龍鷹 召喚
「―――ん・・・・」 鷹郷藤丸は自分の名前を呼ぶ声で覚醒した。 横向きに寝たままパチリと目を開けた彼は、同じように目を開けた少女が目の前にいることに気が付く。そして、彼女の存在を認識したと同時に目を閉じた。 「うん、これは夢だ」 「そうですね」 彼女も同意し、目を閉じた気配がする。 早く現実に戻らねばならない。 なぜなら、藤丸は彼女を助け出すために戦っているのだから。 「おやすみなさい」 夢の世界にさよならを言い、心地よい眠気に身を投げる。 「くぉらっ! 今まさにあんたの頭脳が役に立ちそうな時なのに、寝るなぁっ!!!」 「ぬぉぉぉっ!?!?」 ものすごい勢いで襟首が締め上げられ、前後にガクガクと揺さぶられた。 「て、敵襲か!? ええい、郁は何してた!?」 「いや、その張本人が揺さぶってるんだけどね」 「あ、あの・・・・郁殿、その辺りで・・・・」 ふたつほど聞き知った声がする。 「盛武と・・・・幸希か・・・・?」 ようやく視界が普通に戻り、藤丸は苦笑いを浮かべている青年と少年を確認した。 藤丸の幼馴染みに近い関係である鳴海盛武と宮崎代官の孫・御武幸希だ。 「全く、夢の中に逃げようなど、それでも指導者?」 さらに襟首を掴んでいた少女は藤丸の護衛を務める加納郁である。 「―――ん〜、現実逃避もここまでですか」 むくりと隣に寝ていた少女が身を起こした。 その挙動に他の三人は警戒心を示す。 「そちらの方々にはお初、ですね」 少女は居住まいを正すと、小さく会釈した。 「私の名は紗姫。今は亡き霧島神宮で巫女なんぞ務めていました」 紗姫は緊張感のない笑みを浮かべて三人を睥睨したが、すぐにふて腐れる。 「今は鹿児島城で軟禁中のはずなんですけどね・・・・」 「「「き、"霧島の巫女"ォッ!?」」」 「久しぶりだな。まあ、お前が目の前にいるからここが現実じゃないって分かるんだが」 「そうじゃなくても、こんな真っ白な空間が存在するわけでないです」 紗姫は肩をすくめながら辺りを見回した。 藤丸と慌てふためく三人以外には何もない。 重力がなければどちらが上か下かも分からないほど、真っ白な空間だ。 「「さて、ここはどこだろう(でしょう)」」 藤丸と紗姫、ふたりは三人を放置して、呑気に首を傾げた。 『―――ふふ、答えを言っちゃうとね。異空間って奴だよ』 「「「「「―――っ!?」」」」」 ビクッと体を震わせ、五人が五人何らかの構えを取る。 『初めまして、別作品の方々。何かマニュアルあるけどこんな奴はさらに異空間に転送しちゃうよ』 空間から語りかけられる声は喜色に染まっていた。 『さて、時間もないことだし、端的に説明するよ』 何故か片目を閉じ、人差し指を左右に振っている姿が思い浮かぶ。 『君たちは今、僕たちが作った異空間にいる。だから、現実の事実関係とかは白紙になり、一個人としてここに存在しているわけ』 だから、鹿児島にいる紗姫が藤丸たちとともにいてもおかしくない? 『で、ここから出て、現実に帰るためにはいくつかの難問をクリア・・・・解決? しなければならない』 言葉と共に真っ白な空間に漆黒の闇が生まれた。 『あの奥に進めば、設問がある。それが難問』 「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」 五人は一寸先も見通せない闇を見遣る。 『ここで留まるのも自由だけど・・・・武人としては前に進むべきなんじゃないかな。ふ〜ん、邪気じゃない【力】ってのも新鮮だなぁ』 ブツブツと呟きながら声が遠ざかった。 どうやら、これで説明は終わりのようだ。 「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」 じーっと判断を仰ぐような視線が藤丸へと向かう。 「はぁ・・・・とりあえず、行くか。盛武、先鋒を頼むな」 藤丸はため息をつきながら、太刀を叩いて出陣を告げた。 |