第三艦隊と第二航空艦隊


 

 大日本帝国海軍第三艦隊。
 常設艦隊である第一および第二艦隊とは違い、この艦隊は必要に応じて編制・解散される特設艦隊である。
 太平洋戦争開戦当時、フィリピン攻略部隊として五代目に当たる第三艦隊が誕生し、1942年3月10に第二南遣艦隊と名前を変えたために第三艦隊は消滅した。
 しかし、ミッドウェー海戦後の1942年7月14日に復活する。
 それも空母を基幹とした臨時編成だった第一航空艦隊の後継としてである。
 つまり、空母集中配備の臨時艦隊が、特設とはいえ正規艦隊に格上げされたのであった。






高松嘉斗side

「―――実、どうしてこれを僕の所へ?」

 1942年6月13日、高松邸。
 ここで嘉斗は源田の訪問を受けていた。
 源田だけでなく、ミッドウェー海戦で両足を骨折した淵田までいる。
 彼らは亀が出した茶を一口すするなり、分厚い紙束を嘉斗の前に置いた。
 その表紙には「空母部隊再建案」と記されている。
 言うまでもなく、半壊した第一航空艦隊再建案だった。

「連合艦隊や一航艦で打ち合わせた再建案のまとめだ」
「これを軍令部に提出する前に、お前に見てもろうと思って」
「だからって・・・・機密文書でしょう・・・・」

 嘉斗はこめかみを抑えつつ文書を手に取る。

「貴様に協力してもらった方が通りやすいだろうし、情報面での不備があった場合、その修正ができる」
「まあ、いいですけどね」
「頼む。俺たちが不甲斐ないばかりにお前の情報を無駄にしたから」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 ミッドウェー海戦で嘉斗が頼りにした源田も淵田も体調不良で万全ではなかった。
 敗因のひとつに南雲長官の判断ミスが挙げられている以上、彼を補佐する立場であった源田にも責任がある。
 また、淵田も空中指揮官として、自分の不在は責任を感じていた。
 源田は体調管理不足による発熱だが、淵田は虫垂炎だ。
 だが、仕方がないという慰めは通じないだろう。

「せっかくですから、説明してくださいよ」

 嘉斗は文書の表紙をめくり、主要項目に目を通した。

 1. 空母部隊の建制化。
 2. 警戒兵力の増加。
 3. 航空戦隊再編案。

「ひとつめは・・・・まあ、言いたいことは分かります。というか、2.とも関係しますよね?」
「だな」

 源田が頷き、詳細を説明する。

「そもそも一航艦は―――」

 第一航空艦隊は、それぞれの艦隊が持つ戦力を抽出し、作戦ごとに編制して運用していた。
 これを常にこの艦隊に配備される、いわゆる常備艦による艦隊編制にすることを提言している。
 この艦隊には空母だけでなく、護衛艦艇も配備され、さらにその兵力の増強を訴えたのが2.だった。

「1.と2.はその通りだと思いますね」
「修正点はないのか?」
「2.についてですが、実はどの程度の戦力を求めているんですか?」
「そうだなぁ。金剛型戦艦、利根型重巡は必須だな」

 前者は水上戦闘に巻き込まれた場合の護衛と電探装備軍艦として。
 後者は水上機運用艦として、である。

「他に・・・・もうすぐ就役する秋月型駆逐艦の集中配備だ」

 防空駆逐艦として配備予定の新型駆逐艦だ。

「主力艦の護衛用ですが・・・・このご時世です。空母艦隊への配備は認められるでしょう」
「後は・・・・正式に『北上』、『大井』を配備してほしい」
「秋月型と同じ理由ですね?」
「ああ」

 両艦が持つ九八式10cm砲八門。
 これは秋月型と同じ砲力だ。
 秋月型の数が揃わない内は旧式艦とはいえ役に立つだろう。
 実際、ミッドウェー海戦では武勲を立てていた。

「なるほど。・・・・これも同意見です」

 1.と2.の申請内容は連合艦隊と嘉斗は同意見である。

「ただ3.については少し意見があります」
「・・・・なんだ?」

 3.の航空戦隊再建案。
 源田にとって、この文書の要とも言える部分だ。
 内容は以下の通り。

 五航戦の解散と空母「瑞鳳」を加えた「翔鶴」、「瑞鶴」、「瑞鳳」の三空母による一航戦の発足。
 二航戦に「龍驤」を加える。
 これにより大型空母二、中型空母二、小型空母二による空母6隻体制の復活だ。
 艦載機は単純計算で約400機。
 問題は「翔鶴」と「飛龍」の復帰が8月、「蒼龍」のそれは9月と試算が出ていた。
 軽傷である「飛龍」の修理にこれほど時間がかかるのは空いているドックがないためだ。
 尤も修理専用ドックの建造は急ピッチで進んでおり、1942年後半から各地に完成する。

「小型空母には戦闘機と偵察機だけを配備しましょう」
「・・・・艦隊防空の戦訓か・・・・」

 敵への攻撃と味方の防御。
 戦闘機はいざ海空戦が始まると忙しい。
 敵戦闘機が多数いる場合は特にやりくりが難しかった。
 結果、攻撃に出た機体が戻って来るなり防空戦に参加するという状況がミッドウェー海戦では発生している。

「『瑞鳳』および『龍驤』を艦隊防空戦闘機専用空母として配備すれば、分厚い空の壁が生まれます」

 両空母併せて70機近い戦闘機がいる。

「もちろん余裕があるならば攻撃隊の護衛を任せてもいいでしょう」
「しかし、攻撃力が減る・・・・」

 淵田が難色を示した。
 戦闘機分の増加はそのまま艦爆と艦攻の配備数減に繋がる。

「いくら攻撃隊がいても、敵に到達できなければ意味がないでしょう」

 嘉斗の言葉に淵田は沈黙した。
 アメリカ軍の対空砲火はすさまじいものがある。だが、それ以上に戦闘機の方が怖い。
 この戦闘機を追い払う味方戦闘機がいなければ、敵艦隊への攻撃前に数を減らしてしまう。そして、数の減った攻撃隊の攻撃など、艦隊の脅威ではないのだ。

「もうひとつ、僕は提案したいのがあるんですけどね」
「もうひとつ?」
「第二航空艦隊の発足ですよ」
「「は?」」

 これは正規艦隊に移行する元第一航空艦隊と違い、臨時編制のまま運用することを目的としていた。
 臨時編制は確かに訓練度などで脆い点がある。
 だが、敵戦力に応じて戦力の増減ができ、基幹戦力さえ固定であれば十分な戦力になると思っていた。

「準正規空母である4隻を使います」
「あいつらか・・・・」

 商船改造空母でやや低速ながらも正規空母に準ずる搭載数を持つ空母。
 元航空機輸送艦の「雷鷹」、「鳴鷹」。
 商船出身の「隼鷹」、「飛鷹」。
 「飛鷹」は就役間近であり、8月にはこれら4隻が勢ぞろいする。
 合計搭載数は約250機。
 現時点で太平洋に展開する敵残存空母の予想搭載機数は270機。
 ほぼ互角である。

「空母専用の航空隊を作らず、一個飛行中隊ごと、作戦ごとに搭載機編制を変えると、非常に柔軟な対応ができると思います」

 おまけに空母搭乗員の育成もできる。
 あくまで主力は一航艦――第三艦隊――であり、二航艦は補助的な役割を持つのだ。

「戦力は・・・・そうですねぇ・・・・」

 準正規空母4隻、一航艦に改利根型重巡が加わった場合、この利根型をスライドさせる。
 駆逐隊の1~2個を常駐にさせれば一定以上の戦力になるだろう。

「特に地域防衛、時に主力艦隊護衛、時に航空機輸送、時に敵地攻撃」
「敵空母艦隊との戦いは?」

 淵田の問いに嘉斗は首を振った。

「ほとんどしない方がいいでしょう。防衛上、どうしようもなければ行う」
「つまり、戦闘機の比率を上げるのだな?」
「はい。そうですね・・・・。艦戦32、艦爆12、艦攻15、艦偵3とかどうでしょう」

 一空母辺りの数値だ。
 四空母では艦戦128、艦爆48、艦攻60、艦偵12の計248機。

「敵艦隊に対して一定の攻撃力を持っているな」

 第一次攻撃隊として発艦できるのは6~7割ほどだろう。
 そうすると、攻撃隊は艦戦80、艦爆32、艦攻36の計148機。
 十分な攻撃力である。

「ふむ、それも付け足しておくか・・・・」

 源田がメモを取り出し、先の言葉を書き写していく。

「この機動艦隊の編成が連合艦隊側に指揮権があるとなおよいですね」
「それは・・・・・・・・・・・・まあ、そうだな」

 作戦に必要な戦力の創出。
 それは確かに連合艦隊の役目とも言えた。
 艦隊編成まで行くとやや行き過ぎのような気もするが。


「―――ん、お茶」


 ひと段落したと見たのか、突然ふすまが開いて亀が入ってきた。しかし、お茶を持ってきたというのに彼女は手ぶらである。

「おお、大きくなったな」

 湯呑が3つ載ったお盆を持つのは、今年で5才になる嘉斗と亀の娘――霞耶だった。
 母親のお手伝いをしたい年頃なのか、幼く短い腕をプルプルと振るわせながら慎重にお盆を運んでいる。

「がんばれ」
「あい!」

 応援する母とそれに応える娘。
 傍から見れば微笑ましいやりとりだが、当事者になってみると恐怖だった。

「おい、大丈夫なのか?」

 思わず身を寄せ合った佐官3人が顔を寄せ合う。
 何せ湯呑から上がる湯気から、そのお茶の温度が窺い知れた。
 霞耶が転倒してお茶をぶちまけた場合、間違いなく火傷する温度だ。

「両足骨折してて俺は逃げられへんのやで」

 淵田がすでに涙目だ。

「あぅ!?」

 その恐怖が伝わり、緊張したのか、霞耶が畳の縁に躓いた。

「「あ・・・・」」

 スベッと顔面から畳にダイブする霞耶。
 当然、そのお盆からは湯呑が吹っ飛び、それは3人目がけて飛んでくる。
 航空屋のふたりの動体視力には、その様がはっきり見えた。


―――こぼれそうなお茶がこぼれず、放物線を逆戻りしてお盆に着陸した湯呑たちが。


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 ふたりの視線が娘向けて手を伸ばしていた嘉斗に向いた。

「まあ、このくらいはできますよ」
「さすが皇族、と言ったところか・・・・」

 皇族が魔術的素養を持っていることは公然の秘密である。
 これは世界的にであり、同様の一族はヨーロッパも多い。
 だが、魔術の使用は公には暗黙の了解で禁止されていた。
 だから、親友と言っていいふたりも嘉斗が魔術を使うところを初めて見たのだ。

「・・・・まさか貴様が持ってくる情報は・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・いや、止めておこう」
「それが良いかと。まあ、源田も後3年ほどすれば分かりますよ」

 その頃は戦争効果もあり、将官に昇進しているだろう。
 つまり、将官レベルの機密と言うことだ。

「あい」

 霞耶が何事もなかったかのように3人の前にお茶を置いた。そして、ニコニコして亀の隣に戻った。

「よしよし」
「えへへ」

 頭を撫でられてご満悦。

「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 銃後の姿を見た3人の佐官は、それぞれの闘志を胸に連合艦隊の再建を願った。






人事scene

「―――私が、第三艦隊の司令官、ですか?」

 7月2日、海軍省の大臣執務室で南遣艦隊司令官・小沢治三郎海軍中将は海軍大臣・嶋田繁太郎海軍大将に言った。

「そうだ。南雲の代わりにやれ」

 つまり、一航艦の司令官として開戦以来精鋭部隊を率いた南雲忠一海軍中将の更迭。

(まあ、それは仕方がない)

 ミッドウェー海戦の敗北は、水雷屋が航空艦隊を指揮することの限界を露呈したと言える。
 だから、南雲の更迭は当然の処置と言えた。

(問題は、その後任が俺と言うことだ)

 席次や階級などは問題ない。だが、小沢も水雷屋なのである。

「小沢中将は、空母集中配備を主張されていましたよね?」

 発言したのは人事局長・中原義正海軍少将だ。

「それはそうだが・・・・」

(あれは淵田が出したようなものだ。俺はその意見に賛同したに過ぎない・・・・)

「中将の懸念は尤もですが、参謀長には山田少将、航空参謀は代わらず源田中佐です」
「山田か・・・・」

 山田定義。
 海軍兵学校42期。
 海軍航空隊の草分け的存在で、第一次世界大戦中の1916年から航空屋指揮官としてキャリアを積んでいる。
 また、連合艦隊や軍令部、第一航空戦隊でも参謀畑を務め、海軍省臨時調査課員、フランス大使館附き武官などの情報畑にも触れている。
 何より空母「蒼龍」、「加賀」の艦長を務め、現職は第二五航空戦隊司令官だ。
 航空戦、参謀(軍政含む)、情報、実戦指揮の全てに精通した人材である。

「航空戦は山田と源田に任せればいいだろう」
「・・・・では、私は何を?」

 嶋田の言葉にムッとしながらも、小沢は己の存在意義を問うた。

「知れたこと。ここ一番での勝負勘は水雷屋が一番だからな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 作戦諸々は参謀に考えさせ、自身は戦局を見極めて的確な判断を下せ、と言っているのだ。
 だが、それは司令官として当然であり、その役目を全うするための知識を航空戦には持っていないのだ。

(このままでは私は参謀たちの言葉を聞く人形になってしまう)

 そして、何らかの事情で参謀たちがいなくなれば、ミッドウェーの様な戦いになるのだろう。

(・・・・山本大将に相談しよう)

 航空屋と見られている山本ならば何か良い案を持っているはずだ。
 そう考えた小沢は、渋っていた異動内示を受け取って海軍省を後にした。
 目指すは連合艦隊司令部――日吉台(横浜市港北区日吉)。
 そう、ミッドウェー海戦の戦訓から、司令部は陸に上がったのである。




「―――というわけで来たのだが・・・・角田、貴様もいたのか」

 第三艦隊司令官(兼第一航空艦隊司令官)の内示を受けた小沢は7月3日、横須賀の料亭に出頭していた。
 呼び出したのは山本五十六である。
 そこに角田覚治海軍少将もいた。
 また、山本の腹心である大西瀧治郎少将もいる。
 3人とも航空屋と言えば航空屋だろう。

「小沢、早く座れ」
「これは失礼」

 上座の山本に声をかけられ、小沢は空いていた席に着いた。
 するとすぐさま御膳が運ばれ、将官たちの前にそれが置かれる。

「南雲の後任になるようだな」
「どうやらそのようです。しかし―――」
「航空戦で傀儡になるのは嫌、ということか?」
「・・・・その通りです」
「ふむ・・・・」

 山本は運ばれてきた酒に口をつけ、角田と大西を見遣った。

「貴様たち、航空隊を指揮する時に気を付けていることは何だ?」

 角田は四航戦司令官、大西は航空本部総務部長だ。

「敵の位置と距離をとにかく気にしますし、彼我の航空機の性能を頭に入れることは必須でしょう」

 と角田が答えた。
 敵と味方の位置情報の把握は大前提。
 つまり、索敵の重要性である。
 航空機の性能も攻撃判断に必須の事項だった。

「私は搭乗員との信頼関係も必要と思われます」

 さらに大西が続ける。

「航空機は砲弾や魚雷と一緒だと考える人もいますが、搭乗員は人です。感情がある」

 士気が低ければ戦果が期待できないし、高ければ思わぬ戦果を上げることもある。
 所定の性能を示す砲弾や魚雷にはないことだ。

「ただ、そんな彼らを死地に追いやる非情さも必要ですが」
「心がけは問題ない。問題は・・・・航空機自体への知識か・・・・」

 小沢が目を閉じ、考えに沈んだ。

「幸い時間はある。学べばいい」
「時間、ですか?」
「ああ、現在出撃可能な空母は『瑞鶴』、『龍驤』の2隻だ。角田の四航戦を加えたとしても積極作戦には出られない」

 山本は苦虫を噛み潰したような表情で言った。
 これがミッドウェー海戦敗北の一番の影響だ。
 日本軍は太平洋方面における作戦主導権を失ったのだ。
 尤も米軍も積極攻勢には出られない。
 このため、太平洋では奇妙な沈黙が一方向を除いて続いていた。

 それは南太平洋――ソロモン・ニューギニア戦線。
 太平洋戦争において日米両軍が真剣に叩き合った戦線。
 すでに始まっている戦いだが、その戦線における最大の戦役――ガダルカナル島攻防戦の開始は、もう目前に迫っていた。




「―――行ったか?」

 時遡って小沢が退出した海軍省大臣執務室。

「行きました」

 中原の言葉に、嶋田は大きくため息をついて椅子の背もたれに背を預けた。
「全く・・・・何てことだ」
「ええ。本来なら南雲中将や草鹿少将はこのまま継続だったんですけど」

 まだ転任など早すぎる、と人事的考えを口にする中原。
 この発言から分かる通り、海軍省人事局は戦時であっても平時と同じ考えて動いていた。

「まあ、こんなものが来てしまってはな」

 嶋田が懐から出して机の上に置いたのはとある家紋が記された封筒である。
 中には文書が入っており、『南雲と草鹿を更迭すべし』とあった。

「元帥として、未だに海軍を見られているということか・・・・」

 やや蒼い顔をした嶋田に、中原も同様の表情で頷く。

 記されていた家紋は「十四裏菊」。
 宮家・伏見宮のものだった。
 現場を退いてからのここ数年、ほとんど表舞台に出ていない。しかし、海軍時代の情報網と宮家ゆえのそれを駆使した情報収集力はさすがだった。
 再編された軍令部の情報部門も伏見宮に協力してもらっている部分もあるという。

(高松宮もなかなかのようだが、所詮は情報だけの佐官・・・・)

 直宮の影響力も対外政治的には強いが、伏見宮は海軍内部に絶大な影響力を持っている。
 未だに大臣や総長の人事には彼の意向を窺わなければならない。
 また、伏見宮が人事に直接介入したのは今回だけではない。
 前に介入した、通称「大角人事」では多数の海軍将校が予備役に移された。
 逆らえば、艦隊派として付き従った嶋田ですら一瞬で飛ばされるだろう。
 自身の保身のためならば、戦犯でもある南雲と草鹿を飛ばすことに拒否感はなかった。
 その後任人事に小沢を持ってきたのは単純な順番である。
 山田はやや強引に引き抜いた。

(これで、対外的には戦訓を判断した人事と言われるはずだ)

 さらに航空隊からベテランを引き抜き、後進の育成に充てている。
 これも平時と同じ人事と言えば人事だが、嶋田自身、この珊瑚海海戦からミッドウェー海戦における航空隊の損耗に蒼い顔をしたのだ。
 必要措置と見て断行した。
 結果、前線部隊の練度が落ちたとしても、長い目で見れば絶対に良い人事なのだから。




 こうして日本海軍は外征部隊である空母艦隊の新艦隊編制、新司令部、搭乗員の大量異動によって身動きが取れなくなった。
 どれも必要な措置ではあったが、太平洋上の空母が一時的に使用不能になっていたアメリカ海軍を立ち直らせる機会を与えたことは間違いない。
 ミッドウェーの衝撃に震える日本軍と違い、アメリカ軍は世界的戦略から枢軸軍に対する反攻作戦を進めていた。









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