第一戦「泰妙寺の変」/ 四



「―――奴は何を考えているのか」

 九月十六日、珠希は隈本城本丸御殿の自室に幽閉されていた。
 自分付きの侍女は全て遠ざけられ、国木田政恒の娘を頭とした新侍女組に世話されている。
 だが、彼女たちの視線は、当主の娘を見るものではなかった。
 まるで、監視するような視線に、珠希は辟易している。

(戦況は本当なのかな?)

 五日前に、十波政吉が出陣の挨拶及び戦略の確認に来た。
 親晴と会談した後に閉じ込められた珠希にとって、流動する戦況を説明することはできなかったが、いくつかの予想を元に戦略を授けている。
 それは佐敷城だけでなく、海岸線を中心に索敵を厳にすることに関することだ。
 龍鷹海軍が出てこれば、再建途中の聖炎水軍など障害ではない。
 この隈本近辺も、龍鷹軍団にとって、作戦行動半径なのだ。

(今のところ、動きはないみたいだけど)

 目の前に鹿屋勢が上陸した佐敷川の戦いは、珠希にとって衝撃だった。
 聖炎軍団が日本に誇る隈本城、宇土城でなければ、鹿屋勢の奇襲で陥落していたに違いない。しかし、同時に、いくら堅城でも十分な兵力がなければ、領土を蹂躙される。
 本当に領土を守りたいのであれば、外に出て戦う覚悟が必要なのだ。

「やっぱり、奴に直接訊くかな」

 よいしょっと珠希は腰を上げる。そして、脇に置いていた小太刀を手に取った。
 邪魔する者がいれば、威嚇するつもりだ。
 侍女ならば間違いなく、道を空けるだろう。
 士分の者でも、端武者程度ならば大丈夫。

「・・・・・・・・組頭級は・・・・・・・・・・・・なんともならないね」

 首を振って腰を下ろした。
 ここで無理に動いて、警戒されれば余計に動きにくくなる。


『―――やれやれ。どうせなら、そのなまくらではなく、私を頼ってくれませんか?』


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 聞こえた声に、珠希は動きを止めた。そして、何事もなかったかのように、なまくら――小太刀を置く。

「ふぅ・・・・ボクも疲れが溜まったかな。無理もないよね、ずっと部屋にいれば」
『現実を受け入れたくないかもしれないけど、受け入れてもらっていい?』

 少し怒ったのか、ポンッと小さな爆発を起こす、背後の武器。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
『そうそう、こちらを見て―――ってああ!? 目をそらさないで!?』

 落ち着いた女性の声が、目の前で好きな物を取り上げられた子どものように焦りに変わる。

「はぁ・・・・・・・・どういうことか、説明してくれるかな?」
『ええ、私の名前は―――』
「神装。形状は弓ってことかな?」
『・・・・はい。本来、この地上の【力】如きでは顕現できないのですが、目覚めてしまったものは仕方ありません』

 珠希が立ち上がり、弓を手に取った。

『私の特性は爆発。衝撃を司る神です』



「―――珠希様、失礼します!」

 親晴の小姓を務める少年が定期的な監視をするために、声と共に障子を開け放つ。

「わぷ!?」

 乙女の寝室に待ったなしで入ろうとした少年の顔を"衝撃"が打ち据えた。
 たたらを踏んだが、ひっくり返らなかったのは偉いと言えよう。

「う、う? あ、あれ? 珠希様?」

 咄嗟に目を閉じた彼が目を開けた時、部屋には誰もいなかった。




「―――政恒、父上はなんと?」

 珠希が脱走した時、親晴は自室に国木田政恒を呼んでいた。
 親晴が言った「父上」とは、虎熊宗国宗主のことだ。

「増援は送らないそうです。ただ、食料は継続して送ってくれると」
「なるほど、ならさらに軍を動かせるな」

 親晴はキラリと目を光らせる。

「龍鷹軍団に目立った動きはない。西海道を睨む艦隊も対虎熊用に編成中。陸兵を運ぶ輸送艦の多くは食料を輸入するために南方へ送られている」

 親晴は食糧問題を根拠に、龍鷹軍団が海上機動戦を仕掛けられないと踏んでいた。そして、陸路でも八代勢が適所を抑えており、突破には兵力がいる。
 その兵力を養う兵糧が確保できない以上、龍鷹軍団の増援はない。
 今回、珠希は戦略で忠流を出し抜いた。
 だがしかし、親晴は大戦略で忠流を出し抜いている。
 目に見える戦果ではないが、大国の当主として必要な力量を示していた。
 当の本人はそれに気付いていないことが、珠希への嫉妬心に表れている。

「しかし、これ以上軍を動かすと・・・・その、民が・・・・」
「だからといって、向こう数年ないであろう千載一遇の機会を潰すほど、俺は優しくないぞ」

 国力に勝る龍鷹軍団を出し抜ける機会はもうこないかもしれない。
 ならば、今このときに佐敷川の戦いで失ったものを取り戻すのだ。

(そうすれば、頭の固い老臣たちも俺の力を認めるだろう)

「―――申し上げます」
「ん?」

 部屋の外に小姓が傅いた。

「まもなく、名島景綱殿のご子息、重綱殿がご到着なされます。謁見の議題は佐敷戦線とのこと」
「ほう、景綱の息子か」
「確か、珠希殿とは従兄弟ですな。戦場での働きもなかなかとか」

 国木田は腕を組みながら記憶を呼び起こす。

「先の水俣城救援で指揮を執り、長井勢と槍合わせしたそうで。将来楽しみな若武者です」

 あまり人を褒めることのない国木田が高評価した。

「よし。―――天守閣へ通せ。そこで話をする」
「畏まりました」


 ふたりが移動した後、珠希が消えたことを告げる使者が本丸御殿を訪れる。しかし、ふたりに会うことができず、慌てて天守閣へと駆け出した。



「名島景綱が一子、重綱でございます」

 重綱が上座に向かって平伏する。
 彼は馬で駆けてきたのか、やや息が上がり、汗もかいていた。しかし、この部屋は何やら断続的に強い風が吹くため、なかなかに涼しい。

「こうして顔を合わすのは初めてだな」

 親晴は利発そうな青年を見下ろした。

「で、ありますな」

 親晴に言われるのではなく、すっと重綱は顔を上げる。
 その態度は当主に対するものではない。
 いずれ当主になるかもしれないが、今は自分の父と同格の存在であると認識している態度だ。

(こいつもあの役立たずの味方、か)

 隈本城の大勢は、生ける屍となった親家から離れている。しかし、正室の生家である名島家を中心に南部の豪族は未だ親家を当主と頂いていた。

(もう、この国を動かしているのは俺なんだぞ!)

 ドロリと黒いものが腹に満ちるのが分かる。

「して、用件は?」

 主人の心を読んだ国木田はこれ以上黒くならないうちに口を挟んだ。

「はっ。まずは戦況報告です」

 重綱の口から詳細に戦況が報告される。
 やはり使者よりも実際に指揮した者から聞く方がよく状況が分かった。

「ほぉ、敵もやるな。藤川晴崇、噂以上の傑物よ」

 不利な状況で一歩も退かずに戦う敵将に、国木田は感銘を受ける。しかし、親晴はそうでなかった。

「戦力に劣る相手に攻めあぐむとは、名島の名も落ちたものだ」
「・・・・親晴様」

 相変わらず、戦場に立つ者の心理を理解できない親晴に、国木田が小さくため息をつく。

「十分な戦力は与えてあり、これ以上ない状況で落とせないとは・・・・はぁ」
「・・・・申し訳ありません」

 嫌みに表情ひとつ返ることなく、重綱が頭を下げた。

「ですが、気になる点がひとつ」

 平伏したまま重綱が顔を上げる。

「龍鷹軍団が・・・・いえ、鷹郷忠流がこのまま黙っているとは思えません」
「それには同意するが・・・・現場で何か気付いたことが?」

 重綱は藤川が使者としてきた理由を、龍鷹軍団の援軍の目処が立ったからだと推測していた。
 その時間を稼ぐために、本陣にやってきて話をしたのだ。
 現に八代勢は再編成のために三日ほど攻撃を中止していた。

「我々は目の前のことで精一杯です。親晴様は何か掴んでいませんか?」
「たとえば?」
「・・・・そうですね、一揆の前兆とか」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 今年は飢饉だ。
 生活を守るため、農民たちが代官所に押し寄せて兵糧を奪っていく可能性は大いにある。
 それでなくとも、年貢の軽減を求める声は確実にあるはずだ。
 そんな内部の亀裂に茶々を入れ、大事にすることは戦国大名として当然のことだろう。
 忠流が手を回していないとは思えない。

「・・・・仮にその情報を手に入れて、現場の指揮官でしかない貴様はなんとする?」
「いきなり背後から襲われる可能性を考慮した指揮をします」

 嫌みを正論で返された親晴は顔を歪めた。

「というより、珠希様どこですか? 現場に若干の変化が起こった今、彼女の意見を聞きたいのですが」
「はっ、女に頼るか」
「ええ、頼ります。この国で唯一、鷹郷忠流を出し抜ける頭脳を持った方ですから」

 「お前では鷹郷忠流には敵わない」と言われたと思った親晴の顔が真っ赤に染まる。

「無礼な! 如何に重臣の嫡男とは言え、これ以上の暴言は許さんぞ!?」
「親晴様!?」

 親晴が立ち上がると、それを咎めるように国木田も声を荒上げた。
 重綱は口を小さく上げ、豹変した御曹司に軽く驚いている。
 そう、軽くだ。
 戦場において将に必要な沈着冷静さを見せつけられた親晴はさらに激高した。

「隈本城の城主は俺だ! つまり、俺が聖炎国の国王だ!」

 機密である物事を、口に出してしまうほど。

「国王を差し置いて、ただの小娘に伺いを立てるなど、臣下の風上にも置けん。それでも次期名島家当主なのか!?」

 国木田は慌てて立ち上がり、親晴を落ち着けようとする。

「・・・・親家様は、どこへ?」

 そんな老将の行動からも重綱が聞いていい情報ではないと分かった。だがしかし、重綱は追求を止めることができない。

「菩提寺で療養されている」

 親晴の代わりに国木田が答えた。

「珠希様も一緒で?」
「いや、珠希はこの城にいる」

 親晴は吐き捨てるように言う。

「あの女には必要な情報を渡している。だから―――」


「―――も、申し上げます!」


 障子の向こうから慌てて声がした。

「今取り込み中だ!」

 国木田は、その声が珠希幽閉の責任者であると分かったからだ。

「珠希様が脱走されました。現在、下の者に命じて探させていますが、一向に・・・・」
「チッ、あのじゃじゃ馬めッ! すぐに連れ戻せ!」

 親晴が苛立たしげに地団駄を踏む。
 いつの間にか風が止んでおり、彼の額に汗が浮かんでいた。だが、その汗は暑いだけではないはずだ。

「・・・・・・・・・・・・私も行きましょう。一応、小さな頃は一緒に遊びました。隠れん坊なら、得意です」
「・・・・ふん」

 親晴は座り、手で重綱に「行け」と命じた。

「失礼します」

 重綱が一礼し、部屋から出て行く。
 やがて足音が消え、沈黙が辺りを支配した。
 数分経ち、傾いた日が部屋に大きく入り込んだ時、親晴は国木田に声をかける。

「重綱がじゃじゃ馬を捕まえ次第・・・・分かっているな」
「・・・・はっ」

 明るくなった部屋に反比例し、親晴の顔は暗く沈んでいた。






脱走scene

「―――あれ? 若殿、もうお帰りで?」

 隈本城二の丸家老級武家屋敷が建ち並ぶ一角に、名島屋敷はあった。
 そこに、重綱が帰還したのだ。
 天守閣に向かってからまだ半刻も経っていない。
 家臣が不思議がってもおかしくはなかった。

「ちょっとあってな。それより、すぐに出立できるように準備しておけ」
「・・・・分かりました」

 彼は重綱の腹心だ。
 何も聞かず、正しい予想の下に仕事をする。
 問題があるとすれば、戦の指揮が下手なことだ。
 故に彼を吏僚として扱っていた。

「頼む」

 説明できないことに対する謝罪を込めた黙礼に、彼は会釈で応える。
 わかり合った者同士のやりとりは気持ちいい。

「・・・・さて」

 自室に戻った重綱は開けっ放しの障子から流れてくる風に向かって、言った。

「いったい、どういう仕様ですか? ・・・・珠希様」


「―――んー、ボクにもよく分からないんだけどね」


 一際強い衝撃の後、障子を閉めた動作で振り返る珠希がいた。

「どうやら、ボクが使っていた弓は神装のたぐいらしい」
「・・・・は?」

 沈着冷静な従兄弟がポカンと口を開けるのは珍しい。

『うふ、どうも、神装です♪』

 彼女もそうなのか、楽しそうな声で挨拶した。

「えええええぇぇぇぇぇ~~~ッ!?!?!?」

 本当に珍しい、驚きの声。

「じゃ、菩提寺に行こうか」

 軽く城から出ることを宣言する。さらに、爆弾を投下する。

「あ、キミには監視がついているから、ボクはまた隠れるよ」
「・・・・・・・・どこから質問すればいいのか分かりませんが、とりあえず、どうやって?」
「・・・・ふふ」

 にっこりと中性的な顔たちに笑みを浮かべた珠希に、重綱は背筋を震わせた。



 重綱は珠希が城の外に出た可能性があると示唆し、屋敷にいたほとんどの人間を捜索に派遣した。
 また、城内で遠ざけられていた珠希の侍女衆を召集し、それも城外に派遣する。
 つけられていた監視役は、珠希がそっと昏倒させた。



「・・・・はぁ、まるで落ち武者の気分です」

 重綱が馬に揺られながらため息をつく。
 屋敷の者たちは護衛をつけて八代城に向かわせていた。
 途中で船に乗るため、明日には八代城に着くだろう。
 従って、重綱一行は彼自身を含む士分七人、小者などの手明十名、侍女衆八名とひとりで構成されていた。

「あながち間違っていないかもね」

 重綱の隣では男装した珠希が駒を進めている。

「でも、バレたとしても、娘が父親に会いに行くのが間違っているとは思えないね」
「目的はともかく、手段が滅茶苦茶ですがね」

 重綱のトゲのある言葉に、快活な笑みを見せ、珠希は少し前に進んだ。

「それで、重綱さん」
「はい?」
「義兄上の様子、どう思いました?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・少々、狂気が見えました。・・・・おそらくは嫉妬でしょう」

 重綱は正確に親晴の気持ちを察している。
 実は、重綱にはできた弟がいた。
 武勇はもちろん、兵法もよく勉強しており、実戦経験を積めば自分よりも優れた部将になると、重綱は確信している。
 父もそれを認めており、重綱は長男と言うだけで嫡男の地位にいる、と思っていた時期があった。
 それは嫉妬だろう。

「嫉妬?」
「ええ、あなたに火雲氏の当主を奪われる、ということに恐怖しておられる」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ふーん、だから、か」

 珠希が馬の速度を緩めたため、重綱は彼女に追いついた。
 表情を窺ってみれば、目を細め、思案顔になっている。

「へー・・・・思ったより、器の小さな男だったかな。・・・・尻尾を出してくれて・・・・ふふ」

 やや虚ろな瞳まま、薄ら笑いを浮かべる珠希は、不気味だった。

「そうと決まれば・・・・急ごう。たぶん、義兄上は手段を選ばない可能性があるから」

 返事を聞かず、珠希は馬に鞭をくれる。
 それに呼応して侍女衆も加速した。

「ちょ!? こっちの徒歩衆のことも考えてくださいよ!」

 士分で騎乗しているのは重綱の他、ひとりだけだ。



 泰妙寺。
 火雲氏の菩提寺であり、歴代の当主から寄進を受けた大きな寺である。
 隈本城の南方――白川を望み、戦を意識した建造物が立ち並ぶ。
 もし、龍鷹軍団が白川まで押し寄せた時、泰妙寺は聖炎軍団の本陣として機能するだろう。
 また、白川戦線を突破された場合、あまりにも隈本城と近すぎるため、敵本陣として利用されることはない。
 絶妙な立地に築かれたこの寺は、ある意味、聖炎軍団にとって、情報収集源だった。



「姫様、お久しぶりです」

 山門に姿を現したのは、一応、一門衆である住職だった。
 珠希との関係は大叔父に当たる。

「いや、住職殿も広い寺の中から出てくるとは、恐縮だよ」

 おそらく周囲に多くの手の者を配置していたのだろう。
 仏教の信徒を内偵に仕立て上げるのはよくあることで、力のある寺院はほぼ間違いなく、抱えていた。

(といっても、霧島騎士団や温泉神社衆のような例は、珍しいけどね)

 珠希は笑みを浮かべながら山門を潜る。

「父上はどこに?」

 信徒を使った情報収集を得手とする住職が珠希を迎えたのだ。
 その用件はすでに伝わっていると考えられる。
 また、ここに来るまでに隈本城から追っ手が来なかったことから、親晴は親家への監視を置けていないことになる。
 さらに、それは住職が親晴を信用していないことを意味していた。

(つまり、ボクの味方、だよね)

 珠希も家中が珠希派、親晴派に分かれようとしているのには気付いている。
 だからこそ、それを止めることができる親家を何とかしようとしているのだ。

(龍鷹侯国は奇跡的に、内乱をほぼ無介入で切り抜けた)

 それは北薩の戦いで聖炎軍団が打撃を受けていたことが大きい。
 だが、今、聖炎国が内乱に陥れば、北から虎熊宗国が、南から龍鷹侯国が攻め込んでくるだろう。
 虎熊宗国は親晴を通して聖炎国を取り込み、珠希派は四面楚歌に陥って崩壊。
 肥後は両大国が衝突して焦土と化すに違いない。

(それだけは避けないと)

 だからこそ、珠希は親晴からの幽閉を受け入れたのだ。
 当初は、だが。

「・・・・後悔、なさりませんな?」
「・・・・どれに対する後悔かな?」

 「あなたが思い描いた全てです」という答えに、珠希は一歩踏み出すことで答えた。
 住職は頷き、踵を返す。
 それを見て、物陰からこっそりと窺っていた人影が、隈本城へと走り始めた。




「―――そうか、やはり菩提寺へ・・・・」

 夜の帳が下りた頃、隈本城では数百の兵が出撃準備をしていた。
 南方の城から呼び寄せた軍勢であり、彼らは夜に紛れるように、統一の漆黒軍装に身を包んでいる。
 深夜の出撃を聞いていないのか、大手門の守備兵が戸惑っていた。だが、制止する気はないようだ。
 命令は出撃する大将よりも高い位置から出ているからだ。

「敵は如何ほどだ? 多くても百でしょう」

 忍びらしき男が答える。

「それであれに挑むか。無知は罪だな。―――ん?」

 障子の向こうから慌ただしい足音が聞こえてきた。

「―――申し上げます!」

 足音は男の部屋の前で止まる。

「白川河岸付近に無数の松明を確認! 泰妙寺を包囲しているとのこと!」
「始まったか・・・・ッ」

 男は立ち上がり、障子を開け放った。

「急ぎ兵を出撃させよ!」

 男――国木田政恒は片膝をついた兵に命令する。

「儂も出る! 第二陣も編成しろ!」
「ははっ」

 こうして、聖炎国は珠希派、親晴派が優勢を決する前に、国内第三勢力によって揺り動かされた。

―――カンカンカンッ、カンカンカンッ。

「一揆! 一揆発生! 一揆勢は泰妙寺を攻撃中! 急ぎ増援部隊を差し向けよ!」











第一戦第三陣へ 龍鷹目次へ 第一戦第五陣へ
Homeへ