第七章「鬼と踊る後夜祭」/ 2
「―――準備はいいか?」 「ああ。それにしても助かったぜ」 「俺たちだけじゃ力不足だしな」 統世学園が建つ山――烽旗山の山頂部分では戦勝した結城勢力が集結し、勝ち取った権利を行使するため、作業に没頭していた。 「知識持っていそうな晴也も一哉もどっか行っちまったしな」 「ふふふ。例え入院していても己の物は己で上げるっ」 「おおっ、漢気溢れるセリフだな、おいッ」 「分かってくれるか、来須川ッ」 ガシッと熱っぽく手を握り合う2人。 「はいはい。さっさと準備しねえと間に合わねえぞ」 「「村上冷てぇ」」 「不満そうに呟いてお互いの頬擦り合わせんなっ。っていうか、そんな状態で寄ってくんなッ!」 本気で嫌そうに手を振って後退る村上武史。 ―――ドーンッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!! 『―――っと始まる後夜祭〜。ついでに終わる文化祭一般の部〜。終わりと始まりが一緒なんてややこしいよね〜』 『―――音響弄って大きな音出すなよッ!』 「ドゴッ」という異音がマイク越しに発せられた。 『オウッ。う〜、副会長、ツッコミは嬉しいけど・・・・掌底は痛いですぅ・・・・』 『仕方がないだろ。ツッコミ役プラス引っかき回す会長がいないんだから』 『・・・・・・・・普段、影薄いのに〜』 『うるさい。さっさと司会進行しな』 『へ〜い。まあ、今年は大きなこともなかったし、呼び出す人はいないんだけど―――』 『『『―――馬鹿野郎っ、っんなわけあるかァッ!!!!!!!!!!!!!!!!!』』』 『―――はい、そこ〜。不正委員たちさん、拡声器奪って絶叫しな〜い。何も〜なかったんです〜。あんまり皆さんを混乱させては〜いけませんよ♪』 この時、誰もが思ったであろう。 あの会長に、この書記あり。 『―――は〜い、思った通り、進行してないのね。ダメじゃない、ちゃんと司会しないと・・・・。―――あの時のことを、忘れたの?』 『ヒッ!? いえいえ、そんなはずありません。私めはあなた様の偉大さを痛感した一時でありましたのことひょ!?』 『噛んでるぞ』 『うるさ〜いです。あの甘美〜・・・・いえいえ、あの地〜獄が分からな〜い方は口がなくなれば〜いいんです〜』 『狂ったか?』 『副会長、その言葉は・・・・い・ま・さ・ら・よ』 『それもそうか』 『ムキーッ。結局会長出てきても進んでないじゃないですか!?』 『私たち無視してさっさと進めればいいんでしょう?』 『全くだ』 『・・・・もう嫌だ〜。この3年生コンビ〜』 「―――相変わらず、苦労してるな、書記」 「ああ。でも、こういう奴ほど、次期会長になって圧政を敷くんだ。いや、混迷極めて何も残せない可能性の方が高いかな」 「・・・・もはや生徒会とかいうレベルじゃないよな、ここ」 クリスが呆れた口調で言う。 「当然だろ。ここは統世学園。学園を統べるは生徒会。そして、生徒会は数百の兵士を率いるんだぞッ」 「この日本に兵士かよっ。って何気に全校生徒じゃねえんだなっ」 「ああ。ってか、俺たちが違うだろ?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あ、そっか」 つい先程まで委員会である不正委員会と事を構えていた。 客観的に見れば生徒会を相手していたに等しい。 「暗部は出てこなかったけど?」 「気まぐれだしな、暗部は。ってか会長自体」 「とにかく、全て準備は整った。後は合図を待とうじゃねえか」 そう言って整備していた花火同好会と王水入り水鉄砲で武装した警備の化学部が空を見上げた。 10月の空は間もなく星と月の光のみとなる。 『―――放送越しにじゃれてないでいい加減、始めないか?』 呆れた声音で言う副会長に会長は書記を弄るのを止めた。 『そうね。―――飽きたし』 『ひどい〜。あの〜、言葉は〜まやかしだった―――』 『それでは、行ってみようっ』 『最後まで言わせてくださいッ』 『言わぬが花、というものよ』 『ちょっと違うと思い―――』 『だから、始めるぞ。ただの雑談で5時まできたじゃねえかよ。今年度の生徒会は進行に問題ありって記されたらどうする?』 『あ、それ。もう私が記した』 『記したのかよっ。しかも、張本人のお前がッ』 『ハッハッハ。良きかな良きかな。主君を支えてこそ名家老よ。頼りにしてるぞ、副会長』 『もはや、万策尽きたよ・・・・会長』 ガックリと項垂れる姿が誰の脳裏にも浮かび、それが失笑を買った。 『さて・・・・焦らすのもこれくらいにして―――』 「そうだーっ!」「早く始めろーっ!」などと声がする。 みんな後夜祭の開始を今か今かと待ちわびているのだ。 『校長先生にでも話をしてもらいましょうか』 ―――ズザァーッ 『―――呼んだか?』 『うわ〜、出〜た〜っ』 校長登場。 『って思ったけど、時間ないし却下ね。連れてって』 『うおっ!? 君、いくら何でもその冗談はないだろ!?』 『何を言ってるんですか? 私、ブラックジョークは大の得意ですよ♪ 大丈夫です。誰も簀巻きにして校長室に丸一晩放置、とか公言しませんから』 『・・・・やるんだな? そして、公言もしたんだな』 『あら? ・・・・まあ、いいわね。事実だし』 『おっしゃ。手筈は任せろ』 『・・・・副会長が〜どす黒い笑みを浮かべて〜、意外に逞しい腕をさらけ出してます〜』 『・・・・・・・・・・・・・・・・・・会長。こいつも一緒でいいか?』 『いいんじゃないかしら』 『嫌です。無理ですっ。お二人は般若か、夜叉か、はたまた馬鹿か。判断に労しますっ』 『訂正。"連れて"くわ』 『よろしく、簀巻きじゃなくてコンクリ詰めね』 『了解。ほら、行くぞ。執行猶予人』 『あ〜れ〜、人攫い〜』 『ばいば〜い』 校長退場。 『さて、ようやくまともに話せるわ。全く、困ったものね』 ―――ズザァーッ 『ってわけで無礼講の後夜祭の始まりよ。まず見てみようか。"不正委員会を相手に大健闘した勇士たちの成果"をッ!』 『『『『『『・・・・・・・・え゙?』』』』』』 『―――合図だッ。野郎ども、御前でしくじるんじゃねえぞッ!』 『あいよ。我らが血肉を注ぎし、作品。決してプロにも引けをとらねえことを教えてやるぜッ』 『点火ッ!』 『発射用意ッ!』 『よぅいッ!』 『目標、満点の星空ッ』 『部長、似合いません』 『うるさいやいっ』 「すぅ」と思い切り、息を吸った部長と呼ばれた少年はその息を糧にあらん限りの声を放った。 『―――撃てぇぇぇぇぇぇぇっっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』 ―――ズドドォォォン!!! ドドォォォン!!!! ドガァァァァァンン!!!! 夜の帳の中、山頂からの轟音が生徒を脅かし、その視線を空へと向けさせる。 ―――ドオオオオオオオオオオオンンンンンンッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!! 『『『『『『あ・・・・』』』』』』 パーンッと擬音が聞こえそうなほど弾け飛ぶ"花火" それがいくつも上がり、一般の部の終わりと生徒の部の始まりを告げる合図となった。 熾条一哉 side 「―――上がったか」 一哉は1人、中庭の木の枝で独りごちた。 いや、背後には守護獣――緋が浮き、下知を待っている。 先程まで中央部に杪と瀞がいたが、結界が発動するとすぐに杪が何処かへ駆け出し、瀞も慌てて杪を追っていった。 2人とも一哉に気が付いていなかったし、一哉もそれでよかった。 今夜、一哉は戦略家でも戦術家でもなく、ひとりの戦士として戦場を駆けるつもりだった。 鹿頭家を取り込むつもりだが、単独行動もできぬほど、腑抜けにするつもりはない。 ここ一番で動けぬ戦力などほしくしない。 「――― いちやっ」 「ああ」 中庭に通じる道をひとつの異形の一団が駆けてくる。 間違いなく鬼族の軍勢だ。 「数は・・・・一〇か」 1人で相手するには多少骨だろう。しかし、今の一哉には半身たる緋がいる。 一哉は掌をその軍勢に向け、おそらく本戦最初の攻撃であろう炎弾を放射した。 ―――ドドドォォォッッッ!!!! 炎弾は瞬く間にその場を業火で包み込む。だが、耐火能力に優れ、また精霊術に耐性のある鬼族の肌を侵略するほどの火力はなかった。 「―――見つけたぜぇ。炎術師ぃ」 ニヤリと口元を歪める鬼たち。 その肌に火傷の後はなく、ただの牽制にしかならなかったことがよく分かった。 どうやら一哉の単純攻撃力では倒せないようだ。 何気ない一撃で敵を排除できる綾香は規格外だとしても、何のダメージも与えられないということはそうなのだろう。 鈴音は単純攻撃力も高いし、おそらく多くの分野で秀でている。 「ま、いいけどね」 他人と比べてもどうしようもないし、単純攻撃が牽制にしか使えないならば、牽制に使えばいい。 さらに炎術だけが一哉の武器ではないのだ。 「さあ、始めようか」 殺気剥き出しの気配におののいた鬼族たちはそれを恥じるように特攻を開始してくる。―――それが一哉の策のうちだと気付かずに。 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 無言で彼らを指差す。 瞬間、一哉の周囲に炎弾が出来上がり、空気を焦がしながら疾走した。 ―――ドドゴンッ!! 突撃してきた8名の内、4名が弾かれたように後方に吹き飛ぶ。しかし、残りの4人はその拳を地面に叩き付けるようにして一哉を狙い―――やはり、それは地面に突き刺さった。 「「「「―――っ!?」」」 大きく飛び退く、というか2階くらいの高さまでジャンプした一哉は彼らを見下ろすようにし、特大の火球を叩き落とす。 それは彼らの頭上で大爆発を起こし、その衝撃をほぼ真下へと向けた。 「グッ、ガッ!?」 地面に叩き付けられるように崩れ落ちた鬼族とは対照的に一哉は悠々と着地しようとしてその着地地点に鬼族のひとりが回り込んでいることに気付く。だが、一哉は慌てることなく火球を4つ作り、落とした。 「くっ・・・・?」 火球は鬼族ではなく、彼を中心にした前後左右に落下する。 それに彼は拍子抜けしたような表情を浮かべるが、次の瞬間、彼の顔は無様に引き攣った。 「―――オオオッッ!?!?」 爆発で生じた衝撃波が彼を四方から襲う。 全く同じ力が四方からぶつけられ、彼の躯は若干宙に浮いた状態で固定された。 「まず、ひとり」 脳天唐竹割。 腕力と重力、さらに"気"によって増した切れ味によって容易に鬼族は両断された。 沸き出る血の泉の中、一哉は血刀をぶら下げ、残りの鬼族を見遣る。 「お、おのれ・・・・っ」 意気込むばかりで出てこない。 一哉の戦い方に翻弄されるだけされ、抵抗もなく仲間が斬り捨てられたのだ。 「炎自体が効かなくてもな、爆発もまた炎術なんだよ」 ダンッと一哉は踏み切り、爆発的な加速力で鬼族の一番前にいた者に迫る。 「くっ」 鋭い爪を構えるが、彼らは素手。 普通の武器相手ならば有効かもしれないが、一哉の刀――<颯武>は彼の炎でもノーダメージな名刀。 さらに生来"気"の保有量の多い一哉。 広い場所で囲まれなければ一哉でもそう簡単に負けるわけがなかった。―――多少の傷は覚悟の上だが。 「セアッ」 下段からの切り上げ。 それは鬼族の腕を半ばから断ち切り、宙を舞わした。 その後、返す刀で脇腹を斬りつける。 「グゥァッ!?」 腕から血を滴らせ、怒りに満ちた視線を一哉に向けた。だがしかし、その場に一哉はいない。 「な、どこ―――グァッ!?」 背後から炎弾の攻撃を受け、吹き飛んで思わず失った腕の傷口を下に倒れてしまった。 「―――っ!?」 声にならない悲鳴が上がる。 激痛にその者は地を這って痙攣し、数秒後には気絶した。 戦闘不能である。 「二人目っ」 ―――その後、一哉は再び鬼族から距離を取るのに片手で数えきれぬ傷を負ってしまったが。 いくら個人戦闘能力が高かろうとも、集団戦には意味がない。 意味があるときは戦闘能力に差がありすぎる時のみだ。 今はそうない。 一個人ならば一哉は無敗を誇るだろうが、敵中に躍り込み、退路を失えば瞬く間に蜂の巣に変わるだろう。 「〜〜〜 効いたぁ・・・・」 腕や脚から滴る血を見て一哉は呻いた。 力のせいか、掠っただけでも激痛が脳を揺るがし、何度も足を止めかけてしまう。 鬼族との接近戦は高い技術と深追いしない精神力が命を繋ぐのだ。 妹――鈴音は敵の攻撃を躱わし、攻撃を"当てる"ことしか興味がないような戦いをする。 それこそが対鬼族には必要なことだろう。 (・・・・忍びの戦い方ってすごいんだな。っとそれどころじゃないな) 【―――っていうか、緋は何をやってるんだ?】 頭上を意味もなく旋回し、攻撃する気配もはたまた姿を現す様子も見せない守護獣に思念を送った。 【え〜。いちやはこれくらい大丈夫でしょっ】 【・・・・基準は何だ、基準は?】 【へへ。応援するよっ】 【励ます方じゃなくて・・・・助ける方の意味だと尚いいんだが・・・・】 軽く無視されたが、戦闘中なので長くは構えない。 (―――さぁて・・・・どうしようか) 一哉が彼らの前に立ちはだかったのは勝算があったからではない。 ただ、ここを通すわけにはいかなかったからだ。 少し前にこの先で鬼族の部隊が鹿頭と衝突した。 そこに援軍に行かれると鹿頭の壊滅は間違いなし。 仕方なしに一哉が食い止めることにしたのだ。 そもそも、一哉は刀を交えた攻撃が得意なわけではない。 暗闇での奇襲や先程のように炎術を組み合わせた力業ならかなりいい線行くだろうが、ちゃんとした剣術など習っていないのだからどこか無理が出る。 戦闘を通して自然に身に付けた介者剣術もどきなら使えるが、示現流や新陰流など、独自の奥義を考案し、境地に至った技ほどではない。 一哉の修めし剣は倒すためではなく、生きるためのものなのだから。 (足止めしたものの・・・・倒さなければ今度は俺が多勢に無勢でなぶり殺しだしなぁ・・・・) 単純攻撃は効かない。 接近戦は後数回で打ち止め。 ならば手はあとひとつしかない。 「野郎、やってくれたなぁ・・・・」 気絶した仲間を介抱しながら鬼族たちは怨みと怒りでどす黒くなった眸をこちらに向けてきた。 (やるかぁ・・・・) 軽く聞き流し、辺りで自己主張してくる<火>たちを統率し始める。 普段は無造作に集めたものを叩き付けるだけだが、今度はじっくり形にしていった。 その副産物として全身に"気"が満遍なく回り、ケガの止血や簡単な治癒が働いていく。 膨大な"気"が体内より沸き上がり、そのまま体外へ放散されそうになるのを必死に止めるが、間に合わなかった"気"の奔流が一哉を中心にして荒れ狂った。 その"気"に引き寄せられた<火>が次々と顕現し、一哉に纏わりつく。 日が沈み、暗くなっていた周辺校舎の壁を紅蓮の炎が煌々と染め上げた。また、やや暴走した炎の奔流が中庭の木に命中する。 一瞬で松明と化した木は数秒後、枝の端からボロボロと崩れ始めた。 『『『―――っ!?』』』 ズザッと鬼族たちが後退る。 "副産物"で荒々しい鬼族を畏怖させた一哉は知ってはいても、試したことのない初めての術を起動させようと必死になっていた。 (くっ、存外に難しいなっ) 体内に止めた"気"を暴走させないように制御し、自らが目指す方向に持っていく。 一哉の額に玉の汗が浮かび上がって来た。 「―――くそっ」 鬼族のひとりが中庭の手頃な石を拾い上げる。そして、振りかぶって思い切り投げ付けた。 今の一哉に回避はない。 目を閉じ、集中し始めていた。 鬼族の筋力で加速された石はおそらく命中すれば大怪我で済めばいい、という大打撃を受けるだろう。 ―――当たれば。 ―――ゴアンッ!!!!!!!! 暴走した炎が一哉の手前数メートルで石を焼き尽くす。 「手数を増やせっ」 「さすがに多ければ無理だろっ」 怯むどころか、迎撃したことに身の回りの炎では石を防げないと判断した鬼族は俄然やる気を出し、石を拾い始めた。 戦場跡(?)と言うことですぐに手頃な石が見つかる。 それらを手に鬼族たちは狙いを付けて振りかぶった。 彼我の距離は20メートル弱。 彼らにとって間違っても外す距離ではない。 「ウラァッ! 仲間の仇ィッ」 合わせて8個の石(中には大きいのもあり)が一哉向け、疾駆を開始する。 ほとんどは体に命中するコースだが、ひとつだけ一哉の頭を目指す物があった。 それらが一哉に命中する寸前――― 「―――"燬熾灼凰(キシシャクオウ)"」 <―――ケーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!> ―――ドオオオオオオオオオオッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!! 大きな鳴き声と爆発するように燃え盛る紅蓮の炎。 それらがあっという間に、有無を言わさず、投擲者さえ気付かせずに石たちを焼却処分した。 「ふぃー。成功したか・・・・やれやれ」 一哉は額に浮いた汗を拭い、頼もしそうに背後に立つ光源を見遣る。 <ケーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!> 視線に気付いたのか、紅蓮に輝く翼を大きく広げ、天を仰いで咆哮する大鳥。 「よしよし、生まれたて悪いんだが―――」 一哉は火の鳥の首を撫でた。 鳥は嬉しそうに炎を撒き散らす。 「―――奴ら、喰っていいぞ」 『―――っ!?』 <ケーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!> 「ヒッ!?」 嬉しそうに一鳴きし、燃える瞳を鬼族たちに向ける。 その瞳に殺気はなく、ただ圧倒される火力だけがあった。 蛇に睨まれたカエルのように足が動かない鬼族たち。 <ケーッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!> 羽ばたき、紅蓮の火の粉を散らした火鳥は一瞬で"一哉を擦り抜け"、鬼族をその体の内に呑み込んだ。 『『『ギャアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』』』 8人分の絶叫。 悲鳴だけはその体から漏れ、風のように彼らを突き抜けた火鳥は対面にあった校舎に爆音と共に大穴を開けて消えた。 元の闇を取り戻した中庭にはプスプスと煙を上げ、ところどころ組織を炭化させた鬼族たちが転がっている。 「あ〜、やばいな、これ」 一哉はふらりと蹌踉めいて言った。 死んではいない者もいるようだが、トドメを刺している間に間違いなく敵が来る。 今の状態で敵を退けるのは無理だ。 (まあ、10人を戦線離脱させただけで良し、とするか) 一哉は屋上を見上げ、こちらを見下ろしていた黒い影に手を一振り、意味が伝わったか知らないが、一瞬その影の輪郭が紅く輝いたのでとりあえず、戦意はあるようだ。 ―――誰に対してかはともかく。 「緋」 「―――なあにっ?」 すっと後ろに気配が立つ。 「俺の代わりに暴れてくれ」 「分かったっ」 ぐっと握り拳を作って意気込む緋。 「生徒会棟には近付くな。誤射されて撃ち落とされても文句言えないからな」 「了解だよっ」 無邪気な笑顔は戦場に似つかわしくないが、一哉は信頼して緋に『影武者』を任せた。 |