第三章「テスト、そして神馬」/6
「―――んー、ここはタマネギを買っておくべきかな・・・・」 瀞は一度帰宅し、私服姿で近くのスーパーにいた。 明日からテストというのに余裕の姿だが、逆に言えば食べないと力が出ないという事実もある。というか、予習復習をしっかりしており、上位を狙っているわけでもない瀞は慌てる必要はない。 「しーちゃん」 今日の買い物はひとりではない。 連れは一哉ではなく、小柄な瀞よりも低い位置から声がした。 「ん?」 視線を向けてみれば、ひとりの少女がお菓子を抱えている。 「これ・・・・買って・・・・?」 上目遣いで、恐る恐る差し出す仕草は抜群の破壊力があった。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 だが、瀞はその破壊力に屈することなく、じーっと少女を見下ろす。 「うぅ・・・・」 周りの買い物客も固唾を呑んで、瀞の行動を見守った。 「いいよ」 さっと少女の手からお菓子を取り、買い物籠の中に入れる。 それを見て、少女の表情がパッと輝いた。 「しーちゃん、大好きっ」 バッと瀞の脚に抱きつく少女。 「よしよし」 そんな少女の頭を軽く撫で、瀞は言葉を続ける。 「じゃ、木綿豆腐を取ってきてもらおうかな?」 「うんっ」 元気よく返事すると、少女は豆腐を確保するために走り出した。 ほのかに笑顔を浮かべてその後ろ姿を見守る瀞はまさに母であったという。 (んー、それにしても、どうやって関わろう) とりあえず、夕飯のメニューは決めたので、瀞はもう一つの悩み事を考え始めた。 (いきなり、情報を持っていっても・・・・普通警戒するよね) 名字で分かるかもしれないが、「渡辺」という名字は世間一般によく見かけるものであり、本拠近くならまだしも、この音川で関係者がいると思う方がおかしい。 となれば、直政はもちろん亜璃斗も瀞を一般人と認識している可能性があった。 (ん、でも、妹さんは違うかも・・・・) 穂村亜璃斗は新聞部に所属している。 朝霞と一哉のつながりに気付いていたとするならば、一哉と瀞のつながりから水術師を連想する可能性もあった。 「仕方ないね」 瀞はポケットから携帯電話を取り出し、メールの作成を始める。 「ごめんね、朝霞ちゃん」 一哉に振り回され、気苦労のためか大人っぽくなってきた少女にもうひとつ気苦労を増やしてしまった。 穂村亜璃斗side 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 テスト前日の授業はほとんどがテスト対策の自習だった。 もちろん、担当の先生は質問があれば聞けと言っているが、聞きに行くものは少ない。 一年生の一学期中間テストになれば当然だろう。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 亜璃斗はその自習時間を利用して、黙々と戦略を考えていた。 メモ書きしていた手がふっと止められ、視線が虚空を泳いで記憶を呼び起こす。 直政を御門宗家の戦力で迎えに行った日、亜璃斗は直政と直隆、守護神たちを交えて話し込んだ。 御門宗家の戦力を隠していたことを謝ったが、謝られた当の本人は全く気にしていなかった。 それどころか、その戦力の存在を考慮すらしていなかったという。 刹はいろいろ口を出したが、守護神は基本的に無言。 直政もぽけっとした返事しかしないので、悩んでいた亜璃斗の方が馬鹿らしくなった。 (ふふ・・・・) そして、最後に言われた言葉。 それが何とも嬉しい。 『俺が指揮権持ってても使い方分からん。だから、父さんからじいちゃんに陣代が任されたってなら、俺からお前に頼む』 『?』 『俺は亜璃斗を信じる。亜璃斗が俺の陣代だよ』 「・・・・・・・・・・・・・・・・」 思わず口の端が上がり、慌てて亜璃斗はその顔を隠した。 「思い出し笑いしてるところ悪いんだけどー」 しかし、見られてしまった。 「ちょっと昼休み、空いてるかかしら?」 しかも、最も見られたくない相手――鹿頭朝霞に。 「で、何?」 昼休み、自分の作った弁当を持って朝霞の後をついて行く。 因みに警戒心バリバリで索敵に余念がない。 「ちょっと、厄介な頼まれごとしてね。お世話になってるから断れないし・・・・というか、あの人の笑顔は怖いのよ。そう思わないかしら?」 「知らない」 とりあえず、朝霞が誰かに依頼されたことだけは分かるが、その人物を知らない亜璃斗には会話できるはずがなかった。 「ま、とりあえず、単刀直入に言うとね、私はあんたたちが何と戦おうとしてるのか、とか知ってる。むしろ、対応してる人とも知り合いだしね」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ふたりは中庭のベンチに座り、視線を合わせることなく、自分の弁当を開封する。 「ただ、私たち、鹿頭が動くことは禁止されてるから、情報だけ上げるわ」 「・・・・どんな?」 周囲に人は大勢いるが、こちらを気にしている人は少なかった。 見ている人も、視界に入ったので少しだけ追った、というレベルで気にするほどではない。 「『いらない』、とか反発しないんだ」 「意味あるの、それ」 「・・・・ふーん」 朝霞の返事はどこか気にかかるが、今はそれどころではない。 昨日も見回りをしたが、会敵せず、このまま長期戦になるのはいろいろと不利だ。 「ま、いっか。じゃあね、他の勢力の対応を言うわよ」 神馬を封印していた神代神社は事実上、戦力であった神代カンナが無効化されたことにより、戦闘不能。 封印を間接的に管理していた鎮守家は音川町全域に結界を発動させ、神馬の封じ込めに成功する。しかし、実戦戦力は動かず、静観の構え。 鹿頭家はそもそも神馬の探知には向いておらず、戦力としては微妙だ。 「結局、フィールドが音川町全域に指定されただけで何の効果もない」 というか、御門宗家も音川町を超えて索敵はしていない。 「ただ・・・・」 神馬は襲撃されたことで逃げようとするはずだ。そして、それが敵わないとなるならば、現状打破に繋がる行動を起こすはず。 (神代神社と河原・・・・) 封印していた勢力と襲撃した勢力と会った場所、このふたつに訪れ、神馬から攻撃を仕掛ける可能性がある。 (見張りを2ヶ所に配置し、その間に本隊を配置する・・・・) 亜璃斗の脳内に音川町の地図が鮮明に描き出された。 (発見次第急行し、私と兄さんが直接会敵、他は逃がさないように包囲する。また、あの騎士たちが現れる可能性があるので、そちらの方も警戒する) 亜璃斗が描いた戦略はおおむね一哉が必要だと思った布陣と一致する。 違うのが、一哉は発見した後に自分たちの都合のいい場所に誘い出すという、もう一段階上を想定していた。しかし、第三勢力――騎士たちがいる以上、一哉が本当にその戦略を用いるかは今のところ分からない。 ただ、亜璃斗も戦略家としての片鱗を見せていたことは事実だった。 穂村直政side 「―――はい、今日はこれまで。続きは夜ご飯食べてからな」 放課後、1-Aで直政は化学の教科書を閉じた。 「ああ~、酸素がおいしいです」 にへら~と気の抜けた表情で顔を机に押しつける心優。 「そうか、じゃあ、一酸化炭素の化学式は?」 「しーおーつ―――あだっ!?」 「うまいからって答えにも酸素ひとつ勝手に献上するなっ」 ぱこんと軽く教科書で叩く。 ただ、小さい割に分厚い教科書は意外な打撃力を誇っている。 「ひどいです、政くん。てっきり、吐き出してるのは何か、みたいな問題だと勘違いしましたっ」 「答え間違えた以前にそもそも問題を理解していなかったのかよっ」 「ひっかけですっ」 「例えそうだとしても引っかかるなよっ」 「ううう・・・・」 言い負かされて悔しいのか、再び机に突っ伏した。 「水兵リーベレー・・・・ダ?」 「何故に、B-24が・・・・」 炭素がどうして、第二次世界大戦のアメリカ陸軍爆撃機になるのだろうか。 いや、そもそも「・・・・」の後が「ダ」であったならば「レ」は自信があったようだ。 一体、どんな元素を思い浮かべたのだろう。 「周期表は覚えろよ。とにかく、覚えるだけで点が採れるであろう部分だから」 「さんそー、かりうむー」 「OK、合ってる」 「はふ~・・・・ジュース買ってきまーす」 正解をもらったふらふらとした足取りで教室を出て行く。 「大丈夫かいな・・・・」 多少詰め込み過ぎた感がないわけでもないが、テストは明日だ。 (まあ、こちらも時間がないしな) 昨日の夜は会敵しなかったが、今日は対策を亜璃斗が考えているに違いない。 今日はきっと忙しくなるはずだ。 「―――あー、穂村?」 「え?」 突然声をかけられ、直政は振り返った。 そこには数人の男子生徒がおり、その全てがクラスメートである。 「えっと・・・・何か?」 思えば、こいつらと放課後に話す、みたいなことをした覚えがない。 (もしかして、クラスに馴染めてない俺を格好のいじめ対象に!?) 「穂村って、『花鳥風月』でバイトしてるんだよな?」 「え? あ、そうだけ、ど?」 「それがどうした」的な視線を発言者に送る。 「し・・・・渡辺先輩も一緒だよな?」 「? ああ、そうだけど・・・・どうして知ってるんだ?」 この言葉が起爆剤だった。 「「「ど、どんな人なんだ!?」」」 「どわっ!?」 いきなり人が増えた。そして、その数は増え続ける。 瞬く間に直政を包囲した男子生徒たちはきらきらと眼を輝かせ、直政の言葉を待っている。 (そう、今の気分は教祖様) 「って、違うわっ。っつか、この騒ぎは何だ!?」 「お前、瀞様がどれだけの人気を誇っているのか知らんのかッ」 「え、瀞様?」 一喝され、きょとんとした直政に男子生徒たちは詰め寄る。 「あの小さな体は守ってあげたいオーラが滲み出ているっ」 「なのに、ふんわり包容力を持った笑顔っ」 「華奢なのに柔らかいと同級生にも評判でっ」 「黒髪サイコーッ」 もみくちゃにされながら、とりあえず、瀞の人気を理解した。 確かに彼らが言ったことは当てはまる。そして、足りないのは人柄の情報だ。 それを求め、直政に突撃したのだろう。 瀞は部活動をやっていないので、他学年との繋がりは皆無だ。しかし、バイトをしているので、直政と朝霞への繋がりはある。そして、女である朝霞には聞きにくいであろうから、直政に来たのは分かる。 「でも、なんで今!?」 「周りに唯宮とか叢瀬がいたからだ」 「唯宮は近づくなオーラを放ち、叢瀬は不思議ちゃんオーラが強すぎる」 うんうんと他の者も同意していた。 「まさか、央葉が来なくなって、微妙に視線を感じたのは・・・・」 「様子見、だな。しかし」 「由々しき事態が起きたのだよ」 またうんうんと他の者も同意している。 「その真偽を君に問いただそうというのだ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 要するに様子見に徹していたが、それを引っ繰り返すほどの事態が起き、彼らは結託したというのだろう。 「って、俺は何も―――」 「知らなかったとしても調べられる位置にいる。違うかね、ん?」 くいくいと顎先を持ち上げるのは止めて欲しい。しかし、彼らをここまで動かす事態とは何なのだろう。 憧れの先輩と言っても差し支えない瀞は謎の存在でもあった。 「さあ、同志よ」 「ってか、その由々しき事態が何なのか知らないんだけど?」 「・・・・・・・・・・・・・・・・子どもだ」 「は?」 小さく呟かれた言葉とその意味に直政は疑問符を浮かべる。 「渡辺先輩、子持ち説だッ」 「は、あ!?」 「昨日、渡辺先輩は小さな女の子とスーパーで買い物してたんだよっ。まるで親子の如くなっ」 「・・・・・・・・はぁ?」 一度は素っ頓狂な声を上げた直政だったが、今度は同意しかねた。 「えっと、さっきのが子持ち説の根拠? さすがにごうい―――」 「甘いッ」 ビシッと直政の目の前に指が突きつけられる。 「渡辺先輩は去年の6月に転校してきて・・・・8月には同級生と同棲を始めたんだぞ!?」 「え!?」 まさかあの先輩がそんな事情を抱えていたとは。 「転校してきてから、もうすぐ1年・・・・」 「と、いうことは・・・・」 ゴクリと唾を飲み込む直政。 「ああ、幼妻という奴だ」 「な、なんという・・・・」 「やってくれるな、直政」 「おう、俺も秘密が知りたいぜっ」 直政は差し出された手をガシッと握り直した。そして、その手に加わろうと他の男子生徒も手を伸ばす。 (ふはは、例え情報を手に入れても、俺は簡単には喋らんッ) 「ふっふっふ」 「はっはっは」 直政は向こう陣営と不敵な笑みを交わし、見る人がいれば、どう見方を変えても彼らの仲間になっていた。 (―――とは言ったものの、テスト期間だから先輩には会わないんだよなぁ・・・・) 夜、心優の頭に破裂させるほどの知識を詰め込んだ。 明日になれば、抜けているものもあるだろうが、テスト前に確認させてやれば復活するだろう。 心優はベッドに泣き寝入りをしてしまったが、直政が帰ることを伝えると手だけ出し、それを振ってくれた。 やはり律儀な娘である。 「直政・・・・様」 唯宮家の廊下を歩いていると、壁に背を預けた青年が声をかけてきた。 とってつけたような「様」は慣れていないためだろう。 「亜璃斗から聞いてる?」 「はい・・・・」 「亜璃斗の言うとおりに行動してくれ。そうすれば、全てうまくいく」 直政は自信を持って頷いた。 「・・・・信用、してるんだな」 呆れたため息をつき、前髪を掻き上げる。 その口調には先程までの妙に緊張した感じは見られず、自然な感じがした。 「亜璃斗や俺たちは物心ついた頃からお前を御門宗家の後継者だと知っていた。なのに・・・・」 気配が増える。 昨日の亜璃斗との話し合いは聞いてはいるのだろうが、やはり気になるのだろう。 「嘘をついていた俺たちにムカついたりしないのか?」 仲良くしてくれたり、気にかけたりしていたのは直政が御門宗家の後継者だから。 そう言っているのだ、彼らは。 「・・・・自分で言って何だけど・・・・今の御門宗家に力はないよ。例え、神宝を継承していたとしても」 「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」 「だったら、俺からは一言しかないよ」 直政は探れる限りの気配にゆっくりと言い聞かせるように言葉を放った。 「御門家を支えてくれてて、ありがとう」 「「「―――っ!?」」」 青年の表情が驚愕に染まる。 「じゃ、じゃあな」 直政は気恥ずかしくなり、早足で唯宮邸を後にした。 「―――兄さん」 唯宮家のどでかい門の影に隠れていた亜璃斗に本気で驚き、思わず肩を跳ねさせる。 「な、なんだ?」 「みんなすごいやる気。何したの?」 「い、いや、別に何もしてない、よ・・・・?」 「? まあ、いいけど。作戦を説明する」 亜璃斗は唯宮家から離れるために歩き始めた。 「御門宗家の投入戦力は私や兄さんを抜いて12人。3人一組が3班作ってる」 「残り1人ずつは?」 「敵が現れた場合の運転手」 「なるほど」 確かに足があった方が現場に急行しやすい。 「1班が神代神社、2班が河原を重点的に警戒する。そして、3班が遊撃隊。そこで、私たちは1班と2班の中間に布陣し、敵が現れるのを待つ」 今、そこに向けて移動しているのだろう。 「3班の主な索敵場所は?」 「鹿頭家がいる方面は無視。積極的に動かなくても、自衛には動いているはず」 「学園方面もたぶん、問題ないと思うぞ。結城家が何とかしてると思うし」 2年の結城晴也と言えば、"風神"として有名だ。 「うん。だから、主に駅方面を」 地術師は歩くレーダーのようなものだ。 あまり広いとは言えない町に9人もの人員を割けば、見つけることは不可能ではないだろう。 その配置も昨日とは違い、明らかに戦略的に整理されている。 「発見次第、私と兄さんが動いて戦い、他の班は逃がさないように周囲に展開する」 亜璃斗は持っていた鞄から少女が持つには大きすぎる、黒い装置を取り出した。 「絶対に、見つけてみせる」 そう言って、無線機から各班へと作戦開始の旨を告げた。 ???side 「―――んー、やっぱり逃げ回るだけじゃ面白くないよ、君」 (あ、ああ、あ・・・・) 神馬は封印が解かれてから生えた角を子どもに握られていた。 ただ握られているだけならば振り払えばいいが、この小さな体のどこにこんな力があるのか、全く体を動かすことができない。 「ちょっと意識を残しすぎたかな・・・・」 そう呟くと、子どもの輪郭が禍々しく光り始めた。 どす黒い【力】が惜しみなく放射され、漏れ出さなかった大部分が子どもの手を伝って角に絡みつく。 (あー、あーっ、アーッ!?) 「ものはついで。君の恨みが籠もった相手を襲ってもらおうかな」 「元々、そのつもりだったんでしょ?」と無邪気な笑みを見せた。 「でも、君の考えてる事じゃ生ぬるいよ。第一、あまり意味ないし」 神代神社を襲い、ここを壊滅させたとはいえ、神代家が滅ぶわけではない。しかし、確実に、とある一点をつけば神代家を滅ぼすことができた。 「そこに・・・・行ってもらうよ」 「―――なるほど、遊びも終わり、ということか、"皇帝"」 角から手を離し、神馬がよろよろと後退った時、子どもの背中に声がかかる。 「ふぅ・・・・君もしつこいね」 先程までは確かにいなかった。しかし、その事実を知っていても、"皇帝"と呼ばれた子どもは動揺しない。 「無理矢理計画を止めなかったことを褒めてほしい」 「陛下・・・・」 "皇帝"が振り返った先にはピュセルと麟がいた。 ピュセルが傲岸不遜な態度を崩さず、麟はただただ発見できたことに安堵している。 「じゃあ、もう逃げないから、もうひとつ働いてくれないかな?」 にこーと笑みを浮かべながらピュセルに近づく"皇帝"。 幼い容姿の割にピュセルを超える【力】を展開させた上での言葉はお願いというより脅迫だ。 いや、ある意味、強力なわがままと言えなくもない。 「はぁ・・・・」 ピュセルは大きくため息をついた。 (なんだ、この連中は・・・・) 神馬はその場から逃げられず、ぼんやりとした視界の中で彼らを見ている。 ここに集った三人はあの、桓武帝が集めた綺羅星の如き能力者たちの中でもいなかった。 数日しか現代を生きていないが、あの頃に比べ、大地の【力】は大きく衰えているのが分かる。 この有様では妖魔も退魔師も昔と比べれば弱体化しているであろう。だからこそ、現代であれだけの【力】を抱えた者はとんでもない能力者であることは間違いなかった。 「この神馬を暴走しないように見張りながら連れていってくれない?」 「・・・・・・・・どこにだ?」 場所を訊いたが、それは"皇帝"の要求を受け入れたと同義だ。 「びょーいん♪」 それに、"皇帝"は満面の笑みを以て行き先を告げた。 |