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5周年記念SS
〜魔槍巫女さんの家紋講座〜
| 「さて、何故かまた私がここに呼ばれているわけですが・・・・」 紗姫は辺り一面真っ白の空間でため息をついた。 「今回は真っ黒な人が看板を手に踊っています」 『―――看板の字、読めよ!』 「幻聴が聞こえました。が、まあ、いいでしょう」 紗姫は咳払いをすると、満面の作り笑顔を浮かべて言った。 「―――魔槍巫女さんの家紋講座〜・・・・・・・・・・・・って、誰が魔槍だ!」 紗姫の体から生じた金色の光が、くろの持つ看板を打ち抜く。 『ノォ!? あ、明るいと溶け―――――――』 「あ、消えた」 『問1 家紋ってなぁに?』 「・・・・宙から看板が落ちてきた・・・・」 紗姫はもうひとりの管理人を睨みつけるが、巧妙に隠れているのか、見つけられなかった。 「・・・・家紋、ですか・・・・」 『そうそう、読者の皆さんはお墓参りでよく見ることでしょ―――』 「そこかぁ!」 『のひょ!?』 白い空間を金色の光が走る。だが、何にも着弾しなかった。 「チッ、外した」 家紋。 それは家系、血統、家柄を表すために用いられてきた紋章である。 「って、勝手に始めてるし・・・・」 紗姫はナレーションに突っ込みを入れ、ため息をついた。 「家紋の始まりは平安時代と言われます」 平安時代末期、西園寺実季や大徳寺実能といった公家が独自の紋章を牛車につけたことが始まりとされる。 「この試みが日々娯楽に飢えていた貴族に大流行りします。武士はまだですね」 有名な源平合戦では、白旗が源氏、赤旗が平氏を示すだけで、各々の紋章はなかった。 「武家の中で家紋が一般的になるのは鎌倉時代です」 いわゆる武士の時代の始まりである鎌倉時代は、意外と戦が多かった。そして、戦での活躍は新たな知行に直結し、武士は目立つ必要が出た。 このため、意匠を凝らした自分たちのコミュニティーを示す紋章――家紋が生まれたのである。 「つまり、家紋は〜〜家というよりも一族を示すものなんですね」 例えば徳川家の家紋として「三つ葉葵」が有名だ。 だが、三つ葉葵は松平家、久松家も使用している。 これは徳川家を宗家に、松平家と久松家は分家の関係を示し、広義の「徳川家」に属すことを示している。 貴族や武家は意外と苗字を変えた。 藤原家に属する家門として、江藤、伊藤、加藤、近藤、安藤、後藤などなどが有名だ。 これは藤原氏が国司として、各国に入ったことで名前を変えたものだ。 江藤=近江国(現滋賀県)の藤原氏、のように。 「だから、苗字が違っても家紋が一緒ならば、先祖をさかのぼれば一緒かもしれません」 紗姫がウィンクをして締めくくる。 『意外とノリノリ?』 「演技に決まってますよ、貫かれたいですか?」 満面の笑顔のまま黄金色に発光した。 『問2 龍鷹戦記に登場する家紋』 「まあ、めんどう・・・・」 『さっきまでの演技は!?』 「そんな気力すら失いました」 真っ白な空間に浮かび上がった数々の家紋を前に、げんなりする紗姫。 「というか、問ではないですよね? ただ解説するだけですよね?」 『てへ♪』 「滅べ」 黄金色の光が全方位に放射される。 それは瞬く間に空間を埋め尽くし、もうひとりの管理人を跡形もなく――― 「ふ、勝った」 右腕を掲げ、力こぶを作った。 筋肉は全く盛り上がらず、柔らかい肌が少し動いただけだが。 「さて、じゃあ、鷹郷家から行きましょうか」 家紋は纏龍。 龍が中心の何かを守るように弧を描いた形だ。 「これは鷹郷家が分家した折、皇族軍人として、当時の天皇に与えられた紋です」 当時、朝廷は鎌倉幕府という敵を抱えていた。 このため、東方の守りである青龍が元だという。 「次は鳴海家ですね。代々、龍鷹軍団の主力を務めてきた家柄です」 剣木瓜。 木瓜は子孫繁栄を意味することもあり、中心部から四方に伸びた剣は守りを意味する。 「まさに龍鷹侯国の繁栄を支える武門の家紋ですね」 因みに鳴海家は鷹郷家が都から連れてきた近衛の家系であり、家紋も鷹郷家から受けたものである。 「龍鷹軍団最強部隊、長井家」 三巴柊。 柊の家紋が巴紋のように並ぶ。 「柊の葉は棘があって鋭いです。常に先鋒を担う長井家らしいですね」 薩摩の土農出身で、初代が槍ひとつで築き上げた家である。 「鬼の鉄砲隊、武藤家」 竜胆車。 竜胆の花と葉が交互に突き出し、円を描く。 「竜胆は源氏ゆかりの紋と知られ、武藤家も関係あるかは不明です」 ただし、薩摩土着の豪族で、代々加治木城を拠点としてきた古い武家である。 「"翼将"・鹿屋家、大隅の名門ですね」 抱き茗荷。 二対のミョウガが並び、外周で円を描く。 「神紋として古くから使われていますね」 紗姫は少し考え込んだ。 「・・・・鹿屋家は古い大隅の豪族ですから、大隅のどこかの神社から譲り受けたのかもしれません」 神社に寄進するなどして。 「人吉の橋頭保を守り続けた佐久家」 丸笠。 頭にかぶる笠の周囲を円が囲む。 「武家の代表紋とも言えますね」 紗姫は首を傾げながら続ける。 「佐久家も球磨郡人吉に土着した古い豪族なので、由来は分かりません」 「おい! という突っ込みは禁止です」と発光。 「続いて、御武家ですかね」 捻梅。 梅の花びらをねじるように重ねた紋。 「非常に有名な紋で、天神様の紋章ですね」 御武家の祖先も鷹郷家と共に薩摩に来た家柄であり、菅原系の可能性がある。 「龍鷹戦記で最も出世したともいえる綾瀬家です」 山桜。 そのまま山桜の葉の紋。 「桜も有名な紋章ですね。正史で有名なのは細川家でしょうか」 綾瀬家は単純に元領土である小林城の周りに多かったからだ。 「本陣の守りを担う加納家」 祇園守り。 「・・・・複雑で説明できません。調べてください」 紗姫は祇園守りをじーっと見ながら言った。 「祇園とは八坂神社のことで、これに所縁のある家が使っていますね」 祇園信仰の神仏加護の恩恵から、武家も使用している。 「因みに加納家の発祥は不明です」 『―――決して考えるのが面倒だとかそんなんじゃないんだからね!』 『いや、絶対にそうだろ』 「チッ、復活した」 スチャッと<龍鷹>を顕現させる紗姫。 『『容赦なし!?』』 「容赦はしますよ? 手加減してあげます」 『いや、それって対軍神装だから、手加減しても一個人くらい余裕―――』 「フフ」 紗姫は紹介した家紋を背に、楽しそうにほほ笑んだ。 ![]() 「―――あ、これ、一応、遅れに遅れた5周年記念らしいですよ」 |