第二章「初ライブ、そして初陣」/3


 

「―――んしょ、んしょ・・・・」

 ひとりの眼帯を着けた少女が両腕に抱えて園芸用の土を運んでいた。
 片目だというのに階段を危なげなく歩き、校庭の外れにある花壇の一角まで進む。

「あれ?」

 そこで突然、手にあった荷物がなくなった。

「全く、こういう重いのは男子に任せればいいのに」
「仕事、だから」
「えらいね」

 少女から土を奪ったのは2歳年上に先輩である。
 彼女は片手で土を持ちつつ、もう片方で少女の頭を撫でた。

「うん、偉いよ・・・・"スネーク・アイズ"」
「―――っ!?」

 少女は片目を大きく見開き、隣に立つ先輩を見上げる。

「そ、ここ最近大人しかった"お仕事"のお話だよ」
「お仕事・・・・」

 先輩はゆっくりと花壇のそばに土を下ろし、制服に付いた汚れを払いながら言った。

「ボクたちの生まれた場所が攻撃を受けるんだって。その戦力は不明だけど、まず現存の戦力では押し返せないだろうって」
「邀撃・・・・?」
「かな。一応、召集命令が掛かってるよ」

 新旧戦争は小康状態に陥っている。しかし、この戦いは両勢の組織再編が終了したということを証明するだろう。
 再び戦いの業火が列島を席巻するに違いなかった。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 ぶるりと少女が恐怖で身を震わせる挙動に、近くに隠れていた白い大蛇が反応する。

「行きたくないならそれでいいよ。キミにはナイトがいる。キミを絶対裏切らない、そんなナイトがね」

 「ナイト」と呼ばれた白い大蛇は少女の足に鱗をすりつけると心配そうにその顔を覗き込んだ。

「ボクはキミの判断に従うよ。一応、その召集命令をはねのける策は考えてあるんだ」
「ローレライ・・・・」
「じゃ、そういうことで。答えは行動で示してよ」

 そう言い残すと先輩は歩き出す。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 少女は結局、その背中に何も言うことはできなかった。



(―――やっぱり決断できない、か・・・・)

 先輩――ローレライは石の階段を上りきったところでため息をついた。

(でも、決断には慣れておいてくれないと・・・・)

 そうでなければ、この戦いを乗り越えることはできないだろう。
 あんないい娘が戦死するなど許せるはずがないのだから。

「―――甘くねえか?」
「・・・・・・・・聞いてたのかい? 趣味が悪いね」

 校舎の壁にもたれかかり、金髪碧眼の少年が立っていた。
 彼の隣には滅多に姿を現さないメイド服の少女が控えている。

「高雄研究所迎撃命令。まさか無視するとでも?」
「それを決めるのはボクじゃない」

 それで会話は終わりだとばかりに彼の前を通り過ぎた。

「神忌はそれで納得しねえゼ」

 追いかけてきた声に足を止める。

「あいつがこの戦争で何をしようとしているのかは分からねえ。だが、あいつは回避できる戦いを積極的に大きくしようとしてやがる」
「あいつはいつも何考えてるか分からないからね。でも・・・・」

 ローレライは首だけ振り返ると宣言した。

「ボクは思い通りにならない。そして、な・・・・スネーク・アイズを守ってみせる」
「・・・・へぇ、いい覚悟だな・・・・っと?」

 どこからか流れてくる歌声。
 それは春の陽気を気持ちよさそうに漂い、周辺校舎へと染み渡る。

『―――こらぁっ、心優っ。そこはそうじゃないけん!?』

「ぐはっ」
「御主人様!?」

 窓から飛んできたマイクの直撃を受け、彼が吹き飛んだ。そして、ゴロゴロと石段を転げ落ちていった。
 主の変事にメイドは姿を消して追っていく。

「・・・・・・・・・・・・・・・・そっか、明日が統音祭だったね」

 ローレライはそんな騒動も気にせず、綺麗な歌声が響いた窓を見上げて目を細めた。






委員長scene

「―――もー、部長ったら、マイク投げなくてもいいじゃないですか・・・・」

 練習途中で乱心した部長は「明日」へ向かってマイクを投擲したため、休憩兼マイク捜索に1年生は駆り出されていた。

「こっちだと思うんですけど・・・・」

 キョロキョロとマイクを探す。しかし、この辺りは緑が多く、茂みの中に落ちていれば探すのは大変だ。

(うぅ・・・・みんな分かっててわたしをこちらに割り当てましたね・・・・)

 爽やかな笑顔で散っていった同期たちを恨めしく思う。

「んー、ここですか?」

 地面に膝を付き、四つん這いになって茂みの下を覗き込んだ。しかし、そこにはテクテクと散歩していたスズメしかいない。

「んー?」
「―――そんな体勢でいると下着が見えるよ」
「・・・・あなたは・・・・・・・・」

 茂みから顔を出し、とりあえず指摘された通り四つん這いを止めた心優は注意してくれた人物を見上げた。

「御坂先輩、でしたっけ?」
「うん、覚えてくれてありがとう」

 手を引いて立ち上がらせてくれた先輩は何故か手はそのままで服の汚れまで叩いてくれる。

「さあ、このまま演劇部の部室に―――」
「行きません」
「つれないなー」

 手を離し、楽しそうにクスクス笑う先輩。
 本当にひとつひとつの仕草が絵になる人だ。

「明日、楽しみにしてるよ」
「え?」
「統音祭。・・・・当然、歌うんだよね?」
「あ、はい。それはもう、嫌っていうほど」
「ボクも午前中に歌うから。午後は楽しみにしてるよ」

 そう言うと神坂は校舎の中へと入っていく。

「そうそう、マイクだけどね」
「はい・・・・」
「あの石段の下とか怪しいんじゃないかな」
「え゙」

 心優が見た先には先日、直政が転がり落ちていったあの階段があった。



「―――はぁ・・・・はぁ・・・・」

 下りるだけで疲れるというのに、また登ると言うことを考えると眩暈がしてきた。
 素直に校舎に入って階段を使い、渡り廊下を歩こうかと考える。
 踊り場というものは偉大なものだと認識した心優は息を調え終わると辺りを見回した。

「あら?」

 運動部が練習にいそしむ中、明らかに無視されている物体を発見。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 転落したと思しき金髪の少年。
 彼はぴくりとも動かず、運動場を彩るオブジェと化している。

「・・・・あ、マイク」

 彼の側には黒いマイクが転がっており、下手人であることは明白だった。

「だ、大丈夫ですか?」
「はっは、ダイジョウブだよっ」

 ガバッと起き上がる少年。
 というか、制服の色から2年生だと言うことが分かる。

「すみませんでした、先輩。うちの部長が投げたマイクが・・・・」
「うんうん大丈夫。慣れてるからさっ」

 髪を掻き上げ、キラリと歯を光らせる先輩。

「それより君、新入生かな?」
「そうです・・・・けど?」
「初めまして、オレは―――」

 いきなり目の前の先輩の顔が横へとぶれた。そして、その勢いに体が動き、糸が切れた人形のように崩れ落ちる。
 今度はビクビクと痙攣していた。


「―――ナイス、カンナ。その感覚を忘れるな」
「はい」


 数十メートル向こうで弓道部員ふたりがそんな会話をしているとは知らず、心優は沈黙した先輩の傍に落ちているマイクを拾う。

「それではごきげんよう」

 そして、足早にその場から離れることを選択した。

(公演まで時間がないんですから。・・・・だ、だからですよっ)

 と誰もいないのに、しかも、心の中で言い訳しつつ心優は校舎へ向かう。
 その時、看板が目についた。

(いよいよですね)

 統音祭。
 それは明日に迫っていた。

(政くん、ちゃんと来てくれるでしょうか・・・・)

 事前に調べた結果、直政の部活――長物部は明日は休みだ。そして、バイトも入っていないらしい。
 だから、暇なはずなのだ。

「って、あら?」

 どこからか、言い争うような声が聞こえてきた。

「??? こっちになにかあるんですか?」

 校舎裏の一角、そこで数人の女生徒が集まっている。


「―――気持ち悪いのよ、あなた」
「あ・・・・」


―――嫌な場所へ来た、それが心優の心情だった。






水瀬凪葉side

「―――どうして、あなたの周りには蛇が出るの?」
「ホント、どうしてかしらね、この蛇女」
「迷惑だからこの花壇には来ないで。っていうか、園芸部止めてもらえる?」

 校舎裏の一角。
 園芸部が管轄する菜園でひとりの1年生が数人の上級生に囲まれていた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「何とか言ったらどうなのよっ」
「その眼帯、気持ち悪いのよっ」
「外しなさいよっ」

 これまで言葉で攻めてきた彼女たちから初めて手が出る。
 それは当初の文句と違い、1年生の少女の右目にある眼帯に向かっていた。

「・・・・ッ、ダメッ」

 それまで何を言われても耐えてきた少女――水瀬凪葉(ナギハ)は伸びてきた手を思わず振り払った。

「・・・・ッ、この・・・・ッ」
「―――っ!?」

 一瞬で怒りの形相を浮かべて手を振り上げた先輩に怯み、凪葉は頭を庇う。


「―――先輩方、わたしのクラスメートに何か御用ですか?」


「・・・・?」

 突然聞こえた声に凪葉はゆっくりと目を開け、声の方向へと視線を向けた。

「あ・・・・」

 小さな呟きが漏れる。
 そこには名家の令嬢らしい毅然とした態度で歩いてくるクラスメートがいた。

「あ、あなたには関係ないでしょっ」

 そんな姿に先輩たちも怯みを見せる。

「あら、わたし言いましたよ? クラスメートだって。それにわたし委員長ですから」

 腰に手を当て、胸を張る少女。

「い、委員長!?」
「ねえ、ちょっとやばいんじゃない?」
「後輩とは言え、委員長よ?」

 ひそひそと話し出す先輩たちから視線を逸らさず、睨むことなくただ見ている少女。
 そんな強い姿に凪葉は知り合いの女の子を連想した。

(エリ・・・・ちゃん・・・・)

 先程分かれたばかりの友人の名を脳裏に描く。

「も、もう行こっ」
「そ、そうね」

 視線が圧力となっていたのか、彼女たちは一斉に踵を返して逃げるように足早に立ち去った。

「ふぅ・・・・もう大丈夫ですよ・・・・水瀬、凪葉さん」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 少女はにっこりと笑みを浮かべ、近付いてくる。
 凪葉は彼女を知っていた。
 委員長でクラスで目立つ綺麗な女の子。
 幼馴染みの少年と楽しそうに話している姿をよく見かける。

「こんにち―――は!?」

 少女――唯宮心優は驚いた表情で意外な俊敏さを見せて飛び退いた。

「あ・・・・」

 凪葉と彼女の間にはいつの間にか2ひきの蛇が頭をもたげている。

(また・・・・)

 この子たちが悪いとは思わないが、それで悪口を言われるのは嫌だった。
 それもせっかく助けてくれた人に言われるのは耐えられない。

「わぁ、かわいいです」
「え・・・・?」

 ぎゅっと目を瞑り、言葉を待っていた凪葉は思ってもみなかった言葉に目をパチパチした。

「これ、シマヘビですよね? わぁわぁ、すごく懐いて」

 心優は目を輝かせ、蛇たちの前にしゃがみ込む。

「・・・・あれ? もう一匹は・・・・? この・・・・黒い・・・・」
「それは・・・・カラスヘビ。シマヘビのメラスティック・・・・黒化型」

 質問に対して思わず答えてしまった。

「へぇ。・・・・わ、目まで黒い」
「うん。一般的なシマヘビは虹彩が赤だけど、カラスヘビは黒いの」
「ふむふむ。・・・・でも、別の種類みたいですね」

 凪葉は心優と同じようにしゃがみ込むと饒舌に解説を始めた。

「シマヘビの学名は"quadrivirgata"って言って、『4つの縞』という意味だけど、実際には縞模様のない個体もいるの。それに幼体の時は縞模様がないか、薄くて見分けが付けにくいし。縞があったとしてもその色は黒じゃなくて赤褐色なの。それにそれにその縞模様は縦じゃなくて横。だから、同じシマヘビでも違うように見えることが多いの。このメラスティックの他にアルビノの個体もいるし。毒蛇じゃないから危険がないと思う人もいるけど、アオダイショウとかヤマカガシよりも攻撃的で危な・・・・・・・・あ」

 ベラベラと話していたことに気付いて蒼褪める。
 今度こそ気味悪がられた。
 そう思ったが、心優は再び凪葉の予想を裏切る。

「よく懐いてますね。ほら、わたしを前にしても尾を震わせたり、地面を叩いたりしませんよ?」

 その行動はシマヘビが危険を感じた時の威嚇行動だ。
 それを知っているということは心優が身近に蛇を感じて育ってきたか、ただ知識があるのかのどちらかである。
 ふたりはそれからしばらく蛇についての談義を行った。
 端から見れば、さぞかし不気味な話をする少女ふたりだったことだろう。
 時間が経ちすぎたことに気が付いた心優はさっぱりした表情で言った。

「あ、凪葉さん、明日の統音祭、わたしは軽音部として出ますから、よければ来てください」

 にっこりと見惚れてしまうほど綺麗に笑い、心優は凪葉にチケットを手渡す。

「何枚かありますから、誰か誘ってくださいな」

 そう言って心優は凪葉の返事を聞くことなく、校舎裏から出ていった。






穂村家scene

「―――お?」

 少女ふたりが蛇について盛り上がっていた時、直政は町中で見知った姿を見かけた。
 向こうもこちらに気付いたのか、相変わらずな無表情で歩いてくる。

「よ、央葉」
『・・・・誰?』

 とスケッチブックを示しながら首を傾げた。

「いやいや、俺だから」
『・・・・詐欺師?』
「そうそう。俺には気を付け―――って違うわッ」

 盛大なノリツッコミにも央葉は無表情で手に持った鉛筆を走らせる。

『メガネは?』
「最初から分かってたんかい」

 さらっと流されたことにショックを受けつつも直政は答えた。

「あのメガネは伊達なんだよ。心優が『政くんにはメガネ似合いますよねっ』って強引に渡したんだよ」

 それでもつける必要はなかったのだが、意外と気に入ってしまったのだ。

「たまにこうしてつけずに歩かないと感覚が鈍る」
『ふーん』
「・・・・訊いておいて、思い切り興味なさそうな。―――それで、央葉はこんなとこで何してんだ?」
『そっちは?』

 さらさらと鉛筆を走らせ、央葉は疑問を疑問で返した。

「ただの散歩だよ」

 別に何をしているのか聞きたいのではなかったので、直政はさほど気にせず答える。

『同じく』

(同じなのか。・・・・まあ、連休と言ってもやることがないと暇だよなぁ・・・・)

 どこかに行こうにもまだまだ親しい友人は少なく、誘わなくても押しかけてくる心優は明日の統音祭で忙しい。

『これからどこか行くとこある?』
「ないな。散歩だし」
『じゃあ、ちょっと・・・・』

 と示しつつ歩き出した。
 断る理由もないので直政も歩き出す。

「そう言えば、央葉って『なかば』が本当の読みじゃないだろ?」
「・・・・(コクリ)」

 「なかば」とは担任が間違えて呼んだことが原因で定着したあだ名だ。だが、結局、央葉自身、本当の呼び名を明かさなかった故に皆、「なかば」以外呼びようがなかった。

(ってか、あの担任・・・・「なかば」ってどうやって読んだんだろう・・・・)

「本当は何て読むんだ?」
『ひろのぶ』
「って、本名もなんでそう読むのかわかんねーっ!?」

 頭を抱えて絶叫する直政を不思議そうに首を傾げて見る央葉は聞くからに男と分かる名前とは真逆の格好をしている。
 というか、統世学園の女生徒の制服だった。
 相変わらず、違和感がないのが恐ろしい。

「うん、その格好で本名聞いても納得できない。だから、『なかば』でいいや」
『そう』

 「もう、疲れた」とげっそりした投げ遣りで直政は話を終わらせた。

「なあ」

 直政は買った缶ジュースを口に含みながら央葉に呼びかける。
 ふたりはいろいろ話をしながら公園へと入っていた。
 日も暮れてきたので遊んでいた子供の姿はないが、茜色に染まる遊具たちとその影が何とも言えない風景を作り出している。

「央葉と鹿頭って知り合いなのか?」

 どうも、ふたりの態度はお互いを知り得ているようだ。
 それも、ただの知り合いではない。
 ということは、央葉も・・・・

「お前も、・・・・なのか?」

 直政は央葉が一般人であった場合のことを考え、わざと言葉を濁した。

『うん』

 しかし、それに返事が返る。
 缶を弄っていた手を止め、顔を上げた直政の視線に入ったのはスカートのポケットに手を入れた央葉だった。

「何を―――っ!?」

 取り出されたのは呪符。
 それに気付くと同時にこの一帯に結界が展開される。

「央葉・・・・ッ」

 直政が立ち上がった時、央葉は5メートル向こうで無手のまま立っていた。

『御館様、ここは御学友とはいえ・・・・』

 刹が耳元で戦を促してくる。

「・・・・央葉、やる気なのか?」

 央葉からは殺気を感じない。だが、状況は戦い以外に選択肢がないように思えた。

『御館様、御決断を』

 刹は己の召喚を促し、央葉に向けて毛を逆立てている。
 直政と比べるまでもない戦歴を誇るこの獣は何を感じ取っているのだろうか。

「俺は央葉とは戦いたく―――」

―――タンッ

 一発の銃声が聞こえ、直政の体は横倒しに倒れた。



「―――兄さん、遅いな・・・・」

 亜璃斗はテーブルに突っ伏しながら呟いた。
 直政が出掛けてもう2時間が経つ。
 穂村家において、朝昼は亜璃斗の役割だが、夕食だけは直政の管轄だった。
 それが分かっているからこそ、バイトがない日は遅くても6時までには帰ってくるのだ。

「ん?」

 玄関のチャイムが鳴り、来客を知らせてきた。

(こんな・・・・時間に?)

 亜璃斗は立ち上がり、訝しげに首を捻りながら玄関へと歩く。
 同時に<土>にて索敵し、来訪者が小さな子供であることが分かった。

(庭にでも、ボールが入った・・・・?)

「何か、用ですか?」

 亜璃斗は玄関先に立っていた少女に若干の驚きを含んだ声をかける。

「うん♪」

 そう、明るく答える少女の格好は奇抜なものだ。
 赤やら黄色やらとカラフルな色彩の着物。しかも、膝丈。
 年の頃は3、4才というレベル。

「これ、渡してくるようにたのまれたんだ。はい」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 笑顔で差し出された手紙と思しき紙を受け取る。

「それじゃ、たしかに渡したよ」

 とりあえず、礼を言おうと手紙から顔を上げた時―――

「・・・・え?」

 少女の姿はどこにもなかった。

「・・・・ッ」

 嫌な予感がし、慌てて亜璃斗は手紙を読み始める。
 始めはせわしなく文字を追っていた視線が徐々にゆっくりになり、手紙を握る手に力が入った。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 前髪に隠れ、亜璃斗の表情は分からない。だが、亜璃斗の周囲で動物たちが異変を感じていた。
 野良犬が情けない鳴き声を発しながら逃げ去り、カラスたちが動揺隠せず飛び回る。

「名門御門家をここまで虚仮に・・・・・・・・」

 亜璃斗の足元で、アスファルトが放射状にひび割れた。









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