「銀杏の落葉」/五



 臼杵城。
 別名、丹生島城。
 この城は忠実において、島津氏の豊後侵攻作戦である豊薩合戦の舞台となった。
 家督を譲っていたが、事実上の大友氏トップである大友宗麟が籠り、日向口の総大将である島津家久が攻め寄せた。
 この当時の城は名が示す通り、島だった。
 引き潮の時に陸地と繋がるが、基本的には水軍の協力が不可欠となる。
 それ故に島津軍は攻めあぐね、海岸線に集中したところを城に配備されていた大筒――フランキ――によって砲撃されて大きな被害を出している。
 この物語では引き潮時に陸地と繋がる部分は埋め立てられ、三の丸になっているが、それでも水上戦力がなければ攻略はおぼつかないのは同じだ。
 そして、この物語の攻め手――龍鷹軍団には海軍がいた。
 それも大口径の大砲を持つ西海道最強の海軍が。






臼杵城攻防戦scene

「―――ほげ~・・・・」

 鵬雲五年十一月二三日、臼杵湾。
 その日、その地は轟音に支配されていた。
 その主役にいるのは、龍鷹海軍が誇る霧島級戦列艦「霧島」、「桜島」、「屋久島」だ。
 三隻の巨艦がその横腹に揃えた砲門を開いて一斉射撃を加えるごとに、砲撃音が湾内を支配する。
 三隻により三方から砲撃を受ける臼杵城は数十の砲弾によってズタズタに引き裂かれていた。

「これは・・・・」

 間抜けな声で放心している忠流の横で、忠猛が思わず目を覆う。
 白漆喰で固められた城壁が異音と共に大穴を開けられる。
 無数の砲弾が集中した櫓が轟音を立てて崩れ落ちる。
 不運にも直撃した兵が血霧に取って代わる。

「無茶苦茶ッスね」

 衛勝がお手上げとばかりに肩をすくめた。
 当然、臼杵城もやられっぱなしではない。
 城壁や櫓から鉄砲を突き出して戦列艦向けて砲撃している。だが、射程距離の違いというよりも鉄砲の弾丸では艦体を覆う鉄板を貫くことができない。
 むなしく火花を散らして弾かれるだけだった。
 そして、その抵抗を見せた場所に砲弾が集中し、力尽くでその抵抗を奪っていく。
 三隻の砲撃開始から四半刻も経てば、臼杵城からの反撃は下火になった。

(全滅したわけじゃあないだろう)

 海上から城は高低差がある。
 命中する砲弾は壁や櫓と言った障害物に命中するだけで、城内の広い範囲は放物線を描いて飛び越えてしまうだろう。
 つまり、反撃せずに城内に固まれば、砲弾から身を守ることができるのだ。

(ただ、そんなことをしていると・・・・)

 砲撃に紛れ、いくつもの小舟が城へ向かっていく。
 本丸南下には船着き場として機能する一段低い低地が存在していた。
 そこにあった卯寅口門は滅多打ちにあって破壊されている。そして、そこを守備していた兵は死傷するか撤退していた。

「海上機動戦ではなく、敵前上陸戦か・・・・」

 海上機動戦は海を使って、敵の防御が手薄な地点に上陸。
 多くは防御側の背後を取る戦法だ。
 一方、敵前上陸作戦は防御側に対して海から正面突破する戦法である。
 前者に対して後者はハードルが高く、大きな損害を出す作戦と言える。
 その理由は上陸中の軍は脆弱だからだ。
 だが、その脆弱な軍を攻撃する敵軍は城内に引きこもっている。
 敵前上陸なのに、無血で上陸できた。

「これは大きな打撃となるぞ」

 これを防ぐには上陸支援を担当する龍鷹海軍の戦列艦を叩く以外にない。
 利便性を重視して海に近い地域に築いた城はアウトレンジで滅多打ちに合う可能性が高い。
 これは"荷揚城"という異名を持つ大分府内城も同様と言えた。

「寄せ太鼓を鳴らせ」

 海軍陸戦隊が卯寅口門を超えて城内へ攻め入ると同時に直武が指示する。
 すぐに寄せ太鼓が鳴らされ、三の丸前に展開していた神前勢が前進を開始。

「突撃せよ!」

 三の丸の守備隊が明らかに動揺しているのが伝わってくる。
 本丸も激戦になったのか、剣撃の音が鳴り響いていた。

「落ちたな」

 城内戦闘が始まって四半刻、城内から炎が上がる。
 位置的に本丸天守だ。

「戦闘停止命令を出せ」
「負傷者の治療も忘れずに。敵味方だぞ」

 直武の指示に忠流は指示を重ねる。
 城が陥落しても戦う兵は少ないし、救える命は救うべきだ。

「銀杏軍団は見たと思うか?」
「見たでしょう」

 忠流の言葉に幸盛が答える。
 質問の意味は、臼杵城の陥落を銀杏軍団本隊の偵察隊が見ていたかというものだ。
 臼杵城周辺は龍鷹軍団で封鎖されているが、大分平野との間を隔てる山地は銀杏軍団側の勢力圏だ。
 そこからならば臼杵城の様子は見える。

「これで待っていても、南部が陥落すると理解しただろうな」

 それを阻止するためには龍鷹軍団を戦で排除するしかない。
 つまり、府内城に展開している敵主力は南進して龍鷹軍団と決戦に及ぶしかないのだ。




 鵬雲五年十一月二三日、豊後国南部・臼杵城陥落す。
 この報は同日中に府内城に届けられ、籠城する佐伯城、岡城にも翌日には報告された。
 龍鷹軍団は海軍からの艦砲射撃で臼杵城の火力を圧倒。
 近づく寄せ手に反撃することができず、城内戦闘に移行した。
 奇襲に近い形で、一気に本丸に討ち入られた臼杵城は有力な侍大将、物頭、組頭を高城川の戦いで失っていたこともあり、ほとんど抵抗することなく天守へと追い詰められた。
 砲撃で被害を受けた天守では抗戦できないと判断した城主・田中勝幸は天守に火を放つ。
 燃え盛る天守の中、一族は自刃して果てた。

 寄せ手を指揮した海軍陸戦隊の指揮官は戦闘停止命令を受けて残党狩りも停止、降伏を呼びかけた。
 結果、籠城兵一〇〇〇の内、死者・行方不明一二七名、負傷二九〇名を出し、生存者のほとんどは捕虜となった。
 龍鷹軍団の被害は死者一三名、負傷四〇名と僅少であり、攻防戦は龍鷹軍団の圧倒的勝利となる。

 龍鷹軍団は臼杵を物資集積拠点として使用することが可能になり、豊後南部の山地地帯という兵站的障害を、海路を使うことで克服した。
 同地守備に負傷者を含む一〇〇〇を残し、龍鷹軍団一万は十一月二五日に西進を開始。
 同日に武山城、筒ヶ山城を攻略。
 翌二六日には鍋田城を落として大野郡の大野川東岸をほぼ占領する。
 これにより豊後南東部は佐伯城を残して龍鷹軍団の制圧下に落ちた。




「―――他の戦線も順調か?」

 十一月二六日、占領した鍋田城近隣での野営準備に追われる本隊の中、いち早く用意された本陣で忠流が言った。

「そのようですな。・・・・怖いくらいに」

 応じたのは鳴海直武だ。
 この場には彼以外に忠流の側近しかいない。
 本隊だけでなく、軍団全体のことを理解しているのは忠流と直武、その他に側近である御武幸盛くらいだ。

「大きく動いたのは肥後口です」

 肥後口から侵攻した部隊は兵站維持と岡城包囲を聖炎軍団に任せ、佐久勢と村林勢に分かれて周辺諸城の攻略に乗り出していた。
 岡城西方に位置して兵站路を扼する位置にある騎牟礼城を佐久勢が、岡城南方に位置する津賀牟礼城を村林勢が攻略。
 その後に佐久勢は北回り、村林勢は南回りで直入郡の制圧を続けた。
 十一月二十六日には岡城東北東に位置する高尾城、志賀城を相次いで落とし、岡城の広域包囲を完了させた。
 そして、再度両勢はさらに東方の小牟礼城と鶴ヶ城を攻略するために動く予定だ。
 この一連の軍事行動の結果、龍鷹軍団の勢力下に佐伯城と岡城が取り残される形となり、両城を解放するには龍鷹軍団の撃破が必須となる。
 なお、先の城々にはほとんど兵は残されておらず、銀杏軍団に損害を与えられなかった。
 このため、占領域の確保に敵主力軍の撃破が必要なのは龍鷹軍団も同じだ。
 両軍は序盤での後詰決戦の機運を逃し、龍鷹軍団の豊後侵攻戦は新たな局面へ突入したのである。






府内城scene

「―――いったいどう考えておられるのか!?」

 鵬雲五年十一月二七日、府内城。
 銀杏軍団は岡城から脱出してきた使者を迎えていた。
 その使者は城の者が勧めた風呂の提案を断り、砂塵にまみれた姿のまま本丸御殿の大広間で声を荒上げている。

「もう少し落ち着かれよ」
「これが落ち着いていられますか!?」

 宥めようとするが、使者の激昂は止まらない。

「聞けば臼杵は落ちたとのこと。ここにこんなに兵がいながら何たることか・・・・ッ」
「・・・・ッ!?」

 律は上座に座らず、別室で話を聞くだけだ。
 それは当主ではなく、正式な文書発行人でもないためだ。
 あくまでの実務代行は勝則であり、特に軍事的なことは陣代である彼の職分だった。

「岡城の状態はどうか? 敵は力攻めに出ているのか?」

 勝則は落ち着かせることを諦め、激昂させたまま岡城の情勢を理解しようとする。

「・・・・最初は小手調べなのかあの手この手で攻めてきましたが、それも三日ほどでした」
「岡城の堅固ぶりに舌を巻いたのでしょうな」

 物頭のひとりが使者をよいしょした。

「ええ、その通り。現時点で岡城は落ちる気配がありません」

 その狙い通り、使者の鼻が伸びる。

「囲んでいる敵部隊は判明しているのか?」
「当初は龍鷹軍団と聖炎軍団が半々でしたが、私が城を脱出する前に龍鷹軍団が分離しました」

 「その部隊が周辺の支城を落として回っています」と鼻息荒く続けた。

「岡城を聖炎軍団で囲んだまま、か。この方面の龍鷹軍団は本隊と合流する可能性がありますな」

 梅津正俊が言う。
 彼は高城川の戦いで壊滅した梅津家を継いだ人間だ。
 梅津家は宗家断絶の憂き目に遭い、数代前に分家・独立した家系から正俊を招いて当主に据えた。
 三九歳になる正俊の一族も兄である当主が高城川の戦いで討ち死にしたが、その嫡男が継ぐことで命脈を保っていた。
 梅津家の領地は由布のため、府内城に集結した軍に加わっている。

「肥後口から侵攻した龍鷹軍団は約三〇〇〇です」

 という使者の発言を受け、勝則は顎をさすりながら言う。

「鍋田城にいる龍鷹軍団は一万だったか」
「松尾には二五〇〇が駐屯しています」
「これに三〇〇〇が加わると・・・・」

 総勢一万五五〇〇。
 府内城にいる六〇〇〇の二倍半。

(私の言った通りじゃない・・・・ッ)

 律は歯噛みした。
 敵が臼杵にいる時に攻撃していたのならば、野戦軍での兵力差はそれほど生まれなかっただろう。

「して、大分はどのような戦略を持っているのでしょうか?」

 使者は勝則に迫るように膝で前に進み出た。

「私はそれを聞いて岡城に届ける任務を持っています」

 主力軍を率いる部将たちの危機感が伝わり、使者も冷静になったようだ。
 己の使命を思い出し、本隊の意思を確認する。

(私もすっごい気になる・・・・ッ)

 何故動かないのか。
 国境の諸城が耐えている時に動かず、結果的に見殺しの形になりつつある。
 そうして稼いだ時間にどんな意味があるのだろうか。

「‥‥本隊は虎熊軍団の増援を待っている」

 勝則は重い口を開き、使者に言った。

「虎熊軍団の・・・・?」

 使者の口がポカンと開く。

「し、しかし、虎熊宗国は音信不通では―――」
「豊前にいる熊将・白石長久殿との連絡は取れている」
「「―――っ!?」」

 驚きは律と使者の二人分。

(な、なんてこと・・・・)

 その事実に律はもう一つの驚きを覚えた。
 つまり、本隊の部将たちは虎熊軍団との連絡を知っていたのだ。

「豊前には先の遠征に参加した長門衆の一部が残っており、単独で一万を興すことが可能とのことだ」
「一万・・・・」

 この一万に銀杏軍団が加わる。
 この府内城に六〇〇〇の野戦軍がいる。
 しかし、これは豊後-豊前国境守備隊を含んでいない。
 豊後北部国境の兵を動員すればもう一〇〇〇は加えられる。
 となれば合計一万七〇〇〇。
 龍鷹軍団主力軍を上回る。

(これを待っていたというの・・・・?)

「でも・・・・」


―――今ここに、虎熊軍団はいない。


「―――最悪の場合、大分平野を放棄し、高崎山城に籠城する」
「―――っ!?」

 その言葉を聞いた瞬間、律は別室から飛び出した。
 後ろから侍女の声が聞こえるが、それを無視して廊下を駆け抜ける。
 目的地は息子が待つ自室だ。

「千若丸ッ」
「ワゥッ」

 自室に飛び込むなり息子を抱きしめて畳に転がる。
 千若丸は一瞬きょとんとした後、面白かったのかキャッキャッと笑う。

「ひ、姫様・・・・?」

 あやしていた乳母が目を白黒させているが、それは無視だ。

「絶対守るからね・・・・ッ」

 高崎山城に立て籠るということは最終決戦を意味する。
 負ければ滅亡だ。

「母上~」

 ペチペチと小さな手が頬を叩いた。

「くるし~」
「あ、ごめん」

 強く抱き過ぎたようだ。
 力を抜くとするりと千若丸は腕の中から抜け出した。

「あっ。―――あ・・・・」

 千若丸を視線が追い、部屋の入口に立つ足に気付く。
 そろそろと視線を上げて見れば、そこには少し困った顔をした勝則がいた。

「勝則殿・・・・」
「少し、よろしいでしょうか」
「・・・・はい」

 律は居住まいを正し、視線を乳母に向ける。

「千若丸を頼みます」
「はい。―――若様、こちらへ」
「んぅ?」

 小首を傾げながらも手を引かれて部屋を出ていく千若丸の大人しさに頬を緩めた。しかし、その頬を見る視線に気づき、表情を引き締める。

「それで?」
「はっ。これからの戦略について詳しくお話しようと思い、伺いました」
「・・・・先程の使者は?」
「今日はここに泊まり、明日早朝に岡城へと向かうとのことです」
「そうですか。敵陣を突破してきた豪の者です。しっかりともてなすように」
「承知しております」

 まず薄っぺらい、定型文のようなやりとりをした後、勝則が大きく息を吸った。

「まず、相談もせずに戦略を決めて申し訳ありませんでした」

 勝則が深々と頭を下げる。

「いろいろ考えた末、弱体化した我が軍での野戦は荷が重いと判断しました」

 高城川の戦いの被害は高級部将の討ち死にだけではない。
 それとほぼ同じ比率で物頭や組頭、歴戦の兵士が討ち死にしていた。
 結果、隊列を組んで行進することすら難しいという組もいるなど、練度という面では最低だ。
 野戦にて同数で激突しても鎧袖一触される可能性が高い。
 そんな部隊が戦えるとすれば籠城戦だ。
 故に緒戦は国境城塞で迎え撃つ策に出た。

「ここで時間と兵を浪費してもらえばよかったのですが・・・・」

 勝則の顔が苦渋にゆがむ。
 龍鷹軍団は堅いと見るや抑えを置いて進撃を続けた。
 結果、龍鷹軍団は抑え分の兵力は前線から消えたが、多くの占領地を得ている。
 銀杏軍団は国境の堅城以外から兵を引き上げさせたため、これらの地域は無血開城に近い形で敵の手に渡った。
 銀杏軍団は各個撃破されることはなかったが、多くの城と地域を喪い、その地域を支配していた家臣団から突き上げを食らっている。

「結果的に龍鷹軍団は兵を消耗するどころか集結する兆しを見せています」

 そして、銀杏軍団が当てにした虎熊軍団は来ない。

「姫様、我々には三つの選択肢があります」
「・・・・意外と多いのですね」

 思わず嫌味を言ってしまったが、勝則は嫌な顔ひとつしなかった。

「ひとつは後詰決戦に打って出ることです」

 集結した龍鷹軍団は大野川を下って大分平野へ侵攻するだろう。
 そうなれば立ちはだかるのは鶴賀城だ。
 ここには兵七〇〇、傭兵や民兵八〇〇の一五〇〇が立て籠もっていた。
 小振りな城だが、攻め口が限られており、堅い城と言える。
 そう簡単には落とせないだろう。
 だが、ここは大分平野の入り口とも言え、ここを放置したまま大分平野に侵攻することは兵站上のリスクが大きかった。
 必ず激しい攻防戦となるだろう。
 ここで乾坤一擲の後詰決戦に挑む。


「ふたつ目は虎熊軍団の後詰を信じること」

 この場合、大分平野を放棄、または伏兵を使った不正規戦を駆使しながら高崎山城に籠城。
 虎熊軍団の来援を待つ。


「三つ目は名誉の戦いです」

 大分平野に陣を敷いて待ち構え、正々堂々真正面から主力決戦に挑む。
 敗北した場合は降伏する。


「三つ目は論外です」

 律は首を振って否定した。

「最初から負けが決まった勝負に出るなど、どこが名誉ですか」
「華々しく散るのは武士の―――」
「黙りなさい」

 きつい口調で勝則の発言を遮る。

「武士の自己満足に付き合わされる女子供の気持ちを理解できますか?」

 武士は戦って死ねばいい。
 だが、その後に残される女子供の運命は悲惨だ。

「・・・・承知いたしました」

 勝則は素直に頭を下げた。

「基本は後詰決戦。高崎山城に籠もるのは次善の策でしょう」
「まあ、そうなるでしょうね」

 高崎山城に籠もることを前提にした場合、鶴賀城を見逃すことになる。

「して、今から打てる手は?」
「ありません」
「急ぎそれの支度を―――今なんと?」

 先の戦略が見えたので急ぎ動こうと律が急かそうと腰を浮かせた。しかし、それもすぐに止まった。

「現時点で我々にできるのは兵の鍛錬のみです」
「鍛錬、のみ?」

 確かに先程圧倒的に練度に劣ると言っていた。
 このため、兵の調練を行うことは理解できる。

「しかし、それだけ・・・・?」

 今この瞬間も豊後南部は龍鷹軍団の軍靴に蹂躙されているというのに。

「それだけです。後詰決戦を選択するというのならば敵がこちらの想定する決戦場に侵入するまで待つしかありません」
「・・・・・・・・・・・・」

 後詰決戦を想定する鶴賀城は敵主力軍の侵攻路だ。
 それ以外の侵攻路は敵主力軍のいる位置からは遠い。
 だから、特に敵を誘引する必要はないのだ。

「何それ。・・・・・・・・それだと龍鷹軍団もここで後詰決戦に出るって分かるのでは?」
「でしょうなぁ」

(鷹郷忠流は戦略家。馬鹿正直に進んでくるとは思えない・・・・)

 それこそこちらに調略を仕掛け、自軍に有利なように仕向けることだろう。

(やっぱり、この人は・・・・繋がっているのでは・・・・)

 龍鷹軍団の手のひらの上の軍略しか語らない勝則への信用がまた落ちたのを自覚した。

 こうして、銀杏軍団は特に動きを見せることなかった。
 それは敵である龍鷹軍団はもちろん、各地で抵抗を続ける銀杏軍団にも疑念を抱かせる。だが、実情として動きようがなかったということだった。










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