召喚
「―――ん・・・・ん?」 熾条一哉はパチリと目を開けた。 ここでガバッと起き上がらないのがミソだ。 「うにゃうにゅうにょ・・・・」 腹の上で緋が寝ていることは想定内である。 「くぅくぅ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ただ、もうひとりが左腕を抱き抱えるように寝ているのは予想外だ。 どうしてこうなったのだろう。 「―――よぉ、一哉。何やら楽しそうな状況じゃねえか」 「起き上がっても大丈夫よ。ここに"とりあえず"敵はいないわ」 「晴也、山神」 視線だけ動かし、その姿を認めようとするが、綾香だけ見えなかった。 「?」 「あー、ほら、制服だから」 晴也の肩口から顔を出す。 「なるほど」 「・・・・納得したのに動かないのは?」 見下ろしてくる視線がジトッとしたものになった。 「動きたくても動けない」 「は?」 一哉は自分の体温が上昇していることに気付いている。 これは体温が高い緋が乗っているからでも柔らかな弾力のせいでもない。 「いい感じに関節がきまってる」 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」 すすっとふたりは距離を取った。 「あいつって実は怨まれてるのか?」 「そうは思えないけど・・・・一緒に住んでると色々あるんじゃない?」 「ああ、食事のマナーとか洗濯物とか・・・・」 「「・・・・・・・・・・・・・」」 頷いて意思統一したふたりは一哉に向け、一言。 「「頑張れ」」 「何をだ」 冷静に返した一哉は呑気に眠りこける眠り姫に視線を移す。 「全く。ちょっと晴也は後ろ向いてなさい」 「なんで―――ぎゃあ!?」 「こうやってビクッと動くと下着が見えちゃうじゃない」 「危うく白骨が見えるところだったがな、俺は。ってか、今でもけっこう危な―――アア゙ッ!?」 晴也は首を傾けた上体で光を放った。 残念ながら、その骨格を確認することはできなかったが。 「はい、後ろ向く」 「・・・・はい」 どうでもいいが、指先から細い電撃を出している姿は・・・・ 「なに?」 「いや、別に」 「ふ〜ん?」 いらぬ火種を持ち込むものではない。 ただでさえ動けないのだから。 「って、わけで、起きなさいな、この寝坊助」 綾香の指先から微弱な電撃を発せられ、眠り姫の首筋を襲った。 「ふにゃっ!?」 ビクッと身体を震わせて覚醒した渡辺瀞は思わず力を込める。そして、その力は危ういところで止まっていた関節技を起動させた。 「・・・・ッ」 悲鳴を押し殺した一哉はすごいと思う。だが、我慢しても益がある場面でもない。 なにせ、ものすごい音が響き渡ったのだから。 「あ、ああ〜!? い、一哉ごめん! 大丈夫!?」 悲鳴を押し殺したと言えど、普通に話せるほどダメージが少ないわけではない。 しばらくの間、悶絶する一哉とおろおろする瀞、大爆笑する晴也と綾香といった構図が続いた。 しかし、どんな現実逃避にも終わりがあるわけで。 『―――えー、コホン。皆さん、聞こえますか?』 「「「「―――っ!?」」」」 空間に響いた声に緋以外全員が身構えた。 『えーっとですね、あの方々にもらった資料には・・・・・・・・・・・・』 と、資料に目を通している気配。 『諸君! 私が「げーむますたー」だ! ・・・・・・・・・・・・って、意味が分かりませんので、私なりに意訳します』 どこかふざけた雰囲気の文面に嫌気が差したのか、声の主は早速台本を放り投げる。 『簡単に言えば、あなた方は現実から引き離され、異空間にいます。このため、現実、例えばお互いの距離や健康状態などは無視されます』 言わば、5人にとって『普通』の状態である、ということだ。 『ここから脱出したければ、扉の向こうへ行きなさい』 真っ白な空間に黒い扉が出現した。 『そこにはとある問題があります。そして、それを突破すると次の道が開けます』 5人はお互いの顔を見合わせ、漆黒の扉を見遣る。 『それでは、頑張って下さい。・・・・ふう、鈴の音なしに【力】を使うのは意外と疲れます』 気配が遠ざかり、空間には5人と扉だけが残った。 「ぃよっしゃぁっ!!! 楽しくなってきたゼッ」 「あんた順応しすぎ!?」 「ふはははははは!!! これはきっとパラレルワールドに違いない。まさか高位の魔術師、いや魔法使いと戦った覚えもないのにこの展開―――あだぁっ」 「ちょっとは危機感を持ちなさい!」 "気"が込められた一撃を受け、晴也は地面へと沈む。 「結城くんってポジティブだよね」 「いや、その解釈もどうかと思う」 ぽへぇ〜とした瀞の言葉に割と冷静に一哉はツッコミを入れた。 |