第四章「疑心、疑惑、懐疑」/ 1


 

 山深くもう何キロも専用の道を行ったところに建つ施設があった。
 外壁は寂れているが、中は改装されて最新鋭の設備が揃っている。
 人数は研究者・下っ端・検体併せて十数名ほどしかいないが、それでも十分な実験が可能な施設だった。

「―――所長。準備できました」

 数枚の書類を見たまま声を放った助手。そして、すぐに書類を手渡してくる。

「うふ。ちょうどここには検体のお友達がたくさんいるものね。いい結果が得られそう」

 所長と呼ばれた女性は艶然と微笑み、書類に目を通した。

「それで実験はいつ―――」
「今からよ。奴の保護者はボディーガードとか言ってたけど私たちと戦う馬鹿はいないわ」

 所長はニィ〜、とした笑みを浮かべる。

「あの子は私の気が済むまでここで実験に参加するのよ」
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」

 助手は上司の狂気に触れ、わずかに後退さった。



「―――シロ、おいで」

 暗い部屋のベッドに腰掛けた少女の声に部屋のどこかから白い大きな蛇が出てきた。
 それは少女の足元まで来るととぐろを巻き、その鼻先を少女の差し出した手に触れさせる。

「いいこ、いいこ」

 少女はそんな蛇の鱗に覆われた頭を撫でた。
 その表情は幸せそうで蛇もどことなく上機嫌だった。
 そのまま少女はお呼びがかかるまでずっとそうしていた。






熾条一哉 side

「――― 一哉、起きて」

 朝の日差しがカーテンを突き抜けて襲いかかる。
 ついで夏の空気が嫌でも寝苦しくさせた。
 起きてもいいだろうが、熾条一哉は抵抗した。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ねえ、起きてよ」

 それでも相手は食い下がる。ならば根比べだとばかりに一哉は無視し続けた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・起きないと―――」

(―――っ!? 殺気!?)

「―――うおあッ!?」

 殺気に反応し、慌ててベッドから飛び退いた一哉の視界に同居人――渡辺瀞の姿。

「うん、起きたね。やっぱりこの手に限るね、一哉を起こすには♪」

 ニコッと可愛らしく笑う。
 それはともかく、手に持つ木刀が不気味すぎた。
 迷惑極まりない方法で、時には生死を懸ける寝起きなんて嫌だっ、と抵抗したい。だが、早くも食の全権という最強の大義名分で家主侵犯を始める瀞にそれは通用しなかった。

「一応、無駄だと思うが・・・・殺す気か?」
「まっさかぁ。あれくらいで一哉は死なないよ。うん、信じてるから♪」

 先程の数倍(←単位不明)の笑顔を向けて信頼(?)してくれる瀞。

(それは殺しても死なないと言っているのだろうか・・・・)

 瀞の笑顔には間違いなく「信用」が見て取れるが、その信用について小一時間ほど話し合いたい気分だ。

「ほら、早く支度しようよ、今日はクラス企画でしょ?」
「あ、そうだっけ?」

 一哉は思いがけない言葉にきょとんとした。そして、唐突に嫌な予感が全身を駆け巡った。

「・・・・お前、どうして知ってる?」

 瀞がここに滞在し始めたのは10日前だ。
 その時はすでに計画は各自に通達されていたし、一哉も今まで忘れていたのだから言ったはずがない。
 
「さっき電話で宮沢さんが言ってたよ。何か『なっ!?』とかって驚いた後、『そう、熾条は生贄になりたいのね、フフフ』とか言ってたけど?」

 「ん〜」というように顎の下に指先を当てて言う。

(ギャアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!!!!!!!)

 それに一哉は心の中で悲鳴を上げていた。
 宮沢とは黒魔術研究同好会に所属している。
 間違いなく生贄は悪魔を呼び出すためのものだろう。

(それは手を打てば何とかなるがっ)

 瀞が一哉の家にいたという事実は覆せない。
 前の1ヶ月も奴らに知られていなかった――結城晴也・山神綾香は別――のだ。
 今の状況は極めて悪い。

「ああ・・・・見える。見えるぞ、奴らの素敵な笑顔が・・・・」

 きっと同じような笑みを貼り付けて得物を振り上げるに違いない。

「フ、フフフフ」
「うわっ、一哉が壊れたっ」

(いずれ通る道だっ、やってやろうじゃないか、1−Aっ)

 不気味に笑い続ける一哉に瀞は「じゃ、早くしてね、待ってるから」とさわやかに無視して背を向ける。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・待て」

 ちょっぴり寂しさを覚えたが、すぐに瀞の発言の意味を酌んだ。

「お前も来るのか!?」
「うん、だって誘われたもん♪」

 さぁー、と血の気が引いていく。
 瀞がいれば状況証拠ではなく、言質を取られるに違いない。
 それは新学期に他学年から攻撃される危険性も孕むことになる。

「久しぶりだなぁ。うん、楽しみ♪」

 浮かべているであろう愛らしい笑顔に一哉は悪魔を幻視した。

「じゃね♪」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ」

 仕方がないだろう。
 こういうことは瀞をここに住まわすことを承諾――半ば無理矢理――した時から分かっていた。
 瀞は9月から正式に私立統世学園に編入する。
 前の1ヶ月は体験編入ということで誤魔化すようだ。だから、また1年A組に所属することになるだろう。

(心境の、変化、か・・・・)

 前の一哉ならば瀞がここに住むことを断固拒否し、さらにはこんな軽くクラスメートに構えていなかっただろう。
 災いの芽は摘む。
 その精神でだ。
 今はただのじゃれ合い、巫山戯あいと割り切れている。つまりはそれだけの精神的余裕が生まれたのだ。
 10日前の事件――地下鉄音川事件は一哉の因縁の敵――男爵との決戦だった。
 振り返ってみれば軽傷だったものの、なかなか危ない戦いだったとは思う。
 世間的には何者かが爆弾を持ち込み、それが爆発。
 近くのガス管に引火して大爆発が生じ、ガス漏れによって下の階から犠牲者が続出した、という解釈で進んでいるらしい。

「ま、終わったことは仕方がない」

 よっと一哉は立ち上がり、ふと部屋の隅に置かれている机の上を見遣った。そこには片付けたはずの書類が出されている。

(? どうして?)

 手に取ってその上に"殴り書き"されている―――

『いちやぁ、北海道辺りに遊びに行ってくるね♪ 軍資金はちゃんとこれと一緒に置かれてた封筒をもらったから安心してね♪ おみやげは余ったら買ってきて上げるぅ。それじゃ、あなたに忠実なる緋より♪』

 無駄な産物を焼き尽くした。ついでに書類も焼けるが、それは仕方がない。
 あんな状態で提出できるわけがないのだから。いや、そんなことより―――

「封筒ってあれか!? 俺が汗水垂らして(←冷房の効いたオフィス)徹夜も何日か入れた(←ホント)仕事の給与か!? それも使い切ること前提か!?」

 ふざけんなぁッ、と遠い地にいる守護獣に怨嗟を送るが、きっと彼女は笑顔で受け流すに違いない。しかも、首を傾げつつ。

「う、うぅ・・・・こんなに落ち込んだのは、久しぶりだ・・・・」

 崩れ落ち、がっくりと項垂れた一哉は再び入ってきた瀞に後頭部を殴打されるまで放心状態でいた。






結城晴也 side

 石塚山系。
 音川町の北方に位置し、クラスメートである村上武史の実家――村上家が所有する山地帯である。
 現当主が景観維持のためにしっかりとした手入れをしており、休日にはハイキングや登山者が訪れる観光地でもある。因みにゴミを捨てた若者が合気道者十数人に笑顔で囲まれ、始終笑顔でボロ布に変えられたという『実話』がある。

「―――いや、参った。武史はお坊ちゃまだったんだな」
「正真正銘のお坊ちゃまが何言うさ」
「お前もお嬢様じゃねえか。・・・・見えないけど」
「あぁ? 何か言った?」
「・・・・・・・・・・・・言って、ませ・・・・ん・・・・グフゥ・・・・」

 結城晴也と山神綾香以下1−Aの早期集結班はどーんと門を構える村上家の玄関で手持ちぶさたに立ち往生していた。
 いや、綾香は明らかに晴也の襟首を締め上げている。
 だんだん晴也の顔から血の気が引いていくところから極っているのだろう。
 パタパタと動く手が徐々に緩慢になっていくのは印象的だった。
 先ほどチャイム――似合わない――を押して村上武史が「今行く」と言ってから5分が経過している。

「ったく、村上くん遅くない?」
「ゲホッ。人を窒息死させかけといて普通に現実に戻るなよ」

 晴也は部活帰りなのか、背中に弓矢を入れた荷物を背負っている。それが咳をするごとにカシャカシャと揺れていた。

「自業自得」
「はぁ・・・・」

 晴也はため息をつき、門の向こうに広がる大階段を見遣る。
 正直、この大階段を上るだけで今日一日の体力を使い切りそうだと思っていた。

(どうせ、登るなら楽しい方がいいなっ、よしッ)

「者どもッ。武史は迎える振りをして立て籠もっているに違いないっ、我々はそんな裏切り者に断罪を下すべくこの山門を落とし、奴を捕らえようではないかっ」

 大仰に手を振って周囲を煽動する。
 多少、演技くさいが関係なかった。

「おおっ! なるほど、奴は籠城を!?」「ふん、私たち相手に籠城など笑止千万っ」「我らに貫けぬ門など無いっ」「破城鎚だっ、破城鎚を用意しろっ」「了解ッ」「城攻めだぁッ!」

 何ともノリのいいクラスである。
 あっという間に集結していたクラスの半数が参加し、歓声を上げた。

「―――待つ」

 ピタリと静かな声が喧騒を治まらせた。
 泣く子も黙る1年A組が誇る委員長――鎮守杪である。
 ヘアピンで前髪を寄せ、額を多く見せる肩までの黒髪に160センチ前後の身長で眼鏡をかけており、いつも無表情で必要な時しか話さないクラスのドンだ。
 たまに紡がれる言葉は鶴の一声。
 A組において絶対審判において守らなければ命に関わる出来事となる。だが、それでも納得できない時がある。―――今のように。

「い、委員長!? なぜに止めますか?」
「一大事」

 杪は耳に当てていた携帯を切り、ポツリと言った。
 それだけで高揚していたクラスメートのテンションは急激に下がる。

(まったく、出鱈目な統率力だぜ)

 晴也も退魔師の名家――結城宗家の直系である。
 過去幾度も分家の術者を率いて退魔に出かけたが、彼らは晴也の力量に心酔してまた忠実であったためにある程度の結果を得られたが、杪は違う。
 一般人でしかも、1年A組の猛者たちを一瞬で統率するというのは如何に優れた指揮官でも難しいだろう。

「すごいよね、杪は」

 綾香も同じように思っていたのか、視線を杪に向けたまま言った。

「そうだな」
「あれで頭も切れるからさ。不正委員会でも招こうって話になってるんだよね」
「俺も暗部部長が後釜にいいかも、とか言ってたな」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・すごっ」」

 学園二大治安部隊でも絶賛される統率力。
 それはどこでもやっていけるのではないだろうか。

『『『―――それで委員長っ、一大事というのは!?』』』

 いつの間にか晴也と綾香以外の24人は杪の足元に跪いていた。
 そんなクラスメートを杪はゆっくり見回してその小さな唇を震わせる。

「熾条一哉の家に渡辺瀞が住んでる」

『『『――――――――ッッッッッッッ!?!?!?!?!?!?!?』』』

「「あ、バレた」」

 静かな、とても静かな雰囲気が辺りに満ち渡っていた。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

 一瞬の驚愕から立ち返り、動き出した生徒たちはゆっくりと山門に向く。
 そんな時、運がいいのか悪いのか、山門の中から武史が顔を出した。

「あれ? みんなどうしたんだ? まるで憤怒を内に閉じ込めた、というかそのまんまの表情で―――」

「突撃ィッ」「拠点を手に入れろッ」「山門内を確保よっ」「山門陥落後はすみやかに迎撃準備ねっ」「斥候も出せっ」「うまく瀞と熾条君を引き離さないとねッ」「まずは目の前だァッ」

「うわあああああああああああああああああああッッッッッ!?!?!?!?!?!?」

 二十数名の突撃を受け、武闘派の武史といえどもあっさり斃れ、山門という難攻不落の防御施設を手に入れた生徒たちは着々と迎撃準備を始める。
 それは対熾条一哉戦法としてかつてから考案されていたものだった。
 一哉は瞬発力に優れ、白兵戦に秀でている。
 前の球技大会でも乱戦に持ち込んだのは彼の功績だ。
 そんな彼に正面から挑んで戦えるのは何故かいつも不正委員に追われている晴也。
 不正委員のエースとして活躍している綾香。
 村上流合気道師範代の武史の3人。
 もしかすれば委員長――杪も戦えるかもしれない。

「山門、閉めぇっ」

 ギギ〜っとやたら重厚な音を立てて閉まり出す山門は侵入者を阻むように立ち塞がる。

「―――うわあああッッ!!! ちょっと待てェッ!!!! 何故に俺が閉め出しなんだぁッッ!!」

 そう、もちろんこの家の住人であろうとも。

「くそぉっ、何があったか知らないけど俺は一哉につくからなッ! この山門の突破の仕方も教えてやる」
『『『ムッ!』』』

 住人らしい物言いにA組生徒は唸る。確かにそれはマズイ。ならば―――

『『『――――――――――――――――――――(ジ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜)』』』

 判断を仰ぐために総大将――杪を見た。

「―――殺れ」

 端的な命令にA組は晴れやかに頷いて―――

「いや、ちょっと待てっ。お前ら本気かッ!? うわ、うわわ・・・・うわあああああああああッッッッッッッ!?!?!?!?!?!?!?」
『『『フッ、裏切り者は倒れた』』』

 任務遂行の言葉に杪は無言でグッと親指を突き出した。

「やっぱり、なかなかの統率力」
「だな。見習いたいもんだ」

 ちゃっかり中に入っていた晴也と綾香は山門に張り付いて防御準備を始めるA組から視線を外し、長く続く階段を見遣る。

「な、長いわね・・・・」
「・・・・長いな」

 あまりの段数に汗を流す2人。

「ジ〜〜〜〜〜〜」
「・・・・・・・・・何デスカ? ソノ期待ニ満チタ視線ハ」
「誰も・・・・見てないわよね?」

 確かにどこに意識を向けているか分からない杪以外は完全に一哉対策に熱中していた。

「・・・・嫌だと言えば?」
「向こう一週間病院で過ごす?」
「ひでぇっ。そこまでするか!?」
「入院したいのぉ?」

 笑っていた綾香の瞳がゆっくりと輝かせる色を変えていった。
 まるで蛙を見た蛇のように目を細めている。
 幻想だろうが、舌なめずりもされたような気がした。

「・・・・・・・・・・・・・・・・はい」

 手を差し出す。
 それを綾香は嬉しそうに握り、二人は常人に見えなくなった。

「―――こういうの職権乱用って言うんだろうな」

 どこか遠い目で晴也は浮遊しながら呟く。

「何よ。使えるものは使えっていうじゃない」
「俺は体のいい乗り物かよ」
「今はね〜」

 晴也に抱き止められるような形の綾香は風に煽られて涼しそうに目を細めた。
 今、彼らは地上から10メートルほど上空を飛行しており、眼下には日光を受け、ジリジリと焼けているだろう石段が見える。
 まともに歩いて上っていたのでは頂上に着いた時には干からびていただろう。

「ねえ」
「んあ?」
「瀞さ、編入するんだって、統世に」
「そりゃまた物好きな」
「何か言ったかしら、ブラックリスト第一ページ記載者」

 すっと鎖鎌が首に回された。

「・・・・いえいえ。―――ってか俺1ページ目なの!?」
「あったりまえでしょ!? どれだけあたしを駆けずり回させたと思ってるの!?」
「週1くらい?」
「3よッ」

 間髪入れずに訂正された。しかし、納得いかない。

「俺、そんなに愉快なこと考えられるほどユーモアのセンスねえぞ?」
「どうだか? この頃怪しい動きを見せてるって報告のある団体の何割に晴也の姿が確認されてるか、一度くらい結城晴也対策会議に出席してほしいものね」

 やれやれと首を振る綾香。

「え? いいのか?」
「もちろん」

 綾香は最高の笑顔を見せて歓迎してくれる。

「その瞬間、弁護人のいない裁判よ♪」
「ぅおいッ! 山神宗家は正義を重んじるんじゃなかったのか?」
「場合によりけりよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 綾香の正義は勝てばいいのだろうか、と半ば本気で悩み始めた。
 晴也と綾香の出会いは9年前になる。
 それは精霊術師の一族で<土>――地術最強を司る御門宗家と<森>――森術最強を司る凛藤宗家が相次いで滅亡したすぐ後だった。
 それが外敵によるものだったために富士山麓の御門宗家、白神山地の凛藤宗家に近い新潟の山神宗家は危機を感じ、京都の結城宗家に同盟願いを出したのだ。
 山神宗家――<雷>は攻撃力こそ随一だが、その他の防御力・索敵力などは低い。
 結城宗家は防御力は低いがそれを補う術式が多く、索敵力は御門宗家の滅亡で名実ともにトップとなった。しかし、攻撃力は最弱だ。
 そういう関係で欠点を補うような同盟は両家とも歓迎し、中間点である金沢市で会見で顔を合わせたのが最初である。
 双方とも名家同士。
 格式ばった場で、しかも、双方の選りすぐりの精鋭たちがその周りを囲むという緊迫した場面であった。
 晴也はこの時、初めて自分は大変な世界にいるのだと実感した。

「―――なあ」
「何?」
「お前さぁ、初めて会った時、どう思った?」
「・・・・・・・・え? 第一印象ってこと?」
「そうそう」
「んー、あんまり覚えてないかな。何かさ、あの時はいつも剛毅な父様が随分萎縮してたからそっちを見て笑ってたのしか・・・・」
「お前、性格悪いな」
「うっさいわね〜、いっつもいっつも厳しいこと言ってて厳しい顔してる人が表情筋が硬化したのかって思うほど顔を引きつらせてるのよ。楽しいに決まってるじゃないっ」
「・・・・・・・・・・・・俺の親父はどうだったかなぁ」

 遠い日に思いを馳せるが思い出すのは暇そうに空を見上げて上昇気流と下降気流をぶつけて遊んでいた兄――晴輝の姿だけだ。

「ご、ごめん・・・・」

 綾香がしゅんと腕の中で項垂れた。ついでに身を寄せて弱々しくそっと腕を掴んできた。

「気にすんな」
「だってまだ1年じゃない・・・・」

 1年。
 晴也の父親が戦死してからの年月だ。

「気にすんなよ。まあ、その体を押し付けてくれるのは―――あ゙ぁ゙ッ!?」

 スパーク音。

「シリアスな場面をブチ壊―――ってあああああああっっっっっっ!?!?!?!?」

 綾香の雷は晴也の浮遊の術を難なく粉砕する。そして、2人はニュートンが見つけた自由落下の世界に放り込まれ、悲鳴を上げながら落下していった。










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