開戦「宴の始まり」



 薩摩国鹿児島城。
 その天守閣から鷹郷忠流は城下を眺めていた。
 城下には集結した兵たちが鹿児島の夜に溢れている。
 先日発された総動員令に従って集結したのだ。
 出立は明日。
 皆、最後の平和を楽しんでいるのだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 忠流は城下に向けていた視線を右へと向けた。

「来た、か・・・・」


「―――"呼ばれた"からな」


 天守閣の最上階まで飛び上がってきた者は、鈴の音を鳴らしながら欄干に降り立った。
 いや、実際に降り立ったのは彼女のしもべである霜草久兵衛だ。
 声の主は彼の背中にしがみついていた。

「『鈴の音』・・・・」

 忠流は口の中で呟き、己の中の疑念を確信に変えた。
 『鈴の音』候補である紗姫と昶は不在である。
 紗姫は霧島神宮で政務を、昶は宮崎を訪れた朝廷の要人と会っている。
 それを承知で、忠流はふたりに鈴を送り付けたのだ。
 『鈴の音』と会うというメッセージとして。
 そして、『鈴の音』は「呼ばれた」と表現した。
 それは『鈴の音』の正体がふたりの内、どちらかだと宣言したようなものだ。

「さて、何の用?」

 『鈴の音』の口調は紗姫と昶のものを使い分けているようで、忠流には判断できない。
 また、顔自体も何らかの霊術が働いているらしく、はっきりと見ることはできなかった。
 黒嵐衆を潜ませているが、おそらく彼らでも無理だろう。
 だからこそ、彼女はここに現れたのだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 ならば、することはひとつである。

「『鈴の音』」
「何じゃ?」


「―――お前は、龍鷹侯国の敵ではないな」






 西海道の地に戦雲が立ち込める。
 西海道は五大国五地域に分かれていた。
 虎熊宗国、龍鷹侯国、銀南国、燬峰王国、聖炎国、北日向、西筑後、北肥前、北東肥後。
 このうち、大半が虎熊、龍鷹のどちらかに属していた。
 燬峰王国は中立で、北肥後は燬峰王国と虎熊宗国が分割している。
 残りは虎熊宗国と龍鷹侯国に分かれていた。
 虎熊宗国、銀杏国、北日向、西筑後、北東肥後の約十一万。
 龍鷹侯国、聖炎国の約四万七〇〇〇。
 動員力では圧倒的に虎熊宗国が有利だが、東の守りを固めなければならないため、全て前線へ投入できない。
 一方で龍鷹侯国の後方は海で、強力な海軍が守っている。
 戦争になれば、ほぼ全力を前線に投入できた。
 筑前国と薩摩国。
 西海道の北と南に本拠を持つ以上、間にまたがる西海道の国々を巻き込んだ、大戦役が始まる。
 それは後の歴史家は戦場となった土地からこう名付けた。

―――「日肥の乱」、と。

 この戦役の中、忠流は如何様にして、先の結論に至ったのだろうか。










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