中部ソロモン海戦 -1
| 中部ソロモン海戦。 これは1943年7月に勃発した日本海軍とアメリカ海軍の主力艦隊が激突した一連の海空戦の名称である。 両陸軍が激戦を交わすニュージョージア島の戦いに起因する海戦であり、第三次ソロモン海戦以来の両主力艦隊の激突だった。 珊瑚海海戦、ミッドウェー海戦、ソロモン海戦と変わらぬ空母を擁する艦隊同士の戦いであるが、両軍の攻守が逆転してから初めての決戦でもある。 しかし、島嶼を巡る戦闘であることは変わらず、地上戦の支援であることにも変わりはない。 つまり、海戦であっても島嶼の位置が重要であり、自ずとその艦隊位置も予想できる。 故に、予想海域からの情報は、両軍とも注目していた。 中部ソロモン海戦 -1 「―――艦長、スクリュー音探知」 1943年7月19日午後9時17分、フェニ諸島北方。 ここに息を潜めていたアメリカ海軍潜水艦の艦内で言葉が交わされていた。 「時間、方位的にレーダーが探知したエコーで間違いありませんね」 「うむ。北西から向かってくるのだ。十中八九日本軍だろう」 この潜水艦はラバウルを出港した日本海軍艦隊を探すために派遣された1隻である。 今から1時間前、浮上中にレーダーが何らかの物体を探知した。 その目標を捉えるために待機し、艦艇の推進音を探知したのである。 「スクリュー音、複数。なおも増加中」 「艦隊か・・・・。大きさはわかるか?」 「詳しい大きさは不明ですが、大小の艦船で構成される艦隊のようです」 艦長の質問に答えた兵員はさらにヘッドフォンに集中した。 「スクリュー音は10を超えました」 「艦長」 副長の促す声に頷き、艦長は命じた。 「メインタンク・ブロー。潜望鏡深度へ浮上する」 「メインタンク・ブロー」 復唱を受ける中、艦長は潜望鏡の準備にかかる。そして、手を休めることなく、通信士に命じた。 「無線発信準備」 「ハッ」 通信士が準備にかかる中、副長が艦長に聞く。 「無線を打たれるので? 敵に位置がバレますが・・・・」 敵影を確認して潜航し、やり過ごした後に無線を打つのが普通である。 何故ならば、無線を打てば敵に気付かれるからだ。 そうなった場合、辛い爆雷攻撃に耐えなければならない。 「いいや。敵だった場合、同時に攻撃もする」 「攻撃も!?」 副長が驚くが、艦長は冷静に言葉を続けた。 「敵さんが魚雷を回避している間に、逃げるんだ」 「だから、狙いは甘くていい。放射状に魚雷をばらまく」と言った艦長の意を受けた副長が艦内マイクを握る。 「水雷。魚雷準備は?」 『すでに完了。方位情報を待つ』 「OKだ。そのまま待機―――」 「艦長だ。各魚雷5°間隔。雷数は4」 マイク前に割り込んだ艦長が短く命じた。 『ラジャー』 「ったく。艦長、そもそも一番大事な命令をしていませんよ」 マイクを切った副長が呆れた声音で言う。 「あ、そうかそうか」 艦長が手を打ち、脇に置いていた軍帽を深くかぶり直した。 「総員戦闘配置、魚雷戦闘用意!」 「総員戦闘配置、魚雷戦闘用意!」 艦長の命令と副長の復唱を受け、アメリカ潜水艦は日本海軍艦隊への偵察・攻撃行動に移る。 「潜望鏡深度」 「潜望鏡、上げ」 深夜の波間に黒い筒が競り上がった。 「・・・・いた。平甲板、空母がいる!」 艦長が目視で確認し、潜望鏡を引っ込める。 「魚雷発射」 艦長の命令とともに水雷長から指示が飛び、4本の魚雷が艦首発射管から飛び出した。そして、艦長はすぐに通信士に命令する。 「『敵空母艦隊発見。位置―――』」 通信士がキーを叩いている間、もう一度潜望鏡を海面上に上げた。 規律正しく航行していた日本海軍の隊列が乱れようとしている。 (魚雷に気付いたな) 奇襲攻撃に混乱する艦隊を確認して潜望鏡を下げた時、通信士から送信完了の報告が上がった。 「ダウン!ダウン! 限界まで潜れ!」 「急速潜航!」 魚雷が艦隊に突っ込む時間に着弾の音が聞こえたが、戦果の確認はできない。 敵を混乱させるために当てずっぽうで撃ったが、それが当たるとは僥倖だ。だが、それは生きていればだ。 「微速後退。復讐に駆られた駆逐艦が来る前に、少しでも移動するぞ」 本当は全速力で逃げたいが、水中速度の遅い潜水艦では逃げ切れない。 隠密行動で、少しずつ移動することで、敵軍が考える潜水艦潜伏範囲から脱するのだ。 「―――北西海域より味方無電探知」 アメリカ海軍潜水艦が必死に逃避行を開始したのと同時刻。 ソロモン海域を航行していたアメリカ艦隊が味方の無電を探知した。 「読め」 探知したのはアメリカ海軍第三艦隊だ。 その司令官を務めるウィリアム・ハルゼー海軍大将が短く命じた。 「宛、ソロモン海域全味方戦力―――」 読み上げられたのは日本軍空母艦隊の位置と魚雷攻撃に成功したというものだ。 「来たかッ」 ハルゼーが獰猛な笑みを浮かべ、すぐに命じる。 「全戦力に北西への進撃を命じろ! ニュージョージア島の上空支援も中止だ! 陸の奴らが何を言ってきても無視しろ!」 「艦隊は分散しています。合流点を決めませんと・・・・」 参謀長がそう進言すると、ハルゼーは航海参謀に視線を向けた。 「艦隊位置から最適な合流点を探し出せ。全速で敵位置までいけるポイントだ!」 「ハッ!」 航空参謀が海図に貼りつくのを見届け、ハルゼーはさらに続ける。 「戦艦群はどこだ!?」 「ニュージョージア島北方に進出するためにマニング海峡を通過しているところかと」 参謀長からそれを聞き、ハルゼーも海図台の傍に立った。 「・・・・ここか」 マニング海峡はチョイスル島(西方)とサンタイサベル島(東方)の間に広がっている。 両島の間には大小の島が広がっており、中心にはシポコ島があった。 「ここで空襲を受けると身動きが取れんな」 「そうですね。夜明け前にどちらかに抜けてなければなりませんな」 同じように海図を覗き込んでいた参謀長が言う。 「・・・・・・・・敵は戦艦を伴っていると思うか?」 「・・・・はい。あのデカ物がいるかはともかく、高速戦艦はいるものと思われます」 「コンゴウ級に、新型の高速戦艦か」 共に36cm級戦艦だ。 とは言え、空母艦隊の護衛である重巡洋艦では太刀打ちできない。 「やむを得ん。反転して海峡北方に出るように命じろ」 「よろしいので?」 海峡内での反転は座礁の危険がある。 さらに深夜と言うこともあり、その危険性は非常に高いと言えた。 「海峡を抜けてから反転していては、海峡通過中に空襲を受ける可能性がある」 海峡中で反転することは難しい。 だから、海峡北方に出るためには一度南方に出てから反転。 その後に再突入する方が良い。 しかし、その方法では海峡に再突入する時には日が昇っており、日本軍の空襲圏内に入ることが予想された。 「いい。座礁よりも空襲の方が厄介だ」 座礁の危険と空襲の危険。 これを天秤にかけた結果、ハルゼーは前者を採ったのだ。 「全く、陸軍の奴らを援護するために余計なことをしたぜ」 空襲だけでニュージョージア島の日本軍を制圧できないため、艦砲射撃を決定した自分を忌々しく思う。 (だが、現れてくれてサンキュー、ジャップ) ハルゼーにとって、第三次ソロモン海戦の雪辱だ。 「潜水艦からの続報は?」 「ありません」 「チッ。撃沈されたか?」 ハルゼーは舌打ちし、視線を電信員に向ける。 「司令部に夜間偵察機を出せるか、打診しろ」 「待ってください」 ハルゼーの命令に慌てて参謀長が止めた。 「司令部との通信は止めた方が良いです」 艦隊集結などの一方的な命令は旗艦から発光信号を通じて離れた艦から代理発信されている。しかし、司令部との相談となると別だ。 暗号文のやりとりとなり、先の代理発信では時間が掛かる。 だから、ハルゼーは直接旗艦から司令部に打診しようとしたのだ。 「なんだ? 今更位置がバレることを気にしているのか?」 「その通りです」 旗艦から発信された無電は司令部だけでなく、日本軍にも傍受されるだろう。 内容は暗号だが、発信地の予測は可能だ。 「ふん、ジャップもバカではない。ここ数日の航空支援の頻度と時間差、侵入方位から俺たちの位置はおおまかに推測しているだろう」 「だから、位置を隠匿しても意味がないと?」 「ああ。確かにこちらから知らせてやる義理はないが、日が昇れば真っ先に奴らが偵察するであろうエリアに俺たちはいる」 ハルゼーは海図を撫でながら言う。 「今更位置がバレたとしても大して変わらんさ」 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」 ハルゼーの言葉に参謀長が沈黙した。 「長官。司令部に問い合わせるのは、発信があった海域に夜間偵察機が出せるか否かですね?」 代わりに発言したのは航空参謀だ。 「ああ、そうだ」 「では、航空参謀の立場から言わせていただきます」 「よろしい」 ハルゼーは早く言えと言わんばかりの視線を向けた。 「前線近くに進出しているカタリナ飛行艇ならば夜間飛行が可能であり、進出も可能です」 「ほう」 「しかし、この編隊はツラギ島-ガダルカナル島間とニュージョージア島との航路監視のために常時哨戒中であり、本任務への転用は難しいです」 特に今、アメリカ軍はニュージョージア島への増援を計画している。 この航路に日本軍潜水艦が入り込むことは許されず、その任務に穴を開けることは出来ない。 「一方、ツラギ島からは遠すぎます」 「? 何故だ? カタリナの航続距離は4,000km近いだろう?」 「はい。ですが、速度は遅く、予想海域に進出するまでに4時間はかかります」 出撃準備も考えれば、もっとかかるだろう。 「・・・・なるほど」 ハルゼーは現地時間に合わせた腕時計を見て呟いた。 それほど時間が掛かれば、夜明けとなっている。 ハルゼーたちがほしい"今"の情報からかけ離れていると言いたいのだ。 「だが、索敵の"依頼"を出しておいて損はないな」 「・・・・はい」 相談から依頼にハルゼーは切り替えた。 つまり、旗艦が司令部と連絡を取ることを取り下げたのである。 「参謀長、索敵依頼を出してくれ」 「ハッ」 参謀長が答え、新たな発光信号を出すべく伝令兵を呼んだ。 しばらくして、ふたつの無電が夜空を飛んだ。 そのふたつとも、日本軍は傍受に成功した。 その場所は様々だったが、ひとつだけ、アメリカ軍が思いも寄らない場所で受信していた。 それはチョイスル島南東部。 日本軍はガダルカナル島の戦い後もさらに南東に位置するサンタイサベル島のレカタ水上機基地を維持していた。 これはガダルカナル島への夜間攻撃隊の誘導のためである。しかし、アメリカ軍もこの基地は知っていた。 このため、アメリカ軍の反攻が予想された段階で撤退。 代わりに海軍軍令部第三部の諜報部隊がチョイスル島に展開したのである。 目的は夜間爆撃機隊の誘導と情報収集。 そして、乾坤一擲の一撃のためだった。 「―――隊長、シポコ島の連中から連絡がありました」 報告を受けた隊長はマニング海峡の中心に位置するシポコ島から西北西に位置するライナ島にいた。 ここはマニング海峡の北端を臨むことができる。 「へぇ? なんて?」 隊長はその海峡を見るのに最適の位置で、何故かハンモックに揺られていた。 欠伸をしながらその方面を眺める姿は、とても帝国軍人には見えない。 「島南東部で先程通過した敵戦艦群が反転を開始したとのことです」 「ふん、命令通りか。よく暗くて狭い海峡内でやるもんだ」 隊長は目を光らせ、報告のあった方角を見遣る。 「・・・・島が邪魔で見えんな」 そう呟いた後、ハンモックから立ち上がった。 「すでに味方には連絡しているな?」 「はい。待機していた1隻は確実に。他に1、2隻は集結すると思われます」 待機している潜水艦は、軍令部第三部の諜報活動用に配備されているのは伊一七九である。 これは海大Ⅶ型(新海大型)とも呼ばれる潜水艦の四番艦だ。 神戸の川崎重工造船所で建造されたが、忠実では伊予灘での訓練中に事故で沈んだ。しかし、この物語ではそのようにして表から姿を消し、第三部の秘密作戦に従事することになる。 具体的にはソロモン方面の諜報部隊の足として活躍していた。 「艦長である湯浅殿は今回が処女航海。気負いすぎてないといいけど」 「先任将校はベテランなので、大丈夫でしょう」 「うんうん。なら、艦前部魚雷発射管、6発の威力を見せてもらおうね」 「九五式魚雷なので、水雷戦隊よりは見劣りしますが、大型艦の横っ腹に高い水柱が上がることでしょう」 報告する第三部員の言葉に頷き、隊長である諜報員は親指と中指で音を鳴らす。 「じゃあ、それを見るためにこちらも準備しないといけないな」 その言葉と共にその指先に宿った炎が怪しく揺れた。 「―――潜望鏡深度」 「潜望鏡、上げ。――――――下げ」 ほぼ同時刻、マニング海峡を臨む北方海域に伊一七九号は到達していた。 かなり岸に近く、ほぼ艦腹は海底をこすっている。 岩礁も点在しているため、座礁かつ艦体に大穴が開く可能性があった。 「艦長、どうでしたか?」 潜望鏡で周囲を確認した艦長・湯浅弘中佐は、緊張に頬を引き攣らせながら言う。 「命令の通り、ライナ島に黄色い光があった」 「『待機』ですな」 先任将校が言い、湯浅も頷いた。 「あとは定期的に潜望鏡を上げ、島からの観測に従って魚雷を発射するだけか・・・・」 湯浅が大きく息を吐く。 重要な任務に手が震えていた。 (我々がこんな危険な地点に潜んでいる理由はただひとつ) もうすぐ出てくる米海軍戦艦部隊に魚雷を叩き込むためだ。 元々は第三部の諜報員輸送という任務に就いていたが、勃発したニュージョージア島の戦いに関連して惹起した海戦に影響を与える地点にいたことで、作戦が変更された。 とは言え、現地司令部に属することなく、第三部に属したままの単独行動だ。 「魚雷発射準備はできているな? いざ撃つという時に撃てないと恥をかくどころではないぞ」 「はい。同時発射は6発。1本でも命中すれば戦艦でも撃破可能です」 先任将校が安心させるように言う。 こちらはすでに射点についており、敵はこちらに気がつかず、身動きの取れない海峡内から出てくる。 距離は6,000mと予想しており、雷速は最大の49kt/hで設定されていた。 「今回の役割は固定砲台からの奇襲のようなものです」 (まず外れない、ということか) 湯浅もそう思っているが、それでも外した場合、逆に追い回されるのは自分たちだ。 命中することを前提に浅瀬にいるため、反撃されたらひとたまりもない。 「艦長、先任、海峡方面より推進音探知」 索敵を担当する兵員の報告を受け、湯浅は海面を覗く。 「海峡内はまだ暗いが、ライナ島で黄色い光がふたつになったぞ」 「前路哨戒の駆逐艦が出た、ということでしょう。依然待機です」 先任の言う通り、海峡外の安全を確保するため、米海軍の駆逐艦2隻が海峡の外に出ようとしていた。 「推進音、海峡外に出た模様」 「まもなく、攻撃です」 「駆逐艦はどうする?」 湯浅の質問に先任は短く答えた。 「無視です」 鼻白んだ湯浅に視線を戻し、先任は言葉を紡ぐ。 「・・・・とはいえ、こちらの攻撃は海峡入り口に集中しています。おそらく、この駆逐艦たちにも当たるでしょう」 「推進音探知。・・・・大型艦です」 「潜望鏡―――」 湯浅が三度潜望鏡を海中に出し、合図を確認した。 「赤だ。―――魚雷発射!」 「魚雷発射」 湯浅の命令を受け、伊一七九は6発の魚雷を順次発射する。 それは最大戦速かつ無航跡で海峡から顔を出した米艦隊に向かい、一直線に突き進んだ。 ―――同時刻。 「―――先行した駆逐艦より敵影なし、との発光信号です」 「よし、艦長、出るぞ」 アメリカ海軍戦艦部隊司令官・ウィリス・A・リー海軍少将は旗艦・戦艦「インディアナ」の艦長にそう命じた。 「ハッ。微速前進。岩礁なんかにこするなよ」 艦長の命令に、ゆっくりと「インディアナ」が動き出す。 (早くハルゼー提督と合流しなければ・・・・) リー少将が指揮する戦隊には南太平洋海域には全てのアメリカ戦艦が集結している。 旗艦「インディアナ」を筆頭に、姉妹艦「マサチューセッツ」、「アラバマ」。 3隻だが、"世界最大"の40.6cm砲を搭載するアメリカ海軍最新鋭艦だった。 とは言え、次級のアイオワ級戦艦の就役も始まっている。 (が、初陣と言えるからな・・・・) この3艦は全て1942年中に就役している。 訓練を経て南太平洋に配属されたのはこの2~4月だ。 まとまって戦闘行動に従事するのはこれが初めてだった。 (『サウスダコダ』がいればまた別か・・・・) 3隻のネームシップである「サウスダコダ」は1942年10月のサンクリストバル島沖海戦で撃沈されている。 彼女は訓練明けの初陣で撃沈されていた。 (戦艦という大きな船を動かすには経験豊富なクルーと艦自体の癖を理解する必要がある) 前者は他戦艦からの異動で対応できるが、後者はとにかく艦を動かすしかない。 まだサウスダコダ級戦艦はそれほど動いていないのがリーは気がかりだった。 いや、前者も懸念点のひとつである。 相次ぐ戦艦の喪失に伴い、経験豊富なクルーもいないのが現状だった。 (だから、隘路を進むのは緊張するな) 「インディアナ」が動いたことで、前方に展開する駆逐艦も微速で位置を変えていく。 リーも艦隊の海峡抜けという何時をこなすため、意識が内側に向いていた。 故に艦を動かす艦幹部やその他の艦隊将士も同様である。 ―――故に、その時まで気付かなかった。 「―――ッ!?」 爆音がふたつ。 「なっ・・・・」 視線を音源に向けたリーは絶句した。 先程までゆっくりと動いていた駆逐艦2隻が爆炎を孕む水柱に覆い隠されている。 (魚雷、だと!?) 被害状況は魚雷もしくは機雷だ。 だが、この海域は今日の昼間に通っている。 故に魚雷とリーは判断した。 「航跡を探せ!」 「「・・・・見えません!」」 「チッ」 リーの言葉に艦橋から飛び出して近くの海面を確認した水兵からの報告を聞いたリーは逆に焦りを見せる。 (無航跡魚雷!? 潜水艦がいる!?) 「全速後進! 急げ!」 艦長が叫ぶ中、リーは間に合わないことを悟った。 潜水艦であれば複数の魚雷を撃っているはず。 「っ、間に合わん! 衝撃に備え!」 微速から後退に移ろうと、一時的に海上に停止した瞬間、「インディアナ」艦前部左舷に2本の水柱が立った。 1943年7月20日午前2時7分、マニング海峡北方出口にて、アメリカ海軍の3隻が被雷した。 戦艦「インディアナ」は艦前部左舷に九五式魚雷が命中し、両被雷孔が繋がって大浸水を引き起こしたが、沈没は免れる。 一方、最初に被雷した駆逐艦「ニブラック」、「リヴァモア」は轟沈した。 海峡北部に日本海軍の潜水艦が集まっている状況に、アメリカ海軍は海峡突破を断念。 再度、海峡内で反転し、南方へ抜けることを判断する。 結果、アメリカ海軍戦艦部隊はこの中部ソロモン海戦から脱落した。 これは戦況にも多大な影響を与える。 第三部は特殊作戦とも言えるこの戦闘で、多大な恩を連合艦隊に売ったのだった。 |