第二戦「竜の挫折と炎の再起」/一
鵬雲四年二月七日、鹿児島城。 龍鷹侯国の本拠地であるここに、<紺地に黄の纏龍>の旗指物を翻す兵が集っていた。 約九〇〇〇。 総大将・鷹郷権少納言忠流。 副大将・鷹郷従流。 実質的大将として、鳴海陸軍卿直武。 先備・長井兵部大輔衛勝二〇〇〇。 次備・武藤兵部少輔統教一〇〇〇。 これが第一陣を構成し、第一陣総大将は長井衛勝。 三備・鳴海盛武率いる鳴海勢二〇〇〇。 四備・鳴海直武率いる旗本衆一五〇〇。 以上が第二陣で、主に兵部省戦力。 本陣・鷹郷忠流・従流率いる近衛衆一五〇〇。 後備・瀧井式部少輔信成率いる旗本衆一〇〇〇。 これらが行軍序列に従い、粛々と城門を抜けていく。 今戦役に参加する龍鷹軍団はこれだけではない。 人吉城からは佐久頼政率いる一五〇〇、出水城から村林信茂率いる五〇〇が合流し、統一指揮は佐久式部大輔頼政の予定だ。 総勢一万一〇〇〇。 目指すは肥後国八代城。 南肥後に聳え立った堅城であり、築城以来一度も陥落したことのない難攻不落の名城である。 「―――ま、八代城は手始めだ」 「本命は違うんですよね・・・・」 鷹郷忠流が呟いた言葉に、隣で輿を進める鷹郷従流がため息をついた。 「ああ、兵はちょいと少ないが、俺の目標はもっと先だ」 「はぁ・・・・うまいこといければいいですけど」 「頑張るのは俺たちじゃない」 パチリとウインクをしてみせる。 なまじ女顔なだけあって、嫌に似合う。 「兵を率いながら、なんて他力本願」 「他力本願上等。人は自分にできることだけをして、他のことは他にできる奴に任せるのが一番」 「そ、そうですよね!? 別に馬に乗れなくたって―――」 「それとこれとは別問題」 「うぐっ」 従流は輿を持つ屈強な男たちに視線を向けるが、すぐに忠流に戻した。 「それよりも勝算は?」 「なくて動く俺だと思うか?」 「なくても動かなければならない状況だとは思いますけどね」 「じゃ、今が千載一遇の機会なんだろ」 忠流は軽く答え、空を見上げる。 「頼んだぞ、実戦指揮官」 「やっぱ無策なんじゃないんですか!?」 兄弟の戯れる声を聞きながら、兵士たちは歩みを進める。 その先に歪んだ因縁の終着点があると信じて。 鷹郷忠流side 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 時が遡ること、三ヶ月。 鵬雲三年十月一日、鹿児島城。 鷹郷忠流は自室でむくりと身体を起こした。 「あー・・・・」 忠流はゆっくりと頭を振る。 体は熱くなく、どうやら熱は引いたようだった。だがしかし、それでも問題がある。 「・・・・ちょっと、痛い・・・・」 熱とは違う体調不良に顔をしかめた。 鈍痛が全身に残っている。 「くそぅ、あの女・・・・」 忠流は水俣城攻囲部隊視察において、火雲珠希による奇襲作戦を受けた。 それに対応するために津奈木城に向かっていたところ、珠希本隊から奇襲を受ける。そして、乱戦となって近衛衆が混乱、本陣への突撃を許した。 「あれは・・・・霊装だよな・・・・」 放たれた火矢は地面に着弾するなり爆発。 衝撃波で弾き飛ばされた忠流は意識を失う。 それから近衛衆は何とか戦線を離脱し、鹿児島城へと帰還したのだ。 「しかし、霊装か・・・・」 霊装。 霊力を込めることで霊術が発動する道具一般を示す言葉であり、神社や寺が保有していることが多い。 しかし、最近まで休眠状態で反応しないものが多く、一般的にはただの宝物と見られていた。 戦場では霊術よりも鉄砲などの科学兵器が重視されている昨今、霊装の存在は忘れ去られつつあったのだ。 (最近はどうにもよく復活しているらしいな) 忠流が持つ片鎌槍・<龍鷹>。 従流が持つ数珠・<鷹聚>。 燬峰王国国王・燬羅尊純が持つ鉾・<普賢>。 虎熊宗国にもどうやら存在しているらしく、近年ではありえない数だ。 ("鈴の音"と関係しているのか・・・・) 彼女が持つ鈴も霊装の類には間違いない。 さらに燬羅家の氏神神社――温泉神社を壊滅させた攻撃も、霊装によるものと調査報告が上がっていた。 「ううむ・・・・」 眉間にしわを寄せ、腕を組む。 「―――御館、起きました?」 うめき声が聞こえたのか、障子の向こうから声がした。 「ああ、弥太郎か」 長井弥太郎。 龍鷹軍団最強部隊を率いる長井兵部大輔衛勝の嫡男であり、同じ通称を持つ少年だ。 未だ十二才というのに大人顔負けの体格を持っており、先の珠希勢遭遇戦が初陣になった。 気絶した忠流を抱え、寄せる敵兵を蹴散らして離脱したのは彼である。 以後、忠流は弥太郎を小姓のひとりとして傍に置くことにした。 (と言っても、学校には行かせているが) 中間指揮官養成のために忠流が設立した式部省直轄の士官学校。 昼間はここに弥太郎は通っている。 弥太郎だけでなく、側近の御武幸盛もだ。 忠流も通いたいのだが、周囲が恐縮してしまって雰囲気をぶち壊すことから諦めた。 「とりあえず、入れ」 「へい」 弥太郎はあまり敬語が得意ではない。 その辺りを衛勝が気にしているが、忠流は気にしていなかった。 「・・・・眩しい」 「えー、開けろって言ったの御館ですよ」 障子の隙間から差し込んだ夕日が忠流の顔を照らす。 久しぶりともいえる日の光に体が拒否反応を起こした。 「起きたんならもぞもぞと布団に戻らんといてください」 「眩しい」 「不健康っすよ?」 「不健康だからな」 「まあ、そうっすね」 「納得されるのも癪だな」 理不尽な不満を示し、忠流は再び体を起こす。 「重臣連中は?」 「ただいま、戦評定中。議題は―――」 「佐敷城、だろ」 議題とその経過の予想ができた忠流はゆっくりと立ち上がった。 「これ以上、寝てはいられないな」 「支えますよ」 そう言って弥太郎は忠流を背負い上げる。 「支え、か?」 「身長差の問題で肩を貸すと逆に辛いかな、と」 「・・・・悪かったな、小さくて」 「いえ、別にいいっす」 「後で『忠』の字をやろう」 「遠慮するっす」 「・・・・・・・・どうして、俺が偏諱してやろうというやつはみんな断るんだろう」 弥太郎しかり、幸盛しかり。 「縁者だと見られるのが嫌だからじゃないっすかね」 「断った本人に言われると傷つくなー」 棒読みで言った忠流は、溜息と共に命じた。 「大広間へ」 「御意」 戦評定scene 「―――とりあえず、膠着状態に持ち込みましたか」 鷹郷従流は陸軍卿・鳴海直武からの報告に溜息をつきながら言った。 忠流が負傷して以来、佐敷城攻防戦における戦略の細部は従流と兵部省が決めている。 といっても現状把握に努めたに近かった。 「次の手は頭を悩ましますね」 従流が担当したのは「佐敷城へ救援部隊を派遣する」ことである。 比島から来た兵糧を手に、佐久頼政率いる二〇〇〇が人吉城を発し、退路に五〇〇を残して一五〇〇が佐敷城に到着した。 聖炎軍団は四〇〇〇だったが、一揆を警戒して周辺に部隊を配置していたらしく、佐敷城東方には一〇〇〇が展開しているのみだった。 佐久は佐敷城の藤川と計らって突撃。 乱戦の間に兵糧部隊が囲みを突破して佐敷城に入ったのだ。 続く戦いで兵も入れようとしたが、救援に出た名島勢に阻まれて失敗した。 「佐敷城の自壊は免れましたが、ようやく五分五分・・・・いえ、三分七分に持ち込んだ、というところです」 直武は言外に膠着状態を否定する。 沈黙している佐敷衆が蜂起すれば佐久勢は崩壊しかねない。 一応、その対策に五〇〇も割いているが、それ故に一五〇〇に減った佐久勢は聖炎軍団に対して有効とは言えないのだ。 「結局はさらなる兵糧の調達と後詰が必要、ということですね」 「はい。それも聖炎軍団の援軍が現れる前に、です」 火雲親晴は兵糧不足による領国の一揆を監視するために軍を動かしてはいないが、後詰に使える戦力はすでに隈本城に集結している。 隈本衆と宇土衆を合わせて四〇〇〇は出せる。 そうなれば八〇〇〇であり、佐久勢ごと粉砕されかねない。 「増援部隊の数は聖炎国の兵糧がどのくらいあるかに左右されます」 民部卿・御武昌盛が発言した。 「雲仙岳の噴火で大きな損害を出したのは、聖炎国です」 それでも軍事行動を起こせるだけの兵糧があったのは、それまでの蓄えと虎熊宗国から購入したからである。 「聖炎国はそれほど裕福というわけではない。必ず底がある」 「逆に言えば長期化して兵糧を消耗するよりも早く増援を送って踏み潰すことを選びそうだ」 式部卿・武藤晴教が言った。 「佐敷川の戦いにおける人吉戦線では無理な攻めをしたそうじゃからの」 「と言っても、兵糧問題は龍鷹軍団にとっても深刻だ」 直武が腕を組み、唸りを上げる。 「―――ならば、まずその兵糧問題を解決しようか!」 スパーンと障子が開かれ、彼らの主が姿を現した。 「兄上・・・・」 突然姿を現した兄を見て、従流はぽかんと口を開ける。 「待たせたな」 余裕たっぷりに言い放った忠流は上座に向かう。 「―――少なくとも寝間着で小姓に背負われている変な人は待っていなかったと思います」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 無言を貫き、弥太郎に上座で下された忠流は、開けっ放しの障子の向こうに立つ少女を見遣った。 「よく俺が起きたと分かったな」 「本当に、ほんっとーに不本意ですが、私の一部はあなたと繋がっていますから」 迷惑そうに吐き捨てた紗姫は、大広間に居並んだ重臣に一礼して入室する。そして、末席に座った。 「・・・・戦評定に参加する気かよ」 「兵糧問題は霧島神宮にとっても大問題です。その解決方法を語ろうとしているのですから、聞いてもいいでしょう?」 「・・・・・・・・・・・・好きにしろ」 「ええ、断られても好きにします」 そう言った紗姫は手で、「話をどうぞ」と示す。 「はぁ・・・・。―――武藤」 「ほ?」 にやにやと若者のやり取りを見ていた晴教は、突然話しかけられて妙な声を返した。 「鉄砲と煙硝の量産は軌道に乗ったな?」 「うむ。鍛冶場は既存の種子島、鹿児島を拡大させ、指宿にも作った」 鍛冶師の教育も進んでおり、生産能力は大きく向上している。 内乱で失った大量の鉄砲の補完はすでに済み、旗本衆を中心に部隊の鉄砲装備率も向上していた。 「煙硝も都井岬からの採掘が進み、志布志湾の整備も完了した」 イスパニア人のゴドフリード・グランベルから教わった土硝法で、日向国都井岬で硝石を採掘。 陸路にて志布志に運び、そこで煙硝を作っていた。 「民部省に依頼し、畜産業の充実を図っている最中だ」 薩摩国と大隅国はシラス台地の関係で、農業に弱い。 その代わりに伝統的に畜産業が盛んだった。だが、村単位の畜産では土硝法に耐えうるほどの硝石が作り出せない。 このため、民部省は国営畜産を開始し、食糧問題と煙硝問題の双方を解決しようとしていた。 「結構。ならば、鉄砲五〇〇挺とそれに見合う煙硝を用意しろ」 「・・・・・・・・・・・・はぁ、できますが?」 「できるの!?」 紗姫が驚きの声を発する。 それも当然だ。 一般的な戦国大名の軍勢における鉄砲装備率は8~10%だ。しかし、龍鷹軍団は伝統的に鉄砲装備率が高く、北薩の戦い時代では約12%だった。 龍鷹侯国の通常動員数は約二万二〇〇〇。 つまり、約二六〇〇挺の鉄砲を保有していた。 そこから五〇〇挺用意するということは、軍団が保有する約20%を摘出するということだ。 「紗姫様、鉄砲装備率とは出陣した軍勢の保有率です」 例えば戦に臨み、鉄砲を半数失ったとする。 鉄砲は高価であり、大量に調達することは難しい。 このため、大名たちは予備を持っているものだ。 「龍鷹侯国が持つ総鉄砲数は約五〇〇〇挺。海軍も加えると総数は八〇〇〇を超えるでしょう」 「八〇〇〇・・・・」 高い白兵戦能力と多数の鉄砲が龍鷹軍団の強さの秘訣だ。 「元々種子島は鉄砲伝来の地であり、西日本における有数鉄砲生産地だ」 鉄砲伝来以降、種子島から鉄砲生産技術が流れたが、主に町単位であり、大名に流れたことはない。 徹頭徹尾、種子島の鉄砲生産は龍鷹侯国のために行われていた。 「堺や根来、国友、日野はいろんな大名に対して鉄砲を販売している」 特にこの村は自衛のためにも生産している。 鉄砲を売る大名もかなり選んでいた。 「たとえ他の産地よりも生産量が少なくても、その生産量をほぼ独占している当家が有利なのは当たり前だろう?」 忠流は自信満々に言う。 「それに硫黄鉱山、鉄鉱山も保有している。足りなかった硝石も手に入れた」 「ないのは、兵糧だけってこと?」 「ああ、まあ、それはこれから解決する」 龍鷹海軍の艦艇更新も大きく進んでいた。 虎熊宗国が本気になれば、虎熊水軍が展開する可能性が高い。 そして、同盟軍である銀杏国が南下する確率も高い。 海軍はこれらに備えることと兵力の増員を行っていた。 このため、輸送艦隊を東南アジアに派遣できる動員数を確保している。 「話が逸れたが、五〇〇挺、用意できるな?」 「うむ。鹿児島の在庫と南方拠点に貯めたものを出せば足りるかと」 「ならば、即宮崎に送れ。南雲治部大輔に持たせる」 「・・・・兄上、まさか・・・・」 兄の考えに気付いた従流は考えを口にしようとした。しかし、忠流はそれを手で制し、部屋を見回す。 何人かの重臣は気付いているようだ。 「そうだ。鉄砲を売る!」 五〇〇挺分の金があれば、遠い東南アジアで買わずとも雲仙岳の影響を受けていない地域から兵糧を買うことができるだろう。 さしあたっての販売先は朝廷。 つまり、桐凰家である。 龍鷹侯国を超える石高を持ち、商売の中心である大坂を近くに持つ。 領国の兵糧がなくとも東国の兵糧を集めることができるだろう。 「また、岩国や四国の大名にも販売し、瀬戸内海の通行権を確保する」 特に周防国岩国城の大名・椋梨家は重要だ。 周防東部に約八万石を領する戦国大名であり、武勇誉れ高い名門である。 難攻不落の岩国城に寄り、虎熊宗国の攻勢を耐えていた。 「だから―――」 「―――妾の出番だな」 開きっぱなしの障子の向こうに、また誰かが立つ。 「はぁ・・・・。この国の戦評定は部外者が簡単に入れるとは・・・・どういう警備状況なのだ・・・・」 頭を振り、痛そうにこめかみを押さえた。 「こんなざるな警備体制にしたのは、陛下ですよ」 列に加わらず、壁に控えていた御武幸盛がため息をつく。 「黒嵐衆がいるからって」 「おう、そうだったか」 すっとぼけた忠流は、肘掛けについていた肘を離して姿勢を正した。 「久しぶりに里帰りしたら如何ですか?」 「ふん、よいじゃろう」 桐凰昶は、両手を両腰に当てて胸を張る。 「ただ、五〇〇は少ないの」 『『『『『な!?』』』』』 「他にも売るならば、当家に来る鉄砲は大きく減じているだろう?」 「そうだな・・・・」 ニヤリと忠流は笑い、武藤を見た。 忠流の視線を受け、彼は小さく頷く。 「よろしい。ならば、八〇〇を持っていけ」 『『『『『えーッ!?』』』』』 武藤を除く全重臣が驚く中、忠流は呵々大笑した。 「どうせ兵糧が来るまで出陣できないんだ」 忠流が立ち上がる。 「兵の調練を怠ることなく、時期を待て」 そう言い残し、大広間から出て行った。 鬼ごっこscene 「―――これで、皇女は国を出る・・・・」 翌日、鹿児島城から出発した昶一行を見下ろしながら、忠流は呟いた。 「『鈴の音』・・・・」 龍鷹侯国が、国以上の相手として戦っている能力者。 黒嵐衆を駆使して行方を捜しているが、どうにも見つからない。 忍びも「鈴の音」だけを追っているわけにはいかなかった。 そのために、人員不足は否めない。 「だったら、誘き寄せる」 何となく、行動心理が分かってきた。 それを逆手に取り、出現しやすくする。そして、その時、容疑者の動向を確かめるのだ。 (容疑者はふたり・・・・) 霧島神宮の"霧島の巫女"・紗姫。 桐凰家第一皇女・昶。 「茂兵衛」 「はっ」 「腕利きを揃えたんだろうな」 「はい、部隊長を務める者たちを派遣しています」 背後に現れた黒嵐衆頭目・霜草茂兵衛が答える。 「ならいい」 皇女の行程は三ヶ月ほどになるだろう。 その間に「鈴の音」が現れれば、昶は無罪。 逆に紗姫への疑いが強くなる。 「まるで悪役だな」 「お似合いですよ?」 「・・・・蹴るぞ」 「避けますよ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 たぶん、本気で避けられたら当てることはおろか、姿すら捕捉できないだろう。 「はぁ・・・・国のことは橘次に任せて、早いとこ終わらせたいぜ」 「もう十分任せてますよね?」 「・・・・お前、最近言うようになったなー」 「任務の大半に、脱走する誰かさんを探すのが含まれると態度も変わりますって」 「「はっはっはー」」とふたりで笑い合った。 そして、蹴りにかかる主と避ける下僕の構図が誕生する。 それは、主が肩で息をするほどまで続いた。 「―――ふーん、そんなことが」 「鈴の音」と呼ばれる少女は、輿に揺られながら手の者の報告を聞いていた。 「さすが、稀代の戦略家。待つだけ、探すだけではなく、誘き出そうとするとは」 くすくすと楽しそうに笑う。 「そうじゃなければ、この私が目をつけるはずがない」 彼女は頼もしそうに目を細めた。 「久兵衛」 「・・・・はい」 脇に控えていた霜草久兵衛が小さく頷く。 「これは乗らない手はないな」 「・・・・はい」 先程と同じ動作をする。 「任せたわよ」 「・・・・はい」 姿を消すまで、久兵衛は同じ動作を繰り返していた。 |