講義拾壱
「経済~鉱業(銅)~」



「―――さて、銅です」
「あれ? 鉱山編はまだ続くのですか?」

 御武幸盛の言葉に"霧島の巫女"・紗姫が首を傾げた。

「何やら既視感を感じる始まりですが、金銀銅はやはり鉱業の鉄板でしょう」

 それぞれに金山、銀山、銅山という「鉱」の字を除いた熟語が存在し、重要視される存在だ。
 因みに「亜鉛山」や「鉛山」とも言われるが、この場合の「山」の読み方は「ヤマ」であり、金銀銅の「ザン」とは異なる。
 また、使われ方もどこか業界用語感がある。

(まあ、それはともかく)

 幸盛が己の心の中で浮かんだ言葉を振り払い、視線を主・鷹郷忠流に固定した。

「銅山は数が多く、精度の高い製錬が実現できるのであれば、そのまま貨幣の鋳造が可能なので重要です」
「貿易品としても優秀と聞くぞ」
「そうですね。中国へ輸出し、中国の銭を得る手も有効手段です」



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問一:大規模銅鉱山から得られる収入はいくらか
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「先程、貿易にも使えると言いましたが、江戸時代には日本の主力輸出品目であり、その量はおそらく世界最高に君臨していたと考えられています」

 幸盛の眸から光が消える。しかし、もはや慣れたのか、「江戸?」という疑問を述べずに忠流が言葉を返す。

「銀の石見銀山のようにドでかいのがあるのか?」
「あります。やっぱり伊予の別子、下野の足尾が群を抜いていると思いますね」
「それでも銀山には勝てない?」
「まあ、金属価格が違いますからね」

 幸盛の言葉に三人が腕組みして考え出す。

「まず、石見銀山級どころか、主要銀山にも勝っていないと思われるな、先の言葉から」
「そうですね。となると中規模銀山に勝っているか、ですが」
「それはないだろう。中規模銀山の説明の時に他金属鉱山と言っていい、という話だった。今回は銅山って言っているし、それよりも大きいだろう」

 幸盛をチラチラと見て反応を窺いながら相談している。

「よし、二万石くらいでどうだ?」

「・・・・正解です」



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問一:大規模銅鉱山から得られる収入はいくらか
解一:大規模銅鉱山の年間生産量は約一八万二七七〇貫超(約685t)
   二万七四〇〇石(約16.5億円)に相当
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「「「いえーい」」」

 ハイタッチをする三名をジト目で見ながら幸盛が言う。

「あのですね。発言から推察するのは止めて、もっと経済影響とかから考察しましょうよ」
「いやだって、近くにないんだぞ?」
「別子については同盟国のすぐ近くですが・・・・」

 伊予の中予地方から南予にかけて支配する時宗氏は龍鷹侯国の同盟国だ。しかし、別子銅山は東予に位置する鉱山であり、支配圏外である。
 しかし、その時宗氏による別子銅山に対するアプローチから予想できるのではないか。
 何度も争奪戦が起きているのだ。

「経済影響ってなると、場所も大分影響するからなぁ」
「まあ、そうですね」

 あまりに山奥だと採掘するのが大変で、採掘した金属を運ぶのも大変だ。
 いわゆる操業コストが高くつきすぎて、費用対効果に見合わなければ意味がない。
 金銀ならば黒字化できても、銅では赤字の可能性があるのだ。

「まあいいです。次です、次」



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問二:主要銅鉱山から得られる収入はいくらか
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「銅の一大産地は陸奥・出羽なんですが、この地域の鉱山は大きなものというより、鉱山の集合体という感じなんです」
「へえ。因みにどんな鉱山があるんだ?」

 集合体と言うことで多くの鉱山があることは分かるが、どんなものだろうかという素朴な疑問だった。

「えーっと、出羽国の阿仁、荒川、不老倉、太良、畑、永松、幸生、秋田、陸奥の尾去沢、白根、熊沢、南部、尾太、盛岡とかですかね」
「ホントに多いな」
「はい。陸奥の方は基本的に北の方ですが、南の方にも鉱山はいっぱいありますから」

 「ただ数値がないんですよね」と幸盛は苦笑い。

「陸奥・出羽の大名は石高と言うより金銀銅と言った鉱山収入から得られる財力を軍事力に変換しています」
「塵も積もれば山となる、か」

 忠流が感心したように頷いた。

「ま、でも今までの流れから五〇〇〇石くらいですかね」
「そうじゃの」

 さらっと紗姫と昶が答えを述べ、苦笑いの幸盛が「正解です」と言った。



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問二:主要銅鉱山から得られる収入はいくらか
解二:主要銅鉱山の年間生産量は約二万六六七〇貫(約100t)
   約四〇〇〇石(約2.4億円)に相当
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「では、次は中規模銅鉱山ですね」
「展開が早い!?」
「まあ、こんな消去法で述べられては問題にならないので、さっさと答えを言います」
「扱いが雑!?」
「はい、約一六〇石です」
「少なッ!?」



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問三:中規模銅鉱山から得られる収入はいくらか
解二:中規模銅鉱山の年間生産量は約一〇七〇貫(約4t)
   約一六〇石(約960万円)に相当
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「ホントに少ないな」
「因みに参考にしたのは長門の長登、越後の持倉です」
「ウチにはないのか・・・・」

 少しげんなりした忠流。

「龍鷹侯国は資源が豊富だと聞いていたが、そうでもないのだな」
「列島有数の金鉱山を保有している時点で資源は豊富だと思うけど」
「あと言ってしまえば、こういう鉱山は周辺に同様の小規模な鉱山があるものですから、合わせ技で重要な資源地域になります」

 こういう鉱山を支配するには鉱山の守備ではなく、地域の守備を考える必要がある。

「有名な城ではありませんけどね、こういうのは」

 街道の守備とは違い、山岳地域の守備となるので、天然の要害に築く山城となるだろう。そして、守備兵があまりいらない小規模なもので、そこにあるだけで意味があるというものだ。

「ただ無視すると反撃の拠点となるか」
「その通りです。敵の経済圏を理解して、攻略作戦を立てることが必要ですね」

 真面目な話をする幸盛の意識は完全に忠流に向いていた。
 この時に紗姫と昶が何をしているのかは気にもしていない。
 だから、それは成功した。

「「セイッ」」
「グフッ!?」

 後ろからたらいを叩きつけられた幸盛が頭にたらいをかぶるようにしながら畳に沈んだ。

「「いえーい」」

 ハイタッチする紗姫と昶。

「やっぱり最後にこれがないといけないな、うん」
「いやぁ、すっきりしました」
「・・・・・・・・・・・・」

 ゆらりとたらいを頭に乗せたまま立ち上がった幸盛。
 たらいに隠れてその表情が見えない。しかし、その右手がゆっくりと腰元に伸びていく。
 そこに太刀はないが、脇差しがあった。

「お、おい、それはちょっと―――」

―――カチン

「鯉口を切りやがったぞ、おい」
「で、殿中でござる!?」

 アワワと慌てふためきながら忠流の背後に回る紗姫。

「ぶ、無礼打ちにするか?」

 同じく背後に回り込んだ昶が言う。だが、ふたりに盾にされた忠流は観念したように言った。

「俺があいつに個人戦闘で勝てると思うか?」
「頼りにならん、のっ」

 昶は忠流の腰を蹴りつけ、忠流が前につんのめる間に逃げ出す。

「ま、待って~」

 それを何度も転びながら追いかける紗姫。

「・・・・・・・・・・・・ここまで効果てきめんだと笑いも出ないんですけど」
「きゅ~」

 蹴られた勢いで畳に倒れ込んで床机で頭を打った忠流が目を回している。
 それを見下ろし、幸盛は一言。

「天罰ですね」

 きっと今回の主犯であろう主に向けた容赦ない一言を。



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まとめ
 大規模銅鉱山(別子・足尾):
  銅一八万二七七〇貫超(約685t)の産出量に金属価格をかけ、二万七四〇〇石(16.5億円)
 主要銅鉱山:
  銅約二万六六七〇貫(約100t)の産出量に金属価格をかけ、約四〇〇〇石(2.4億円)
 中規模銅鉱山:
  銅約一〇七〇貫(約4t)の産出量に金属価格をかけ、一六〇石(960万円)
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