2.1 動員力
2.1.1. 人口的動員限界
2.1.2. 経済的動員限界
2.1.3. シミュレーション
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太字を読めば要約可能
考察根拠は本文を参照
文末に引用・参考文献名も記載
大名は兵を動員して戦場へ赴く。その規模は経済力から算出される。動員力は領国内の人口と兵員給与・軍装について考察する。 2.1.1. 人口的動員限界 戦国時代後期から江戸時代初期にかけて、石高当たりの軍勢動員数が決まっていた。一般に旧帝国陸軍参謀本部が算出した1万石当たり250人とされるが、(旧帝国陸軍参謀本部, 1911)実際には出兵先等から都度指示が出されていた。しかし、大名ごとにその負担割合は違うため、その度合いを領国人口・経済力から検討する。 人がいなければ兵はいない。兵となるのは男性であり、極端に言えば男性数が動員限界である。しかし、これでは子どもと老人は戦えない。北条氏は戦闘に耐えうる年齢を15~60歳としており(下山, 2011)、この年齢層を動員対象とする。 成人男性は労働力の主力であり、過度な動員はその土地の生産能力にも影響する。老律令の軍防令では成人男性の3人につき1人もしくは4人につき1人を兵士とするとある(文章理解で解釈が分かれる)。また、、1戸当たり1人という説もある(下向井, 1987)。このため、より厳しい3人につき1人を動員限界と考える。つまり、成人男性人口の33.3 %が動員人口的限界と見る。 例えば龍鷹侯国の支配地である薩摩および大隅は併せて51万9,000石、人口は21万6,520人、男女比50 % 50 %とした、男性人口比を一定とした場合の人口比を表-1に示す。
2.2.2 経済的動員限界 兵を動員するには資金が必要である。労務費や武装費、食糧費などがかかり、その出費にどれだけ耐えられるかは大名の経済力にかかっている。尤も労務費は年間固定費なので、動員には影響しない。動員費用は主に大名の直轄費から出て、その他は士分が自前で用意する(表-2)。実際の経済的動員限界は兵種比率、軍事行動日数、大名経済力に起因する。
2.1.3. シミュレーション 1,000名が7日間の軍事行動を実施する場合に必要な最低金額を考察する。兵種比率は、騎馬19 %、長柄27 %、鉄砲14 %、弓14 %、手明12 %、その他14 %とする(1587年の北条氏例、北条氏政着到書立写)。表-3に必要資金を示す。また、兵糧等の輸送は手明が担当し、後方からの輸送は別と考える。さらに各種消耗兵器はこの時に新規に購入したと考える。
これらの費用は大名直轄領の収益から出されるため、1,000名7日間の軍事行動を動員するためには最低9,426.1石の身代を持つ必要がある(大名直轄領は身代の約25 %)。その他の携帯必需品の装備費を考えると、約1万石を持つ大名の経済的動員限界は約1,000名と言える(7日間の場合)。年一度の遠征でこれだけ消耗するため、実際にはこれよりも遙かに少数の兵力が動員される。また、実際には商業や鉱業といった石高以外の財源からも捻出されている。 引用文献: 旧帝国陸軍参謀本部(1911):日本戦史 関原役, 元真社, 第三章, 386-387 下山治久(2011):戦略/戦術/兵器大全, 学研パブリッシング, 戦国合戦の実態, 88 下向井龍彦(1987):日本律令軍制の基本構造, 史学研究, 175, 17-43 参考ホームページ: |