超えますね」
「げぇ・・・・」

 両方とも燬峰王国の勢力圏だ。
 直轄地ではないが、金持ちといえよう。

「因みに博多が大陸貿易、国内貿易の中心地で約八万五五〇〇石です」

 言うまでもなく、虎熊宗国の勢力下だ。

「坊津は?」
「南蛮貿易と南方貿易で、約六万三四〇〇石ですね」

 なお、安濃津は国内貿易だけであり、四万二二四〇石だ。
 この計算で言えば三津は堺、博多、坊津となると言えた。
 やはり対外貿易は旨味が大きいのだ。

「ただ他にも港はありますよね」
「そうだな。国内中継貿易以外にも地方の中心的な港町はあるからな」

 外貨は入ってこないが、地域経済の中心とも言える港町は多数ある。
 龍鷹侯国で代表的な港町は坊津の他に、鹿児島、志布志、赤江(宮崎)、油津だろうか。
 他に宮之浦、加治木、川内、山川、名瀬なども入るだろう。

「こう言った港町も加算するならば、国内中継貿易の三割と置きますか」
「となると―――」

 紗姫が顎に指を当てながら計算する。

「因みに海に面した港が、です。川港は規模も小さくなりますから海港の半分とします」
「ふむふむ」

 昶が腕組みして計算し始める。

「問題としていませんでしたが、考え始めてしまったので、その答えと共に示しましょう」



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問三:小規模港の経済規模は?
解三:海港の場合、国内中継貿易(六四五〇貫)の三割=一九三五貫(約六三四〇石)
   川港の場合、上記の半分=約九七〇貫(約三一七〇石)
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「こういう港は個数が多いから、集まると馬鹿にならないね」
「確かにな」

 龍鷹侯国の本拠地とも言える薩摩国・大隅国だけでも七港に上る。
 全て海港であり、合計で一万三五四五貫(四万四三八〇石)となるのだ。
 これに坊津を足せば十万石を超す。

「いい金づるだな」
「その本音は各都市の代表者に会う時には黙っていましょうね・・・・」



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まとめ
 列島国家の主要貿易都市は三津七湊が中心。
 貿易は大陸貿易、南蛮貿易、国内貿易、国内中継貿易に分類される。
 大陸貿易、南蛮貿易、国内貿易は、
 それぞれが約二万一五〇〇貫(四万二二四〇石、25億3440万円)の利益が得られ、
 貿易の組み合わせによって港町の収益力が変化する。
 国内中継貿易は上記の三割と仮定する。
 また、南方貿易は上記の半分とする。
 これらの仮定を元に計算された港町の経済力は大港では国に相当する石高を誇る。
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