資源戦略


 

 国内経済を回すには資源が必要だ。
 石油はもちろん、鉄、銅、錫、アルミニウム、亜鉛、鉛などなど。
 これらを製錬、合金化する技術も必要だが、それ以前に物がなければ製造できない。
 現代の国内金属鉱山は菱刈鉱山(金)程度だが、戦前日本は多数の国内鉱山―― 一部、域内含む――を保有していた。
 各鉱種の主要鉱山を以下に示す。
 かっこ内は鉱山の採掘対象元素記号。

 鉄:北海道知安、岩手県釜石、咸鏡南道利原。
 銅:愛媛県別子、秋田県小坂、栃木県足尾、茨城県日立。
 鉛・亜鉛:北海道豊羽、秋田県花岡、宮城県細倉、岐阜県神岡、長崎県対州。
 アルミニウム:全羅南道
 スズ:兵庫県明延、大分県尾平。
 アンチモン:愛媛県市ノ川、兵庫県中瀬。
 マグネシウム:栃木県葛生、咸鏡南道端川。
 ニッケル:兵庫県夏梅、大分県若山(両鉱山とも採算度外視)。
 コバルト:山口県長登・金ヶ峠。
 クロム:鳥取県若松・広瀬、北海道日東・八幡。
 マンガン:北海道大江・石崎、岩手県野田玉川。
 タングステン:京都府大谷、山口県喜和田、黄海道谷山、江原道寧越。
 モリブデン:岐阜県平瀬、島根県大東、全羅北道長水

 だが、国内最大の八幡製鉄所は国外から鉱石を輸入するなど、近代日本を支えるのは国内鉱山だけでは足りなかった。
 平時でも輸入に頼っている。
 それがほとんどアメリカ頼みだ。
 だから、アメリカを敵に回すと日本経済は回らないのだった。
 このため、朝鮮半島や台湾、満州で盛んに探鉱が実施されている他、輸入先の分散化が検討されている。
 国策とし、多くの民間企業を巻き込んだ一大プロジェクト。
 それを推進しているのは現政権・近衛内閣だった。
 しかし、そのまとめ役は首相・近衛文麿ではない。
 高松宮嘉斗殿下の妻――亀だった。






秘密会議scene

「―――お集まりいただきありがとうございます」

 1937年12月3日、日本飛行機が持つ事務所の一角で秘密会議が開催された。
 名目上の主催は取締役社長・堀悌吉である。

「いやいや、この会は非常に有意義ですから集まりますよ」

 集った者たちを代表して、近衛文麿首相が言った。
 彼に応じて頷くのは、現近衛政権の閣僚たちである。
 鉄道大臣・中島知久平(政友会総裁代行)、拓務大臣・大谷尊由(貴族院議員)、海軍大臣・米内光政(海軍大将)、大蔵大臣・賀屋興宣(大蔵省役人)が、その者たちだ。
 他の出席者は中島の側近である前田米蔵(政友会総裁代行)、大蔵次官の石渡荘太郎、南南洲鉄道副総裁・八田嘉明(貴族院議員)、もいた。
 しかし、ひときわ目を引くのは、上座に座った女性である。

「高松宮妃、始めても?」
「ん」

 首相を差し置いて上座に座っていた亀が、大仰に頷いた。

(ひろ様が軍事で頑張ってるから、経済で頑張らんと)

 この会合は大日本帝国の経済発展を支える会合である。
 堀を補佐に置き、亀が鶴の声で呼び集めているのだ。
 もちろん秘密会議であり、全員がお忍びで参加していた。

「では―――」

 議事進行役の堀は、手元の資料に目を通しながら口を開く。

「戦争遂行のために、資源確保が必須である、と前回の会議で確認されました」

 その言葉に出席者が頷いた。

「ならば、その確保をどうするのか。これが本日の議題です」

 資源を開発し、それを国力に変換するには以下の過程を辿る。
 資源の探査、開発、運搬、製錬、加工、製造。
 探査・開発は鉱山経営、運搬は輸送路の整備、製錬から製造までは工場の確保が必須だ。
 中でも輸送路の確保は鉄道網及び船舶量・防衛が影響していた。
 このため、この会議に鉄道大臣と海軍大臣がいるのだ。
 また、国内鉱山はほぼこれがなされているので、外地鉱山。
 つまり、朝鮮、台湾、満州での資源調達が本会議のメインテーマだった。

「まずは石油です」
「三次に渡る船舶改善助成で建造されたのは48隻。内3隻が油槽船だ」

 堀のテーマ設定の言葉を受け、賀屋が発言する。

「ですが、いわゆる"川崎型油槽船"はさらに建造されている」
「これらは主に蘭印からの重油輸入に使われるが・・・・足らん」
「だから、優秀船舶建造では9隻の油槽船を建造中だ」

 米内の言葉に賀屋が反論した。

「それでも足りない」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 亀の言葉には揃って沈黙した。

「人造石油はどうなっている?」

 亀は続けて近衛に問う。
 日本は石炭を液化させて石油を作り出す技術(フィッシャー・トロプシュ法)をドイツから導入した。
 昨年に人造石油製造事業法が制定され、同年に設立した特殊会社である帝国燃料興業が工場建設に動いている。

「福岡県大牟田、北海道滝川に工場を建設し、稼働予定は昭和十五年です」
「再来年か・・・・」
「朝鮮半島北部には石炭が多いと聞く。そこには作れないのか?」

 平安南道や咸鏡南道一帯の古生代地層の無煙炭、咸鏡北道一帯の新生代第三紀の褐炭などだ。

「可能です。しかし、資材が・・・・」

 植民地を担当する大谷が答える。
 発言の後半でチラリと近衛と賀屋を見遣った。

「早急に整備する必要がある。朝鮮で作れるのであれば大陸への輸送は容易であろ」

 日本で生産しても大陸に運ぶには船がいる。しかし、海洋国家である以上、船の需要は高まるばかりだ。
 また、喪われればそれまでだ。
 一方、同じ大陸ならば鉄道網さえ整備してしまえば、輸送の手間は省ける。

「では、人造石油製造事業法を内地以外にも広げましょう」

 近衛が発言し、賀屋も頷いた。

「じゃ、石油はこんなもんで」
「では、続いて鉄鋼業です」

 堀が話題を変えると大谷が資料を持って報告する。

「朝鮮および満州の操業鉱山および製鉄所は順調です」

 満州の鞍山製鉄所は順調に増産を続けており、将来的には北九州の八幡製鉄所と並ぶものと予想されていた。

「問題は新規鉱山開発です」

 生産こそ順調だが、日本が求める需要に供給が追い付いていないのだ。

「地質技師が言うには朝鮮北部、満州で新規鉱床が見つかる可能性が非常に高いとのことです」
「何が問題?」
「・・・・ここでも資材です」

 鉱床を発見しても鉱山にするためには資材が必要だ。
 現状、それを賄うだけの資材が日本にはないのだ。

「資材とは?」
「端的に言えば鉄です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 鉄を開発するために鉄が必要で、その鉄が十分量ないために開発できない。

「鉄を使っているのは・・・・軍か」

 亀の視線が米内に向かい、米内も頷いた。
 軍艦は鉄の塊なのだ。

「また、銅などの非鉄鉱山も同じ状況です」
「資材の集中投入が必要で、その資材確保が急務、か・・・・」

 堀が呟く。

「日中の本格戦闘を回避したのだ。戦争に使うはずだった資材を投入できないだろうか」

 米内が発言する。

「陸軍が納得するか・・・・?」

 近衛が弱々しい声で返答した。
 現陸軍大臣は杉山元陸軍大将で、盧溝橋事件で強硬論を主張し、拡大派を支持したのだ。
 不拡大を主張する近衛とは真っ向から対立していた。
 ならば外せばよいのだが、陸軍の抵抗で第二次近衛内閣が発足できなければ全て流れてしまうのだ。

「杉山本人を動かすのは容易だが・・・・」

 大谷がやや呆れ顔で言う。
 杉山元は「便所の扉」と綽名されていた。
 その理由は押した方に動く扉のようだからであり、典型的な日和見主義者である。
 問題になるのはその後ろにいる陸軍次官・梅津美治郎陸軍中将や関東軍参謀長・東条英機陸軍中将だった。
 彼らは統制派であり、亀や堀の盟友である武隼時賢とは対立している。
 このため、武隼ルートでの交渉は不可能だ。

「今回も停戦協定と同じ手を使いますか?」

 近衛が申し訳なさそうに亀を見る。
 華北からの撤退を陸軍に認めさせたのは、皇族からの鶴の声だった。
 前回動いてくれたのは、閑院宮載仁陸軍元帥とだ。
 元参謀総長であり、二・二六事件で退いたが、未だ陸軍内に発言権を持っていた。
 また、梨本宮守正陸軍元帥も動いてくれた。
 両者とも天皇の意志という伝家の宝刀で陸軍内を宥めたのだ。

「まず、陛下のご意志を獲得するのは難ひぃやろ」

 戦果不拡大は、軍の統帥権を握る天皇の意志だからこそできた。
 一方、軍の資材流用は完全に軍政分野であり、天皇から意見を得ることは難しい。

「高松宮妃でも、無理ですか?」

 近衛が再度確認を取る。
 亀は嘉斗の妻であると同時に皇族である。
 天皇に直訴する権利は持っていた。

「首相の方が可能性は高かろ」

 一介の皇族と宰相。
 誰がどう見ても宰相の方が軍政に口出す権利がある。

「そんな・・・・」

 近衛の表情が蒼白となった。
 藤原家から続く近衛家の当主としても、天皇への直訴は緊張するものだった。

「まあ、抜け道はあるけど」
「はぃ!?」

 素っ頓狂な声を上げたのは近衛だが、他の出席者も目を剥いている。

「ど、どうやって・・・・?」
「秩父宮殿下」
「「「―――っ!?」」」

 秩父宮殿下は嘉斗の兄であり、今上天皇の弟だ。
 直宮と言う天皇に近い立場であり、同時に陸軍少佐。
 現在は大本営戦争指導班参謀を務めていた。
 戦争指導班は長期的・総合的な観点から国策の企画及び立案を行う部署である。

「義兄様の立場なら、陛下への進言も自然」

 問題は秩父宮の説得だった。
 スポーツ振興に力を入れる活発な性格で有名だが、軍国的な思想を持っていると天皇に指摘されたこともある。
 将来的な国力強化に繋がるとはいえ、陸軍の弱体化に繋がりかねない提案を飲むだろうか。

「まあ、説得してみる」

 秩父宮妃は会津松平家の家系であり、亀と同族だ。
 その方面から攻めてみるつもりだった。

「ただ、説得に成功し、資材があればどうする?」
「それは・・・・」

 朝鮮は簡単だ。
 朝鮮総督府には殖産局がある。
 この中に鉱山開発に関わる部署があった。
 一方、満州にはそのような部署はない。
 いや、あったとしても満州は朝鮮とは違い、「独立国」扱いだ。
 日本が好きにできない。

「特殊会社を設立するしかありませんな」

 先にも出てきたが、特殊会社とは特別法によって設立された会社のことを言う。
 八田が副総裁を務める南満州鉄道もそのひとつだ。

「大谷さん、あなたの中ではどのように開発するか、計画はあるのか?」

 米内の問いに大谷が頷いた。

「開発計画までできている。だが、それを実行する資材がなかっただけだ」

 「資材があれば数年で大規模に拡大してみせる」と続ける。

「じゃ、秩父宮の説得責任が重大やね」

 後に大谷は新設立された北支那開発の総裁に就任する。そして、鉱山開発の先鞭をつけた。
 さらに言えば、彼はその直後に急逝するが、後を継いだのはここにいる賀屋である。
 北支那の開発はこの秘密会議で決定した。
 ただ北支那と言うが、ここでの範囲は満州全域だ。
 満州の名前を使わなかったのは、いつ華北に進出しても対応できる、と陸軍を納得させるための方便だった。
 因みに会社設立の音頭を取ったのは陸軍省軍務課である。
 これは裏で秩父宮が動いたということであり、亀は説得に成功した。
 つまり、資源開発に必要な資材は確保されたということだ。
 日本は外に資源を求めるのではなく、まずは今ある植民地の開発に従事するようになる。
 このように国力を充実させる政策が採れたのは、当面の日中戦争を回避できたからに他ならない。






「―――疲れたぁ・・・・」

 秘密会議後、家に帰りつくなり亀は崩れ落ちた。
 廊下に倒れそうになったところを、護衛を務めていた富奈が支える。

「政治家って頭が固い」

 必要ならば必要とはっきり言えばいい。だが、言ったが最後、次の日には冷たくなっている可能性があるのがこの国である。

(ひろ様が陸軍に入れば変わったかな)

 元々、武隼卿に倣って陸軍に入るつもりだったのだ。
 だが、今際の言葉で海軍に変えたと聞いている。
 亀の印象では、陸軍は直情的、海軍は理知的と言うイメージがあった。

「陸軍は嫌いや」


「―――同感」


「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 富奈に運ばれるままに居間に着いた亀は、涼しい顔で湯呑を口元に持って行っている旧友を見た。

「富奈」
「はい」
「駆除」
「はい」

 短い指令で、亀の他に持っていた大鎌を振りかぶる富奈。

「待て待て」

 それと同時に拳銃を取り出して富奈に向けた旧友――武隼穂衣は、湯呑を置きながら言った。

「久しぶりに会った友人に対する態度?」
「それはそっくりそのまま返す」

 排除命令も冗談だ。
 亀は大鎌を構えたままの富奈の横を抜け、穂衣の対面に座る。

「で? どうしたの?」
「何やら面白そうなことをやっているらしいじゃない」

 亀は裏で先程のように動き、表でも日本赤十字社名誉社員として働いている。
 それは島津公爵家に連なり、陸軍に絶大な影響力を持つ武隼家の奥方である穂衣も同じだ。
 孤児院の理事長や銃器メーカーへの投資。
 政財界に顔がきく亀のように経済界に顔がきく。
 亀主催の秘密会議の情報を持っていてもおかしくはない。

「国内かつ域内の資源開発に目を向けたのはいい視点だわ」
「ふん」

 富奈がいれたお茶を飲み、鼻を鳴らして答えた。

「ただ、開発できるようになるまで、どうやって凌ぐのかしら?」
「・・・・今と同じように輸入ひかない」

 今の日本はアメリカやイギリス、オランダの経済圏から資源を輸入している。しかし、日中戦争を回避したとはいえ、米英との関係は悪化していた。
 オランダはどうにか中立で踏みとどまっているが、米英と事を構えた場合、オランダは確実に敵となる。
 つまり、域内資源開発が軌道に乗る前に、これらの国との関係が崩れれば、全てがご破算となるのだ。

「南米」
「ん?」

 穂衣もお茶に口をつけ、亀に言った。

「南米から資源を得るのよ」
「・・・・南米・・・・・・・・・・・・」

 南アメリカ大陸はスペイン、ポルトガルの植民地だった。しかし、19世紀に相次いで独立。
 特に世界恐慌前のアルゼンチンは世界第5位の富裕国だった。

「南米は多数の日系人を抱えているわ」

 日系人は日本から他国に移住し、現地民との間に生まれた子供たちである。
 明治以降の移民政策で、アメリカに多数渡った。
 アメリカとの外交問題のひとつに上げられるほどの数が、だ。
 しかし、アメリカは排日政策を進め、移民を禁止。
 このため、行き先が南米にも広がったのである。

「その日系人の中でも旧琉球系が一大派閥なのよ」
「島津、か・・・・」
「ふふ」

 江戸時代、一応独立国だった琉球王国を支配していたのは、薩摩藩=島津家である。
 穂衣は島津家出身だが、本家の人間ではない。しかし、明治以降でも島津家と琉球系の人間とは交友関係にあった。
 その関係で穂衣も多くの沖縄関係者と知り合いなのだ。
 だから、南米に移住した琉球関連者とも穂衣はパイプを持っている。

「南米は資源の宝庫。当初は農業系で移住した人たちも鉱山で働いている人も多いわ」

 元々、プランテーションでの労働者として移住したが、これは所謂奴隷の代わりだ。
 奴隷が働いていたのは大規模農園の他に鉱山がある。
 日系人が南米鉱山で働いていることは想像に難くない。

「でも、労働者だからとはいえ、その鉱石がここに来る?」
「来る。というか、初めに南米と政財界的な関係を持ったのはあなた方の発案でしょうに」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 軍縮会議の関係で造船所に閑古鳥が鳴く事態を避けるため、日本は軍艦輸出を掲げた。
 その取引先に、ブラジルやアルゼンチンと言った南米諸国がある。
 特にその両国は日本から哨戒艇を購入していた。

「今度は輸出用駆逐艦をチラつかせれば?」

 輸出用駆逐艦。
 日本では若竹型二等駆逐艦と呼ばれている。
 基準排水量820トン、全長88.39m、全幅8.08mと、最新鋭一等駆逐艦の朝潮型の半分だ。
 2万1,500馬力・2軸推進で最大速度34kt/hを発揮し、12cm単装砲3基、53cm魚雷連装2基4門という攻撃力を持つ。
 ワシントン海軍軍縮条約の関係で日本海軍への配備は8隻にとどまった。しかし、海軍技術輸出政策の関係で細々と開発が続けられ、タイを始めとした非列強国家に輸出される。
 欧米の旧式駆逐艦や旧態然のフリゲートやコルベットを配備していたそれらの国々は、諸手を上げて若竹型を導入した。
 といっても、実際に輸出されたのは数隻程度に留まり、世界大恐慌の関係でその輸出は途絶えている。
 現在はクーデターを受け、軍備拡張を開始したタイ王国の要求に応えて新型輸出駆逐艦を建造していた。
 単価を下げ、工期短縮も意識されたこの駆逐艦は、後に松型駆逐艦として日本海軍も採用する。
 基準排水量1,262トン、全長100m、全幅9.35mと若竹型よりは大型化した。
 また、1万9,000馬力・2軸推進で最大速度は27.8kt/hと劣る。
 攻撃力は12.7cm砲3門、61cm魚雷四連装発射管1基と砲水雷戦能力はほとんど変わらない。
 特型駆逐艦のように砲水雷戦闘に特化したものとは違い、汎用型と言えるものだった。

「輸出用駆逐艦の輸出を餌に、資源の輸入を、か・・・・」
「いい案でしょ?」

 いい案だ。
 この輸出用駆逐艦が民間の造船所で建造できることもあり、海軍の負担にもならない。
 建造予算を海軍予算ではなく、臨時予算から出せば日本軍軍備拡張にも影響を与えない。
 若竹型よりも値が張るが、その支払いも資源でできるのならば、他国も納得しやすいだろう。

「ひろ様に相談する」
「後、臨時予算で資源輸送用船舶の建造も必要と伝えてね」
「・・・・・・・・・・・・分かった」

 したり顔の穂衣に、亀は不機嫌そうにそっぽ向いた。




 ブラジルおよびアルゼンチン、ペルーなどの南米諸国との取引契約は、1938年前半に全て締結された。
 日本の対中戦争回避が世界で評価されていたのが影響する。
 また、ドイツ問題が欧米を騒がしていたために目立ったニュースにならなかった。
 日本は輸出用駆逐艦数隻の実物及び運用技術と引き換えに、南米が持つ莫大な資源を購入することに成功したのである。
 この事業を成功させるため、日本はパナマに拠点を築いた。そして、特殊会社・日本通運に資源輸送用船舶を提供、日本への輸送を担当させる。
 これは優秀船舶建造助成に貨物船枠で鉱石運搬船5隻を盛り込んだ。
 1939年に相次いで竣工し、開戦までに金属精鉱を日本へ送り込む。
 また、このパナマ拠点が戦中に重要な役割を果たすのだが、それは別の話だった。









第15話へ 赤鬼目次へ 第17話へ
Homeへ