「天才の帰還」/四



 龍鷹艦隊第一戦隊。
 これは龍鷹海軍が新しく編制した海軍直轄部隊である。
 そこに配備されるのは西洋からの技術提供を受けて建造された戦列艦だ。
 霧島型戦列艦。
 これらの一番艦「霧島」、二番艦「桜島」は甑島沖海戦で活躍し、共に大損害を受けながらも虎熊水軍に主力船団を撃破。
 その有用性を示した。
 しかし、戦列艦は統一運用してこそ真価を発揮する。
 故に龍鷹海軍は第一艦隊に戦列艦を集中配備している。
 だから、東西の海を守る第二艦隊、第三艦隊の艦隊構成は従来通り、大安宅、安宅船、関船、小早といった船種で変わらなかった。
 このため、第一艦隊と第二・第三艦隊との格差が生まれていた。
 その上、虎熊水軍主力によって第二艦隊が壊滅している。
 これを受け、海軍関係者から戦列艦を第二・第三艦隊に配備すべし、という意見もあった。だが、戦列艦の建造費は非常に高価であり、早期量産は不可能だ。
 維持コストも莫大であり、そのメンテナンスを実施する軍港を多く揃えることは出来ない。

(ま、だから、海軍直轄にして、危なそうな海域に先んじて派遣する体制を取ったってワケだ)






鷹郷勝流side

「ふぁわ・・・・」

 鹿児島城下、龍鷹海軍鹿児島根拠地、第一造船所。
 ここで、霧島型戦列艦三番艦「甑島」の進水式が行われていた。

「源次様、はしたないですよ」
「悪い悪い」

 鷹郷源次郎勝流は、隣に座る東郷里桜に謝る。
 彼女は、今は亡き海軍卿・東郷秀家の一人娘であり、この進水式の主役であった。
 控えめな性格である彼女は大舞台で緊張しているのであろうが、父亡き後に一緒に暮らす勝流の体面も気にしている。
 勝流よりもふたつ年上であり、同じく親を亡くしている身として、姉貴分を自任していた。

("姉"として、自身を保っているとも言えるんだろうけども・・・・)

 勝流はチラリと里桜を見る。
 彼女の容姿は、やや長身だが、はかなげな印象だ。しかし、長刀を持てば船上では水兵数人を相手にしても問題ないほどに強い。

(ただ、精神的には、な・・・・)

 勝流は海将・実流の忘れ形見として、海軍のマスコット的存在だった。だが、成長すると共に戦場にも顔を出し、甑島沖海戦では最終的に指揮を執っている。
 立派に将来の海軍指揮官として成長していた。
 その代わりに精神的支柱として浮上したのが里桜である。
 初代海軍卿として、内乱後の海軍をまとめ上げた東郷秀家の一人娘であり、甑島沖海戦で討死して伝説となった彼の遺志を継ぐものとして各種儀礼に引っ張りだこになった。
 "英雄の娘"として利用されることに、里桜自身も心を痛めつつも納得している。

(だから、余計に気負うんだろうけどなぁ)

 本来、霧島型戦列艦の三番艦は「屋久島」という名前にするはずだった。だが、東郷秀家の悲劇的な死を受け、彼が討死した甑島沖海戦から名前を取った。
 そう決めた瞬間に、進水式で里桜が主役になることはほぼ決まる。

(賢い娘だから、その辺りも全て理解しているんだろうな・・・・)

 そっと隣の里桜を盗み見ると、まじめな顔で正面を向いていた。
 若い世代――幼いとも言える――が活躍する龍鷹侯国だが、多くは幼い頃から英才教育を受けている。
 しかし、里桜はそうではない。
 海軍将校の娘だが、指宿の町で他の町娘と同じように育っており、こういう大舞台に慣れているわけではないのだ。

「ほんっとに」

 視線を下げると、ただでさえ白い肌から血管が見えるほど拳を握り締めていた。
 そうやって、緊張と戦っているのだろう。

「・・・・ッ、・・・・あ・・・・」

 その拳を手に取り、ゆっくりと開いてやる。
 勝流の行動に、里桜が目を見開いて驚いていた。

「大丈夫だって。まあ、大事な儀式っちゃあ儀式だが、何やっても許される大らかな雰囲気だぞ」

 冷たくなった手のひらを指で解してやりながら言う。

「なんだったら、ここで踊り出してやろうか?」

 「たぶん、何人か同調するぞ?」と笑いかけた。

「・・・・・・・・その後、全員が頭を殴られて地面に沈むんですよね・・・・」

 どこか遠い目で虚空を眺める里桜。

(あれ? 思ったのと違う反応・・・・)

 てっきりこの冗談に小さく笑ってくれるものだと思ったのだが。

(いや、まあ、やれと言われればやるし、おそらく里桜が言った通りの未来にはなるんだろうけども)

「ふふっ、でも、ありがとうございます」

 解きほぐした手がそのまま勝流の手を取り、握った。

「・・・・おい」
「終わるまでこうしておいてください」

 肩の力が抜けた里桜が小さく笑いながら言う。

「・・・・仕方ないな」

 そう言い、勝流は頬をかきながら里桜から視線を逃した。



―――なお、同時刻の同じ場所。



「―――あー、どこかでイチャイチャしている気配がしますね」
「ここの間違いではないか?」
「・・・・・・・・・・・・」

 "霧島の巫女"・紗姫の言葉に、皇女・昶が答える。

「えー、ここは普通じゃないですか?」
「そうか、確かに普通か」

 皇女は座り心地が悪いのか、少し居住まいを正した。
 それを見て、紗姫も同様の所作をする。

「ぃぎっ」

 小さな悲鳴が聞こえたが、ふたりは無視した。



「―――ツッコミを入れた方がいいのか?」
「嫌よ。放っておくわ」

 護衛の瀧井信輝とその相方・瀧井郁(旧姓、加納)は妻ふたりを膝の上に乗せて悶絶している主・忠流を見て見ぬふりをした。

「ったく、側近に面倒ごとを押し付けて、いい気なものね」






鷹郷従流side

「―――あっけないものですね」

 鵬雲六年六月二〇日、肥前川古城(現佐賀県武雄市若木町)。
 ここに龍鷹軍団を意味する《紺地に黄の纏龍》の旗が翻っていた。
 十八日に物見を出し、手薄だと判断した龍鷹軍団は十九日には国境と言える戸坂峠を越える。
 一部をそのまま街道(現国道498号線)を進ませ、川古川を挟んで川古城を睨ませる。そして、川古山中神社に後備を置く。
 本隊は北東北に進み、多久へ抜ける街道を封鎖、永野川を渡って信行寺に本陣を置いた。
 総勢二〇〇〇に対し、川古城勢は三〇〇を下回ると予想され、圧倒的不利な状況に置かれたのである。
 二〇日に信行寺から川古川を越えて川古城を東回りに迂回する気配を見せると、城兵は城を捨てて北西へと退避していった。
 物見の知らせでは、約一里北西に進んだ川原城(現同県伊万里市大川町)に入城したとのことである。

(川原城も簡単に落とせそうですが・・・・)

 川原城は本陣・信行寺から眉山を挟んで西方に位置し、松浦川の河畔に築かれた城である。だが、その目的は北方に位置に位置する大川地区への入り口を扼することで、規模は小さい。

「さらに進出し、大川地区を落とすべきでしょうか?」

 従流は地図を見下ろしながら舜秀に訊いた。

「う~む、大川地区には川原城を始め、山口城、日在城があり、特に日在城が地域拠点のようですね」

 舜秀が唸る。
 複数の城があるが、日在城を落とせば地区を制圧したことになるだろう、とのことだ。

「一応、この地区を支配下に置けば、唐津まではすぐですが・・・・」

 日在城から北方に向かえば岸岳城(同県唐津市北波多)に到達する。
 この岸岳城のすぐ北西には波多城(同地)があり、国境防衛拠点として機能していた。

「ここで虎熊軍団と向かい合う危険性をどう評価するかですな」

 舜秀の言葉に、従流も唸る。
 川古城を奪取し、伊万里-多久の線は潰した。
 この時点で川古城のある若木地区から東に行くと女山峠があり、そこを越えていくと山下城(同県多久市西多久町)がある。
 だが、この城は守備兵以上の兵が確認されていなかった。
 また、川古城から二里ほどあり、向かい合うというような距離ではない。

「前進しすぎると後方に残置する戦力もあり、兵力的優位を失いますからね・・・・」

 大川地区を攻める場合、若木地区に五〇〇を残し、伊万里を睨む川原城に五〇〇。
 大川地区制圧には一〇〇〇しか使えず、さらにこの戦力で岸岳城の戦力と睨みあう。

(行動の自由を失う、か・・・・)


「―――あなたはどう思いますか? 幸盛」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 従流の視線を受けた御武幸盛は沈黙したまま地図に視線を落とした。

「・・・・我々には大川地区を落とすことも維持することも可能でしょう」

 戦略的に問題があるかもしれないが、同地に展開する敵戦力は少なく、戦術的には容易と言えた。

「また、現時点で動きを見せていない虎熊軍団が大川地区を落としたことで動くわけではないと思います」
「それは、何故か」

 舜秀が問う。

「虎熊軍団が動く場合、次の二点が戦略目的となるでしょう」

 領土拡張。
 伊万里勢力への増援。

「前者はともかく、後者の場合、大川地区もしくは若木地区に進出してもあまり意味がありません」

 伊万里攻めの主力は龍鷹軍団ではなく、燬峰軍団である。
 伊万里勢を救援するには燬峰軍団に何らかの不利益を発生させなければならない。

「この場合、考えられるのは武雄もしくは鹿島への進撃です」

 武雄は言うまでもなく燬峰軍団の策源地である。そして、鹿島は後方だ。
 故に燬峰軍団は武雄にまだ十分な戦力を残しているし、鹿島には聖炎軍団がいる。

「攻略できずとも"攻める"という態勢だけで、伊万里勢への増援には十分です」
「わざわざ戦略的に意味のない大川地区、若木地区に進出するとは考えられない、か・・・・」

 舜秀が唸る。
 こういう第戦略的な視点は舜秀にはまだない。

「では、やる意義がありますか」

(燬峰軍団には言っていませんが、現場の判断というところでしょうか)

「・・・・では―――」


「―――待ってください」


 「進撃準備を」と言いかけた従流を遮り、幸盛が言葉を発した。

「私はこれ以上の進撃には反対します」
「・・・・それは何故?」

 幸盛は先程、大川地区を制圧し、それでも虎熊軍団が出てこないと言ったのだ。
 ならば、進撃しない手はないと思う。

「これは燬峰王国の戦です。我々は増援とは言え、求められていない働きをすることはありません」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」
「大川地区は制圧できるでしょう。ですが、こちらも無傷では済みません」

 幸盛はまっすぐに従流を見て言った。

「その損害は大川地区を制圧することで得られるこちらの利益と釣り合いません」

 つまり、純軍事的に大川地区に攻略する力がある龍鷹軍団だが、龍鷹軍団の利益にならないと言ったのだ。

「なるほど」

 舜秀が再び唸り声を上げた。

(これが・・・・兄上が幸盛を軍監として派遣した理由ですか・・・・)

 舜秀を始め、龍鷹軍団の指揮官は優秀な現場指揮官である。
 一方で、幸盛は戦略家・鷹郷忠流の側近であり、その知謀を支える参謀と言えた。
 彼は忠流と同じく、大戦略を見ているのだ。

(軍監と言えば、諸将に恐れられる人間が務めると思っていましたが、こういうのもあるのですね)

 軍監。
 目付とも呼ばれ、主君の目となって、命令無視をしないかを監視する役割がある。
 そんな恐れられる一方で、主君の意向を組み、それから外れようとする軍団指揮官に提言する役割もある。
 現場の判断でブレがちな戦略目的を思い出させる存在だ。

(今回は綱紀粛正よりも戦力温存、ということですか)

「では、我々はここに止まりますか」
「しかし、もし燬峰軍団の方から進軍願いが来たらどうしますか?」

 舜秀の質問に、幸盛は少し考えて答えた。

「その場合は、できうる限り被害を出さずに、というのを大前提に応えるしかありませんね」

 幸盛が肩をすくめて言うと、舜秀は小さく笑う。そして、視線を広間の外に向けた。

「軍議中失礼します」

 入ってきたのは後藤公康だ。
 彼は川古城を中心に守備隊の配置を担当していた。

「部隊配置、完了いたしました」
「では、見にいこうか」

 その部隊配置で良いのかを判断するのは舜秀だ。

「行って参ります」
「よろしくお願いします」

 だから、舜秀は立ち上がって、従流に頭を下げて退出した。そして、それに公康も同行する。

「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 結果、部屋には従流と幸盛が残された。

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 特に会話をすることなく、ふたりして出されていた茶を口に含む。

「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 そして、どちらともなく、視線を合わせた。


「お伝えしたいことがあります」
「聞きましょう」


 両者は居住まいを正し、その顔に緊張を孕ませる。
「龍鷹侯国侯王・鷹郷侍従忠流よりの伝言です」
「はい」


「―――『帰ってこい』」
「嫌です」


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 沈黙が場を支配した。

(わー、固まっていますね)

 一言で否定された幸盛が固まっている。

(まあ、戦力温存のために行動を制約する軍監が、幸盛である必要はありませんからね)

 故に幸盛が兄の側近らしい役目を担っていると思っていた。そして、その役目について考えると、「帰還命令」以外思いつかなかったのだ。
 だから、即答した。

「うーん・・・・」

(あ、再起動した)

 こめかみをトントンと叩き出した幸盛を見て、従流は心の中で呟く。
 予想に反する言葉が返ってくるのは慣れているのだろう。
 従流が思っているよりも早く復活した。

(ま、兄上の側近ですし)

「理由を伺っても?」
「簡単ですよ。僕は追放されたんですよ?」
「しかし、その追放理由がもう今の時世では無効だと言うことはお分かりと思いますが?」
「まあ、そうですね」

 従流の追放理由は、権力基盤が盤石ではない忠流に対し、従流勢力が急伸長したからである。
 しかし、今の龍鷹侯国にとって忠流はなくてはならない存在になっている。

「では、今の龍鷹侯国に僕を連れ戻すのは何故ですか?」
「それは・・・・」

 幸盛は視線をさまよわせ、言いよどんだ。

「今帰ったとしても、僕は有力な一門衆という立場となるでしょう」

 勝流という一門衆入るが、彼は海軍を統括しており、家中のまとめ役という立場にはならないだろう。
 それは父・実流の意向を汲んでいるとも言えた。

(ならば、僕の役割は以前の通り、陣代だろうか)

 龍鷹軍団の中で、五〇〇〇を超える軍勢を率いるには、複数の部将たちをまとめる必要がある。しかし、その立場にいる人間は鳴海直武、鹿屋利直・利孝親子くらいしか思いつかない。
 鹿屋利孝が豊後に固定され、利直が外交のトップでいる以上、動けるのは鳴海直武だけだ。そして、彼は龍鷹軍団本隊の指揮を執るのであれば、龍鷹軍団本隊が動かないかつ五〇〇〇以上の兵力を率いる人材がいなくなる。

「戦線指揮官ですか?」
「・・・・その通りです」

 従流の考えを肯定する幸盛。

「内乱で減じた物頭、組頭は学校制度もあり、充実してきました」

 龍鷹軍団が真っ二つに分かれて激突した藤秋の乱において、軍団は大打撃を受けた。
 内乱ということもあり、動員した農民兵も少ない中、主力となったのは士分だ。
 結果、兵を直接指揮する物頭、組頭の身分が打撃を受けた。
 このため、忠流は士分の子息を対象とした学校制度を始め、これらの底上げを図り、現時点で成功を収めている。

「一方で、問題が顕在化したのが侍大将です」
「龍鷹軍団の侍大将は、総大将の意を受けて戦線を任される戦闘指揮官、でしたか?」
「はい、変わっていません」

 "侍"の大将であり、複数の戦闘指揮官を指揮する人材であり、この戦闘指揮官は円居の指揮官を意味する。
 おおよそ一〇〇〇~三〇〇〇で構成される円居を複数指揮するので、戦場全体を見渡す能力と各指揮官を従わせる"力"が必要だ。
 "力"には戦場指揮力という実力と、権威がある。
 従流が持つ権威は、"血筋"だ。

「砂川の戦いで、僕がいれば変わりましたか?」
「・・・・御館様はそう考えられました」

 砂川の戦いは、鵬雲五年四月一日に虎熊軍団との間に交わされた遭遇戦だ。
 龍鷹軍団は、長井衛勝・佐久頼政・村林信茂という歴戦の戦闘指揮官が参加しており、忠流としては長井衛勝を大将として置いた。
 しかし、佐久頼政も村林信茂も長年最前線を務めたプライドがあり、如何に軍団最強部隊を率いる長井衛勝と言えど、彼らを支配下に置く権威がなかった。
 結果、軍団内は不和に陥り、虎熊軍団という奔流を前に崩壊している。
 佐久頼政は生死不明、村林信茂は重傷を負い、さらに長井勢も一門衆の長井友勝が討死していた。

「やっぱりですか。僕もあの戦いは負けるべくして負けたと思っていました」

 指揮系統の混乱は、勝負以前の問題だ。

「しかし、そこに僕がいれば、少なくとも潰走は避けられた、と? それは買いかぶりというものですね」

 従流は続ける。

「それに敗北したとは言え、戦線崩壊を防いでいます。それは立派でしょう」

 三倍以上の兵力差で正面から激突して潰走。
 だというのに、どうにか八代城で立て直すほどの敗北で済ませたのは偉業と言えよう。

(何より、戦いの序盤ではしっかり勝利していたところはさすがと言えるでしょう)

 従流はそう思いながら、幸盛に言った。

「侍大将も組頭などと同じように養成すればいいのでは?」
「・・・・そう簡単にはいかんでしょう・・・・」

 従流の言葉に、幸盛がため息混じりに言った。

(まあ、そうですね)

 実戦経験と判断力が必要な役目だ。
 如何に戦争の多いこの時代とは言え、そう簡単に身につくものではない。

「というかですね、追放処分が解けるのに、どうして頑なに拒むのですか?」
「まあ、解けるのはいいのですが、だからと言って戻るとは限らないでしょう」
「・・・・何が気に入らないので?」

 理屈ではないと感じたのか、幸盛が改めて問う。
 それに従流は笑顔で言った。

「兄上のいいように扱われるのが嫌です」
「・・・・あー、それは・・・・わかる気がします」
「「はっはっはっ」」

 ふたりして笑いあった後、幸盛は大きなため息をつく。
 それを尻目に従流はお茶を口に含んだ。










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