第三戦「降臨せし龍鷹が槍」/ 五



 「海上機動戦」という言葉をご存じだろうか。
 この言葉こそ、藤丸主力軍の前に貞流主力軍が展開したこと、藤丸勢本隊が鹿児島城を急襲したことを説明する。
 海上機動戦とは海路を陸軍戦力が移動し、敵軍が想定していない場所に上陸して第二戦線を生み出すものだ。
 以下に忠実の戦史例を紹介する。

 明治元年(慶応四年)、戊辰戦争において新政府軍が奥羽列藩同盟軍の白河戦線・長岡戦線を突破するために海上機動戦を展開した。
 白河戦線では奥羽列藩同盟軍の後方、平潟に別働隊を上陸させて白河戦線から仙台藩、米沢藩の軍勢を引きつけている。そして、長岡戦線では新政府軍は佐渡島を経由して新潟港を押さえている。
 この後、新政府軍は海上機動を駆使して奥羽列藩同盟軍を圧倒した。
 明治十年、西南戦争において新政府軍が熊本城開放のために、戊辰戦争と同じく戦術的観点から用いている。また、戦略規模の鹿児島橋頭堡戦は錦江湾を海軍の艦艇を用いて縦横無尽に駆け巡った。
 この海軍の行動は薩軍の勢いを減退させ、最終的な勝利に貢献している。
 当時の日本は道路事情が悪いため、物資・兵員を一度に運ぶ海上機動は戦争の決め手となった。

 さて、この海上機動を貞流、藤丸に当てはめてみるとどうか。
 貞流は藤丸本隊が錦江湾沿岸を進軍してくると予想し、いくつかの決戦場を想定していた。
 それが鹿児島城から近い順に、鹿児島城、吉野、重富、加治木の四つである。
 貞流は第一条件として、藤丸に主導権を握らせないことを挙げていた。
 いつの間にか主導権が入れ替わっていたえびの高原の戦いで喫した敗北は、彼にとって何としても晴らしたい雪辱だ。
 これらを考慮した佐々木弘綱は北薩の戦いで藤丸が行った海上輸送に目を付け、主力軍を予め、数回に分けて鹿児島から少数ずつ送り出し、「藤丸動く」の報に際して本隊だけを海上輸送したのだ。
 このため、貞流主力軍は藤丸たちの予想を上回る早さで大隅へと進出。
 鳴海直武率いる主力軍の機先を制し、大口城主――山野辺邦通を討ち取った。しかし、藤丸は貞流や弘綱の予想を上回る奇抜さで行動する。
 廻城から北上した主力軍に対し、藤丸本隊は錦江湾の制海権を握る海軍を動員して一気に鹿児島港に、敵前上陸を果たしたのだ。
 藤丸の目的は進軍中に鹿児島城が陥落したことで貞流主力軍が動揺することを狙った戦略と、"霧島の巫女"奪取という大戦略の両方だった。
 つまり、藤丸は自身の戦場での役割を諦めたのだ。
 主力軍を率いて敵軍を討ち果たすことは経験の少ない藤丸ではできない。だからこそ、主力軍を鳴海直武に任せ、自身が動くことで戦局の打破を狙った。
 両者が両者の予想外の行動をしたため、勝利の行方はそれを知った後の両者の行動にかかっている。
 その咄嗟に判断し、即行動できたものこそ、この戦の勝者となるのである。






決戦Uscene

『『『―――なっ!?』』』

 久兵衛がもたらした情報に貞流ではなく、周りの幕僚たちが思わず床机を倒して立ち上がった。

「・・・・・・・・・・・・海上輸送、か。しかし・・・・」

 貞流はチラリと戦場の方を見る。
 決戦地に集まった藤丸勢は八〇〇〇。
 報告通りの数だった。

「どこからその戦力を?」

 決戦戦力に数えられていない兵力もいるだろう。
 貞流自体も一部を鹿児島城に留めていた。
 可能性としては宮崎で募った傭兵衆と高鍋城、小林城、都城、飫肥城などの守備隊から引き抜いた兵だ。しかし、それでも五〇〇ほどであろう。
 それは鹿児島城守備隊とほぼ同数である。
 一角を占拠することができても、陥落させることは不可能だろう。

「敵は大隅諸島守備隊や海軍陸戦隊、さらに・・・・藤丸の旗本たちでございます」
「・・・・ッ」

 久兵衛の言葉に今度こそ貞流も立ち上がった。

「藤丸の旗本衆だと!? ならば、あそこにいる本陣は何だ!?」

 ビシッと貞流は藤丸勢本陣を指差す。
 鳴海勢二〇〇〇の後方には八〇〇ほどの円居が布陣していた。
 その本陣には時折、全軍の指揮を執っている鳴海勢から伝令が駆け込んでいる。
 総大将の所在を示す馬印は確かになかった。しかし、元服していない藤丸には馬印はなく、さらに作っている暇はなかったのだろう。
―――と、貞流本陣は判断していた。

「―――欺瞞、でしょうね」
「弘綱・・・・」

 幔幕を潜ってきた青年は後陣を任されているはずの佐々木弘綱だった。

「軍は家臣に任せてきました。何やら急使が参ったようで・・・・」
「構わん。先程の発言を続けろ」
「はっ。この戦場にある藤丸の本陣、それは偽物です」
「どうしてそれが分かる?」

 貞流ではなく、他の部将に問われた弘綱はその部将に向き直る。

「逆に問いますが、どうしてあそこが藤丸の本陣だと?」
「そんなの、鳴海に守られ、後陣と思しき部隊の前にいる。立派な本陣ではないか」
「そうですね。布陣的には立派な本陣です。しかし、軍隊を指揮しているのはその前方に布陣する鳴海直武です」

 弘綱は体を貞流に向け直した。

「本陣とは軍勢を指揮する中枢です。この考えならば、本陣は鳴海勢。そして、藤丸がこの地にいる必要はありません」
「まさか・・・・藤丸の狙いは我が軍主力の誘引だと申すかっ」
「おそらくは。そして、真の狙いは鹿児島城にいる"霧島の巫女"を奪取すること、だったのでしょう」
『『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』』』

 幕僚たちが絶句した。
 野戦決戦主義で調練を受けている龍鷹軍団を預かる部将としては決戦場に主将がいないなど考えられない事実だ。

「ならば、我々がすることは決まっているな」
「はい。今日の未明に鹿児島を攻めたのでしたら、進発するのは今日の早朝」
「まだ着いていないな。―――よし、これより、本隊は反転し、重富へと向かうッ」
『『『え!?』』』

 突然の宣言に幕僚たちは腰を抜かさんばかりに驚いた。

「本隊は重富に上陸するであろう藤丸本隊を叩く」

 突然の路線変更に幕僚たちは異議を唱える。

「主力軍撃破は!?」
「そんなもの、あやすように言え」
「敵戦力が分からないのですよ!?」
「輸送船団で移動する限り、一〇〇〇を大きく上回ることは有り得ない」
「しかし―――」
「これは決定だッ」
『『『・・・・ッ』』』

 まだ異議を唱えようとする幕僚に一喝した貞流は床机に腰掛け、幕僚たちにもそうするように促した。

「いいか、お前たち。我々の目的は内乱を終結することだ。藤丸がこの地にいない以上、例え敵主力軍を撃破したとはいえ、内乱は終わらない」

 主力軍を撃破しても藤丸が存命である限り、抵抗を続けるであろう。そして、藤丸は三〇〇を八〇〇〇に変えた戦略家だ。
 どんなことで足をすくわれるかわかったものではない。
 貞流政権が安寧した時世を過ごすには藤丸の死は不可避なのだ。

「ここで敵主力を押さえ込み、重富に揚陸した藤丸を討つ」

 藤丸本隊約一〇〇〇に対し、貞流本隊は二五〇〇だ。そして、貞流の戦略目標通り、藤丸は罠をめぐらす時間などないに違いない。

「我々が動くためには戦局を大きく動かす必要がある」

 そして、今こそ好機だった。

「有坂へと伝令。主力軍の指揮権を委譲する、とな。本隊より三枝の四〇〇は有坂の後陣として残れ」

 有坂秋賢は鳴海直武と並ぶ野戦の名将である。
 彼が軍勢を率いるならば無残に敗れることはない。

「三枝が動くと同時に陣替えし、一心不乱に重富に駆ける」

 静かに宣言された命令に、真っ先に動いたのは弘綱だった。

「それでは物頭たちにそれを伝えて参ります」

 それを皮切りに部将たちは我先に立ち上がり、指揮する軍勢の下に駆けていく。

「藤丸・・・・今度こそ決着だぞ」

 貞流の眼下にて、伝令が有坂勢に駆け込んだ。




「―――動いたっ」

 藤丸勢の中核に布陣する鳴海勢の本陣で、鳴海直武が思わず膝を打った。
 彼の視線は確実に動き出した貞流本隊が見て取れる。
 軍旗が靡き、一斉に湯湾岳を下り始めた。
 彼らが向かうは決戦地ではなく、西。
 総勢二五〇〇ほどだろう。

「敵左翼を取り込むぞ」

 直武は数名の伝令が各部署に向かわせる。そして、作戦開始を告げる太鼓の音を高らかに打ち鳴らし、龍鷹軍団にその人ありと言わしめた戦術家の妙技を見せ始めた。

「突撃ぃっ」

 これまで射撃戦に興じていた長井衛勝が采配代わりの大身槍を振り下ろす。
 一時は向坂勢に食い込んではいたが、右翼の御武勢が大きく後退し、その隙間を埋めるために間隔を開けていた。
 そのために起こった第二次射撃戦は長井の武者衆にとって苛立たしい時間だった。だが、それは終わった。
 貞流本隊が戦場を離脱しようとしている今、敵軍に動揺が走るに違いない。

「押せぇっ」

 これまで地面に置いて弾丸から鉄砲隊を守っていた竹束を持ち上げ、一斉に鉄砲隊が突撃を開始した。
 その後方には長柄隊、徒歩武者隊が続く。

「援護しろッ」

 龍鷹軍団最強と謳われる長井勢の突撃に怯み、鉄砲隊の隊列が乱れた瞬間、向坂勢は思わぬ場所から狙撃された。

「な・・・・なに・・・・」

 すぐ隣の同僚が喉元を撃ち抜かれて絶命した武将は目を見開きながら右前方を見遣る。

「あ、ありえん・・・・」

 この位置から二町近い場所に折り敷いた二〇名ほどの鉄砲衆。
 武藤勢に所属する彼らは前線で起きている白兵戦から逃れた者たちのようだが、そんなことはどうでもいい。
 彼らは六匁弾で、最大射程距離に等しい位置から正確に甲冑を避け、急所を撃ち抜いたのだ。
 それも、先程の一斉射撃で倒れたのは二〇名。
 ほぼ百発百中と言っていいほどの命中率だった。
 まさに狙撃である。

「く、これがむと―――」

 額に衝撃。
 その感触を最後に彼の意識は途絶えた。
 この猛攻を皮切りに藤丸主力軍の中央軍は反撃に出る。
 無理矢理と言っていい白兵戦の強要に向坂勢は嫌がり、後退した。だが、その分前に出た長井勢は騎馬武者四〇騎ほどを武藤勢と戦う植草勢に送り込む。
 突然現れた強兵に植草勢は後退し、隊列を立て直そうとした。しかし、それが長井勢の狙いだ。
 距離を開けた分、立て直した武藤勢が一斉射撃を行い、数十名の植草兵が死傷した。
 この連携こそ、長井・武藤勢が誇る戦術だ。

「よし、隙間ができたッ」

 溌剌とした声を上げたのは鳴海勢第二陣で待機していた鳴海盛武である。
 直武から右翼の援護を任されていたが、右翼への道は楠瀬勢が止められたことで閉じていた。しかし、中央軍全体が前に出ることで、右翼奥深くまで食い込んでいた村林勢を攻撃できる。

「村林勢を包囲するッ」

 龍鷹軍団を代表する若き勇将は自ら先頭に立って突撃を開始した。




「―――見えましたっ。合図ですっ」

 七月三日、巳三つ刻。
 鷹郷藤丸を総大将とする船団が大隅国重富地域に現れた。
 つい先程、海軍の護衛艦隊が貞流方の艦隊を覆滅しており、上陸を邪魔する海上部隊は存在しない。そして、陸上からの合図は上陸を邪魔する陸上部隊もいないことを意味していた。

「序列に従い上陸開始」

 藤丸は指示を下し、それを聞いた海将・東郷秀家は大音声で太鼓持ちに命じる。そして、その太鼓の音で、まずは先鋒を受け持つ海軍陸戦隊一五〇を乗せた船が岸へと向かった。
 そのすぐ後方には陸軍の瀧井信成二〇〇を乗せた船が付き従う。

「東郷、お前は安宅船を率い、海岸線を東に進んでくれるか?」
「はい。・・・・しかし、何故?」
「もしかすれば、貞流勢が海岸にいるかもしれない。そうすれば、艦砲射撃で脅かしてやれ」
「御意」

 東郷秀家はつい先日まで第一艦隊副司令長官だった。
 琉球王国との戦いでは砲戦を行う安宅船を尻目に関船四隻にて敵艦隊に肉薄して散々に荒らし回った経歴を持つ勇将だ。
 鹿児島城にて実流と共に多くの指揮官が倒れたが、東郷は艦隊の当直であったために難を逃れている。
 その後、東郷は第一艦隊をまとめ上げ、藤丸の援護を果たした後に根拠地である指宿港に移動した。
 すぐさま東郷は種子島の南方派遣艦隊、日向宮崎港の第三艦隊などと連絡を取り合った。
 因みに第二艦隊は内乱勃発の翌日には貞流の意を受けた陸軍が押し寄せ、武装解除されている。
 陸戦隊の招集や艦隊の編成、喪失した指揮系統の再生など、東郷がなした功績は大きい。
 何より、その迅速な対応が貞流方によって引き起こされた枕崎城攻防戦において、瀧井信成以下二〇〇名の軍勢を助けることとなるのだ。

「しかし、藤丸様、宮崎港守備隊などを鹿児島においてきてよかったのですか?」

 陸戦隊が上陸し、速やかに重富港を支配下に置く様を眺めていた藤丸に東郷が問う。
 第一艦隊が護衛した輸送船団に搭乗している陸軍部隊は陸戦隊を除けば、七〇〇だ。
 宮崎港守備隊や傭兵衆の多くは鹿児島城に残していた。

「運んできたのですから、あれくらいは搭載できましたよ?」

 これから貞流主力軍に殴り込みをかけるには数が心もとなさ過ぎる。
 海軍陸戦隊と輸送船団、その護衛艦艇は重富を確保するために残る。
 藤丸は七〇〇で、戦わなければならなかった。

「心配しなくていいよ。これも考えてあった」
「? ああ、そういえば、合図を送ってきた者たちがいましたね」

 さすがは百戦錬磨の海将。
 ほとんど何も言っていないのに気付いたようだ。

「そういうこと。合図を送っていたのは吉井直之だ」

 吉井直之は元貞流子飼いの部将である。しかし、えびの高原の戦いで藤丸方に付き、その後は飫肥城攻防戦を戦った。
 その直後から薩摩に侵入し、領地の兵を糾合して岩剣城を拠点として展開していたのだ。
 貞流は戦力を鹿児島に集中することで、彼らを見落としていた。
 彼らこそ、藤丸が貞流勢の背後を安全に衝くための戦力であり、同時に七〇〇で鹿児島城を出発した要因だった。

「ん?」

 ニヤリと笑っていた藤丸が訝しげな声を上げる。
 突然、岸に近い水面が弾けたように白い水柱を立てたのだ。

「おい、どういうことだ?」

 疑問符を投げかける藤丸を尻目に東郷は手だけで合図し、数名の水兵が大鉄砲を構える。しかし、それを制止すると共に藤丸の質問に答えるべく、ひとりの武将が発言した。

「安心してください。あれは倅ですよ」
「時盛・・・・」

 旗艦である安宅船には加納郁以下三〇名の旗本と藤丸本隊の指揮を任された御武時盛が乗船していた。
 時盛は宮崎港守備隊などを率いていたが、この作戦では十数名の馬廻衆を連れているだけであり、その配置先は藤丸の本陣である。

「幸希には先に上陸し、吉井殿と情報を交換するように命じてあります」
「幸希? あの高速で迫ってくる上陸艇はあいつが動かしてるのか?」

 御武幸希は藤丸の目から見ても莫大な霊力を有している。そして、その運用法にも優れ、一廉の霊能士であろうことは明白だった。

「それにしても・・・・どうやって・・・・」
「霊力を船尾と水面の間で破裂させているだけですよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・とんでもねえ」

 上陸艇はまるで水面を跳ねるようにして、本来の速度の数倍で旗艦に到達する。

「藤丸様、大変ですっ。ぅわわっ」

 甲板に放置されていた縄に脚を引っかけ、盛大に転んだ。

「何が大変だって?」

 両手を投げ出して転んだままの幸希の側に寄り、藤丸はしゃがみ込む。

「は、はい。・・・・湯湾岳付近にて両主力軍が激突しています。しかし、吉井殿の物見は重富向けて進軍中の貞流勢を発見。遠目ながらも貞流様の馬印が確認できたようです」
「・・・・ッ」

 ビクリと震え、藤丸は固まった。

「数は?」

 代わりに時盛が問う。

「およそ二〇〇〇。吉井殿は岩剣城への入城を希望されております」
「分かった。―――東郷殿、最早序列など関係なし。すぐさま全軍を上陸させてください」
「承知」

 東郷が指示を下すと、太鼓の音が変わり、重富沖に停泊していた輸送艦が一斉に岸へと進み出した。

「藤丸様、事は一刻を争います。早期に防衛線を展開しなければなりません」
「う、うん・・・・ん?」

 力なく頷いた藤丸の背後に誰かが立つ。

「てい」

―――ボコッ

 突如、後頭部に走った激痛に藤丸は倒れ込んだ。

「えー!?」

 幸希が心底驚いた声を出すが、周りの大人の声は聞こえない。
 涙目になりながらも何とか体を起こした藤丸が見たのは仁王立ちする護衛だった。

「さっさと立つ。時間がないんだから」

 郁は籠手をはめた手をふりふりと振りながら言い放つ。

「ちょっと待てっ。お前、その籠手のまま殴ったろっ」
「そんなことはどうでもいいのよ。早くしないと負けるわよ」
「・・・・ぐ」

 重富――海岸側は脇元と呼ぶ――から岩剣城までは約半里だが、岩剣城は有名な山城だ。
 龍鷹侯国が薩摩−大隅間で争っている時は重要な戦略拠点だったが、統一されてからは麓に平松城を築いて政務を執り行っていた。
 十数年前に行われた城郭整備で、重要拠点は近大大改修を受けたが、岩剣城、平松城共にその対象に選ばれなかった。
 この地域を領有していた武藤家は少数の物見兵を岩剣城に派遣し、情報収集に当たる場所に位置づけており、本格な防衛線としては考えていない。

「時盛、岩剣城で大丈夫か? 思川で半途撃つの方が―――」
「兵力が圧倒的すぎます。武藤勢がいれば別ですけどね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「岩剣城は確かに防衛施設としては遺構、といって差し支えありません。しかし、その峻険な地勢は兵力の利点を潰します」

 時盛は藤丸の腕を掴み、引き起こした。
 安宅船の周辺には上陸艇が集結している。
 安宅船に乗る藤丸たちを収容しようというのだ。

「旗本衆、瀧井勢は白兵戦であれば無類の強さを発揮します。寺島勢も山岳戦は得意。無理に野戦に持ち込む必要はありません」

 理路整然とした物言いに藤丸は頭が冷めていくことを体感した。

「・・・・そうだな。相手の土俵で戦う理由はない」
「そ、あんたは迷わず進みな、さいっ」
「お前はちょっとは悩めよぉーっ!?」

 首根っこを掴まれ、思い切り船外へと投げ飛ばされた藤丸は急速に遠離る郁に渾身のツッコミを入れた。

「・・・・・・・・ああ、そうだ。東郷殿」
「・・・・なんですかな?」
「どうしたのだ、幸希?」

 先程見た光景が忘れられないのか、ふたりはどこか心ここにあらずの状況で幸希の話に耳を傾けた。

「艦載砲をいくつか貸して頂けませんか?」
「「・・・・・・・・・・・・」」

 その言葉でふたりは雰囲気を一変させる。

「―――し、沈むっ。沈むっ」
「ええい、それでも鷹郷一門かッ」
「甲冑着たままだと誰でも沈むわっ」
「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 その雰囲気も、総大将の言葉で一掃された。

「と、とりあえず、用意する」
「「お、お願いします」」










第三戦第四陣へ  第三戦第六陣へ