2.2. 陸軍
2.2.1. 兵種各論
2.2.2. 兵種割合
※※※※
太字を読めば要約可能
考察根拠は本文を参照
文末に引用・参考文献名も記載
2.2.1. 兵種各論 戦国時代の兵種として、騎馬武者、長槍兵、鉄砲兵、弓兵、手明、その他を説明する。 2.2.1.1. 騎馬武者 戦国時代に後の騎兵隊に相当する部隊はいない。ただし、乗馬を許された士分による騎馬衆が編制される時がある。これらは幼少から訓練してきた武士たちなので、その戦闘能力は高い。 平地などでの機動力が生かせる状況下では機動力、衝突力、馬上よりの脅威から他の兵種を圧倒できる決戦戦力となる。また、甲斐駒のような山地の馬は時に峻厳な土地を高速で移動し、思いも寄らぬ場所から奇襲を仕掛けることもできる。しかし、騎馬は混戦状態になると身動きが取れなくなるので下馬して戦うことも多い。 ア.馬の体格 日本の馬は西洋のものとは違い、小柄である。実寸で言えばサラブレットは肩高160~165 cm前後、体重は450~550 kg。騎馬隊として歴史に名高い元の蒙古馬は140 cmを超えることはほとんどない。『古今要覧稿』には肩高は四尺を基準とするので、肩高120 cm前後、体重はサラブレットとの比で求めると約330 kg。 馬の肩高は一寸ずつを目盛りとして区別され、四尺を小馬、四尺五寸を中馬、五尺以上を大馬と表す。ただ、大型のものを軍用馬として使い、小型のものを輸送などに使うとすれば、自然と軍用馬の平均肩高も上昇する。 イ.速度 最高速度は最速馬種であるサラブレットには及ばず、木曽馬で時速40 kmだという。これはおそらく裸馬の状態であり、鎧武者を乗せ、自身も馬鎧で武装していれば、その最大速度は減速するだろう。しかし、それでも人よりは速いことに変わりはない(100 mを15秒で駆け抜けたとしても時速24 km。ただし、具足や武器の重量を入れるとさらに遅くなる)。足場さえよければ馬が跳躍するように疾走する駈歩(分速300 m)で突撃したかもしれない。 2.2.1.2. 長槍 ア.槍と長柄の違い 槍と長柄の違いはその長さにある。一般的に長柄は三間半~三間(約6~5.4 m)であり、二間半以下(約4.5 m)は持槍(徒歩武者の槍)である(武田家葛山衆での軍役規定(元亀三年))。ただ、こうして明確に分け出したのは戦国時代以降なので、長宗我部は分けずにただ「鑓」と表記しているだけである。また、用途でも違いがあり、槍は最終的には「突く」ものであるが、長柄は「叩く」ものであった。さらに長柄は集団戦法用であった。 2.2.1.3. 鉄砲 ア.鉄砲・大砲の種別 鉄砲:十匁未満の弾丸を使うもの。標準的な弾丸は六匁弾(口径15.8 mm)。 大鉄砲:厳密には十匁以上百匁未満だが、十三匁筒を鉄砲と呼ぶことも多い。確実なのは二十匁以上。抱え筒多し。 大筒:百匁以上で一貫目未満の鉄製。置き筒が多いが、抱え筒もある。 石火矢:一貫目以上。一貫目を発射するものの口径は約86 mm(弾径は約85 mm)で大戦期の戦車砲に相当する。 イ.鉄砲戦 鉄砲戦とは全合戦の緒戦に位置し、その後に行われる白兵戦当初の優劣を決定する重要な戦闘である。 鉄砲戦は彼我の距離が二~三町まで迫った時に火蓋が切られる。この距離では命中しても当世具足や対鉄砲に優れた胴丸を貫通できない。しかし、これで火蓋を切らなければ敵の鉄砲隊に対する牽制ができず、有効射程距離に入った時には一方的に撃たれるだけとなる。盾から隙を見て撃ち放ちながら接近し、半町まで距離が詰まると竹束などを弾丸が貫通したり、盾自体が粉砕されたりして双方の被害が続出する。さらに弓隊が攻撃を始め、直線的だった攻防に放物線が加わり、壮絶な消耗戦が始まる。しかし、この辺りから双方の白兵戦部隊が突撃して鉄砲戦は終わりを告げる。 ウ.弾丸 山中城から出土した弾丸は、鉛製、鉄製、鉛青銅製の3種類あった。このうち、数的主力は鉛青銅であり、当時の主力弾丸であったと考えられている(笹間, 2011)。 鉛玉:融点327℃と低く、加工しやすい。 鉄玉:衝撃に強く、射撃練習の際に再利用可能。ただし、銃身の命数が減少し、軽量のために弾道が安定しない。 鉛青銅:銅73.8 %、鉛17.5 %、他ニッケル、鉄、亜鉛青銅の重量成分を持つ。融点が980 ℃と高く、加工には高度な知識と技術を必要とする。硬く、腐食に強く、先の2種よりも弾丸に適している。 エ.煙硝 火縄銃には銃弾を発射させる装薬と火縄の火を装薬に着火させる伝火薬の2種類が使用される。火薬は表面から燃焼し、黒色火薬では燃焼時、約500 ℃で秒速50 cmの炭酸カリウムと硫酸カリウムの高速高温の噴霧が発生する。その噴霧は隣接した火薬に火を伝播させる。この時の火薬間の距離が火薬の用途を分けている。 ・ 合薬(装薬) 粒子が粗いことが特徴。これは噴霧が広がる空間が充分なので燃焼効率が良く、隣り合った火薬粒が一瞬で燃え広がり、銃弾を飛ばす高圧ガスを発生させる。※一瞬で燃え広がることを「爆燃・爆轟」という。 ・ 口薬(伝火薬) 粒子が細かいことが特徴。粒子間の隙間が小さいため火薬を管などに詰めると年少速度が遅くなる。よって端から順番に燃え広がっていく。 オ.携帯弾薬数 長篠・設楽が原の戦い後、武田勝頼が「一挺辺り三〇〇発分の玉薬を用意せよ」と命じたことから、銃兵ひとりにつき、三〇〇発分の弾薬が用意された。 カ.大鉄砲 大筒や石火矢よりも軽いので比較的多数が野戦でも使用された。これは竹束や馬防柵の破壊などに使用される他、絶大な威力から歩兵にも叩きつけられた。因みに六十匁弾を撃ち出す大鉄砲の有効射程距離は300 mである。 2.2.1.4. 弓 ア.構造 日本の弓は世界最長の弓であり、平均は約一間一尺三寸(約2.21 m)。用いる矢は二尺六寸~三尺(80~90 cm)で重さは約一両三匁~二両(50~70 g)になる。 イ.射程距離 現代の射流しでは平均200 mほどだが、それは18 gの矢を使っている。実戦の重量は上記の通り、50~70 gであるから、最大射程距離は風向きを考えない場合はおおよそ150 mと考える。また、鎧武者を貫ける距離は約50 m。敵足軽を射抜くことを目的とした場合、鉄砲の有効射程距離よりも若干短い程度だと考えられる。因みに経験豊富な現代の射手による初速は60 m/s(216 km/h)。 ウ.携帯矢数 戦時には1兵当たり2背(1背=12本+鏑矢)を用意する。また、「参覲行列繪繪卷」によると金沢藩の参勤交代では弓20張に対して矢箱2個、矢箱には100本入るので、予備はひとり10本。 2.2.1.5. 手明・その他 ア.手明 盾や掛け矢などの兵器を使用する。また、柵などを作り、陣城を作り上げる。今で言う工兵も兼ねていた。 イ.その他 手槍を装備した徒歩武者たちの他、指物持ちや旗持ちなどが入る。その内訳は徒歩武者が50%、指物持ちが15%、旗持ちが35%である。 2.2.2. 兵種割合 兵種には騎馬、長柄、鉄砲、弓、手明などがいる。その割合は鉄砲の普及による戦闘の変化によって変化している。北条氏の例を下表に示す。 長槍が大幅に減少し、鉄砲や弓が増加している。また、1577年と1581年では騎馬の比率が高いが、これは北条家の主力部隊として騎馬衆を編制したためと考えられる。また、大坂の陣後の1616年に徳川幕府が定めた軍役は、石高ごとに異なっていた。ここでは大名級である一万石のものを下表に示す。因みに小数点以下は四捨五入している。
1587年の北条氏軍役は遠距離射撃戦への対応過渡期であり、1616年の徳川幕府軍役は平和に向けた最低限の軍備と考えられる。朝鮮出兵という国家征旅を経験して最も洗練したと考えられる1600年前後を単純に1587年から1616年への年率変化から算出すると騎馬13 %、長槍24 %、鉄砲11 %、弓10 %、手明34 %、その他8 %となる。 引用文献: 笹間良彦, 2011, 「弾丸が語る戦国火縄銃の実態」, p108-109, 「戦略戦術兵器大全【日本戦国編】」, 学研パブリッシング 参考ホームページ: |