第七章「七不思議、そして七不思議」/3


 

「―――ふぁあああああ~」

 3日後、結城晴也と山神綾香、複数の護衛を乗せたサンダーバードが京都駅を出発した。

「ちょっと、いきなりあくび?」
「悪い悪い。ちょっといろいろ計画を詰めてたもんだから・・・・眠くて」
「本番前の脚なんだから、潰れないでよ」
「本番で潰れるなよ」

 軽口を叩き合うふたりは、リラックスしたものだ。
 とてもこれから大事が起きるとは思っていないようである。

「にしても、SMOが東海北陸道を縦貫してくるとは・・・・」

 SMOは名古屋を中心に東海地方を制圧。
 【山神】・【結城】連絡線を遮断するために飛騨地方から富山へと進出していることが明らかになった。
 SMOは山神・結城両宗家の攻撃を念頭に陣地を構えており、装甲兵を中心とした戦力が展開している。
 煌燎城攻防戦で自信を持ったSMOの本格反攻が始まったのだ。

「【熾条】が"火焔車"の派遣を打診してきたんだって?」
「ああ、九州の抵抗勢力を駆逐し、沖縄も制圧。敵がいなくなったからな」

 といっても、熾条宗家は陸綜家の綜主を務める熾条緝音の直卒戦力である以上、現れつつあるもうひとつの敵に対する一大戦力である。
 そう簡単にSMO戦に使えるものではない。

「"火焔車"の部隊ってほとんど諸家でしょ? 分家だけで六〇を超える動員力を持つんだから、痛くもないんでしょ」

 熾条宗家は大動員力を持つ故に、いくつもの部隊が存在する。
 多くが分家を中心とした部隊だが、"火焔車"・熾条鈴音が率いる部隊だけは違う。
 力押ししない攻め方は、炎術師らしくない。しかし、よく考えられた戦術で、対炎術の切り札を持っていた勢力も駆逐してきた。

「ってか、実は一哉の傍にいたいだけだったりして」
「・・・・その発想はなかったわね」

 あまり話したことはないが、鈴音が一哉を気にしていることは分かる。

「―――お話中、失礼します」

 そう言って傍に立ったのは、綾香の護衛だ。

「先程、熾条一哉殿より連絡がありました」
「へえ」
「『敵の精鋭部隊を発見、攻撃する』と・・・・」
「アホか」

 そんなことを連絡してきたことと、発見次第攻撃を仕掛けたことに対しての言葉だった。

「また瀞を悲しませないといいけど」
「悲しませたらどうするんだ?」

 座席の肘掛けで頬杖をついたまま晴也が言う。

「殴る」
「うわー、直接的ー」

 一哉の報告を受けても、のんびりするふたりだった。




「―――やれやれ、この者たちは量産できないのですよ?」

 スカーフェイスは黒焦げにされた装甲兵3名を見遣り、ため息をついた。

「そりゃ悪かったな」

 そう返した熾条一哉も無傷ではなかった。
 無理な攻め方をしたためか、左腕から血が滴っている。

「フフ、しかし、そんなに急いでどうしたんですか?」
「いやなに、お前と話がしたくてな」
「・・・・フフ、ぼくにそんな趣味はありませんよ」
「俺にもないな」

 一哉は射スカーフェイスの冗談を軽く流した。そして、手に持った愛刀の鋒をスカーフェイスに向ける。

「俺とゲームをしないか?」
「・・・・フフフ、ゲーム、ですか・・・・」

 スカーフェイスは不思議そうに一哉を見ながら、その顔を不気味に変えた。






穂村直政side

「―――調子はどうですか?」

 生徒会長と会計が生徒会棟を離れた翌日の昼、直政は病院を訪れていた。

「うん、リハビリも順調だよ」

 病院には学園とバイトの先輩である渡辺瀞が入院している。
 彼女は煌燎城攻防戦で重傷を負い、1ヶ月近くこの病室にいた。

「ごめんね、バイト休んじゃって」
「気にしないでください。近所のおばさんが新しく入ったので、学生はちょっと楽してるから」

 直政と一緒に来た朝霞は、瀞の着替えをベッドの隣に置きながら言う。

「ったく、あいつはいきなりすぎるわ」
「まあ、一哉だからね」

 少し頬を赤くしながら瀞は答えた。
 今朝に、瀞の着替えが入った鞄が宅配で届いたらしい。

「それで許す瀞さんもどうかと思うけど」

 つまり、一哉は勝手に瀞の部屋を漁って着替えを用意し、宅配に出したのだ。

「肝心のあいつは北陸に出陣したって言うし・・・・」
「緋もついて行ったから大丈夫だよ」
「別にあいつの心配はしていない」

 煌燎城で重傷を負ったと言うが、入院もしていないので、直政は信じていなかった。
 というか、直政はまだ一哉に対して確執を持っている。
 瀞や朝霞から彼の話を聞いているが、簡単にその考えを飲み込めないのだ。

「大丈夫。今の一哉は安定しているから」
「今が正常なんすか?」

 トゲがあると分かっているが、言わずにはいられなかった。

「うん。無理はするけど、しっかりと自分が帰ってくることを前提に作戦を立てるよ」
「昔は違ったんですか?」
「・・・・相手を殲滅することを重視していたわ」

 朝霞がこめかみを押さえながら言う。

「第二次鴫島事変の前哨戦、烏山中継基地強襲作戦、護衛艦『弓ヶ浜』撃沈」

 朝霞の言葉に、瀞が少し沈んだ顔をした。
 第二次鴫島事変における一哉の暴走は、瀞が拉致されたことが原因でもあるからだ。

「基地は全滅。護衛艦も火だるまで生存者なし。その前哨戦で400くらいは死んだわ」
「うげ」

 激戦だった煌燎城攻防戦でも死者は両勢合わせて100程度だ。

「鴫島でも暴れたみたいだけど、加賀智島に上陸寸前に、単装速射砲の直撃を受けてヘリが撃墜された」
『よく生きてますね』
「ホントだよね。運がいいだけだよ。普通の状態ならば、絶対にそんなヘマはしない」

 瀞は一哉に絶大な信頼を寄せてるようだ。
 ふっと、直政の脳裏に七不思議候補の条文が浮かび上がった。
 『熾条一哉と渡辺瀞の関係性』。
 瀞子持ち説は、ガセだが、この関係性だけは分からない。

(普通に考えれば・・・・やっぱ付き合っているのかな)

 考え方が合わず、どうしても好きになれない一哉と、尊敬している瀞。
 彼らの関係性がものすごく気になった。

「先輩は、あいつのこと好きなんですか?」

 だからか、あまりよく考えずに、スラリとそんな言葉が出た。

「え?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 朝霞が驚いて声を上げる中、瀞はゆっくりと首を傾げる。

「よく聞かれるんだけど、分からないんだよね~」

 瀞は小首を傾げたまま言葉を続けた。

「放っておけないってのはあるけどね」

 「危なっかしいから」と続ける。

「別に一哉の隣に女の人がいても、嫌じゃないし」

 嫉妬心はないらしい。

「でも、それは一哉が恋愛をしているところを想像できないからかもしれないし」

 隣に女性がいても、戦略の話をしているとしか思えないのだ。

「ま、私自身も誰かと付き合う姿は想像できないんだけど」

 テヘリと照れ笑いを浮かべる、下級生にも人気な瀞が笑う。

「でも、瀞さんはあいつ以外と暮らすところも想像できないんじゃないかしら?」
「・・・・・・・・・・・・そうだね」

 朝霞の問いにそう答えた瀞は「不思議な関係だね~」と笑った。
 瀞と一哉の間には、去年という濃密な時間がある。
 そこを共に体験できなかった直政には、やはり理解できなかった。

「でも、穂村くんと幼馴染みの彼女も・・・・ちょっと変わった関係だよね?」
「そうっすか?」

 家は隣同士だが、心優の家は豪邸。
 幼馴染みだが、同じ学校に通うのは統世学園が初めて。

「祖父が唯宮邸で執事をしていたんです。その関係で、俺も唯宮邸に出入りしていたことが原因ですね」
「へぇ。・・・・穂村くんは執事とかしないの?」
「ああ、使用人の子どもは使用人みたいな?」
「うん、似合いそうじゃない? 眼鏡かけてると、いかにもって感じだし」
「でも、あいつの眼鏡、伊達よ」
「え? そうなの?」

 女ふたりで話していたが、伊達眼鏡情報に、瀞が直政を見た。
 正確には、眼鏡を見ている。

「伊達ですよ。この眼鏡は心優が・・・・3年くらい前にくれたんです」
「プレゼントだったんだ」
「はい。・・・・絶対に似合うから、と」

 さすがに壊すといけないので、部活中は外していた。

「でも、部活中外してても、実際の戦いではつけているじゃないかしら?」
「・・・・おや?」

 そういえば、地面に激突したりしている。

「まあ、昔からやんちゃとかしてたなら、金の力でものすごい頑丈な眼鏡を作っていそうだけど」
「そう言えば、中学の頃に退魔で壊してから、新しいのもらったけど、それから壊れてないな」
「壊したの?」

 朝霞が呆れた声を出した。

「それでまたくれたの?」

 瀞も声を合わせる。

「金持ちの考えることは分からない・・・・」
「あ、あはは・・・・」

 頭を振りながら朝霞が言い、瀞が乾いた笑いを浮かべた。

「っていうか、ふたりとも金持ちでしょ?」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 瀞は水術最強・渡辺宗家の令嬢。
 朝霞は"東の宗家"・鹿頭家の当主。

「でも、滅亡して、屋敷作ってすっからかん」
「私、出奔してお金持ってないよ」

 ふたりはそう言って直政に視線を合わせる。

「「だから、バイトしているの」」
「・・・・侘びしいな」

 直政は遠い目をして、病室の窓から外を見た。

―――バラバラバラバラッ・・・・

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 音とその音源を見て、視線を病室に戻す。

「どうしたの?」
「・・・・唯宮家の自家用ヘリを見ました」
「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 3人で頭を振り、「金持ちは・・・・」と呟いた。




「―――さあ、皆さん、準備はいいですか!?」

 下校勧告を行った1時間後、統世学園の裏口に、心優の大声が轟いた。

「うるさいわ、金持ち」
「金持ち?」

 朝霞の言葉に、心優が首を傾げる。
 八つ当たりの言葉に、朝霞は説明しなかった。

「まあ、いいです。とにかく、肝試しには打って付けです」

 心優は朝霞の発言をさらっと流す。
 本日は教職員も何かあるのか、部活を早めに切り上げるように命じていた。そして、彼ら自身も早々に帰宅している。
 生徒会棟の鍵を返そうと職員室に行ったら、鍵が閉まっていたのだ。

「あ、因みに生徒会棟の合い鍵を持っているので、返しても入れますよ」
「鍵の意味ねー」

 直政のツッコミに、心優はにっこりと笑みを浮かべた。

「そもそも、教師が生徒会を縛ることなど不可能なのです!」
「・・・・相変わらず、とんでもない学園だと思わせるな」
「そういう神代さんは、統世学園中等部出身でしょ!?」

 自分の出身を棚上げしたカンナ相手にもツッコミが炸裂させたが、彼女は無視する。

―――ガタガタッ

「ん?」

 突然、校内放送で物音が流れた。

「誰か何か言うつもりなのでしょうか?」

 心優が首を捻る。

「・・・・でも、みんな帰ったんじゃ・・・・」

 凪葉が青い顔をして呟いた。

「確かに・・・・」

 朝霞が視線を鋭くし、学園を睨む。


―――♪~♪♪~


 ピアノの音楽が流れ出した。
 同時に小さな声だが、歌も聞こえてくる。

「キター!?」

 心優は大声を出し、学園内へと入った。

「さあ、放送室へ行きますよ!」
「ええ!?」

 ガシッと凪葉の手を掴んで走り出す。

「ったく、待てよ!・・・・・・・・・・・・って、何?」

 慌てて後を追おうとした直政の袖を、カンナが引っ張った。

「・・・・結界が張られている」
「・・・・は?」

 日常に持ち込まれた非日常の言葉に、直政はきょとんとする。

「・・・・これは・・・・魔術?」

 カンナの言葉に、表情が変わったのは、実戦経験が豊富な朝霞だった。
 彼女は対SMO戦で、魔術師と戦った経験がある。
 その時と同じ、得体の知れない【力】が学園を包んでいたのが分かった。

「大変じゃんねえか!? 早く心優を連れ戻さないと・・・・ッ」
「待て」

 再び駆け出そうとした直政を、再びカンナが止める。

「この魔術結界、空間転移も含んでいる」
「だから何なのかしら?」
「穂村が結界内に踏み込んだ瞬間、空間転移で学園内のどこかに飛ばされる」
「・・・・それじゃ心優を追えないってことか?」
「・・・・目的地は分かっている。だが、合流できたとしても連れ戻すことは無理かもしれない」

 つまりは、学園から出られないと言うことだ。

「ややこしい状況ね。・・・・整理しましょ」
『勝利条件』

 央葉がスケッチブックを掲げる。

「唯宮および水瀬に生存を第一にし、第二に裏の存在を秘匿する」
「あと、結界を張った魔術師の撃破ないし結界の破壊」

 カンナと亜璃斗が条件を述べた。

「あいつらを守ることを目的とした者と結界破壊を目的としたチームに分かれるってことね」

 「あ、でも、動くとしたらひとりずつか・・・・」と朝霞は呟く。

「何で? 結界破壊はともかく、心優たちを守るのはチームで動く方がいいだろ?」

 迎撃やごまかしなどひとりでやるには荷が重い。

「空間転移させられるなら、最初からチームを組まずに個人で動くことを前提としたほうがいいんじゃないかしら?」
「あ・・・・」

 そうなのだ。
 まずは心優たちを発見するところから始めなければならない。
 さらに心優と凪葉が一緒にいるとも限らない。

「私は結界破壊に回ろう。直接的な戦闘力がない以上、そちらの方が適任だ」
「そうね。守る側は・・・・私と叢瀬がいいと思うわ」
『何で?』
「目の前で能力を使っても、ごまかしがきくからよ」

 確かにふたりの能力は現実離れしていて、逆にふたりが引き起こした事象だとは思われない。
 誰も目の前で爆発が起きても、隣に立つ人間が引き起こしたとは思わないだろう。

「地術師はどうしても物理攻撃に頼りがちだからね」
「もどかしいだろうが、その通りだな」

 知己の人間を助けたいという思いを持つふたりを、カンナが気遣った。

「・・・・でも、だったら私たちは何を?」

 まさかこの期に及んで戦力外通告ではなかろうかと亜璃斗が眉をひそめる。

「地術師の探査能力に頼む部分が多い。結界破壊組に回ってくれないか?」
「でも、唯宮たちを見つけるのにも役に立つわよ」
「なら、ちょうどふたりいる。別目的で動いてもらおう」
「それがいいわ」

 当事者ふたりを置いてきぼりにし、勝手に話を進める神代家次期当主と鹿頭家当主。
 なまじ正しいので、直政と亜璃斗は口を挟まなかった。

「では、各自、覚悟を決めて突入ー」

 緊張を感じさせない声で朝霞が結界内に入り、初っぱなから飛ばされる。

「兄さん、行こう。心優たちが危ない」
「ああ、分かってる」

 ふたりが話している間に、カンナと央葉が飛ばされた。

「亜璃斗は心優を探してくれ」
「・・・・いいの?」

 直政の性格ならば、心優を探している方が落ち着くだろう。

「・・・・正直、見つけたら見つけたで、ごまかす自信がない」
「なるほど。心優、変に鋭いところがあるから」
「厄介なお嬢様だからな」
『思い切りわかりやすい御館様も問題だと思いますがね』

 胸ポケットからだ顔を出した刹が首を振った。

「うるさい。・・・・それに結界破壊に向かった神代さんも気になる」
『・・・・御館様はあのような圧倒的なオーラを持つ方が好みですか?』
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 亜璃斗の兄を見る視線が冷たくなる。

「違う!」
『ああ、それとも胸の大き―――ふぎゅる!?』

 無理矢理胸ポケットに押し込み、直政は亜璃斗に向き直った。

「全然違うからな!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・では、何故?」

 自分の胸を小さく揉んでみてから、ゆっくりと直政の顔を見上げてくる。

「・・・・神代さん、俺らの中じゃ最弱だ。・・・・というか、どう考えても戦闘系じゃない」

 弓道の腕は上級者らしいが、それだけで退魔ができるとは限らない。

「だから、結界破壊の邪魔をする奴が出てきたら、俺が戦う」
「へえ、よく見ている」
「・・・・それに、俺が傍にいると、心優が落ち着かなくて変な行動をするだろ?」
「ああ、納得。兄さんが傍にいると、イレギュラー過ぎて守れない」

 亜璃斗は納得したのか、軽く頷いた。

「さ、行こうぜ」

 直政は結界へ一歩踏み出す。
 その瞬間、直政は学園のどこかに飛ばされた。









第七章第二話へ 赤鬼目次へ 第七章第四話へ
Homeへ