前哨戦「若き鷹の飛躍」/三



「―――佐敷城の戦力が撤退しつつあるそうです」

 鵬雲三年一月十九日、肥後国隈本城。
 聖炎国の本城であり、今日この日、対龍鷹侯国戦略を練るため、重鎮たちが集まっていた。

「人吉城には佐久頼政が入った。人吉衆は帰順し、完全に人吉は龍鷹侯国の版図に組み込まれました」
「水俣城包囲軍は緩やかな包囲を崩さず、要所要所に布陣したまま動きがありません。撤退しようとしたのは策だった可能性が強いと思われます」

 後者の意見は違うのだが、従流の戦術が鮮やかだったためにこう思われても仕方がない。

「ふん、人吉城の失陥は大きいな」
「ええ、これで我々は攻勢作戦を採りにくくなりました」

 上座で報告を聞くのは火雲家当主・火雲親家ではなかった。
 代わりに座っているのは養子である火雲親晴である。

「虎熊宗国は何と?」
「は、虎熊宗国は増援要請に応じるそうです。とりあえず、一熊当たりを投入すると」

 虎熊宗国の軍部・虎熊軍団は「二虎六熊」と称される軍団制を採用している。
 虎熊宗国において、九州方面と中国方面に大きく方面軍が形成されており、このトップに「虎」と称される部将が入り、その指揮下に「熊」と呼ばれる部将が軍を率いるのだ。
 聖炎軍団は元より、龍鷹軍団よりも近代化が進んだ軍組織の形成は、士官制度の形成に繋がり、虎熊宗国はいわゆる国民兵を確保していた。
 国民兵の獲得は、欧州の歴史と同じく、膨大な兵力を維持することが可能になる。
 虎熊軍団は一万石当たり四〇〇人とされ、その動員力は約四万八〇〇〇。
 これは龍鷹軍団よりも二万以上多い動員力だが、貿易などで得る利益を入れれば、その戦力は六万を超えると言われていた。
 ただ、単純計算から九州方面に展開する戦力は二万数千であり、虎熊軍団が大挙南下して聖炎軍団やその先にいる龍鷹軍団と戦うことはなかった。
 さらに、聖炎国とは養子縁組を結んでいた。
 だが、それはあくまで不可侵条約であり、軍事同盟ではない。
 それを軍事同盟にするため、使者を派遣していたのだ。

「援軍が四〇〇〇ほどあれば、龍鷹軍団とほぼ互角の戦力となるだろう」

 八代城主・名島景綱は腕組みをしながら言う。

「一熊だけでなく、虎を派遣してくれてもいいのにのう・・・・」

 熊の指揮は基本的に虎が行うが、虎熊軍団の総大将は宗主だ。
 彼のお膝元である筑前・筑後ならば充分に福岡城から指揮できるだろう。

「肥前もきな臭いようで、虎はその方面にも戦力を割かねばならないらしいです」
「肥前と言えば・・・・燬峰王国か・・・・」

 親晴が苦々しく吐き捨てた。
 諸将も同様に思っているのか、嫌悪感を滲ませている。
 燬峰王国。
 それは聖炎国にとって、根拠のない味方であったはずだった。
 同じ穂乃花帝国を祖とする諸侯であり、帝国崩壊以後一度も戦火を交えたことがない隣国である。しかし、先の佐敷川の戦いにおいて、燬峰王国は天草諸島侵攻という、聖炎軍団は考えたことのなかった戦いを龍鷹軍団と呼応して仕掛けてきた。
 おかげで本渡城にて天草諸島を北上する龍鷹軍団を押し止めることができず、天草諸島は陥落、宇土半島および本拠・隈本城が危険に晒されたのだ。
 言わば、屈辱とも言える佐敷川宣言がなされた原因を作ったものなのだ。

「肥前国人衆頭目が怪死を遂げてから始まった戦いも、徐々に燬峰王国優勢に動きつつあるようで・・・・」
「なるほど、肥前の武雄、松浦などが陥落すれば、本拠である福岡城が脅かされる、か・・・・」

 九州一の宗教国と言える燬峰軍団は山神の加護を身に宿すことで精強を誇っている。
 少数と言えど、その戦力は侮れない。

「ま、人吉城が陥落した以上、龍鷹軍団の佐敷城展開は早くなった」
「実に由々しき事態ですな。城将は自害するまで戦ったのは良いですが」

 国木田政次は吐き捨てるように言った。

「反攻作戦は危険だな」

 親晴は国木田を手で制しながら言う。

「これより聖炎軍団は龍鷹軍団のさらなる侵攻に備え、軍を再編する」

 視線を名島景綱に向けた。

「名島は八代全域を死守。約三〇〇〇で、いけるか?」
「敵が万を超えぬ限り、耐えて見せましょう」

 聖炎軍団を代表する闘将は続ける。

「その防衛作戦は任せていただけますか?」
「・・・・どうするんだ?」
「逆にこちらから侵攻し、敵の漸減を目的とした戦いです」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 佐敷川の戦い以前に景綱が進言した言葉だった。

「よろしい。八代を維持できるのならば、全て任せる」

 親晴は思いきりのいい決断を下し、全諸将を見遣る。

「これより、八代方面軍を発足させる。総大将は名島景綱、副将は水俣城主・立石元秀、筆頭侍大将は麦島城主・東堂武冬とする」

 この宣言を以て、聖炎軍団は龍鷹軍団に対し、守勢防御の構えを取ることとなった。






鷹郷忠流side

「―――佐敷衆と八代城とのやりとりが緩慢になっています」

 鹿児島城本丸御殿。
 光の消えたその一室に、ひとりの忍びが傅いていた。

「独力で反抗する家はありませんが、連合する気配も見られません」
「そうだろうな。佐敷衆はこれまで後方だった。そのため、各領主の独自性は水俣衆ほど養われていない」

 布団に横になった忠流は口の中で呟くように、儚く言葉を紡ぐ。

「聖炎軍団は動かない。故に佐敷衆は見捨てられたと思うだろう」

 佐敷衆は龍鷹軍団の襲撃に怯える日々を送ることとなる。
 忠流は体の向きを忍び――茂兵衛に向けた。

「もうひとつは?」
「はっ」

 霜草茂兵衛は懐に手を入れ、報告書を提出する。

「指示通り、ここ数年で起きた変事を記載しております。また、霧島の書庫も閲覧しており、これが発覚しますと・・・・」
「霧島騎士団がこちらに牙を剥く、か。・・・・<龍鷹>辺りが止めそうな気がするがな・・・・」

 茂兵衛の助けを受けて体を起こした忠流はさっそく報告書の目次を眺めた。

「ん?」

 そこで気になっていた題目を発見する。
 確認するように茂兵衛を見遣るが、彼はただ部屋の外を見ていた。

「・・・・・・・・・・・・・・警備の兵はどうした?」

 故に気付いた忠流が部屋の外に映った人影に問うた。
 すでに茂兵衛は警戒態勢に入っており、黒嵐衆も侵入者を包囲している。
 それでも、表の警備兵の姿はなかった。

「こういう時、ちょっと眠ってもらっています、が正しいでしょうか?」

 チャラリとわずかな金属音を残し、ひとりの少女が足を踏み入れる。

「分かりやすくていい」

 忠流は床机を背中に持って行き、それに背を預ける形で彼女を出迎えた。

「橘次がさー」

 ごそごそと肘置きを探し、それに右肘を乗せた忠流は蒼白の顔でニヤリと笑う。

「あんたが怖いとか言ってたけど、分かる気がするわ」
「へぇ・・・・でも、その割にあなたは怖がっていませんね」
「当然だろ? 俺の真似をして城を抜け出していた橘次とぶつかったんだろ? だったら、あんたも脱走してた、ってことだ」
「ふふ、おしとやかに演じていたけれど、どうやら最初からバレていたんだ」

 彼女は楚々として立っていた姿勢を右半身にし、その右腰に右手を当てる。
 その様は、お姫様ではなく、どこか盗賊の女首領じみた仕草だった。

「目的は何だ? 燬峰王国側としては龍鷹軍団の軍事力を背景にできただけで大助かりじゃないのか? ええ、燬峰王国第一王女・燬羅結羽?」
「ええ、表は、ね」

 その言葉と共に忍びたちが崩れ落ちる。
 その中には、茂兵衛も含まれていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 忠流は結羽の顔から視線を流し、その手に握られた一本の棒を見遣る。

「錫杖・・・・神装か?」
「半分正解。これは燬峰王国、いえ、四面宮に伝わる神装」

 よく見せるように結羽は錫杖を抱えて見せた。

「・・・・その分枝。そうね、ちょうど弟君が持つ数珠に似ているわ」

 結羽は鋒を忠流に向ける。

「ね、ちょっと気持ち悪いでしょう?」
「・・・・確かにそうだが、自分の武器にそれを言うか・・・・?」

 鋒には四つの顔が黄金色に象られていた。
 確かに見目麗しいものではない。


「―――白日別命、豊日別命、豊久土比泥別命、建日別命の四柱です。彼らは筑紫島、つまりは九州を意味する神々です」
「―――っ!?」


 格好良く決めたつもりだったのか、結羽の余裕が初めて崩れた。
 同時に金属音と共に不可視の攻撃を行うが、訪問者の前に黄金色の光が弾けて消える。

「<龍鷹>・・・・ッ。やはり来たか・・・・」
「あれ? もしかして誘き出されましたか?」
『分枝が神装に勝とうなど、片腹痛いが・・・・本当に戦いになれば、小僧と妾に勝ち目はないの』
「おいおい・・・・」

 紗姫は結羽の隣を擦り抜け、「えい」と茂兵衛を蹴り転がすと、忠流の傍に座った。そして、その全身から光を放ち、結羽を威圧する。

「燬峰王国は宗教国家。その前身は四面宮であり、途中で得た山岳信仰の形を錫杖という形で表したのでしょう」
「へぇ・・・・」
「まあ、如何に武勇を誇る近衛衆と言えど、『こちら側』全開で来られれば、ひとたまりもないでしょう」

 紗姫が忠流の顔を覗き込む。

「侯王にはもう少し、霊能士および霊装持ちを抱えることを進言致します」
「覚えておく」

 忠流も小さく頷くことで見つめ合いを終わらせ、ふたりは揃って結羽に向き直った。

「役者は揃った。あんたの話を聞かせてもらおうか?」
「分かって言っているでしょ」
「ま、な」

 ひらひらと報告書を振り、それを紗姫の前に指し示す。

「"竜造寺の変"・・・・」

 それは、もうひとつの当主暗殺事件だった。

 "竜造寺の変"。
 鵬雲元年三月十四日、肥前国武雄領竜造寺にて、肥前国人衆と燬峰王国との講和会議が開かれた。
 講和会議には各当主が出席し、その結果は肥後の今後五年を左右するという言われた会議である。
 各国の諜報機関もその結果をいち早く伝えるため、数多くの透破を送り込んだ。
 しかし、それでも分からなかった。
 あの時、いったい何があったのか。
 何せ、だれひとり、その透波が帰らなかったのだから。
 事件の発覚は、その夜に帰ってくるはずだった者が帰ってこないことを不審に思った近隣住民が竜造寺に足を運んだことで発覚した。
 そこには燃え尽きた竜造寺があり、だれひとり、死体すらも発見することが敵わなかった。
 燬峰王国、肥前衆ともに相手が犯人だと断じ、両者は家督相続を終わらせると共に激突した。
 結果、昨年の諫早城の戦いが起き、燬峰王国が五島列島の江川城を攻略するなど、再び戦い続けることとなった。

「―――これが表のことよ」

 結羽は錫杖を引っ込め、忠流と紗姫の前に正座していた。

「実際には、寺が焼け落ちるほどの業火に、近隣住民が気が付かなかったこと、一連の透波たちが誰ひとり帰らなかったこと。・・・・そして、」

 一度言葉を切り、ふたりの反応を確かめるように顔を見た後にゆっくりと言う。

「鈴の音が、聞こえたこと」
「「―――っ!?」」

 それは報告書に記されていなかった事実。
 そして、それを聞いた瞬間、忠流の中で全てが繋がった。
 燬峰王国がどうして、結羽をこの国に送り込んできたのか。
 燬羅家の血を繋ぐためでも、龍鷹軍団の軍事力を当てにしたのでもない。
 たったひとつの目的。
 それは―――

「父の仇を討つために参上したわ」

 忠流の思考を先読みした結羽は今度こそ殺気混じりに錫杖を掴んだ。
 一年後とはいえ、同様に、鈴の音が関わった暗殺事件が起こった龍鷹侯国。
 燬峰王国が疑うのは当然だ。

「ま、待て待て。こちらも『鈴の音』には痛い目に遭っているんだぞ?」
「しかし、あなたはだからこそ侯王になれた。あの事件がなければ、あなたが侯王になることはなかったでしょう?」

 命乞いするそれ丸出しの言葉に結羽は切り捨てる。

「ぐ、ぅ・・・・」

 正論に忠流は呻く。

「では、何故、そう結論づけながらあなたは今まで動かなかったのですか?」
「簡単なこと。鈴の音が龍鷹侯国にとって有利に働いている状況が確認できなかったから」
「佐敷川の戦いですか・・・・」

 佐敷川の戦いは鈴の音のことを知っていた者からすれば、手詰まりになった龍鷹軍団が鈴の音の力を借りて敵を撃破した戦いだった。

「ここであなたが死んでも、龍鷹侯国は従流殿が継ぐのでしょう?」

 チャリチャリと不気味な四面を揺らしながら迫る。

「ならば軍事的支援は得られるわ。そして、きっと罪は『鈴の音』が負う」
「け、計画通りってことかよ・・・・」

 焦る振りをして、忠流はまだ諦めていなかった。
 忠流の視線が結羽から離れ、傍らの太刀へと向く。しかし、逆に隙となったそれを許す結羽ではなかった。

「覚悟ッ!」

 一息に踏み込み、四面の内に力場を生み出す。

「―――やれやれ、妙な気がして来てみれば、の」
「―――っ!?」

 四面から放射された熱気の奔流は虚空に転移してその猛威にて本丸御殿の松樹を消滅させた。

「ほぉ・・・・温泉神社らしく、火砕流、と言ったところか」

 第二の乱入者――昶は錫杖を映していた鏡を小脇に抱える。

「思うに、警備の兵を昏倒させたのは空気に昏睡状態に陥らせる成分でも流したか・・・・侍従が無事なところを見ると、多少、操れると見る」

 パタパタと片手を顔の前で振り、寄せてきた気体を拡散させた昶は小脇に抱えた鏡を示した。

「こちらも種明かしをするとだな」
「・・・・八咫鏡の複製品・・・・」
「当たりじゃな。八咫鏡は天照大神を天の岩戸から出すために作られた。その出す方法が岩戸の向こう側にいる天照大神を映し出すこと」

 したり顔で解説する、この国の最高峰に君臨していた巫女。

「鏡に映し出したものを移し出す、という特徴がある」
「何て非常識な・・・・ッ」

 結羽は大きく飛び退き、忠流から離れた。
 昶の介入で忠流から意識が移った瞬間、紗姫が<龍鷹>として顕現し、その鋒を結羽に向けたからだ。

『速度ならば負けんぞ』

 <龍鷹>が威圧の中に勝利を滲ませた声音で警告する。

『燬峰の姫、貴様はひとつ勘違いをしておる』
「何?」
『こ奴を殺しても、「鈴の音」を倒したことにはならんぞ』
「そ、それは・・・・」
「そうじゃな。下手人の黒幕を倒したとは言え、下手人をどうにかしなければそいつが暴走した場合、どうしようもないであろ」
「お前ら、まるで俺が犯人のように言いやがる・・・・」

 話は理解できるが、それを説明できるほど、忠流は自分の体の自由が効かなくなっていた。
 どうやら、結羽は攻撃をする前にこちらの自由を奪うために周囲に護衛たちを無効化したものと同様のものを放っていたらしい。
 大部分が昶の鏡に映ってどこかに飛んでいったが、それでも少しは残っており、忠流の体を蝕んでいた。

「というか、この中の誰ひとり、侍従が犯人および黒幕とは思っていないがな。―――であろ?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 昶の言葉に、結羽は肩をすくめて錫杖を肩に担ぐ。

「・・・・どういうことだ?」
「簡単よ。これから『鈴の音』の情報をこちらにも寄越してほしいってこと。本当は弟くんを骨抜きにして情報をもらおうと思ったんだけど・・・・」

 結羽は従流が謹慎している寺の方角を見遣った。

「肝心の部分までは関わらせてもらっていないみたいだし?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 忠流は沈黙を以て答えとする。

「分かる気がするわ、彼の存在自体、すごく清廉な感じがする。こんな、訳の分からない【力】を振り回すのは似合わない」
『まあ、奴自身、諸外国に知れた、霊装使いになっておるな』
「人吉城撤退戦に勝利したのも、霊装使いが現れたからだからな・・・・」

 霊装は莫大な【力】を内包している。
 古来より一騎当千、万夫不当などと伝えられる武者は総じて霊装使いだった。
 中華帝国で言えば、長坂の戦いで敵を食い止めた張飛、赤壁の戦いで風向きを変えたと伝えられる諸葛亮、日本で言えば、日の本最強の僧兵・弁慶、南朝の忠臣・楠木正成などがそうだ。

「霊装使いが戦の全てじゃない・・・・」

 一騎当千などと言われようが、所詮は一〇〇〇だ。
 霊術も強力だが、合戦の主役にはなれない。
 それは汎用性のなさのためだ。
 霊装や霊術は単体では今のように、絶大な【力】を誇る。だが、大軍の前には埋没し、戦局を左右する戦力にはなりにくい。
 汎用性のある鉄砲が主役になりつつあるのも、弓より使いやすいためだ。
 それでも鉄砲一兵種では勝てないために、軍勢には数多くの兵種が存在する。
 現代陸戦において、最強と呼ばれる戦車が、戦車だけで行動せずに歩兵を携帯すると言えば、少しはイメージできるだろうか。
 「強い」とは相対的なものであり、「無敵」ではないのだ。
 故に霊装使いを多数揃えたところで戦に勝てるものではない。

「ああ、霊装使いは合戦のためだけにあるものではないの」
『妾を持つ者が龍鷹侯国を治めると言われると同じく、権威の象徴、そして、畏怖の対象とする、抑止力じゃ。それに・・・・』
「同じ霊装使いをどうにかするためにあるわ」

 忠流の持論はものの数秒で撃破された。
 それぞれ、強力な霊装を保有する者だからこそ、その言葉には重みがある。

「ああ、もう! 話が逸れているぞ! 結局、お前は何しに来たんだ!?」

 気怠い体を奮い立たせ、不利になった話の流れを変えにかかった。しかし、その言葉に少女たちは当初の目的を思い出したようだ。

「あら、私としたことが話が二転三転してしまったわ。これも乱入者がふたりも現れるからね」
「・・・・一番の乱入者はお前だ・・・・」

 肩頬に手を当て、戯けてみせる結羽にため息をつく忠流。
 いつも周囲を疲れさせる彼だが、この三人娘は強力すぎる。

「私の最終目標は『鈴の音』の情報を得ること。そして、今日はそのためにまず、侯王が白か黒か確かめて、かつ、今後龍鷹侯国が得た情報を得るための布石」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・待て」
「なに?」

 結羽の言葉を噛み砕いた忠流はひとつ、理不尽な行動に気付いた。

「だったら、さっきどうして、火砕流とやらで俺を焼き付かせようと?」
「うーん・・・・話の流れ的に?」

 かわいらしく小首を傾げながら言われた言葉に、忠流は今度こそ脱力する。
 その手から<龍鷹>が滑り落ち、紗姫へと戻った。

「分かります。この人、頭がいいのにかわいい反応をしてくれますから」
「同意するのぉ」

 三人娘が顔を見合わせ、くすりと笑う。

(橘次、燬羅家の令嬢だけじゃなく、俺の周りの娘はみんな怖いぞ・・・・)

『確かに、この中では貴様が、一番「女らしい」の』
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 <龍鷹>の言葉に、少女たちの笑みが凍りついた。そして、揃って忠流に向き直る。
 確かに忠流を知らない使者が彼を前にして見惚れることなど日常茶飯事だった。
 多少ながらも、自分たちが普通の少女ではないことを自覚している少女たちは、まさに少女然とした忠流を睨みつける。

「えっと、魔槍さん?」
『何じゃ?』
「これでも、マジで病弱なんでこの辺りにしてくれないと、命に関わるっす」
『うむ、次から気をつけよう』
「今この事態は!?」

 紗姫は釧と呼ばれる鈴の腕輪を掌に握り込み、いわゆるナックルダスターのようにして忠流に迫っている。
 昶、結羽も自らの霊装を前にして忠流に迫っていた。

『頑張れ』
「理不尽!」

 忠流は己の身に降りかかった不幸に天を仰ぐが、少女たちは止まらない。

「一度、このつるつるな肌を徹底解剖したかったんです」
「止めて! えぐらないで!?」
「なにげに髪もさらさらであるの」
「止めて! 髪をどこかに移さないで!?」
「この白い肌・・・・本当に南国生まれ?」
「止めて! 焼けただれさせないで!?」

 それから、忠流が本気でぐったりするまで、三人の少女は忠流の上で彼の体を弄くり回したのだった。

(この苦労・・・・橘次にも味わってもらわねば気が済まない・・・・・・・・ガク)










前哨戦第二陣へ 龍鷹目次へ 前哨戦第四陣へ
Homeへ