第一章「怪異への邂逅」/ 5
ここでは学園の一般生活を取り巻く環境について説明する。 これは授業などという表に現れる分かりやすいものではなく、とりわけ行事ごとには顕著になる、言わば統世学園生の「気質」と言うべきものである。 まず、統世学園――特に高等部――を生徒会長を戦国大名(当主)とする戦国大名家と見よう。 他生徒会役員をその血族(一門衆)。 各委員会の委員長はその家老(重臣)。 委員会員は武士(士分)。 一般人は領民(平民)。 ―――という分類となる。 これで分かる通り、生徒会は各委員会という<軍勢>を率いており、とてもではないが、敵う相手ではない。 逆らうことすら烏滸(オコ)がましい権力を持っているのだ。 更に言えば生徒会に対する洒落にならない行動を起こそうとしている輩には【暗部】と言われる特殊部隊が差し向けられ、人知れず掃討される。 暗部は先程の分類で言えばやはり忍者(隠密衆)に入るだろう。 新体制になると<軍勢>――委員会はより特化した性質を発揮し、名を改めた。 風紀委員会は不正取締委員会。 放送委員会は緊急連絡委員会。 図書委員会は書庫防衛委員会。 保健委員会は緊急医療委員会。 学級委員会は学級統率委員会。 不正委員会には武器の携帯が許された。 これは校風が大らかになったこととクーデターが成功したことによって武装する部活、生徒が増えたためでそれを鎮圧するための処置である。 警察官が拳銃を保持しているのと同じだと思えばよい。 緊急連絡委員会には自作で無線機器を作ることを義務付け、放送室を要塞化した。 これはどこでも連絡ができ、本拠地を暴徒に占領されないための措置である。 言わば軍が通信を暗号化するのと同じだろう。(若干、違う気もするが) 書庫防衛委員会にも武装が認められた。 これは無断で本を持って行くのを阻止するためであり、複数ある図書館間の移送にも適用される。 現金輸送車の警備が厳重なのと一緒。(絶対違う) 緊急医療委員会は応急処置や心臓マッサージなどの医療関係で資格がいらないものを教え、また戦地にも出動することから間違えて攻撃されないよう、白い母衣を着けて行動する。 ニュアンスはナイチンゲール。(でも、突けば反撃するのは違うな、うん) 学級統率委員会は上記の委員会のように常時、行動しているわけではない。 行事での生徒会と学級の架け橋として臨時に組織を立ち上げる。しかし、専ら、準備期間に起こる学級闘争の講和会議などに使われる。 国際連合の国際司法裁判所・国連事務局のようなもの。(肚(ハラ)の探り合いでけっこうドロドロらしいよ) 『明解・統世学園』より抜粋。 1年A組 scene 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ごめん、限界の限界を突破しちゃった」 瀞はポツリと呟いた。そして、相変わらずポヤ〜ッとしている一哉の方を向く。 「説明してよ、"一哉"」 『『『『『―――っ!?』』』』』 ブワッと何かが教室を駆け抜け、瀞の長い髪を揺らしたような気がした。 「あ、あれ・・・・?」 瀞は所在なさ気に辺りを見回す。しかし、視界に映るのは妖しい笑みを浮かべているクラスメートのみ。 「・・・・とりあえず、生徒会には喧嘩を売るなってことだ」 「売らないよ」 一哉の言葉に即答。 人を何だと思っているのだ。 やや憮然とした瀞だが、一哉が緊張しているのを不思議に思った。 「ドッキリ、とかじゃないよね?」 「いや、違う。これはあくまで親切な説明・・・・だった」 立ち上がり、辺りを見回す一哉。 いつの間にか彼を中心に半円の包囲網ができている。 教室の前後の扉も数名のクラスメートが封鎖し、鋭い眼光を一哉に放っていた。 「委員長。『よく分かる統世学園』を強制終了し、『第一回、熾条一哉楽しい尋問時間』を開催したいと思いますが、如何か?」 「・・・・許可」 「許可するのか、委員長」 がっくりと肩を落とした一哉は俯いた視線で間合いを計るクラスメートを見遣る。 「・・・・早く、説明してよ」 異様な光景には見付いてはいるが、少しでもこの混乱を何とかしたい瀞は促した。 「一番大事なことだ。これができれば無駄な騒動に巻き込まれることはないだろう」 「?」 「こんな体制でも文句ひとつ言わず、便乗するような生徒の前で面白そうなことは言うな」 「ふぇ?」 瀞は分からず、首を傾げる。 「全校生徒が面白ければ全て良しの快楽主義者なんだよっ」 「確保っ」 「「「「「とりゃぁぁっっ!!」」」」」 一哉の叫びと共に数人が目を輝かせ、一斉に距離を詰めにかかった。 「甘い」 「ええぇぇーーっっ!?!?」 瀞は絶叫する。 ここは3階。 それを一哉は一切の躊躇なく、飛び降りて見せたのだった。 『―――全校生徒に告ぐッ! 』 全校のスピーカーが放送前の音楽を鳴らさずに起動した。 『本日、1年A組から裏切り者が出たッ。その名は熾条一哉ッ! 本日付けで転校してきた渡辺瀞嬢をかどかわかす容疑であるッ!』 『おい、かどかわかす、って何だ?』 『無理矢理とか、騙して誘拐するってことよ』 『へぇー』 『外野、うっせえっ。―――我らは熾条から瀞嬢を奪還するも、犯人を逃がしてしまった。その捜索のために広く、広く捜査員を募集するッ。 瀞嬢は容姿端麗で小柄な体型ながらプロポ―――へぶッ!?』 『い、委員長!?』 『セクハラ+無関係』 ガタガタとスピーカの向こうが一瞬騒がしくなるが、すぐに別の声を聞こえる。 『―――渡辺瀞、所属1年A組。150センチ前半の身長とその腰辺りまでの艶やかな黒髪が特徴。小作りな顔に大きな黒目が印象的。体型は華奢ながらも―――』 『それはセクハラじゃねえのか!? っていうか、さっき身体的特徴は無関係だって―――』 『?』 『あ〜ッ、もう、いい! 俺が言うッ! ―――とにかく、熾条が逃走したためにクラス総出で追討する。今までの話で・・・・って無理だと思うけど共感を持った生徒は至急、熾条確保に動くべし。以上ッ。―――野郎どもッ、撤収だッ!』 放送プランとしては滅茶苦茶なものだったが、お祭り好き、もとい、騒動好きの生徒たちの心揺さぶるものだった。 数分後、40人近くの生徒――特に男子――がその腰を上げ、「熾条討伐軍」の旗の下――短時間で作った――に集結した。 校内は修羅場と化す。 その前兆として秘密裏に暗部執行部の面々が執行部長の名の下に収集されていた。 「―――チッ、晴也の奴本気だな」 一哉は茂みに潜みながら校舎群から湧き起こる鯨波の声に呟いた。 総勢は数十人だが、その行動に連動して動き出す奴らもいるだろう。 (ってか、晴也・・・・。それが狙いか) 愉快犯である晴也は実は抜け目のなさでは校内でも指折りだ。 この大騒動にかこつけて何かの準備をするに違いない。しかし、この程度では晴也に対する綾香の監視は誤魔化せないだろう。 だが、一哉がなかなか捕まらないことで騒動は激化。 暴動に発展しないよう不正委員が出動すると、綾香もそれに加わる。 この場合、晴也が自由になるだろう。 「それが分かっていても起死回生の一手がないのが忌々しい」 ここに一哉の孤独なる戦いが始まった。 「―――えーっと・・・・」 瀞は困ったような、現実逃避を念頭に置いた口調で呟く。 クラスメートの8割は一哉を追っていき、妙な放送を入れていた。 残るは通信士のような役目を引き受けた者とクラスメートと一線を画するように座っているシンプルなカチューシャをしている少女だけだ。 ファッションと言うよりただの「髪留め」という感じだ。 周りの者たちからすれば随分まともに見えた。 「・・・・?」 視線に気付いたのか、ゆっくりと少女はこちらを見る。 「あ・・・・」 整った顔立ちで睨めばさぞかし鋭い視線を放つであろう目元。 「誰にも靡かない」というような意志の強さを感じた。 「どうしたの?」 カタリと席から立ち上がり、こちらにやってくる少女。 「あ、えっと・・・・」 「あ〜、置いてかれた、って気分か」 こちらの気分を正確に把握してくれた少女はにこりと微笑んで言う。 「あたしは山神綾香。綾香でいいわ。熾条の代わりに何でも答えたげる」 「私も、瀞でいいよ」 にっこりと笑うと視線を感じた。 「え?」 『『『『『―――綾香ズルイッ。ずっと話しかけるタイミング見計らってたのにっ』』』』』 「「うわっ」」 廊下側の窓が一斉に開き、クラスメートの女子が顔を見せる。そして、キラキラとした視線を瀞に向けるなり、一斉に襲いかかってきた。 『『『『『わったなっべさーんっ』』』』』 「きゃああああああっっっ!?!?!?」 人の雪崩に巻き込まれた瀞は揉みくちゃにされながらも必死に踏ん張る。 「分かった? こういう欲望に忠実なのが統世学園の特徴。抑圧には断固とした態度で臨み、娯楽には全力で打ち込むのよ」 ささっとひとりだけ距離を取り、雪崩を回避した綾香はようやく分かりやすい言葉で説明してくれた。 「でも・・・・今は・・・・助けて欲しい、かもっ」 頭を撫でられたり、髪を弄られたり、体中まさぐられたりで忙しい瀞は、ひとり安全圏にいる綾香に助けを求める。 「ごめん。あたしにはこんな欲望に忠実な奴らを止めるのは、無理」 視線を逸らし、無情にも救援は拒否された。 「ひ、ひどっ。―――ひょわっ、へ、変なとこ触らな―――わわっ」 「まあ、今は動物園のパンダみたいなものよ。直に沈静化するわ。―――っとと」 綾香は胸ポケットから何かを取り出し、表情を変える。 「あ、召集。・・・・じゃね」 ひらひらと手を振って体の向きを変える綾香。 「ちょ、待っ―――」 まともそうな綾香が去れば自分はどうなるのかという恐怖に駆られ、瀞は綾香を追うように視線を巡らせ――― 「はいっ!? ―――てわああああっっっ!?!?!?」 思わず抵抗を止め、女生徒たちの雪崩に押し潰された。 「―――山神っ」 「状況は?」 廊下で待っていた仲間らしき人と話し出す綾香。 その手には瀞の抵抗力を奪った物――鎖鎌が握られている。 「やーっ。渡辺さんって抱き心地サイコーッ」 「私もーっ。うわ、ふっわふわっ」 「次私―っ」 「むぐーっ」 (こ、この学園、ゼッタイおかしいよぉぉぉぉ―――ッッッッ!!!!!!!!!) 欲望に取り憑かれた女生徒数名に抱き締められて声が出せないため、瀞は心の中で絶叫した。 熾条一哉 side 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 一哉は茂みの中で辺りを見回した。 今のところ、追撃部隊の影はない。しかし、先程まで校舎内を駆け巡っていた者たちが全く見えないというのも気味悪かった。 (諦めたのか? ・・・・いや、あれは間違いなく全校に飛び火したはず) 乗りで追いかけるのに疲れたというのもあるが・・・・。 (不正委員が動いたか・・・・) 一番確率が高い。 校舎内では武装し、小隊に分かれた不正委員が狂乱した生徒たちを打ち倒していることだろう。 「となれば・・・・俺は助かったのか? 今この人時だけだとしても」 まともに戦えば一哉ひとりではいくら倒そうとも数の力によって鎮圧される。 数の暴力を一哉は嫌と言うほど知っていた。―――それ故の弱点も多く。 「・・・・今日は、帰るか」 一哉は踵を返そうとし、横っ飛びした。 ―――タンッ 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・おいおい」 先程までいた場所を通過し、木の幹に突き立つ矢。 本物の鏃が使われていることに呆れ、一哉は射線を辿り――― 「―――いっ!?」 喉から変な声が出る。 珍しく本気で驚愕した一哉はゴロゴロと地面を転がった。 ―――タタタタタッッッ!!! 突き立つ矢たち。 それは枝葉という障害を物ともせず、一哉のいた場所を正確に射抜いている。 「チッ」 仕掛けてきたと言うことはすでに退路はない。―――正面から撃滅しない限りは。 ―――ヒュヒュヒュッ 風を切って突き進む3つの矢。 微妙にタイムラグがあり、明らかに同じ場所から射られた物と思われた。 (こんな芸当できる奴は―――) ―――トトトッッッ 再び地面に身を投げた一哉を追うような矢を躱しながら木陰に学ラン姿を見つける。 「何のつもりだ、晴也っ」 「何のつもり、だと? それは己の胸に手を当てて訊いてみるんだなっ」 「・・・・分からん。不正委員が動いた以上、これ以上の戦闘は無意味。お前なら撤退しているだろ?」 「ふっ。今回は別件でな。お前ほどの奴だから俺と見破ったが・・・・他の奴なら視認する前に昏倒してらぁっ」 ―――バババババババババババババババババババババババッッッッ!!!!!!!! 「―――っ!?」 連射。 弓道と言うより弓術の戦法に一哉は背後に隠し持っていた竹刀を取り出した。 先程戦った者から奪い取った物だ。 「くっ」 できる限りは回避に専念する。 別に一哉は剣術の達人とかではないのだから。 (さすがっ) 晴也の狙いは正確だ。 全て人体の急所を狙っており、避けた場合もその体勢を思案に入れられ、命中コースに放っている。 つまりは逃げたとしても命中コースに至るという地獄。 「セイッ」 ―――カンッ さすがに本物の鏃が付いた物は品切れなのか、今度は統世学園制式採用暴徒鎮圧用ゴム鏃だった。 どうしても外せぬ矢を竹刀で撃墜する。 いくつかが体を打つが、我慢できない程度の痛みはなかった。 「くっ。名手過ぎるぞ」 「どうもっ」 こちらは林の中を走っているというのに、晴也は木の枝を移動しながら精密射撃を繰り返してくる。 驚異的な集中力。 いつもの巫山戯た態度からは想像できない戦闘判断力が晴也の射撃を支えていた。 (だがっ、矢も無限ではないっ) すでに40本近く放っている。 明らかに限界だろう。 「―――チッ」 案の定、舌打ちと共に矢が止んだ。 「切り抜けた、か?」 「―――ふふ♪ がんばる男の子ってカッコイイわ」 「―――なっ!?」 新たな人影に一哉は咄嗟に距離を取りながら振り返った。 「ふふ♪」 そこにはたおやかな微笑みを浮かべた女子が立っている。 「いつの間に―――っ!?」 ーーーガンッ!!! 背後から飛んできた矢が一哉の後頭部に命中した。 (まだ矢が残っていたのか・・・・ッ) 後頭部への衝撃に意識が揺れた一哉は目の前が真っ暗になりながらも生きている聴覚が会話を捉えた。 「手間取ったわね、晴也」 「すまねえ、姉貴」 「・・・・『ここ』では『会長』と呼びなさいと言ったでしょう、『執行部長』?」 「・・・・わ、分かったよ。だからそのステキな笑顔は仕舞おうぜ」 「ええ。―――さ、皆さん。この方を『生徒会棟』に運んでくださいな」 薄れ行く意識の中、一哉は体が浮かび上がる感覚の下に思う。 (『生徒会』。・・・・こいつら、暗・・・・部、か) 「じゃあ、見つからないようにGO!」 お忍びに町に出た姫のような女子の声に従い、彼らは移動を始めた。―――むろん、一哉を抱えて。 渡辺瀞 side 「―――ど〜ぞ」 教室でクラスメートに潰されていた瀞はいきなり「生徒会」と名乗る集団に拉致され、落ち尽きなく辺りを見回していた。 「どうも、ありがとうございます」 礼を言い、受け取ったお茶を口に含む。 (あ、玉露だ。あ〜、ちょっと幸せ) 湯飲みを手にポヤ〜とした。 芳しい香りに癒される瀞とは対照的に一哉は手をつけようとしない。 「晴也、校内の混乱は?」 統世学園の頂点――生徒自治会長・結城晴海は弟――晴也に訊いた。 「あ〜・・・・綾香が出張ってるなら"数十分"で武力鎮圧できるだろ」 何故か目を逸らす晴也。 「やりすぎね。確かに誰にも怪しまれずに熾条一哉を確保できたけど」 「なるほど」 ポツリと一哉が呟く。 話していた2人とついて行けていない瀞の視線が彼に集中した。 「瀞は転校生だから生徒会が来てもそう怪しまれることはないが・・・・俺は、一般生徒は違うからな」 「へっ、さすが一哉。気付いたか」 「ああ。お前が派手なことを起こすときは決まって裏で何かしているからな」 ニヤリと2人の男子は嗤い合う。 「男同士で気持ち悪い笑みを交わしてないで、話を進めていい?」 テーブルを挟んだ向こう側のソファーに腰掛けた晴海がにこっと笑った。 その笑みを見て晴也が急いで口を閉じ、一哉も視線を晴海に戻す。 「じゃ、単刀直入に。2人とも、一緒に住んでるよね、住所一緒だし」 「待て」 一哉は思わずストップをかけた。 「"それ"は何だ?」 晴海が手元に置いている資料を見て言う。 「ん? ただの転校手続きの書類だけど」 「そんなもんまで手に入れるほど生徒会の権力は強いのかよ」 「そうね。コピーを渡してくれたわ。渡してくれないなら奪うけどね」 爽やかな笑みと共に宣言した晴海は質問自体なかったように続け始めた。 「今回、晴也の口車があったからけっこうな騒動になってるけど、渡辺さんの容姿なら同棲がバレた瞬間、熾条くんが血祭りに遭いかねないわよ、今回以上の動員数で」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 否定はできない。 どんな愛好会、研究会があるのか把握していない以上、敵の装備が分からないのだ。 「まあ、この事実は私たちのところで止めるわ。教師連にもその通達は出てる。だから、あなたたちもボロが出ないようにね」 学園の平和を守る生徒会の長らしき言葉を紡いだ晴海。 「事が明るみに出て、鎮圧できないようじゃあ、容赦なく暗部を使ってあなたちの生活をブチ壊すから♪」 ―――素敵な笑顔を添えて。 ??? 辺りは闇に包まれていた。 部屋の明かりは点けられず、対面の建物から漏れる光が窓から部屋を照らしている。 「―――そうそう、結界師から援軍要請があったらしいわ」 再び雨の降り出した外を見ていた女性は後ろで武器の調整をしていた少年に言った。 「結界師が?」 後ろでずっと動かしていた手を止める気配がする。 話題に興味を持ったようだ。 「そう。何でも結界――封印が破壊され、そこから妖魔が逃げ出したそうよ。その討滅が依頼内容」 「封印されていた奴の討滅? それはかなり上級な依頼じゃねえか」 封印すると言うことは当時では討滅できなかった、ということなのだから。 「"だから"、あなたに言ったんじゃない」 窓の外から視線を後ろに戻し、その者に向き直る。 「期待してるわよ、"風神雷神"」 その時、部屋の扉を開け、"風神"の相棒――"雷神"が姿を見せた。 「行くわよ」 部屋に入ろうとせず、言葉だけ言う。 「その様子じゃ、もう耳に入れてるみたいだな」 「そうよ。とりあえず、探さなくちゃね。あんたの力が入り用よ」 「へいへい」 よっこらしょ、と立ち上がった少年に一言。 「気を付けてね」 「大丈夫大丈夫」 「相手、鵺だから」 「・・・・もっと早く言えよ、そんな大事なことッ」 |