講義拾
「経済~鉱業(銀)~」
「―――では、銀に行きましょうか」 「あれ? 銀は金と一緒に終わらなかったかの?」 御武幸盛の言葉に皇女・昶が首を傾げた。 「いえいえ、金は銀と共に産出して、一緒に採掘されることが多いのでまとめただけです」 「・・・・つまり、銀は銀だけでも採れる?」 "霧島の巫女"紗姫が小首を傾げながら言った。 「ええ、まあ、銀だけ、ではなく、鉛なども採れるのですが・・・・」 「が?」 「鉛は銀に対して百分の一ほどの価値なので無視です」 「かわいそうな鉛」 *************************************************************************************** 問一:(超巨大)主要銀鉱山から得られる収入はいくらか *************************************************************************************** 「主要と言いましたが、まずは石見国にある石見銀山群についてですね」 「ああ、昔から戦争の種になる鉱山だな」 忠実では長門の大内氏、出雲の尼子氏と争奪戦を繰り広げ、大内氏が安芸の毛利氏に滅ぼされた後も毛利・尼子は争奪戦を繰り広げている。 「実はこの鉱山、東洋どころか世界有数の銀鉱山らしいのです」 「ほう。ということはここを抑えるだけで世界有数の収入減を確保するということか」 「その通りです」 昶の言葉に幸盛が頷いた。 「で、その規模が問題なわけですね」 幸盛の言葉を受け、忠流が顎に手を立てて考え込む。 「少なくとも万石を超える。・・・・もしかすれば十万石、いや、二十万石近いかもな」 「はは、そんなわけないじゃないですか」 「いえ、正解です」 「ズコー」 「ぐふっ!? なぜ頭突きを・・・・」 笑顔のまま倒れこむように打撃を喰らわせてきた紗姫に押し倒される忠流。 *************************************************************************************** 問一:(超巨大)主要銀鉱山から得られる収入はいくらか 解一:石見銀山群の年間生産量は銀一万貫超(約38t) 二五石三三〇〇石(約152億円)に相当 *************************************************************************************** 「二五万石って言えば・・・・・・・・・・・・う~ん・・・・・・・・」 忠流が例となる国を挙げようとするも、中を見上げたまま固まる。 「大隅以上、日向未満ですね。鉱山のある山陰で言えば、出雲とほぼ同じ石高です」 「出雲からすれば鉱山を保有しているだけで実石は倍になるのか・・・・。そりゃ欲しいわけだ」 「まさに傾国の鉱山ですね」 "傾国の美女"とかけて例えた紗姫が鼻高々に胸を張る。 「「「・・・・・・・・・・・・」」」 「―――っておい、主要金銀鉱山よりでかいじゃねえか、こいつ」 「反応しようか考えこんでから無視される方が傷つきます!」 「ぐわっ!? だから頭突きすんじゃねえよ!?」 再び畳の上に転がる忠流と紗姫。 「・・・・まあ、こいつを考慮すると他の鉱山が霞むから別枠にしたというのは理解した」 横目でそれを見つつ、昶は話を前に進める。 「で? この"傾国の鉱山"とやらを除くとどうなるのかえ?」 「・・・・・・・・・・・・他人から聞くとなかなか反応に困る言葉です」 「貴様の言葉であろうに」 *************************************************************************************** 問二:石見銀山群を除く、主要銀鉱山から得られる収入はいくらか *************************************************************************************** 「残念ながら近くにはありませんが」 「手に入れるのはずいぶん先の話か」 「貴様はどこまで征服するつもりじゃ。・・・・まあ、それはいいことだが」 忠流の言葉に昶が突っ込むが、小さく言い直した。 「情報があるのは生野、軽井沢、多田、院内です」 「ホントに遠いですね・・・・」 「確かに生野地域は争奪戦になっておるな、温泉もあるし」 主要銀山は龍鷹侯国にはないが、畿内出身の昶は身近なのだろう。 「先の石高より少なく、でも、無視するには惜しいくらいなら一万石前後だろう」 昶が比較を用いて予想する。 「正解としておきましょう」 「いえーい」 何の感情も載っていない言葉を発し、昶は両手を突き上げた。 *************************************************************************************** 問二:石見銀山群を除く、主要銀鉱山から得られる収入はいくらか 解二:主要銀鉱山の年間生産量は約一四七〇貫超(約5.5t) 三万七〇〇〇石(約20.8億円)に相当 *************************************************************************************** 「あれ? 一万石前後じゃなくね?」 「オマケです」 「適当になったなぁっ!?」 大甘な判定に忠流が文句を言うが、解答が得られた時点で無意味だ。 「では、中規模の銀鉱山についてですね」 「スパッと流しますね・・・・」 紗姫の小さな呟きも意に介さず、幸盛は言った。 *************************************************************************************** 問三:中規模銀鉱山から得られる収入はいくらか *************************************************************************************** 「この分類に含まれる近くの鉱山は、対馬国の対馬銀山ですかね」 「さっきより近いけど、やっぱり遠いなぁ」 忠流が遠い目をする。 確かに九州ではあるが、南九州である龍鷹侯国からすれば対極に位置するのが最北端の対馬だ。 「その他に資料があるのは因幡の因幡、越後の上田・白峯、陸奥の半田くらいなので」 「・・・・もっと遠いなぁ」 「他に西海道にはないのですか?」 紗姫が質問した。 「ありますよ。この規模になると銅、鉛、亜鉛、その他に錫なども採れる鉱山なので、"銀鉱山"というより"他金属鉱山"と言っていいものもあります」 「例えば?」 「豊後と日向の国境付近に広がる範囲にいくつか・・・・。まあ、中規模というにはちょっと小振りな感じはしますが」 「ああ、あそこか。だから、制圧を主張したんだな」 「分かってなかったんかい」 忠流は紗姫のツッコミを無視する。 「でも、小振りかぁ」 「まあ、鉱山地域と言うことで、ひとつ」 そう忠流と幸盛が支配について話し合っている中、話が前に進む。 「ま、万石以下で間違いないじゃろ」 「そうですね。さっきが一万石前後だったし」 女性陣ふたりがほとんど内容を考えずに答えた。 「・・・・正解です」 *************************************************************************************** 問三:中規模銀鉱山から得られる収入はいくらか 解三:中規模銀鉱山の年間生産量は約一八七貫超(約700kg) 約四七〇〇石(約2.8億円)に相当 *************************************************************************************** 「まあ、無視はできないな。しっかり経営していかなければならない」 「ええ。鉱山経営専門の組織を作っている大名もいますから」 「ウチはどこの管轄だっけ?」 「基本は民部省です。調査という段階では式部省も参加しますが」 「なるほど。鉱山がある場所の近くには似たような鉱山が隠れている可能性があるからな」 忠流と幸盛が話す中、紗姫と昶が席を立った。 「さて、いつもの流れだとこれで終わりじゃろ?」 「たらいを用意しに行きますか」 「お、久しぶりでいいな」 悪乗りに参加する忠流にため息とにらみをきかせ、半眼でふたりを見遣る。 「そのたらいをどうするのか、敢えて聞きませんが―――」 その半眼でふたりを見たまま手元の冊子をまとめ――― 「「―――あ!?」」 ―――脱兎の如く逃げ出した。 *************************************************************************************** まとめ 石見銀山: 銀一万貫超(約38t)の産出量に金属価格をかけ、二五万三三〇〇石(152億円) 主要銀鉱山: 銀約一四七〇貫(約5.5t)の産出量に金属価格をかけ、三万七〇〇〇石(20.8億円) 中規模銀鉱山: 銀約一八七貫(約700kg)の産出量に金属価格をかけ、四七〇〇石(2.8億円) *************************************************************************************** |