講義拾鉢
「水軍」



「―――さて、次は水軍についてです」
「お、俺の出番か?」

 御武幸盛の言葉に鷹郷勝流が反応した。

「いや、お前は陸上の方にももうちょっと興味持てよ」
「うるさいな。実際に俺が指揮すると壊滅するぞ、軍」
「・・・・どんな脅しだよ」

 勝流にゲンナリする鷹郷忠流。

「まあまあ。それだけ勝手が違うんですよ」

 苦笑しながら幸盛が嗜めた。

「何せ、兵卒から違うんですから」




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問一:水軍における兵卒の種類は?
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「水兵以外にあるのか?」

 忠流が首を傾げる。

「あるぜ~」

 ニヤニヤする勝流が長井忠勝や加納忠猛に視線を向けた。

「お前らなら分かるんじゃね? 船に乗ったことあるだろう?」
「ありますが・・・・」
「正直、すごい忙しそうだったんッスよね」

 忠猛と忠勝が思い出すように言う。

「そうそう、水兵は忙しいぞ」

 何せ、鉄砲や大筒の操作、弓矢や他船への乗り込み戦闘。
 さらに言えば、上陸作戦の折には陸上戦闘をこなすのだ。
 不安定な船上でのこの技術は一長一短で身につくものではなく、大損害を受けた場合の再建は容易ではなかった。

「正直、同じ方々が全然別のことを同時にしているので、兵卒に種類があるとは思えないんですよね・・・・」

 忠猛は申し訳なさそうに言う。

「う~ん・・・・」

 それを尻目に皇女・昶が顎に人差し指を当てながら声を出した。

「昶様?」
「ほら、あれば兵ではないのか?」

 昶自身も船で瀬戸内海を抜けて薩摩入りしている。
 このため、海戦は経験したことはないが、水軍を間近で見ていた。

「舵を取ったり、艪を漕いだり、帆を操作したりしている者たちは、兵ではないのか?」
「「あ・・・・」」

 忠勝と忠猛が同時に声を出す。

「当たりだ」

 昶の言葉に勝流が肯定を返した。




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問一:水軍における兵卒の種類は?
解一:水兵と水夫
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「水夫がいなければ、うまく船を操ることが出来ない。基本的には戦闘に参加しないから武装もあまりない」
「・・・・船を動かせないと言うことは、水夫を集中的に狙われることもあるのでは?」

 勝流に忠流が質問した。

「その通り。だから、艪の部分は装甲化されていたりするんだ」

 小早でも楯が周囲に立てられている。

「ただまあ、そもそもあれだけ揺れる船上で正確に水夫を狙えるというのであれば、最初から水兵を狙い撃つにした方がいい」
「まあ、そうか」

 船が行動不能となったとしても、火力点としての機能は失っていない。
 水兵を喪うと総合戦闘能力が低下するが、水夫を喪っても集団戦闘能力を喪失するだけで個船戦闘能力の一部は維持されるのだ。
 効率的なことを考えれば、水夫を狙う意味はない。

「そんな手法を取るよりは船を揃える方が遙かに効率的だぜ」
「それでは、次は艦艇に行きますか」




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問二:艦艇の種類は?
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「あ、それは分かります」

 ずっと黙っていた霧島の巫女・紗姫が発言した。

「安宅船、関船、小早、ですね!」

 えっへんと胸を張る。

「正解、だな」

 勝流も特に否定しない。




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問二:艦艇の種類は?
解二:安宅船、関船、小早
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「大きい順番ですね」
「だいたい、一〇〇〇~二〇〇〇石積が安宅船、五〇〇石積が関船。小舟が小早だな」

 勝流が補足する。

「さらに言えば、大安宅とかいう、さらに大きい船を持つ大名家もいるし・・・・」

 勝流は一瞬、指宿の方向を見遣った。

「龍鷹海軍には戦列艦とかいう化け物船もいるんだけどな」
「まあ、その当たりは派生形というか、進化形というか・・・・全大名家の水軍が持っているわけではないですから」

 勝流の指摘に幸盛は苦笑する。

「ま、一般的な水軍って言うなら、この三艦艇で間違いないか」




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問三:各艦艇にはどの程度の人員が乗船しているのか?
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「これは勘の問いではないか・・・・」

 昶が早々にさじを投げる。

「まあまあ、水兵と水夫の人数比率とかも理解できますから」
「・・・・それぞれの人数を答えさせるとか、難易度上がっているではないか」

 昶がゲンナリし、視線を忠流に向けた。

「貴様も答えんかい」
「えー・・・・」

 いきなり振られた忠流が不満の声を上げるが、少しだけ考えて答えた。

「水夫の方が多いだろうしなぁ・・・・」

 と、前置きする。

「安宅が水兵五〇・水夫六〇、関船が水兵三〇・水夫四〇、小早が水兵一〇・水夫二〇とかでどうだ?」
「お? なかなかいい線だぞ」
「え、マジで?」

 まさかの勝流の答えに忠流自身が驚いた。

「正解はこちらです」




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問三:各艦艇にはどの程度の人員が乗船しているのか?
解三:
 安宅船:水兵六〇、水夫八〇(大砲三、鉄砲三〇)
 関船 :水兵三〇、水夫四〇(大砲一、鉄砲二〇)
 小早 :水兵一〇、水夫二〇(大砲〇、鉄砲八)
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「お、小早はドンピシャだな」

 少し嬉しそうな声を出す忠流。

「当然、任務によって前後します」

 輸送任務であれば水兵の数が少ないとかもある。
 また、積載物としての扱いである陸兵が水上戦闘に参加することもあるので、その場合は一部戦闘力が跳ね上がることもある(船上で戦えるならば)。

「結構、安宅船と小早の間に差がないのだな。もっと違うのかと思った」
「それは―――」
「―――安宅船は装甲と総櫓で覆われている分大きいが、その分は船の中に兵を配置する隙間があまりない」

 勝流が解説を始める。
 解説役を取られた幸盛は開いていた口を閉じ、本日何度目かの苦笑を漏らした。

「一方、小早は余計なものをこそぎ落とした船だから」

 最低限の装甲の代わりに、小回りと速度を持ち、さらに水兵が持つ鉄砲の比率は五割を超えるという圧倒的火力を展開する。
 また、高速故に連絡船としても使われるという非常に使い勝手の良い船だった。

「それに対して、純粋の戦闘船である安宅船は海上戦力という示威を示す象徴です」

 幸盛が解説を引き継ぐ。

「関船は安宅と小早の特徴を引き継ぎ、外交使節団の派遣や小早の指揮船などをこなす万能船です」
「ふ~ん、それで戦列艦というのはどういうのなんですか?」

 紗姫の頭の中には、戦列艦が圧倒的な戦力を誇る虎熊水軍と戦って奮戦したという甑島沖海戦があった。

「あー・・・・ちょうどいいですね」




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問四:同時期の南蛮諸国艦艇との艦艇比較
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「もはや、問いではない!?」

 忠猛のツッコミとも言える声を尻目に幸盛は視線を勝流に向ける。

「南蛮諸国の本国周辺は分からないけども、大海原を駆ける大型船は安宅船に相当すると思うな」

 当時の主力船はガレオン船と呼ばれる、数百トンの艦艇だ。
 和船の大きさを示す石積とは積載量を示し、現代の基準排水量や総トン数とは異なる数え方だ。
 しかし、それに目を瞑って単純に比較するとする。
 安宅船をトン換算に直すと約180~360トンに相当するため、ほぼ同じと考えてもいいだろう。
 しかし、異なるのはその凌波性である。
 大海に出られないとされる安宅船と違い、ガレオン船は大海を駆けた。
 この技術力の差はそれぞれが本国を離れた折に影響するだろう。

「ただ大型船を造るって言うのであれば、造れるんだけどなぁ・・・・。あの技術力は学ばないといけない」

 忠実にあった大安宅「安宅丸」は、八〇〇〇石以上と非常に大型だった。




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問四:同時期の南蛮諸国艦艇との艦艇比較
解四:主力船(安宅・ガレオン船)について、大きさにあまり違いはない
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「と、いうわけで本日はこれまでですか」

 幸盛が冊子を閉じて立ち上がる。

「「・・・・・・・・・・・・」」
「いや、なんでジト目で見てこられるんですか?」

 紗姫と昶からの視線にタジタジとなる。

「いや、あまりにも講義が続くから、お前をどうにかするネタが何も思いつかなくて不満に思っているだけだ、気にするな」
「気にするところしかないですよ!?」

 忠流の言葉に悲痛なツッコミを入れる幸盛。

「もう面倒だから、単純に貫けばいいのでは?」
「ああ、なるほど」
「なるほどじゃないです!」

 黄金色の光を放ち始めた紗姫に慌てる。

「まあまあ」

 と、忠流は紗姫の頭に手を乗せ、くしゃくしゃと髪を撫でた。

「むう・・・・」

 光を収める紗姫にほっと一息ついた幸盛は今のうちにと歩みを進める。

「因みに、次回開催は未定です」
「まだ続くの!?」
「ええ、まだ枠はありますから」

 「「ぶーぶー」」と、ブーイングする紗姫と昶に苦笑を残し、幸盛は部屋を後にした。



「あ」

―――バシャッ



 そして、出会い頭に茶を持ってきた侍女とぶつかり、茶を被った。



「あいつは、もうそう言う星の下に生まれてきたんだろう」

 全力で土下座する侍女を必死に擁護する幸盛を見ながら、忠流は遠い目をする。

「妾らが策を弄するまでもなく・・・・」

「・・・・日常生活で不憫を引き寄せるのかな?」

 昶と紗姫の会話に、勝流が入った。

「何を言っている。あいつの世話を引き受けている時点で貧乏くじを退きまくる人生だろう」

 勝流が忠流を指さし、忠流を見遣った昶と紗姫が言う。

「「ああ、確かに」」
「おいこら」

 硬い声でツッコミを入れた忠流を無視し、昶と紗姫はいつまでも首を縦に振り続けた。






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まとめ
・水軍兵卒:水兵と水夫
・艦艇種類:安宅船、関船、小早
・艦艇乗船数:
 安宅船:水兵六〇、水夫八〇(大砲三、鉄砲三〇)
 関船 :水兵三〇、水夫四〇(大砲一、鉄砲二〇)
 小早 :水兵一〇、水夫二〇(大砲〇、鉄砲八)
・南蛮艦艇との比較
 主力船(安宅船・ガレオン船)の大きさは変わらない
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