「天才の帰還」/三



 鷹郷従流。
 龍鷹侯国先代侯王・鷹郷朝流の四男として生を受けた。
 長男・実流、次男・貞流、三男・忠流はそれぞれ武将として成長したが、従流は幼くして出家し、鷹郷家の未来を祈る毎日だった。
 その人生に変化が生まれたのは朝流の横死、これに続く実流の暗殺から始まった貞流と忠流による家督争いだ。
 この内乱に従流は関わらなかったが、最終的に勝利した忠流によって還俗を求められた。
 鷹郷家はわずかな間に一門衆を三人も喪い、当主についた忠流も病弱である。
 実流の子・勝流も幼少とあり、頼りになる一門衆を忠流が求めたのだ。

 還俗した従流は忠流の名代として活躍するだけでなく、意外な軍事的才能を発揮して前線に出た。そして、内乱の末に行き場を失っていた者たちをまとめ上げた。
 確かな教養と、忠流にはない落ち着き。
 忠流の破天荒さについていけない者たちの神輿としては十分だった。

 それに故に警戒した忠流によって追放された。

 従流の人生は忠流によって狂わされたと言っても過言ではない。
 だが、彼はその教養の高さ故に兄の行動を理解していた。そして、それ故に自分自身の将来についてもある程度予測していた。

 だが、今、この時になって、龍鷹軍団を率いるとは思ってもいなかった。






鷹郷従流side

「―――では、これより戦評定を始めます」

 鵬雲六年六月十七日、肥前国武雄城。
 ここに燬峰軍団主力と増援の龍鷹軍団が集っていた。そして、今後の動きを決定するための戦評定に臨んでいた。
 参加者は以下の通り。

 燬峰軍団側。
 総大将である国王・燬羅尊純。
 兵站を担当する宰相・時槻尊次。
 一番備を率いる鬼平盛政。
 二番備を率いる燬羅紘純。
 馬廻衆を率いる塩見純貞。

 龍鷹軍団側。
 大将・燬羅従流。
 副将・相川舜秀。

 これに両者を取り持つ燬羅結羽がいる。
 また、ここに軍勢はいないが、戦役には参加する聖炎軍団の十波政吉の他、佐世保や松浦・津村氏からの代理者も参加していた。
 司会は燬峰王国宰相・時槻尊次が務める。

「龍鷹軍団の兵力は約二〇〇〇です」

 尊次の言葉に尊純が着到帳に視線を落とした。そして、そこに書かれた部将たちを確認して目を細める。

「遠路はるばる、なかなかな兵数を送ってきたのだな」
「はい、聖炎軍団と合わせたと聞いております」

 尊純の呟きに、従流は答えた。

「か」

 それだけ言って、尊純は視線を聖炎軍団の主将・十波に向ける。

「聖炎軍団もご助勢ありがたい。安心して後方を任せられるものだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 尊純の言葉に十波は黙礼した。

(しかし、大胆な配置ですね)

 聖炎軍団の配置は、尊純の言葉の通り、後方だ。
 いや、後方というよりは、退路に近い。
 聖炎軍団として派遣されてきたのは十波政吉、堀晴忠といった、旧虎嶼親晴派の武将だ。
 もし、肥後北部の豪族としての立場を捨てて、親晴に忠誠を誓うのであれば、ここで虎熊軍団に裏切ってしまうかもしれない。
 そうなれば燬峰軍団は退路が断たれ、全滅の危機となる。

(その可能性を理解しつつ、"ない"と判断した配置なのでしょうね)

 裏切りがないのであれば、大事な後方に配置し、それ以上の勲功を上げさせない。
 見返りを準備しないための方策としては完璧と言えた。

(さてさて、ならば我々はどこに配置されるのでしょうね)


「―――では、作戦を説明します」


 尊次は手に持った指揮棒で中央に置かれた地図を指した。
 地図には肥前が描かれており、いくつもの駒が事前に置かれている。

「まず、我々の戦力展開はこの配置です」

 主力軍が展開する武雄城。
 別働隊扱いの聖炎軍団の他、佐世保や松浦にも駒があり、それを尊次が指した。

「一方、敵軍はこちらです」

 佐賀に虎熊軍団の肥前方面主力軍があり、唐津や佐久に至る各城に守備隊が展開。
 その虎熊宗国に味方する豪族として、伊万里や有田、波佐見が敵方の色の駒があった。

「まず、佐賀の虎熊軍団を牽制しつつ、伊万里、有田、波佐見を攻略します」

 この地域は燬峰王国の嬉野・武雄の西に位置し、佐世保・松浦の東に位置する。
 同盟軍を南北に分断する敵を攻略し、虎熊軍団に当たるに対し、後顧の憂いをなくす戦略だ。

(妥当ですね)

 燬峰軍団は戦略的な奇策を執るタイプではない。
 理詰めで堅実な作戦を立てるのだ。

「敵軍の動きは?」

 そう言ったのは佐世保を領する豪族だ。
 彼らが担当するのは、ほぼ波佐見攻略で決まっている。
 だから、気にするのはその波佐見に展開する敵戦力だろう。

「伊万里の伊万里城に主力が集結し、住吉城(現佐賀県武雄市山内町)と松山城(現長崎県東彼杵郡波佐見町)にも部隊が展開している」

 答えながら尊次が地図でそれぞれの城を指す。

(前者が有田方面の対武雄、後者が波佐見方面の対佐世保と言ったところですか)

 松浦方面の最前線はそのまま伊万里城だろう。

「それぞれの拠点で籠城し、虎熊軍団の来援を待つ構えと見えるな」

 燬峰軍団の軍団長である燬羅紘純の言う通りだろう。

「ひとつひとつ潰していくのは骨だぞ」

 ため息をつきながら尊純が言う。
 その通りだ。
 兵力差があるとはいえ、攻城戦の連続は消耗する。

「本番は唐津なのだから」

 尊純が視線を末席に向けた。
 そこには唐津領主であった中津氏の一門衆である少年がいた。
 まだ幼いが、元服を果たしており、広高と名乗っている。
 彼は中津氏の分家出身であり、虎熊軍団が唐津侵攻をした折には分家の居城である高江城にいた。
 高江城は唐津城の西方にある。
 このため、多久方面と糸島方面から攻め込んできた虎熊軍団に対しては後方となった。
 高江城勢は唐津城防衛で壊滅したが、広高他女子供は鹿島を経由して松浦方面へと逃げ出した。
 そして、松浦を経由して燬峰王国に至り、失地奪還を願い出たのである。

「た、高江城周辺では、下野した家臣団が蜂起する準備ができています!」

 緊張気味の声音で広高が言った。

(まあ、そうでしょう)

 失地回復のための戦力は独力では無理だ。だが、頼り切りというわけにはいかない。

(そして、我々が唐津に侵攻する場合、伊万里を落としてそこを足がかりにする道と―――)

 広高たちが脱出した道を逆走する形で侵攻する道だ。
 後者の場合、道案内となるのは広高であり、その時に周囲を味方で制圧する役目を負ってもいる。

(奪還を依頼するための最低限の役目を果たしていますか)

 きっと参謀役が後ろに付いているのだろう。

(でも、罠の可能性もありますね)

 虎熊軍団が広高を使い、肥前の反虎熊軍団を唐津に誘引し、これを撃破する可能性が残されていた。

(でも、これを否定するために、人質を取っているでしょうね)

 尊純は甘くない。
 広高と共に脱出した女子供などは人質として燬峰王国の奥深くに幽閉されていることだろう。

「戦力配分で必要なのは次の通りです」

 尊次がまとめにかかる。


 第一段階:伊万里の屈服
 伊万里(伊万里城)・有田(住吉城)・波佐見(松山城)の制圧


「このために松浦勢は伊万里の牽制、佐世保勢は波佐見方面の攻略、燬峰軍団本隊は有田を攻略するとします」

 それぞれの戦力展開から妥当と言える。

「その後、佐世保勢は燬峰軍団に合流し、南方より伊万里を圧迫し、燬峰軍団別働隊が武雄から川古城(現佐賀県武雄市若木町)を攻略し、南東から伊万里へ迫ります」

 尊次はここで言葉を切り、視線を松浦代表に向けた。

「可能ならばこの時点で水陸両方面から伊万里へ迫ってください」
「心得た」

 伊万里―松浦間には堅城がいくつかあり、これを攻めるのに松浦勢が疲弊する可能性がある。しかし、全くこの方面から攻めなければ、伊万里は南方に戦力を集中させるだろう。
 それを阻むための松浦勢による侵攻だ。

「続けて―――」


 第二段階:唐津の解放
 伊万里方面から燬峰軍団が侵攻し、波多城を攻略して松浦川沿いに唐津へ向かう。
 海路で松浦勢が東松浦半島に上陸し、西方から唐津へ迫る。


「この時の注意点は壱岐の虎熊軍団です」

 壱岐島には虎嶼氏の直轄部隊が展開しており、強力な水軍と共に援軍に出る可能性がある。
 松浦勢は主にこれらを相手にすることになり、伊万里攻略であまり消耗させられないと燬峰軍団は考えていた。

「ただ、現時点で壱岐の軍勢は戦準備をしていないのですね?」

 尊次の視線が松浦の代表に向く。
 その視線を受けた代表は静かに頷いた。

「では、伊万里攻略中にも動きがなければおそらくは大丈夫でしょう」

 陸兵もそうだが、水軍を動かすには非常に時間がかかる。
 燬峰軍団が動員を開始して武雄に集まったことは虎熊宗国には伝わっているだろう。
 それでも動きがないのであれば、とりあえず、壱岐は静観という形になったと考えらえた。

「ならば、問題ないな」

 最後のまとめをしようというのか、尊純が立ち上がる。

「明日、"予定通りの陣立て"で出陣する。速やかに伊万里をぶっ潰すぞ!」

 尊純の激に燬峰軍団の諸将が大音声で応じた。

(あれ? "予定通りの陣立て"?)

 そんな中、従流は首を傾げる。

(何も聞いていないんですけど?)

 視線を結羽に向けると、彼女は意味深にほほ笑むだけで、何も言わなかった。

「え~っと?」

 戸惑う従流と龍鷹軍団の諸将を置き、燬峰軍団らの諸将は退出していく。
 そんな中でも動かなかったのは、当主・尊純と側近の尊次、そして、結羽だった。



「さて―――」

 当惑する龍鷹軍団に対して、声を発したのは尊純だった。

「すまなかったな、先程の軍議」
「「?」」

 突然の謝罪に、従流と舜秀が揃って首を傾げる。

「先程の軍議はこれからを議論する場ではなく、すでに決まっていることの再確認に過ぎなかった」

(ああ、だから"予定通りの陣立て"なのですか)

 そして、その予定に龍鷹軍団が入っていなかったのは、きっと作戦立案段階では龍鷹軍団の出撃はなかったのだろう。
 だから、陣立てに組み込めていないのだ。

(聖炎軍団が配置された場所は、予定外のものが来ても対処できる場所)

 だが、聖炎軍団と龍鷹軍団の両方を配置する場所がなかった。
 よって、龍鷹軍団のみ、宙ぶらりんのまま武雄に着いてしまったのだろう。
 なお、聖炎軍団の場所に龍鷹軍団が配置されたなかった理由は、従流の存在に他ならない。
 客将扱いだが、率いる軍があるのであれば、これまでの生活費分の働きを期待したい、と誰かが言ったのだろう。

「聞いていた通り、伊万里攻め、唐津攻めにも貴君らが務める場所はない」
「兄上! そんな言い方はないでしょう!」
「うるさい。元はと言えばお前の不用意な発言からだろう、にッ」
「とわッ!?」

 兄から投げられた扇子を躱す結羽。

「その件については謝り、兄上も許してくれたではないですか」

 結羽は座り直しながらぶーぶーとでも言いたげに唇を尖らせた。

「はぁ~。まあ、政治的にもあり得る案だからそれはいいが、現実問題、他国からの増援を配置する場所がないのだ」
「それは兄上らが考えることでしょう?」
「こいつッ」

 また兄妹喧嘩に発展しそうになる中、それまでの流れを完全に無視して尊次が口を開く。

「もういっそのこと、龍鷹軍団側に決めてもらおうと思いまして、布陣を」
「は?」

 舜秀が思わず声を漏らした。
 それほど衝撃的な一言だったのだ。

「なるほど」

 しかし、従流には尊次の言いたいことが分かった。

(さて・・・・)

 地図を見ながら考える。
 普通、他国の増援は安全な場所に配置する。
 危険な場所に配置して大損害を受ければ文句を言われる。
 さらに戦功など挙げられては見返りが要求される。
 拠点防御、兵站線の維持、後備。
 これらが妥当なところだろう。

(となると、これらが妥当ですかね・・・・)

 拠点防御=武雄城の留守居。
 兵站線の維持=住吉城奪取後に駐屯。
 後備=燬峰軍団本隊の後方を追尾。

(兵站線の維持を選ぶと、住吉城の陥落までは拠点防衛になるでしょうね)

 もしくは両方か。
 二〇〇〇という数字は、この戦線ではなかなかに大きい。
 別動隊を作ることができる数字なのだ。

「ちょっと失礼」

 従流は隣に座る舜秀の肩を叩いて後ろを向いた。

「舜秀殿はどう考えますか? もとい、兄上は何と言っていましたか?」

 従流の一存では決められない。
 援軍を派遣した兄・忠流の意を汲まなければならないのだ。
 もし忠流が「戦闘不可」と命じているのであれば、従流もそれに沿った決断をしなければならない。

「御館様はただ一言」

 どこか呆れたような眼差しの舜秀に、従流は嫌な予感がした。

「『従流に従え』と」
「・・・・・・・・やっぱりですか」

 思わず従流は頭を抱える。
 先程の尊純と結羽の会話から、今回の増援を要請したのは結羽の独断だ。
 忠流が送り込んだのではないので、現場のことをよく知っている従流に任せたというのだろう。
 無責任とは言わないが、せめて行動指針くらいは示してほしかった。

(まあ、この国での僕の立場を気にしてくれたんでしょうが)

 この二〇〇〇を使って、燬峰王国内での立場を固めろということだろうか。
 その場合は積極的に戦闘に参加する必要がある。

(その視点でもう一度、地図を見てみますか・・・・・・・・ん?)

 従流の視線がとある城に吸い寄せられた。
 その名は川古城。
 波佐見、有田を制圧後、伊万里を圧迫するために燬峰軍団別動隊が攻略するという城である。

「この川古城ですが、波佐見と有田を制圧後に攻略するとのことですが、何故制圧後なのですか?」
「住吉城攻略中に伊万里勢が後詰に出てきた場合、ここで主力決戦を行います」

 尊次が地図を示しながら言った。

「この時点で川古城を攻略しても、それは遊兵となります」

(確かに)

 川古城を攻略したら、その部隊は有田方面に何ら影響力を持てない。
 戦力が限られている以上、無駄な用兵はしないことにこしたことはない。

「だから、住吉城を攻略後、さらに北上するために後方に残った敵拠点である川古城を攻略します」

 尊次が答えた内容を従流は吟味し、次の質問を口にした。

「では、川古城を早期に攻略しても、戦略上の問題はないでしょうか?」

 もし燬峰軍団が伊万里勢と有田周辺での野戦決戦を望んでいるのであれば、川古城の攻略はご法度だ。
 川古城は伊万里へ続く別の街道になり、別戦線が生まれる。
 この場合、伊万里勢は伊万里の守備を固め、有田には出てこないからだ。

「それは全く問題ありません」

 尊次の答えに従流は少し意外性を抱いた。

「我々の目的は伊万里を完膚なきまでに叩き潰すことではありません。穏便に降伏してくれればそれでいい」
 つまり、伊万里に逼塞し、伊万里城に籠城したらしたらでよいということだ。
 後詰のない籠城などすぐに破綻する。

(それに伊万里城は堅城というわけではないですからね)

 従流は地図とは別の絵図を手に取った。
 そこに書かれている伊万里城は伊万里川北岸の低山に築かれており、単純な構造の城である。
 対岸の鹿山城の方が堅固に見えるが、伊万里の城下町や港を管理するにはこの地が良いのだろう。

「では、我々はその別動隊の役目を早めにこなすことにしましょう」

 地図上の川古城を指差した。

「ここを封鎖して、多久方面への退路を断ちましょう」

 ほのかに笑みを浮かべて言うと、尊次の頬が引き攣る。
 住吉城攻略後、別動隊を出してまで攻略する理由。
 それは不利を悟った伊万里勢が川古城を経由して多久方面へ逃亡することを防ぐためだ。
 多久は虎熊宗国の領国であり、そこに逃げ込まれては今の燬峰軍団では手が出ない。

(そして、そこを拠点として、ちょっかいを出してくるでしょうね)

 旧武雄領主も佐賀へ退いた後に、旧臣を動員して蜂起を画策しているという話もあった。
 旧主を逃がすというのはそれだけ危険なのだ。

(そもそも今回の軍事行動はまさに、それですから)

 唐津を奪還しようとする燬峰王国に動きも、唐津から脱出した中津広高のためだ。
 伊万里もこのような状況を避けるためには、主要人物が外に出ることを阻止しなければ、適当な旗印にされて、戦争は継続することになるだろう。

(だから、退路を断つのが寛容です)

 従流はすぐに表情を取り繕った尊次の顔を見ながら思考を続けた。

(とは言え、唐津方面を封鎖はできませんが)

 だから、この提案は燬峰王国にとって、ありがたいものではあるが、あくまでも"できれば"と思っていたことの提案に過ぎない。

「もし、その提案を当方が受け入れた場合、龍鷹軍団はいつ動くつもりですか?」

 尊次の言葉に、従流は視線を舜秀に向けた。

「今日中に物見を出します。明日一日を準備に当て、明後日の出撃が最短と考えます」
「では、それで」

 燬峰軍団とは一日違いとなるが、大した遅れではない。

「承知いたしました。一戦線をお願いいたします」

 そう言って、尊次は頭を下げた。

「そういうことだ。くれぐれも敗北して、ウチの背中を危うくさせんでくれよ」

 あまり友好的でない言葉をかけた尊純が席を立つ。

「ええ。ですが、あまり有田方面に時間をかけていては、こちらもさらに前進するかもしれませんよ」
「―――ッ!?」

 従流の返事に、思わず尊純が足を止めた。

「わお」

 何故か嬉しそうに口元を覆った結羽を尻目に、従流と尊純の視線が交差する。

「・・・・ふっ。死んだような眸をしていたが、やはり貴様も龍の血族というわけか」

 無礼と言える言葉を笑い飛ばし、尊純はそう呟いて部屋を後にした。そして、それに従うように尊次が着到帳などを持って退出する。

「・・・・はぁ~」

 それらを見送った舜秀が大きくため息をついた。そして、ジト目で従流に向き直る。

「全く、生きた心地がしませんでしたよ」
「何を言うのですか。こんなの龍鷹侯国では日常茶飯事でしょう?」
「それを他国にやるのが、心臓に悪いのです」

 舜秀がやれやれと肩をすくめる中、結羽が従流に飛び込んだ。

「ぅおわっ!?」

 ふたりで畳の上に転がる。
 後頭部を打ったので、従流の視界にはやや星が飛んだ。

「いや~、兄上相手に見事な啖呵。さすがは私が選んだだけのことはある。よくやった!」
「・・・・何やら、あなたの政治的失点を回復させるだけのために踊らされた気もしないでもないですが」
「・・・・ソ、ソンナコトナイヨ~」
「ま、いいです。ちょっとやる気が出てきましたから」

 従流を押し倒したまま、胸に頬ずりする結羽の頭を撫で、従流は吹っ切れたように笑う。

「じゃあ、とりあえず、具足を見繕いますか」
「そこからですか!?」

 世捨て人となっていた従流の現世復帰の一歩に、舜秀が大きくツッコミを入れた。










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