「炎の統一」/五



火雲珠希side

「―――申し上げます!」
「・・・・なんだい?」

 鵬雲六年六月十八日朝、降伏勧告を拒否した城村城に対して総攻撃をかけるために采配を振り上げていた珠希の下に早馬が駆けつけた。

「十波勢が掛幕城を囲んでいた阿蘇勢を撃破、市成城も奪還されました!」
「何!?」
「太田殿が破れた、だと・・・・?」

 重綱が絶句した。
 阿蘇勢を率いていた太田貴鐘は歴戦の強者だ。
 数千の兵を率いれるかは未知数だが、一手を率いるには十分な才能を持っている。
 それが一撃で撃破された。
 菊池郡を押さえるための策源地も失うほどの敗北を喫するとは思っていなかった。

「・・・・やるねぇ、政吉クン」

(伊達に名家の御曹司であるだけはある、か・・・・)

「して、十波勢は?」
「ハッ、市成城に留守を入れて反転。菊池城より西へ行軍を開始したとのこと!」
「西・・・・ッ」

 重綱が呻く。
 菊池城より西方は聖炎軍団主力軍の後方を扼する位置だ。

「太田を破った相手に工藤の五〇〇だけでは厳しいか」

 珠希は顎に指を当てて考え込んだ。
 菊池川南岸の立石勢の抑えも残す必要があるため、こちらに向かっている菊池勢は少ないだろう。だが、それでも工藤勢五〇〇では戦力的には劣勢だろう。
 近くにいる龍鷹軍団を加えても厳しい。

「反転する必要があるかな」

 菊池勢の目的は城村城の解放である。
 悔しいが、それをしなければ退路が断たれる可能性があった。

「全面撤退は難しいため、城村城にも抑えを残す必要があります。万が一を考え、有力な部将と一〇〇〇ほど」

 重綱の言葉に珠希は頷いた。

「・・・・いや、それは山鹿城の野村にお願いしよう。城村城からは全面撤退だよ」
「・・・・危険ですが」
「殿は繰り引き。本隊は山鹿に戻る」

 繰り引きとは複数の部隊が交互に後退していく方法である。
 後退する部隊を別部隊が踏みとどまり支援、とある地点まで後退した部隊が踏みとどまり、先程まで踏みとどまっていた部隊の後退を支援するのだ。
 そうして、後退という脆弱な行動をする味方部隊が一方的な攻撃にさらされるのを防ぐ方法である。

「五〇〇と五〇〇で、殿は一〇〇〇かな。人選は景綱に任す」
「ハッ」

 いつの間にか本陣に顔を見せていた諸将の内、陣代を任せている景綱に命じた。

「問題はその後にどう動くのかだね」
「来た道を戻り、大橋城に入る。その後に菊池川南岸の打越、馬渡、亀尾の城に兵を入れるのでは?」
「そうして、敵の正光寺城と対峙し、菊池川河畔で決戦?」

 珠希は面白くなさそうに言う。

「・・・・はい」

 表情が気になったが、景綱としては頷くしかない。

「父上、それでは珠希様が回避しようとしていた兵の損害が大きくなります」

 息子の方は珠希の表情の意図に気づいていた。

「この戦い、聖炎軍団が打撃を受けるとそれだけで各国が優位となる。今後の世界情勢を生き抜いて行くには戦力が必要だからね」
「・・・・となると、決戦は愚策と?」

 景綱の言葉に珠希は頷いた。

「ならば、ここは城村城を力攻めし、早々に象徴を消し去ってしまえば良いのでは?」
「そうなると、菊池殿は『姉君の仇!』と向かってきそうでは?」
「「「あ~・・・・」」」

 諸将たちが対策を話す中、珠希は思考の海に沈む。

(おそらく、菊池勢は正光寺城を目指しているだろうけども、菊池川を渡河することはないはず)

 飛隈城の立石勢がいるからだ。
 渡河した瞬間、立石勢が東方で渡河し、本拠地が火の海になる。
 だったら先に立石勢を攻めれば良いが、飛隈城を攻撃している間に城村城が落ちる。
 彼らの目的は城村城の解放であるため、これはできない。

(となると、政吉クンは正光寺城に入っていつでも渡河できるという姿勢を見せ、ボクたちを城村城から引き剥がし、菊池川河畔に拘束することが最善)

 膠着状態に陥れば、厭戦気分が広がり、講和となる可能性が高い。
 時間さえ稼げれば、虎熊軍団の来援があるかもしれないのだ。

(まるで、龍鷹軍団の豊後攻めだね)

 龍鷹軍団は決戦を求めたが、銀杏軍団は虎熊軍団の来援を待つために回避。
 龍鷹軍団は南部の堅城を無視して一気に本拠を目指したため、結局決戦となったが、主力軍の殲滅に失敗し、高崎山城の攻略を諦めた。

(菊池川の決戦を経て菊池川北岸に出ても、菊池城の攻略には非常に時間がかかる)

 決戦の勝利を持って講和する未来が容易に想像できる。

(つまり、菊池川の決戦はやってもやらなくても、ボクたちは戦略目的を達成できずに講和となる)

 ならば、やはり菊池川で菊池勢と向かい合うことは愚策だ。
 戦略的敗北条件と言えるだろう。

(対菊池勢に対するこちらの勝利条件は・・・・ふたつ)

 ひとつは象徴である城村城の陥落(政吉個人の感情はともかく)。
 ひとつは菊池城へ追い込むこと。
 これらには聖炎軍団がまだ十分な戦力を保っていることが最低条件だ。
 つまり、決戦回避。

(ひとつ目が不可能になりつつある今、目指すべきはふたつ目)

 どうすれば菊池勢を菊池城に押し込めることができるのか。

「・・・・地図を」
「ハッ」

 小姓に命じて、肥後北部の地図を広げさせる。

「珠希様?」

 相談を続けていた諸将が訝しげに見てくるが、無視。

(城村城から撤退して、山鹿城に入る)

 これは確定。

(その後に菊池川を渡河して―――それは待つかな)

 山鹿から南へ下れば薩摩街道。
 だが、道はそれ以外にもある。
 西へ行けば南関城下を経て柳川に至る(現国道443号線)。
 東へ行けば菊池城手前を経て飛隈城東方を抜けて阿蘇南方へ至る(現国道325号線)。

(東に行くと、菊池勢の勢力圏だが・・・・)

 有力な城は御宇目城、台城だ。
 特に台城は菊池十八外城のひとつであり、菊池氏からすれば重要な拠点と言えた。

(台城は正光寺城からすれば北方半里の距離)

 当然、守備は固めているだろうが、あくまでも後方拠点の可能性が高い。

(ここを落とせば正光寺城は挟み撃ちになり、菊池勢は撤退)

 おそらくは後方の神尾城まで退くか、菊池城まで撤退する可能性がある。

「うん、これだな。問題は時間か」

 台城が落とせなければ、菊池勢の防御正面が台城になる。

(ただまあ、その時は別地点からとかして正光寺城を攻めればいい)

 どちらにしろ、この地点で有力な川もなく、真正面から兵力に勝る聖炎軍団と戦う愚を菊池勢は犯さないだろう。

「山鹿城に撤退後、ここに野村勢一〇〇〇を残したまま、我々は東進する」
「「「え?」」」
「御宇目城を落とし、内田川を越えて台城を攻略。正光寺城にいる菊池勢を圧迫し、この地域から追い出す」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 諸将は地図の上を走る珠希の指の動きを見ながら腕を組んだ。
 彼らなりのリスクを考えているのだろう。

「大橋城が菊池勢に落とされる可能性がありますが?」

 景綱が代表して言う。

「ああ、だが、こちらも台城を落とせば菊池勢の退路を圧迫できる」

 聖炎軍団は山鹿城という物資集積拠点を持っているが、菊池城のそれは正光寺城だ。
 菊池勢が大橋城を落としても台城が落ちた時点で、その物資集積点を失い、退路を断たれた軍勢は瓦解するしかない。
 消耗戦になった場合、不利なのは菊池勢だ。

「工藤と龍鷹軍団には無理しないように命じておけば、壊滅するまで戦うことはないだろう」

 渡河を邪魔し、支えきれないと思えば後退すればいい。

「城村城の攻略は諦めるけども、より一層菊池氏を菊池城周辺に押し込めることができるよ」
「全く、末恐ろしいですね」

 景綱が呆れた口調で言うが、珠希はそれに笑みで応えた。

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 そして、表情を引き締めて命じる。

「重要なのは速度だよ。陣立てとかは任せるね」
「ハッ、仰せのままに」




 鵬雲六年六月十八日、聖炎軍団主力は一斉に撤退を開始。
 殿部隊一〇〇〇は城村城が打って出るかを警戒していたが、城村城は沈黙を保ったために戦闘にならなかった。
 聖炎軍団主力は同日中に山鹿城に到達して陣替を実施する。
 同日には菊池勢は二〇〇〇が増永城に到達。
 翌日には正光寺城へ進むと見られていた。
 菊池城や菊の池城には周辺住民が多く立て籠もっているようで、飛隈城の立石勢一五〇〇を警戒している。
 両軍の主力が近接しており、近々に決戦が行われると、肥後の有力者たちは注目していた。




(―――どうにか、城村城から引き離したな)

 鵬雲六年六月十九日、正光寺城。
 ここに集結した菊池勢は二五〇〇。
 通常動員力よりも多くの兵を動かしているが、防衛戦であるから仕方がない。
 正光寺城の本丸で十波政吉は一息を付いていた。

「これで姉上は安心なさるだろう」

 長いため息と共に白湯を口に含む。
 まさか一気に城村城を突いてくるとは思わなかった。
 じわじわと菊池への包囲を狭めてくると思っていたのだが。

(阿蘇方面へ打って出て正解だったな)

 東方と南方から圧迫を受けていたが、東方の脅威は取り除いた。
 太田高鐘は優秀な武将だが、麾下の兵はまさか攻撃されると思っていなかったのだろう。
 奇襲に混乱した戦力を立て直すために撤退していった。

(返す刀で立石殿を撃破できれば良かったのだが・・・・)

 そうであれば、戦略にもっと幅が生まれていたはずだ。
 立石勢は分散して菊池川南岸の諸城に駐留していたが、菊池勢が攻める前に陣を引き払って飛隈城に集結していた。
 こうなると手が出せない。

「さて、珠希殿は決戦の覚悟があるかな」

 退路を断たれる可能性があるため、対岸の部隊と交流するだろう。
 そして、両軍の主力が川を挟んで向いあう。
 ここで決戦を回避した場合、弱虫と断じられて再び豪族たちが離反する可能性がある。

(珠希殿の軍は多くて四〇〇〇。実質三五〇〇だろう)

 兵力差は一〇〇〇だが、川を防衛線とした半途を撃つでいけば善戦できる。

(膠着状態に持ち込めばこちらの勝ちだ)

「御館、明日は菊池川を越えるので?」

 一門衆である十波政智(鷹取城主)が声をかけてきた。
 一応、従兄弟ではあるが、年は政智の方が十歳も上だ。
 政吉が後を継ぐには幼少すぎると言うことから彼が宗家を継ぐ話もあったが、彼自身が固辞して話は流れた。

「相手は準備ができていない。渡河して蹴散らすのもありだと思うが?」

 全軍渡河ではなく、一部が渡河して敵の守備隊を攻撃する。
 確かに魅力的な作戦だった。

「工藤吉親殿は御船の老将だ。そう簡単には後れをとらないだろう」

 工藤吉親は御船城代だ。
 御船城は益城郡に属しながらも隅本衆に配属されている。
 それは益城郡に対する抑えであり、隅本が攻められた際、後詰め部隊を統率する関係もあったからだ。
 この関係でいつの時代も経験豊富な老将が城代として派遣される。
 一手を率いる部将ではないが、戦上手で粘り強い守備の戦いがうまい武将がその役目に就いていた。

「わずか五〇〇とは言え、こちらが送り出せる部隊も一〇〇〇が限度。逆に翻弄される可能性もあるか」

 政智が腕組みをして考え込む。

「工藤殿を撃破するにはほぼ全軍で突撃するしかないだろうな」
「それができれば苦労しない」
「確かに」

 政吉の言葉に政智が頷いてため息をついた。

「できるのは珠希様の主力軍との睨み合いか?」
「その通り。ただそれほど長い時間も無理だろう」

 菊池勢の正光寺城進出は本拠を突かれる危険性を孕んでいる。
 撃破したとは言え、再編すれば阿蘇方面から再び侵攻を受けるだろう。
 さらに飛隈城に退いたとは言え、立石勢は無傷だ。
 菊池川を越えて直接菊池城に攻めかかるかもしれない。

「持って一週間かな」
「そのうちに動いてくれるといいですな」
「ああ」

 ふたりの視線は北へ飛ぶ。
 そこにいるはずの主――火雲親晴の姿とその背後にいる虎熊軍団を待ち望んでいた。



―――だが、その北に現れたのは虎熊軍団ではなく、聖炎軍団だった。



「―――敵は当然、渡河はしない、か・・・・」

 菊池勢が正光寺城に到着すると、対岸の菊池川には工藤勢が姿を見せた。
 竹束などの防具を前面に出して戦準備をしているのが見て取れる。だが、それは防衛戦の準備であり、渡河攻撃を仕掛けてくるわけではなさそうだ。

「何事だ!?」

 睨み合いが続くこと半刻。
 正面に集中していた菊池勢の背後で煙が立ち上り出したのだった。

「ええい、落ち着かんか!」

 慌てる兵を叱り飛ばす士分も動揺する中、一騎の早馬が本陣に駆け込む。

「申し上げます!」

 居並ぶ菊池勢の部将たちの前で平伏した早馬は背中に矢が刺さっていた。
 見る限り刺さりは浅く、甲冑で止まっているように見えるが、それでも戦を経験したことには違いない。

「台城城代、十波政道の者です!」
「台城か・・・・」

 政吉は呟いた。
 それは煙が見える方向だ。

「今朝に内田城西岸に名島家の旗が揚がり、そのまま怒濤の勢いで渡河。主は城に籠もって戦うも衆寡敵せず、陥落いたしましてございます!」
「なんと・・・・ッ!?」

 政智が思わず立ち上がった。

「して、政道殿は?」

 十波政道も一門衆のひとりであり、政智の妻の兄である。

「分かりませぬ。それがしは陥落の混乱に乗じて脱出しましたので・・・・」
「・・・・そうか」

 それほどの攻撃だったのであれば、討ち死にしている可能性が高い。

「・・・・攻撃に出てきたのは名島勢だけか?」

 名島景綱が率いる八代衆は今や聖炎軍団の主力と言える。
 彼らがいるのであれば―――

「いえ。すぐ後方には主力軍が展開しておりました。今頃は全軍が内田川を越えた頃合いと思われます」
「「・・・・ッ!?」」

 名島勢だけならば反転して討つこともできた。
 他の部隊が渡河中であれば、脆弱な渡河部隊を狙うこともできた。しかし、渡河を終えてしまっているのであれば、隙はない。

(やられた!)

 台城と正光寺城の間には迫間川が流れているため、すぐに背後を突かれることはない。だが、菊池城までの道を押さえられた。

「すぐに一手を増永城に入れよ!」
「ハッ」

 伝令が駆けていき、後備の三〇〇が慌てて後退を開始した。
 増永城は正光寺城の北東に当たり、迫間川の渡河地点を守る重要な拠点だ。
 ここを落とされた場合、菊池城へ撤退する菊池勢の側撃が可能になる。

「正光寺城はどうする?」

 政智の問いに政吉は歯がみしつつ、絞り出すように答えた。

「放棄以外ない」

 台城を取られた以上、正光寺城というか、迫間川と菊池川の合流点付近はただの突出点だ。
 包囲される未来しか見えない。

「全軍が菊池城へ退く。南岸への手当は菊の池城、城林城、戸崎城に、北方は稗方城に兵を入れる」
「・・・・菊池城下での一戦か・・・・」

 政智が小さく呟く。
 先の城は菊池城と連携して動く支城だ。
 つまり、政吉は最終決戦を望むということである。

「ならば、大将は是が非でも撤退しなければならないな」
「・・・・そうなる。任せられるか?」

 任せるのは殿軍という意味である。
 聖炎軍団が本気で菊池勢を潰そうと考えているのであれば、増永城はもうまもなく激戦となるだろう。
 それを横目に菊池勢本隊が撤退するには正面の工藤勢の渡河を牽制する必要があった。

「任されよ」

 政智が大きく頷き、自身の鷹取勢へと踏み出す。

「"菊池"の命運を断ち切らせるわけにはいかん」
「・・・・頼んだ」

 立ち去る背中に軽く頭を下げ、政吉も立ち上がった。

「陣払いだ! 急げ!」




 鵬雲六月十九日。
 聖炎軍団は菊池氏の支城・台城を攻略し、その守将であった十波政道を討ち取った。
 政道は政智と並ぶ有力な分家であり、政吉を支える片腕とも言える人物だった。
 台城の失陥により西方の防波堤である内田川を越えられた菊池勢は正光寺城からの全面撤退を開始。
 最初こそ整然としていたが、迫間川向こうに翻る聖炎軍団の旗を見て、動揺が走る。
 その動揺は聖炎軍団が鯨波の声を上げて、増永城に攻め寄せたことでピークに達し、ほぼ潰走という形に移行した。
 しかし、それでも政吉は菊池城に戻った兵と城下の民を動員して徹底抗戦の構えを見せる。


 聖炎軍団による北肥後統一戦は城村城包囲から所変わって、菊池城攻略を目指すものとなった。
 ここに来て、玉名衆、山鹿衆、菊池衆を本拠地に追い込んだ形なるが、そのどこでも小競り合い以外の衝突は起きていない。
 全て聖炎軍団による機動作戦がはまっており、三衆は見事に翻弄されていた。
 決戦回避思想なのに、いや、故にというべきか。
 両軍の戦力は温存されたまま、戦役は佳境に向かっていた。




「―――さすがに堅いね」

 鵬雲六年六月二〇日、増永城で聖炎軍団は軍議を開いていた。
 彼らの前には菊池城を中心とする、菊池城防衛線が描かれた地図がある。

「菊池城は東方を後背地とし、西方より攻め寄せる敵軍に対応する防衛方針を持っています」

 景綱の言葉に諸将も頷いた。

「その昔、虎熊軍団が攻め寄せた折も隅本を攻める本隊とは別に攻め寄せた軍勢を撃破しています」
「肥後北部一の城とも言われますな」

 諸将たちが言うように、規模も防御力も肥後北部随一だ。
 籠城された場合、その攻略には時間がかかるだろう。

「・・・・うん、やっぱりそうだね」

 珠希は視線を末席に座る武将に向けた。
 その視線に気づいた彼は肩身が狭そうにうつむく。

「やっぱり、キミの言う通りだね」
「・・・・恐縮です」

 その武将が小さく頭を下げると、珠希は勢いよく立ち上がった。

「決めたよ」
「・・・・では?」

 座したままの景綱が問うと、珠希は大きく頷いた。

「うん。ボクはこの軍から離脱する。大将は景綱、キミだ」
「ハッ」
「政吉殿は意外と戦上手のようだから、気をつけてね」
「それはお互い様ですな」
「ハハッ、確かに」

 笑みを浮かべた珠希は視線を重綱に向ける。

「命に代えてもお守りします」
「う~ん、ボクとしては世継ぎが生まれるまでキミにも死んでほしくないんだけどね」

 真面目な重綱を茶化し、視線を先の武将に向け直した。

「さ、行くよ、政智殿」
「・・・・・・・・・・・・ハッ」










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